「えっ……」

(私の体を好きに見てもいいです。その代わり、私に井野崎さんの体を貸してください)

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。好きに見てもいいって……。それに俺の体を使うって」

 不意に提案された春斗は、戸惑いの色を隠さなかった。

(明日の朝まででいいんです。井野崎さんの体になってみたいんです。お互いの体を交換するなんて、すごく興奮しませんか?)

「そ、そう言われたらそうだけど、俺の部屋を物色されるのは抵抗があるからなぁ」

 由香利に憑依した時に使ったバイブや彼女に着せた服等、プライベートを勝手に見られる事に抵抗を感じる。しかし、一方的な憑依ではなく、お互いの体を入れ替えるという行為には魅力を感じた。

(別に部屋の中を物色したり、井野崎さんの体で外に出て迷惑を掛ける事はしません。その代わり、井野崎さんの体をちょっとだけ楽しませてください)

 彼女がしたい事は分かっている。春斗も千佳の体に対して同じ様に考えていた。

「じゃあ、不必要にタンスや机の引き出しを開けないって約束出来るなら。俺が見られたくない物も色々入っているからさ……」

(もちろんです。私の部屋は別に隠しておくものはないので、好きに見てもらっていいですよ。あの、私も着替えだけはしたいので、その場所だけ見てもいいですか?)

「ああ、いいよ。必要最低限の場所は開けてもらっても。着替えはタンスの一番下と二番目に入っているから、ここは開けてもいいよ」

(はい。それじゃあ私は体から離れて井野崎さんの家に戻りますね)

「分かるのか?」

(魂が繋がっていましたから。井野崎さんが私の記憶を見た様に、私も井野崎さんの記憶を見る事が出来ます。お父さんやお母さんの事も分かりました。井野崎さんの喋り方も!)

「何か怖いな。記憶も全部見られているのか?」

(いえ、今はまだ。でも、色々な人に憑依しましたが、見ようとしても見えない事があります。大体は覗き見えるんですけど、心と言うか、魂と言うか……脳かも知れませんが、記憶に鍵が掛かっている様な感じで、覗けない場所があるんです)

「それ、相手に信頼されたら全部見る事が出来るよ」

(そうなんですか? でも、どうしてそれを知っているんですか?)

「俺が実際にそうだったからさ。相思相愛になれば、すべての記憶を委ね合えるんだ」

(相思相愛になれば? そうなんですか。私、恋愛なんてした事が無いから分からないです)

 彼が憑依できる相手は由香利しかいないと言っていたので、相思相愛の相手が義理の姉である事はすぐに分かった。神社で見た兄家族とはそういう関係だったんだ……千佳はその事について興味を持った。

「まあ、君も恋愛したら分かる様になるさ。え〜と、そう言えば君の事を何て呼べばいいかな?」

(あっ、千佳でいいです。千佳って呼んで下さい)

「じゃあ千佳ちゃんでいいかな?」

(嬉しいです。私も井野崎さんの事を、下の名前で呼びたいです)

「べ、別にいいけど」

(春斗さんって呼んでもいいですか?)

「記憶を読んだのか……名前もすぐに分かるんだな。まあ、構わないよ」

(クスッ! 分かりますか? 私の鼓動)

 面白い事に、春斗が体を操っているにも関わらず、鼓動が高鳴り、脈が激しく打っている。これは千佳の気持ちがそうさせているのだろう。

(私、今日が一番嬉しい日になるかもしれません。だって、私の特異な体質を話すと、みんな気持ち悪がられるし、憑依されるかも知れないと警戒して離れていく友達もいました。嫌な噂も流されたし、苛めにも遭いました。だから高校に入ってからは誰にも話さなくなったし、他人に憑依する事も控えていました。でも、春斗さんは私を軽蔑する事無く、こんなに優しく接してくれる。やっぱり、同じ体質を持つ春斗さんは、私にとって運命の人なんだろうなって)

「おいおい。さっきもそうだけど、運命だなんてそんなに深く考えないでくれよ。俺、困るからさ」

(あっ……すみません。つい嬉しくて。こんなに気軽に話が出来る男性なんて、今まで会った事がなかったし、私の体質を受け入れてくれる人なんて現れないと思っていました。本当に春斗さんに出会えて良かったと思っています。でも私、臆病者で心から人を信じるっていう勇気が持てなくて。あの、話が長くなってすみませんでした。じゃあ私、体から離れます)

 その言葉の後、彼女の魂は体から出て行った。彼女には春斗の幽体が見えていたが、春斗には千佳の幽体は見えなかった。由香利も春斗の幽体が見えていたので、霊感の違いかと思った。

 少し強い風が吹き、ストレートの長い髪が顔を隠す。

「リンスのいい匂いだ。もしかして彼女はこれがしたくて、俺に幽体で来て欲しいと手紙を渡したのか。出来るかどうか分からなかったのにな……」

 屈んで足元の鞄を持った春斗は、彼女の記憶を頼りにこの体を待っている家族の下へと帰って行った。

 エアコンの効いた、いつもの部屋。ベッドに横たわっていた春斗の瞼がゆっくりと開いた。瞳だけ動かし、部屋の様子を確認した後、手を付きながら上半身を起こす。

 少し不思議な感覚だ。普段は他人の魂が入っている状態なので、その魂に干渉して肉体を動かすが、春斗の肉体には魂が入っていない。肉体を留守にした主の代わりに千佳の魂が収まり、彼の脳に直結している様に思え、違和感がない。無防備な春斗の肉体が、千佳の魂を主人として受け入れている感じだった。

「ここが春斗さんの部屋なんだ。この匂い……私の部屋と全然違う」

 嫌な匂いではない。春斗の肉体を乗っ取った千佳は、そのままベッドから立ち上がると両手で体を撫でてみた。他の男性に憑依した時と同じく、ブラジャーで締め付けられた胸の感覚は無い。そしてグレーのスウェットの股間を盛り上げる肉棒。右手を添えると、その存在感が改めて分かった。

「他の男性よりも大きいかな? 勃起したらかなり大きくなりそう」

 そう思いながら、机に置いてあったスマートフォンを手に取った。彼の指紋を使い、ロックを解除する。そして、画像や映像が保存されているアイコンをタップし、ファイルを確認した。

「すごい量。これ、全部お義姉さんの……」

 千佳は、ある映像をクリックし、春斗の目を通して見てみた。千佳が見ても赤面するほどの痴態が鮮明に収められている。

「これ、全部春斗さんが憑依して由香利さんにさせたんだ。いやらしい……」

 自分でも他人に憑依して、痴態を晒した事は幾度とある。しかし、春斗が操る由香利のそれは全く違っていた。好きになると、ここまで操るようになるのかと思った。

「嘘っ。アナルまで使わせて……。こんな美人が何ていやらしいの?」

 春斗の肉棒に血液が漲り、トランクスの中で激しく勃起している。彼女はベッドに寝転ぶと、スウェットのズボンとトランクスを脱ぎ、ティッシュで肉棒を包みながら扱き始めた。

「やっぱり大きいっ。このオチンチンで、由香利さんとセックスしたんだ。やだっ、春斗さんの感情が入って来る」

 スマートフォンに映る由香利の艶めかしい肉体。そしていやらしい言葉を呟きながら肛門にバイブを捩じ込む美女の姿に、激しく興奮した。

「は、春斗さんっ……私の体でもこんな事するのかなっ……あっ!」

 春斗に操られる由香利の映像に、自分の姿を重ねる。自分が他人の姿でオナニーするのではなく、逆に肉体を使われるシーンを想像した事がなかった千佳は、必死に彼の肉棒を扱きながら、あっという間に射精に達した。

「んんっ! はっ……あんっ! あっ……はぁっ」

 ティッシュの中に精液が溜まってゆく。ゆっくりと扱きながら、肉茎の精液を絞り出した千佳は、「んふぅ」と敷布団に春斗の顔を摺り寄せ、満足げな表情を浮かべた。

「春斗さんの体でオナニーしちゃった。久しぶりの男性のオナニーも気持ちいいな。でも……春斗さんが一番好きな人は、やっぱりお義姉さんなんだ。お義姉さんも春斗さんの事が好きなんだよね。相思相愛の相手が子供のいるお兄さんの奥さんだなんて。この展開って、まるで漫画かドラマみたい……」

 肉棒を綺麗に拭いた彼女は、「春斗。もうすぐ夕食が出来るから風呂に入りなっ」という母親の声に、「ああ。分かった。すぐに入るよ」と答えると、一階へと下りて行った――。