挿絵には、でじたるメイトのキャラと、フリー背景素材(きまぐれアフターさん)を使用しています。
「ただいま」

 玄関の鍵を開け、扉を開いた星彦は静まり返った家に入った。キッチンを覗くとテーブルには母親からのメモが置いてある。今日はいつもより遅くなるから適当な物を買ってきて食べてくれという内容だ。別段気にすることなく、冷蔵庫の麦茶を飲んだ彼は、二階にある自分の部屋に入り、そのままベッドに寝転んだ。

「はあ〜。部活が無いって楽だな。ま、夏休みに入れば引退だし、もう少しの辛抱か。大学に入ったら、別のもう少し楽なサークルに入ろうか。出来れば女子が多いサークルがいいよな」

 そんな事を呟きながらしばらく目を瞑った彼は、服を着替えるためにベッドから起き上がった。すると、ちょうどそのタイミングでインターホンのベルが一階から聞こえた。

「んん? 誰だよ、珍しいな。宅配便かな?」

 白いカッターシャツに黒のズボンという制服姿のまま一階に下りた星彦は、すでに扉を開けて玄関に立っていた人物を見て言葉を失った。

「ごめんね、鍵が開いてたから入ってきちゃった」
女子高生憑依バージョン02
 長いポニーテールを揺らし、彼を見つめ返してきたのは、駅前で別れた多埜瀬都奈であった。家に帰ったか、他の友達と遊びに行っていると思っていた彼女は、笑顔で話しかけてきた。

「ねえ、ちょっと上がってもいい?」
「あ……ああ。でも、多埜さん。どうして俺の家が分かったんだ? ……っていうか、俺に何か用があるの?」
「うん。後で全部話すよ。おじゃまします」

 動揺を隠し切れない星彦を見てクスッと笑った彼女は、靴を脱ぐとそのまま二階へと上がり始めた。

「な、なあ。ちょっと待ってくれよ。勝手に上がられちゃ困るんだけどさ」
「おじゃましますって言ったじゃない。それとも私に見られたくないものでもあるの?」
「そういう訳じゃないけど……」

 慌てて彼女の後を追い、階段を上がり始めた星彦の目が釘付けになった。顔を上げると、紺色のスカートに隠されていた下着が丸見えになっていたからだ。彼女に聞こえるかと思うくらいゴクンと息を飲み、足を止める。瀬都奈はスカートの中を覗かれていることを気づいているのかいないのか、何も言わないまま階段を上り切った。
 衝撃的な出来事に興奮し、股間を膨らませた星彦が二階に上がると、瀬都奈はすでに彼の部屋に入っていた。
女子高生憑依バージョン03
「思ったよりも片付いていたりして。勉強机の上も綺麗だし」
「多埜さん。あのさ……ちょっと強引すぎない? 礼儀ってもんがあると思うんだけど」
「え? 私、失礼な事したかな」
「失礼っていうか……」
「ねえ糸村さん。失礼なのは糸村さんの方じゃない?」
「え? どうしてさ」
「私、糸村さんのせいで、澄明にふられちゃったんだから」
「はぁ?」
「澄明から電話があったの。糸村さんが私の事、好きだから付き合ってやってくれって。それに、元々俺はお前になんか興味なかったんだ……なんて言われて。あまりに突然だったし、腹が立ったから彼に糸村さんの住所を問いただして答えさせたの」
「あいつ、何て事を。ち、違うんだ。そうじゃなくてさ。澄明が勝手に言ってるだけだから気にしないでくれよ」
「……じゃあ、澄明が私に嘘を付いたって事?」
「う〜ん。嘘っていうか何ていうか……」

 どこまでもお節介な奴だと思いつつも、こうして二人きりで会話が出来る事に嬉しさを感じる。しかし、そこまで言わなくともと思うほど、澄明は瀬都奈に暴露したようだ。現に彼女の表情は曇っており、申し訳なさでいっぱいになる。

「澄明って、私の事が嫌いだったのかなぁ」
「そ、そんな事無いんじゃない? 多埜さんみたいな可愛い女子が嫌いな筈、無いと思うけど」
「でも、澄明って私みたいな感じよりも、もっと姉さん系の女子が好きだろうし」
「それって誰から聞いたんだよ」
「噂話よ。いつも大人びた女子と付き合ってるから女子なら皆知ってるし」
「な、なるほどなぁ」

 女子の観察力や噂話って結構当たるんだなぁ――なんて思っていると、彼女の視線に気づいた。
女子高生憑依バージョン04
「ねえ糸村さん。糸村さんは私の事、どう思っているの?」
「えっ……」
「私の事が好きだって……あれも嘘なの?」
「そ、それは……」
「澄明が私と別れるために付いた嘘なんだよね」
「え〜と、まあ……そ、そういう事かな」
「ふ〜ん、そうなんだ」

 これまでとは違う鋭い目線で見つめられると、言葉を失ってしまう。今、自分の気持ちを偽っているんだ――そう思いながら、逸らした視線を彼女に向けると、瀬都奈の唇が震え出し、我慢出来ずに噴出した。

「へっ?」
「ククククッ! それじゃ私と付き合えないな。もっと自分の気持ちを前面に出さなきゃ」
「な、何言ってんだ。どういう事だよ」
「ぜ〜んぶ澄明の仕業って事!」
「澄明の仕業!?」
「そうだよ。完全に騙されちゃって! やっぱ俺の演技力が高い証拠かな。アハハッ」
女子高生憑依バージョン05
 彼女は可愛らしい舌を出して悪戯っぽい表情をした。何が何やら分からない星彦は、瀬都奈の変わりように只驚くばかりであった。先ほどの雰囲気とは明らかに違う軽いノリは、星彦が知っている彼女とは掛け離れている。
 まるで――別人のようであった。