※挿絵はGUNsRYUさんのCG集から使用させていただきました。


 俺達が最初で最後の不思議な体験をしたのは今年の冬だった。薄曇の白い空に現れた彼女の笑顔がまだ瞼の裏にこびり付いている。

(お前ら、セックスしたいんだろ? したけりゃ綺麗にチンポ洗って十四時に公園で待ってろ)

 そうメールしてきたのは、最近仲良くなった赤岸というクラスメイトだった。男の癖に黒い髪を肩まで伸ばし、七三分けで片目が見えない彼は、まるで鬼太郎を想像させる。雰囲気も暗かったので親しい友達はいなかったらしいけど、たまたま学校の行事で同じグループになり、少し話をした俺は妙な親近感を覚えた。別に共通の話題で盛り上がったわけでもない。でも、赤岸が怪しいサイトで色々な物を買っているという事には何気なく興味を持った。隣で話を聞いていた親友の押川もオカルト話が好きなので、会話に混ざってきた。だからといって、本当に話が盛り上がったわけじゃなかった。それでも赤岸は俺達と話すのが嬉しいのか、一方的に話題を提供した。そして女の話になった時に彼が言い出したのは、「木山と押川は女性とセックスした事があるのか?」という、突拍子も無い言葉だった。
 そして、俺達が「いいや」と返事を返すと、赤岸はニヤリと笑って「じゃあさせてやろうか」と言い出したのだ。

「そりゃ、させてくれるならさせて欲しいさ」
「本当にしたいのか?」
「決まってるだろ。俺達、童貞だもんな」

 押川と顔を見合わせながら話すと、彼は女を用意してくれると言った。でもレアアイテムを使うから一回だけだと言う。恐らく、怪しいサイトで購入した何かなんだろう。

「どんな女がいい?」
「どんな女って……。お前、まさか……」
「二人とも、今何を考えてる?」
「……薬で眠らせた後に誘拐して、意識の無いところをやっちゃうとか」
「そうそう。要はレアアイテムっていうのを使って、犯罪みたいな事をするんじゃないのか?」
「そうか。二人の推測は遠からず近からず……かな」
「おいおい、そんな事しちゃヤバイだろ。誘拐なんて出来るはずないしさ」
「それに睡眠薬なんて全然レアじゃないし」

 赤岸の話には現実味を感じられなかった。馬鹿にされているのかとも思ったけど、普段見ている彼とは違う自信に満ちた雰囲気に、全くの嘘を付いているとは言えない。片方だけ見える彼の瞳が、真実を物語っているんだと訴えかけているようにも取れる。

「信じてくれるならメアドを教えてくれよ。今度の日曜日、セックスさせてやるから」
「なあ赤岸、マジで言ってるのか?」
「二人が信じてくれるならって言ってるだろ」
「……どうする? 押川」
「別にいいんじゃない。何か面白そうだし、日曜日は暇だからさ」
「それもそうだな。じゃあメアド交換しようぜ」

 こうして俺と押川は赤岸とメアドの交換をした。そして日曜日の昼過ぎ、赤岸からメールが来たんだ。

「マジでメールが来たな。あいつ、どんな女とやらせてくれるんだろ」
「さあなぁ。俺の予想では、赤岸が付き合っている彼女の友達を連れてきてくれるんじゃないかな」
「赤岸に彼女がいると思うか?」
「いや。百パーセントいないと思うけど」
「じゃあダメじゃん」
「だからさ、レアアイテムで何とかするんじゃないのかな」
「なるほどな。気に入った女を自分の彼女に出来るとか」
「そんなアイテムがあれば、絶対好きな女に使うけど」
「だよなぁ」

 少し冷たい風が頬を撫でる。流石にこの時期の公園は人影が殆ど無かった。俺もコタツの中に潜り込んでゲームでもしてりゃ良かったかなぁ何て思ったけど、十四時をほんの少し回った頃、押川が俺の肩を叩いて公園の入口を指差した。

「おい、あれって村柿 芽衣じゃないか?」
「ほんとだ。私服だから分からなかった」
「ああ。でも、何で村柿が来るんだよ」
「さあ?」

 視線の先には、緑のダウンジャケットにミニスカートを穿いた村柿が歩いている姿があった。普段は学校の制服姿しか見た事が無いので、押川に言われるまで気付かなかった。彼女も俺達と同じクラスメイトだけど、話した事は一度も無い。何ていうか――ちょっと俺達とは吊り合わない相手っていうか、要は綺麗だから周りには常に男がいて、割り込む余地が無いって事。
 そんな彼女が俺達に向かって真っ直ぐに歩いてくる。黒いタイツにブーツ姿がとても似合っていて、思わず唾を飲み込んだ。

「こっちに向かって歩いてくるぞ」
「ああ。あれ、村柿だよな」
「どう見ても村柿だと思うけど」
「私服姿っていいな。女って感じでさ」
「だよなぁ。でもどうして村柿が……」

 そこまで話して、言葉を止めた。村柿が俺達に向かって笑顔で手を振ったからだ。明らかに視線が合っていた。もちろん、後ろを見ても人はいない。
01
「俺達に手を振っているよな?」
「あ、ああ……」

 そして更に足を進めた彼女は、目の前まで歩いてきた。目の前というのは、普通に会話をする距離じゃなくて、互いの肩が触れ合うくらいの超至近距離って事だ。もわっとした女のいい香りが漂う。
 近づきすぎる村柿から後ずさりしようとすると、彼女は交互に顔を見た後、ニヤリと笑って「チンポ、綺麗に洗ってきたか?」と、いきなりズボンの上から俺達の肉棒を掴んだ。

「うおっ!」

 同時に声を上げ、背中を丸める。よろけながら一歩下がった俺達を見てニヤニヤと笑った村柿は、「信じてくれたんだな。高いアイテムを使って乗っ取って来た甲斐があったよ。二人とも、村柿の体なら嫌じゃないだろ?」と、意味不明な言葉を口にした。

「は、はぁ?」
「どういう意味だよ」
「俺だよ、赤岸さ。他人に憑依出来るアイテムを使って村柿の体を乗っ取ったんだ」
「ひ、憑依?」
「そう。高いんだ、このアイテムって。でもそれだけの価値はあるんだけどさ」

 村柿は腕を組んだまま、いつもとは全く違う口調で話した。マジで赤岸が喋っているように思える。

「赤岸……なのか?」
「言ってるじゃないか」
「で、でも……」
「この体は村柿芽衣、本人に違いないけど、こうして俺が乗っ取っている間は自由に操れるのさ。本人の意思は無いけど。丁度、村柿が家を出ようとしたときに乗っ取ったんだ。今の彼氏と遊びに行こうとしていたみたいで、携帯に何度も電話があったんだけど、面倒だから電源を切ってる」

 持っていた小さなカバンから綺麗に飾った折りたたみ式の携帯を取り出した彼女は、横のボタンを押して開くと画面が真っ黒になっている状態を俺達に見せた。

「し、信じられないな。目の前にいるのが赤岸だなんて。なあ押川」
「あ、ああ……」
「本人の体なんだから、他人が見れば分からないだろ。ほら、折角村柿の体を乗っ取っているんだ。早速セックスを始めよう」
「セ、セックスって……ここでか?」
「ほら、こっちならいいだろ」

 ミニスカートに包まれたお尻を左右に振りながら、人気の無い草むらの中へと入っていった。

「ど、どうする?」
「……村柿がからかっているようには思えないよな。やっぱり、赤岸が乗っ取っているんだ」
「すげぇな。他人の体を乗っ取るなんて」
「ああ。兎に角、村柿の……っていうか、赤岸の所に行こうぜ」

 俺達は顔を見合わせた後、周りを気にしながら草むらへと入っていった。