「げっ! 兄貴っ。どうして帰ってきたんだよ」
「どうしてって、別に構わないじゃないか」
「大学のサークル仲間と旅行に行くって言ってたじゃないか」
「ああ、あれは中止になったんだ。なんせ、来るはずの女子達が全員来なくなったんだからな。だから帰ってきた」
「そ、そんなの男同士で行けばいいじゃないか」
「はぁ〜? 忠志、お前はむさ苦しい男同士で旅行に行って楽しいと思うのか?」
「そんなの知らないって。早く何処かに行ってくれよ」
「どうしてそんなに慌てているんだよ」
「いいから早くっ」
「……はは〜ん。お前、俺が居ない間に女を連れ込もうと思っていたんだろ」
「な、何でもいいから出て行ってくれって」
「それは出来ないなぁ。俺だって女子達との楽しい旅行が出来なくなったんだ。お前だけ楽しませるなんて事、するはずないだろ?」
「くそっ。もういいっ!」
「あら、そうなのか?」

 どうして兄貴が帰って来るんだよ。折角、早苗と家で遊ぶ約束をしたのに。兄貴がいたんじゃ、また横からちょっかいを出すに決まってるよ。
 俺は早苗を守るために家には来させまいと、慌てて玄関を飛び出した。

「あっ。忠志」
「げっ! さ、早苗。もう来たのかっ」
「もう来たのかってどういう意味? ちょっと早かったかな」
「そ、そうじゃないけど……」
「ここなんだ、忠志の家」
「あ、ああ……」
兄貴のおせっかい1
 玄関から五メートルほど先に早苗の姿があった。フリルの付いたキャミソールがとても可愛らしく思えた――が、それ所ではない。

「上がっていい?」
「あっ。ちょ、ちょっと待ってよ」
「どうしたの?」
「あ、ああ。実はさ、兄貴が居るんだ」
「お兄さん?」
「ああ」
「別にいいよ。お兄さんが居ても」
「駄目なんだ。兄貴が居たら大変な事になるから」
「大変な事って?」
「それは……上手く言えないんだけどさ」

 どうにかして家から遠ざけたい。そう思っていると、後ろから兄貴の声が聞えた。

「やあ。君は忠志のガールフレンド?」
「あっ……はい。ガールフレンド……かな? 忠志のお兄さんですか?」
「ああ。早く入りなよ。ほら、忠志も折角彼女が来てくれたんだ。いつまでもそんなところで話していないで、中に入れよ」
「兄貴っ! どうして出て来るんだよ」
「お前達が玄関の前で喋っているからだろ。さあ、早く入って」
「はい。ありがとうございます」
「さ、早苗」
「じゃあ、おじゃましま〜す」

 なんて事だ。早苗は兄貴の事を何も分かっちゃいないんだ。そりゃ、彼女には何も言っていないから当然だけど。でも、このままじゃ――
 結局、家に上がってしまった早苗は、何の疑いも無く兄貴と楽しそうに喋っていた。

「早苗。俺の部屋に行こう」
「うん。それじゃ、お兄さん」
「ゆっくりしていきなよ」
「はい」

 俺は早苗の手を引いて自分の部屋に入った。

「へぇ〜。忠志の部屋って広いんだね」
「そうかな。まあ、大した物を置いてないからそう見えるだけじゃないか」
「私の部屋よりも一回り大きいよ。いいなぁ」
兄貴のおせっかい2
 早苗は部屋を見渡し、羨ましそうに微笑んだ。

「何か飲むか? ジュースくらいならあるけど」
「ううん、また後でいいよ。それよりも、あれを見せて欲しいな」
「ああ、構わないよ。下手くそだから恥ずかしいんだけど」
「そんな事無いよ。学校で見せてもらった絵、すごく上手だったから」

 彼女が家に来た目的は、俺が描いている風景画を見るためだ。自然が好きで、中学の頃からその辺の山に行って川や緑を描いていた。自己流だけど、ノートに描いていた木を見て、早苗は感心したらしい。是非、今まで描いた絵を見せて欲しいとせがまれ、丁度兄貴の居ない間――という事で、快く引き受けた。
 それなのに、兄貴が帰ってくるなんて。
 飛んだ番狂わせだった。

「うわぁ! すごく上手だね。この川、まるで本物みたいだよ」
「そんな事無いって。自分なりに描いただけだから」
「才能、あるんじゃない? 将来は画家になれば?」
「プロになれるほどの腕前はないさ。それに、専門学校に通って絵描き一筋に頑張れる程の思い入れはないから」
「そうなんだ。何か、勿体無いね」
「そうかな」

 自分の絵が褒められるのは嫌なもんじゃない。それも、付き合い始めて三ヶ月になる彼女に褒められるのは尚更だった。
 画用紙に描いた十数枚の絵を丹念に見てくれた早苗は、「ちょっと喉が渇いて来ちゃった」と喉を押さえた。

「ああ。じゃあジュースを持ってくるよ。こっちの絵はデッサンだけど、良かったら見てよ」
「うん」

 俺は棚に仕舞っておいたA4サイズの用紙に描いたデッサンを数枚、彼女に手渡した後、キッチンへジュースを取りに行った。
 あんなに絵を褒められるなんて、ちょっとこそばゆい。そう思いながら冷蔵庫のジュースを二つのグラスに入れ、部屋に持って行った。

「早苗。おまた……せ」

 扉を開き、彼女を目の前にした俺は目が点になった。

「今度は私を描いてくれる?」
「な、な、な……」
「おっと! 危ないな」

 思わず手に持っていたグラスを落としそうになった俺から素早く引き取った早苗は、軽い身のこなしでテーブルの上に置いた。

「ま、まさか……」
「いいよなぁ。こんなにスタイルのいい彼女がい・て・さっ!」

 早苗はニヤニヤしながら俺を見ると、「早苗ちゃんの体、ゲット〜っ!」と笑った。
兄貴のおせっかい3
「あ、兄貴っ! 兄貴だろっ」
「そうさ。そんな事、一々言わなくても分かってるだろ?」
「早く服を着ろよっ」
「どうしてさ。お前、そのつもりだったんだろ?」

 信じられない。早苗が俺の前で恥ずかしげも無く下着姿になっている。彼女とは清く付き合いたいと思っていたのにっ!

「頼むよ。俺、早苗とは真面目な付き合いがしたいんだ」
「お前、前の彼女もそんな事言ってたな。でも、こうやって俺が乗っ取って迫ったらあっけなく堕ちたじゃないか」
「そ、それは……」
「お前も上辺じゃそういいながら、本心は早苗ちゃんとセックスしたいのさ!」

 兄貴が早苗の声を使って、容姿を使って話しかけてくる。こうなる事が分かっていたから、早苗を家に入れたくなかったんだ。
 いつからかは分からないけど、兄貴は自分の思い通りに幽体離脱が出来るようになっていた。そして、近くに居なきゃ無理だけど、他人の体に入り込んで乗っ取る事が出来るんだ。ほんの十メートルくらいの距離。だけど、家の中ならば問題のない範囲。早苗に褒められて、少し気が緩んでいた。いや、緩んでいなかったからと言って、兄貴の間の手から逃れる事はできないんだ。
 家に入れなきゃ良かった――そう思った。

「兄貴。怒るぞ」
「分かってるって。お前、俺がこうして乗っ取る事を期待してたんだろ」
「だ、誰がそんな事っ」
「だってさ。お前は俺が彼女の体を乗っ取る事が分かっていながら、家に入れたんだ」
「それは兄貴が勝手に……」
「いいや。本当に嫌ならば無理してでも彼女を家に入れなかったさ」
「ち、違う。俺はそんな事を思って彼女を家に入れたんじゃないっ」
「そうかなぁ。ほら、見てみろよこの下着。高校生にしては大人びてないか?」
「そんなの知るかよ」
「彼女もその気だったって事だよ。勝負下着って奴だな。きっと普段はもっと大人い白の下着を穿いているんだぜ」

 そう言われて見れば、彼女の性格からして少し派手でセクシーな下着だ――じゃなくて、早く兄貴を早苗の体から追い出さないとっ。

「いいから早く早苗の体から出て行けよ」
「やだね〜」
「彼女が目覚めたらどうするんだよっ」
「あらぁ? 俺が体を乗っ取っている間は意識がなくなること、忠志クンも知っているはずだけどなぁ」
「お、おいっ!」

 早苗がニヤニヤと笑いながらブラジャーに手を掛け、恥ずかしげも無く外してゆく。更には細い指をパンティに引っ掛け、お尻を振りながら脱いでしまった。
兄貴のおせっかい4
「ほら、早苗ちゃんの裸、どうだ? 綺麗なもんだなぁ」
「兄貴っ!」
「手を出さないのか? 自分の部屋に裸の女がいるんだぞ」
「俺は彼女と同意の下でしたいんだ。兄貴が勝手に操る早苗となんてしたくないっ」
「そんな事言って、勃起してんじゃねぇよ」

 勃起するなって方が無理に決まってる。しかも、早苗の声で勃起なんて言われると余計に興奮するじゃないか!

「あ、兄貴っ!」
「脱げよ。それとも、早苗ちゃんの手で脱がせてやろうか?」
「だから俺は本当の早苗と……わっ!」
「ごちゃごちゃ言わずに、ほらっ。うわっ、相変わらずデカいチンポだなぁ」

 足早に寄ってきた早苗が、強引にズボンとトランクスを剥ぎ取った。本当は抵抗できたんだけど、やっぱり――

「な、なあ兄貴」
「何だよ。俺はな、男でありお前の兄だけどさ。こうして何度も女の体を乗っ取っている間に羞恥心とか男とのセックスに抵抗感がなくなっているんだ。お前も、俺みたいに女になれれば分かるよ」
「何言ってんだよ?」
「だからこういう事も出来るって事さ」
「え? うあっ……。な、何を……ううっ」

 信じられない。早苗が――早苗が俺の肉棒をフェラするなんて。しかも、中身は兄貴だぞっ!
 で、でもすげぇ気持ちいいっ! 男だけあって、どうすれば気持ちよくなるのか心得ている。カリ首を舐めながら肉茎に吸い付き、今度は頬を窄めながら、わざといやらしい音を出して肉棒を飲み込んでいる。

「うっ、ううっ。はぁ、はぁ。あ、兄貴っ」
「んっ、んっ。どうだ? 気持ちいいだろ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。自分がしている事……分かってるのか?」
「だから言っただろ。チンポをフェラするくらい、何とも無くなったんだって。流石に口内射精は遠慮するけどさ。お前も早苗ちゃんの口でフェラしてもらえるんだから幸せだろ?」
「そういう問題じゃなくて……」
「じゃあどういう問題なんだよ。大人しくしてろって。何なら早苗ちゃんに成りすましてやろうか?」
「やめてくれよ。変な気分になるじゃないか」
「そう言われたら、尚更やりたくなるな。そうでしょ、忠志」
「あ、兄貴っ」
「大丈夫だよ。私が忠志のチンポ、気持ちよくしてあげるからね!」
「ちょ……あぁっ!」

 可愛らしくウィンクした早苗が俺の前に跪き、左手で肉棒の根元を持ちながら上目遣いでフェラしている。しかも、右手は自らの股間へと伸びていやらしく弄っていた。

「んっ、んっ、んんっ。あはんっ。私も気持ちよくなってきちゃった。もう、オマンコはヌルヌルだよっ」
「た、頼むよ兄貴。早苗の真似されたら、おかしくなるからさ」
「うふふ。じゃあ、私を思い切り犯してくれたら元通りに喋ってあ・げ・る!」

 蕩けるようなフェラから解放された俺は、ベッドで仰向けに寝転がり、手招きする早苗に近づいた。
 普段寝ているベッドに早苗の裸体がある。彼女は俺が使っている枕に頭を乗せ、「はい、ど〜ぞ」とM字に開き、濡れた陰唇を左右に広げた。
 トロリと愛液を垂らす膣口が、俺を待ち望んでいる。そのセクシーでいやらしい姿に、理性が崩壊した。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 勢いよくベッドに上がり、開いた足の間に体を押し込むと、いきり立った肉棒を早苗の膣へと捩じ込んだ。

「ああっ!」

 早苗は背中を仰け反らせ、歓喜の声を上げた。彼女を抱きしめながら、何度も何度も激しく腰を振る。

「あっ、あっ、あっ、すごっ! んん〜っ。あっ、はぁ、はぁ、あっ、あっ、あんっ」

 彼女も俺の体に腕を巻きつけ、力強く抱きしめてくる。華奢な体を揺さぶり、膣の奥まで肉棒で貫くと、早苗は「あひぃ!」と声を裏返しながら喘いだ。

「はぁ、はぁ、早苗っ! 早苗っ!」

 必死になって彼女の名を呼びながら、力の限り腰を振る。早苗は気持ち良さそうに喘ぎ声を漏らしながらも、必死にセックスをする俺を見て笑っていた。

「ああんっ、あっ、あっ。すごいよ忠志っ。膣の中がグチャグチャに掻き回されてるっ。忠志のチンポが私の中で暴れまわってるよっ」
「はぁ、はぁっ、ううっ……。はぁ、はぁ、はぁ」

 相変わらず、平気で隠語を喋る彼女に興奮する俺は、早苗を四つん這いにさせると、お尻を掴んでバックから挿入した。

「んああっ。深いよっ、奥の奥まで届いてるっ」
「早苗っ! はぁ、はぁ」
「イイッ! もっと激しく突いてよっ。オマンコをゴリゴリされたら気持ちよくてたまんないのっ」

 普段の早苗とは明らかに違う、淫乱な女の雰囲気だ。それでも、彼女の容姿で女言葉を使われたら早苗だと思ってしまう。
 膣壁がギュッと締まり、肉棒を刺激する。その締め付けが異様に気持ちよく、また膣口にカリ首が引っかかる感じもたまらなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ、お、俺っ……も、もう出るっ!」
「あっ、あんっ。んんっ、じゃあ膣で出してっ」
「はぁ、はぁ、はぁ、うああっ!」

 俺は膣から肉棒を抜くと、彼女の艶かしい背中からお尻に掛けて大量の精液をぶちまけた。

「ああんっ。もうっ、膣で出してって言ったのに。膣で精液を出される感覚が気持ちいいのに〜」

 少し残念そうな表情をした早苗は自らクリトリスを弄り、気持ち良さそうに喘いだ。そして、しばらくすると「イクッ、イクッ! あ、あ、ああ〜っ!」と激しく悶え、オーガズムを迎えた――




「酷いよ兄貴……」
「そう言うなって。お前も気持ちよかっただろ。こうして早苗ちゃんとセックス出来たのは俺のおかげなんだからな」

 体に付いた精液を綺麗に拭き取った早苗が、ベッドに胡坐を掻きながらブラジャーを身につけている。膣口からは、まだ愛液が少しずつ垂れているみたいだ。

「早苗、どう思うかな?」
「まだ下半身が疼いているから、不審に思うかもしれないな」
「どうするんだよ」
「疼きが消えるまで、俺がこのまま乗っ取っておいてやるよ」
「やめてくれよ。これ以上、早苗の体を兄貴に使われたくないって」
「それじゃあ、お前が上手くごまかすんだな」

 陰唇から愛液をすくい取り、ぺろりと舐めた早苗はパンティを穿くと、ジーパンやキャミソールを身につけた。

「こんな感じで大丈夫だろ。髪が少し乱れているけど、あとは忠志に任せたから」
「ちょ、ちょっと待てよ兄貴っ」
「じゃ、よ・ろ・し・く!」

 意識の無くなった早苗がベッドに倒れそうになったので、慌てて支えてやる。すると、彼女はビクンと体を震わせて目を開いた。

「あ、あれ? 忠志。わ、私……」
「えっと……」
「えっ? な、何?」

 ベッドに腰を下ろした彼女は、顔を赤らめながら足をギュッと閉じた。

「ど、どうしたんだ?」
「忠志……」

 恥ずかしそうに俺を見つめる表情がたまらなく可愛かった。

「何だ?」
「わ、私に……何かした?」
「は? な、何かって……何だよ」
「…………」

 それ以上、何も言わなかった早苗に、「部屋に戻ったら、早苗が意識を失ってたからベッドで寝かせようと思ったんだ。でもすぐに意識を取り戻したから」と話した。

「そ、そう……なんだ」

 納得が行かない様子でしばらく考えていた早苗だったが、「そっか。私、どうかしてたのかも」と笑顔を取り戻した。

「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっとジュース、もらうね」

 彼女が手にしたジュースは、すでに氷が解けてしまい水となって浮いていた。 意識を失っている間に、体を悪戯されたと思っただろうか?
 温くなったジュースを飲んだ早苗は、普段どおり話しかけてきた。
 まあ――怒る様子も無いからこのまま何も言わないでおこう。
 そう思っていたけど、彼女が帰ってから「ごめんね忠志。私、ちょっと忠志とは付き合えないよ」というメールが入り、分かれる破目になってしまった。
 ――これってやっぱり俺が悪いのかな?

おしまい。