この作品は、同人誌「入れかえ魂Vol.3」「入れかえ魂Vol.4」に掲載された「どうにもならない(前編)」と「どうにもならない(後編)」となります。
 先生が大好きな高校生が、彼女の体を乗っ取り、色々な悪戯を行います。また、その性質上ダークな展開になりますので、読みたいと思われる方のみ、閲覧くださいませ。
 翌日、智恵はいつもどおり授業をしていた。
 教卓に立って右手に持っていた教科書の説明をしていたのだが――

(えっ?)

 始めは何が起きているのか分からなかった。空いていた左手が智恵の意思とは無関係に動き出し、教卓に隠れているお尻を撫で始めたのだ。

「きゃっ!」

 思わず声を出してしまう。その声に数人の生徒達が反応して、智恵を不思議そうな表情で見ていた。

「あ……ご、ごめんね。な、何でもないの。説明を続けるわね」

 ううんと咳払いをした後、また教科書の説明を始めた智恵。

(な、何?やだ。ど、どうなってるの? 私の左手……)

 こうして生徒達に説明している間も、智恵の左手はお尻を撫でていた。青いスリムジーンズの上から優しく優しく撫でている。他人に触られているような感じがして、それはまるで自分の手では無い様に思え、とても不思議だった。
 しかし、五分くらいすると急に左手の感覚が戻って来た。慌ててお尻から手を離した智恵は、左手をギュッと握り締め、自分で動かせるという事を確かめた。

(何だったの? さっきのは……)

 訳の分からない智恵だったが、何気なく吾郎に視線を合わせると、吾郎はニヤニヤ笑いながら左手を振っていた。そう、まるでお尻を撫で回すような仕草をしながら。

(え!? ふ、藤田君? ま、まさか……い、今の……藤田君の仕業?)

智恵は額に汗を滲ませながら授業を終えた――



「ねえ藤田君。ちょっと話があるの」

 智恵は放課後、帰ろうとする吾郎を呼び止めた。

「何? 村内先生」
「あ、あの。今日の授業中の事だけど……」
「ビックリした?」
「ビックリしたって……や、やっぱり藤田君の仕業だったの?」
「そう。やっと出来るようになったんだ。幽体離脱ってやつが」
「ゆ、幽体……離脱?」
「そうさ。自分の体から幽体を切り離すんだ。で、切り離れた幽体を先生の体に重ね合わせようとしてたんだよ。憑依ってやつかな」
「な……」
「でもさ、結構難しくて。今日は左手しか動かせなかった。しかも、まだ精神的に弱いっていうか、集中出来ないからすぐに弾き飛ばされちゃって」
「そ、そんな事が……」
「やっぱり俺、集中力がないから。もっと集中力つけないと先生になれないよな」
「な、何言ってるのよ。そ、そんな事が出来るわけ……」
「別に信じてもらわなくてもいいんだけどね。今、家でも集中力を高めるために座禅を組んでいるんだ。これが結構いけるんだよ。自分でも集中力が高まっていく感じがよく分かるんだ」
「ね、ねえ。そんな事するよりも勉強するために集中力を高めた方がいいのよ」
「どっちだって同じさ」
「ふ、藤田君……」
「明日はもっと集中力が高まっていると思うよ。そのうち憑依できる部分も多くなるだろうし、憑依出来る時間だって長くなる。そしたら、俺がだんだん先生の体を支配するようになるんだ」
「そ、そんな……じょ、冗談でしょ……」
「それはこれから先生が実際に体験する事になるんだ」
「…………」

 吾郎はそう言って帰ってしまった。
 智恵は不安な気持ちを拭い去る事が出来ないまま、次の日、また数学の授業を行った。
 吾郎は授業が始まって少しすると、机に突っ伏して寝始める。その様子を見ていた智恵だが、また昨日と同じように左手が動かなくなってしまった。

(ああ……ま、まただわ……)

 吾郎はずっと寝ている。それを放置して黒板に数式を書いている智恵だったが、その顔は赤面していた。
 自分の意思では動かない左手がそれとなく胸に宛がわされ、生徒達に気付かれない程度に揉んでいたのだ。これも吾郎のせいに違いない。
 吾郎が自分の左手を動かし、胸を揉ませている。そう思うと、本当に吾郎に胸を揉まれているような気がして、智恵は羞恥心でいっぱいになっていた。生徒達には気づかれないとはいえ、男子生徒の視線が背中に集中する中、こうやって胸を揉まされているのだ。

(やだ……や、やめて……)

 智恵は心の中で叫んでいた。ずっと胸を揉まれていては、生徒たちのほうを振り向けないし……感じてしまう。そう思った矢先、ふと左手の感覚が戻って来た。

(あ……も、戻った……)

 慌てて左手に力をいれ、自分で動かせる事を確認する。こんな事が出来るなんて信じられない智恵だったが、今左手を動かしていたのが吾郎だと確信すると、不安が恐怖へと変化した――



「ふ、藤田君っ」

 また放課後に吾郎を呼び止めた智恵。

「ねえ、お願いだからもう止めて」
「どうしてさ」
「嫌なの。藤田君だって分かるでしょ」
「みんなの前でいやらしい事するのってドキドキしない? 俺、先生に憑依して体を動かすのってすごくドキドキするよ。村内先生の、その体全てが自分で動かせるようになったらどんなに素敵だろうなって」
「そんな……ねえ、お願いだからもう止めて。私、まともに授業が出来なくなる」
「そんな事言いながら、ちゃんと授業出来てるじゃない。普段と全く変わらないぜ」
「それは私が我慢しているからでしょ。もう耐えられないのっ。だから……ねっ。もう悪戯はこのくらいにして」
「……やだ」
「ふ、藤田君……」
「絶対に嫌だからっ!」

 そう言うと、吾郎は智恵の前から走り去ってしまった。その後姿をじっと見つめる智恵。

「どうしよう。こんな事、誰にも言えないし……」

 また明日、何かされると思うと眠る事も出来ない。智恵は寝不足の状態で次の日を迎えた――

 いつもどおりの授業。
 智恵は、吾郎が寝そうになるとすぐに注意して寝かさないよう努力した。さすがに何度も注意されると他の生徒が見ている手前、吾郎も精神を集中できない。その甲斐あって、今日は憑依されることは無かった。
 ほっとしながら授業を終える。しかし、吾郎は廊下に先回りして、智恵の通り道を遮るようにして立っていた。不機嫌そうな表情の吾郎は、少し息が荒いような気がした。

「ねえ先生。今日はわざと俺に注意して、幽体離脱出来ないようにしたんだろ」
「ちゃんと寝ないで授業を聞きなさい」
「他の生徒だって寝てるじゃないか」
「ええ。だから他の生徒だってちゃんと注意したじゃないの」
「ねえ先生。明日はこんな風には行かないから。俺、自分でも信じられないくらい集中力が高まってるんだ。明日は……すごい事になる」
「…………」

 吾郎はそう言って智恵の前から消えた。とても嫌な予感がする。
 智恵は吾郎の言葉に動揺しながら職員室へ戻った――