短いですが、今回で終了でございます。
お読みいただいた皆様、どうもありがとうございました!
「ほんとうに大丈夫なの?」
「大丈夫だって」

 まとめた荷物を、病院の入り口に停車しているタクシーに詰め込んでもらう。

「はい。あの、先生。ほんとうに和利は……」
「大丈夫ですよ。後二週間ほどあればギブスも外せるでしょう。週に一度は外科に通院してもらわなければならないので、その時に脳の確認をしてもいいですが」
「そうですね。その方がいいわ、利和」
「調子が悪かったらな!」

 少し離れたところで、数人の看護師が立っていた。その中に果乃の姿も見られる。
 利和は、あえて果乃達には話しかけなかった。

「じゃあ先生。ありがとうございました」
「どうもお世話になりました」
「いえいえ。それじゃ、お大事に」

 簡単な挨拶を済ませた利和は、信じられない体験を繰り返してきた病院に別れを告げると、母親と共に久しぶりの我が家へと戻っていった。
 これからもっと練習すれば、広範囲で能力が使えるようになるだろう。それに、他の能力も備わるかもしれない。
 いや、まずは片想いの夏香を両想いにさせよう。
 そして、いちゃついた後に体を乗っ取り、あの水泳で鍛えられた肉体を貪る。その後、夏香とセックスだ。先に乗っ取って感じるところを調べているので、夏香はメロメロになる事だろう。
 利和がいなくてはどうしようもないほど、利和とのセックスを望むようにさせてから催眠をとく。
 きっと夏香は自分の意思で利和をねだるのだ。

「何ブツブツ言ってるの?」
「えっ。いや、何でもない」
「大丈夫?」
「大丈夫だって」

 タクシーの中でボソボソと呟く利和に、母親は心配そうな表情を隠しきれない様子。

「二千八百五十円です」

 運転手にお金を渡した母親よりも先に出た利和は、懐かしい我が家を見上げた。その後、松葉杖で玄関を入り、早速自分の部屋に戻ろうと階段を上がり始めた。

「利和、気をつけて上がるのよ」
「分かってるって!」

 とりあえず今日は、二階の自分の部屋から外の道路を眺めて歩いている目ぼしい女性の体を乗っ取ろうと思っ利和。性欲に突き動かされているようだ。
 早く女性に乗り移りたいと、嬉しそうに四つん這いになりながら階段を上がっていったのだが――

「わっ!」

 ギブスの足を踏み外し、そのまま階段を滑るように落ちてしまったのだ。ガタガタと大きな音を立てながら落ちてゆく利和は、ギブスの足をかばおうと体勢を変えようとした。
 それが仇となり、転げ落ちた廊下で頭を強く打ち付けてしまったのだった――



「う、う〜ん」
「利和っ! 先生、利和が目を覚ましました」
「あ、あれ……こ、ここは?」

 周りを見ると、つい先ほどまで見た光景――病室が映っていた。

「大丈夫かい? 折角退院したのに、一時間もしないうちに戻ってくるなんて」
「び、病院……ってことは」
「階段から落ちて気を失っていたのよ。お母さん、今度はもうダメかと思ったわ。ううっ」
 泣き出す母親を見ながら、「そうか、また入院しちゃったんだ。まあいいや。また病院で楽しめばいいし」と考えたのだが――





「ど、どうして……何も出来ないっ!」

 しばらくして現れた果乃に、能力を使おうと思った利和。しかし、退院するまで出来ていた事が全く出来なくなっていたのだ。

「まさか、階段から落ちたときに頭を打ったせいで……う、うそだろぉ!」
「どうしたの?」

 青ざめる利和を、不思議そうな表情で見ている果乃だった――



終わり