この作品は「新入れかえ魂Vo.1」に掲載されたものです。
全編終了までに、「超能力」「MC(マインドコントロール)」「事実誤認」「憑依」が含まれます。
また、一部ダークな内容が含まれますので、読みたいと思われる方のみお読みください。

非常に短いでございます(^^
特にイベントはございません。
 利和が思っていた通りだった。今日も花びらを動かすことが出来る。そして、カーテンを揺らすことも出来た。超能力に目覚めたと確信した利和は、更に重い物が動かせるように精神を集中する練習をすることにした。物体をじっと見つめ、動くイメージを頭の中でリピートする。
 事故の時に頭を打ちつけた後遺症か?自分でも信じられないくらいの集中力が身についている事に驚きながら続けていると、お茶の入ったガラスコップがカタカタと動かせるレベルになった。まるで地震が来たときのようにカタカタと揺れ、お茶の表面に波紋が出来ている。

「すごい……こんな事まで出来るようになるんだ」

 少し休んだあと、今度は母親が買ってきてくれた雑誌を太ももに置いて、捲るようにイメージする。
 紙なので思ったよりも簡単に動かすことは出来るが、『ページを捲る』という動作が上手くいかない。
 捲れそうで捲れなかったり、いきなり数十ページがバラバラと捲れてしまったり。こういう動作をさせるのは、思った以上に難しかった。

「なかなか上手く出来ないな」

 ずっと集中していると頭が痛くなってくるので、時折休みを入れながら一日中こんな事をしていた。
 おかげで寝る前には、ある程度ページが捲れるようになった。もちろん、利和は他の入院患者三人には気づかれないよう気をつけている。

「ふぅ、今日はちょっとやりすぎたな。頭の奥がズキズキする。痛み止めを飲んでおくかな」

 テレビ台の引き出しに入れていた痛み止めの薬。でも、何故か見当たらなかった。

「あれ?あと二つくらいあったような気がしたんだけどな。池澤さん、持ってきてくれるかな」

 そう思ってナースコールをする。すると、果乃が病室に現れた。

「どうしたの?」
「頭が痛くて。痛み止めを飲もうと思ったんですけど、なくしちゃったみたいで」
「そうなの。熱は?」

 果乃が寝ている利和に近づき、柔らかい手をおでこに当てる。

「熱はないみたいね」
「は、はい」

 その行為が恥ずかしくなった利和。果乃に視線を合わせる事にためらい視線を下ろすと、ピンクのナース服に包まれたふくよかな胸が飛び込んできた。
 その胸についているネームプレート。利和は、何気なくそのプレートを見つめた。すると、『池澤 果乃』と書かれたプレートがブラブラと揺れたのだ。
 果乃はそれに気づいていなかったようで、何事もなかったかのように病室を出て痛み止めの薬を取りに行った。

「……なんか今、すごくドキドキした」

 今までは自分の身の回りにある物を動かしていたのだが、今やったのは他人の物。他人が身に付けたり、持っている物だって同じように動かせるのだ。
 それに気づいた利和は、心臓の鼓動が激しく高鳴るのを覚えた。

「も、もしかして、俺ってすごい能力を身につけてしまったのかもしれないぞ」

 興奮しながら果乃が持ってきた痛み止めを飲み、ゆっくりと目を瞑る。もっと自由に物が動かせるようになったら――頭の中で色々な想像をする。
 こうなったら、やりたい事はたくさんある。勉強もしなければならないのだが、人間の三大欲望の一つが利和の意思を突き動かそうとしていた――