きっと誰も気づいていないだろう。
 隣で解説するニュースキャスターの男性や、私をカメラで撮影しているカメラマン。
 そして、そのカメラマンが映す映像を見ている多くの視聴者達。

「それでは次のニュースをお伝えします」

 私は手元にある原稿とカメラを交互に見ながら、視聴者に向かって最新のニュースを伝えていた。いつもどおり平静を装い、涼しい顔でカメラに映る。いつまでこの顔を続けられるだろう。そんな事を思いながら、原稿に書かれている内容を声に出した。
 白いブラウスの上に、胸元が開いた茶色いジャケット。同じく、茶色いパンツを穿いている私は、ニュースキャスターとゲストの女性に挟まれた状態で座っていた。
 白いライトがいくつも天井にぶら下がって私を照らしている。
 弧を描いた洒落た色付きのガラステーブルに並んだ原稿。その原稿から少し手前に視線を移すと、茶色いジャケットが見える。何の異変も無いように見えるが、胸には妙な温かさを感じていた。
 そして、この角度で見下げなければ分からない、ジャケットとブラウスの隙間の広さ。本来ならば、もう少し詰まっているべき隙間が、人の手が入るほどに開いていた。本番がスタートするまではこんな隙間は無かったのに。

「○○県で起きた殺人事件の犯人は、現場のコンビニから二キロ離れた場所で車を乗り捨て……」

 首筋に、生温かい息を感じた。そして、非常にゆっくりとした速度でジャケットの中のブラウスが動いている。

(や、やめて……)

 私は原稿を読みつつ、心の中で願った。私の背後に立ち、いやらしい愛撫を続ける透明人間に。
 その透明人間が誰なのかは分かっている。同じ局に勤める先輩、蒼革アナウンサー。元々蒼革アナウンサーが担当していたニュース番組だが、四月から私が担当する事になった。それが癪に障ったんだろう。その後、執拗に行われた嫌がらせは、とうとうこんな形にまで及んだ。

 ――本番中に体を触ってくるなんて。

 何処で手に入れたのか、透明人間になれる薬を使い私の体を触ってくる。いっそ、ブラウスを引きちぎってレイプ紛いな事をされれば何らかの形でばれる気がするが、彼は誰にも気づかれない程度に触ってきた。
 私のジャケットの中に忍び込んだ右手。そして首筋をいやらしく撫でる左手の指。

 正直、耐えるしかなかった。

「乳首、硬くなっているんじゃない?」

 耳元で小さく囁かれる。私は聞えないフリをして原稿を読み、ゲストの女性との会話を続けた。それが気に入らないのか、蒼革アナウンサーの行動が少しずつ大胆になってゆく。
 テーブルの上、上半身しか映らないカメラの前で太ももが撫でられた。恐らく、椅子の後ろにしゃがんで手を回しているのだろう。茶色いパンツの生地の上から内ももを撫でられると、足に力が入る。

 とてもいやらしい手つきだった。

 私が抵抗しないのをいい事に、彼の行動が更に大胆になる。
 太ももを撫で終えた両手が、ジャケットの裾から入り込み、見えないところでブラウスのボタンを二つほど外したのだ。

「さて、次はスポーツです。連勝を続ける○○と、二位の△△の対戦がアヒアヒドームで行われました」

 それでも私は平静を装ったまま、原稿を読んでいた。
 外されたブラウスのボタンの隙間から、手が入り込んでくるのが分かる。私は軽く腰を上げて座りなおすフリをし、これ以上は嫌だという僅かな抵抗をした。しかし、彼の手はゆっくりとブラウスの中を這い上がり、ブラジャー越しに胸を掴んだ。

 信じられない。
 私のブラウスの中に男の手が――。
 しかも、本番中に。

 目が泳いだ。そして俯き、ジャケットに隠れたブラウスを見てしまう。

「葦乃さん?」

 隣のニュースキャスターに名前を呼ばれ、ハッとした。

「も、申し訳ありません。それではVTRをどうぞ」

 一瞬にして冷や汗が出た。

「大丈夫?」
「は、はい。すいません。少し集中が切れてしまって」
「お水でも飲めば?肩に力が入っているんじゃない?」
「大丈夫です。もう大丈夫」

 二回ほど、大きく深呼吸した。しかし私の胸は、まだ蒼革アナウンサーの手に包まれたままだった。
 VTRが流れている最中、次の原稿に目を通していた私は、一瞬目を細めた。
 ブラジャーの生地ごと乳首が摘まれている。この状況でそんな事までする!?
 誰も気づいていないからって、こんな事――。

 私は手元にあったグラスを取り、ミネラルウォーターを一口飲んだ。渡されたハンカチで額に掻いた汗を軽く拭き取る。

(番組が終わったら訴えてやるっ!)

 そう思いながら、直に終わるVTRを待っていると、お腹を締め付けていたベルトが緩んだ気がした。いや、実際に緩んだのだ。

(まさかっ!?)

 血の気が引く思いだった。
 俯いても、ジャケットに隠れて何をされているのか分からない。でも、私が想像している事はきっと当たるに違いない。

「それでは次のスポーツはサッカー。最下位の△△と首位の○○が激突しましたが、思わぬ展開が待ち受けていました」

(だ、だめっ!お願いだからそれ以上は止めてっ)

 原稿に集中できない。
 なぜなら、パンツのボタンが外され、中途半端に下ろされたファスナーの間から手が入り込んで来たから。
 蒼革アナウンサーが、私の股間を直接触ろうとしている。
 好きでもない男性に触られるなんて絶対に嫌だ。

 で、でも――。

 幾ら足を閉じていても、彼の手の侵入を防ぐ事はできなかった。
 ショーツの中にまで入り込んだ大きな手が陰毛を何度か引っ張り、更に奥へと入り込んでくる。
 腰を引いたところで無意味だった。
 かなり強引に押し込まれた指が陰唇にめり込み、いやらしく撫で始める。
 理性では絶対に受け付けたくないはずなのに、私の体は反応してしまった。
 自分でも、作り笑顔が空しくなってくる。

「ではVTRをご覧下さい」

 私を映すカメラのランプが消えると、眉を歪めて俯いた。
 足を閉じたまま片手を股間に当てると、異物がパンツの中に入り込んでいる事が明らかに分かった。

「…………」

 クリトリスを弄られ、歯を食いしばる。
 ふと隣に座っているニュースキャスターを見ると、微妙な笑みを浮かべていた。見ようによっては、いやらしいオッサンの顔に思える。

「葦乃さん、調子悪いの?」
「い、いえ……」
「お腹、痛いとか」
「そんな事ないです」
「そう」

 テーブルと椅子の隙間から覗き込もうとするから、私はわざと椅子を前に引いて下半身を見えなくした。

 こんな悪戯をされているなんて知られたら――。

 助けて欲しい反面、ばれるのが恥ずかしいという気持ちがある。
 生憎、反対に座っているゲストの女性は全くの無関心で、若いADと楽しそうに話をしていた。
 その間もクリトリスが執拗に弄られ、胸も――ブラジャーが捲られ、直接乳首を弾かれていた。

(だめっ。これ以上はだめよ……。変な声、出ちゃうっ)

 ジャケットの襟元についている小型の指向性マイクは、私の小さな声すら拾うだろう。
 聞かれたくない。
 私の――喘ぐ声を。

 VTRが終わると、メインキャスターとゲストの女性を交えて、数分間のトークとなった。
 一番最悪な状況。
 私は何度も座りなおす行為をとりながら、二人と会話をした。
 それが気になるのか、ADが「座りなおさないで」という紙を私に見せる。

 そんな事言ったって、私は今、蒼革アナウンサーに悪戯されているんだからっ!

 彼の指が膣の中に入り込んできた。
 全く痛みを感じる事のない膣は、すでに濡れているのだろう。
 この長さは、中指かもしれない。
 数センチ程度入り込んだ指が曲がり、Gスポットを絶妙に刺激してくる。

 テーブルの上で組んでいる手に力が入った。
 私が感じている事が分かるのか、蒼革アナウンサーは乳首を刺激していた手を股間へ移動し、両手を使って弄り始めた。
 右手の指が膣の中に、そして左手の指がクリトリスを。
 必死に閉じていた足が、自然と開いてしまう。

(い、いやっ……。も、もう……だめなんだから)

 言葉数の少なくなった私に対し、ニュースキャスターが会話を求めてくる。
 こんなに必死に我慢しているのに。

「そ、そうですね。私もそう思います……ぁっ」

 し、しまったっ。
 思わず両手で口を塞いだ。
 上ずった喘ぎ声が漏れてしまった。

「だ、大丈夫ですか?」
「すみません。少し喉が……」
「最近、風邪が流行っていますからねぇ」
「大丈夫ですか……ら」

 精一杯の笑顔を作ったつもりだったが、後から聞くと、カメラに映る私の笑顔には艶やかさがあったらしい。
 だってあの瞬間、オーガズムを迎えてしまったのだから――。




「もう二度とあんな悪戯はしないでくださいっ!今度したら絶対に訴えますからっ」
「何だよ。あんなに濡らしておいて。それに誰も信じないよ。俺が君に悪戯している事なんか」
「嫌なんですっ!」
「俺の手でイッたくせに。葦乃、視聴者に見られている事に興奮しているんだろ?」
「だ、誰が興奮するもんですか」
「そうかなぁ。あの濡れ方、尋常じゃなかったと思うけど」
「犯罪ですよっ!」
「合意の下だと思ってるんだけどなぁ」
「何処が合意の下ですかっ」
「ま、そんな事より君は俺の代わりに番組を続けているんだから、しっかりとしてくれないとな。それから、次はもっと気持ちよくしてあげるよ。俺の手だけじゃ満足出来ないだろうからね」
「な、何をするんですか……」
「手でするよりも機械を使ったほうが断然気持ちいいと思うからさ!」
「なっ……」


 これ以上の事をされると、間違いなく不審に思われてしまう。
 そう感じていたけど、結局は何も出来ずに蒼革アナウンサーにされるがままだった。

 原稿を目の前にして声を出せない。
 いや、出す事は出来るが、喘ぎ声になってしまう。
 私はテーブルの下で、つま先を立てていた。
 原稿を読んでいる間に仕込まれた小さなリモコンローターが、パンツの中で振動している。
 丁度陰唇にめり込み、クリトリスを刺激していた。

(わ、私……も、もう……だめ)

「次のニュース……あっ、あっんっ。い、いや……ん」

 ずっと我慢していた私は、カメラを目の前にして艶やかで上ずった喘ぎ声を漏らした。
 も、もう……どうなってもいい。
 私は目を潤ませながら、カメラのレンズをじっと眺めた――。


……という事で、久しぶりに透明人間ネタを書いてみました。
他人に見られている状態で悪戯されるというシーンはハァハァしますねぇ!