「お・に・い・ちゃん!」
「あれ。智代か?こんなに早く帰ってきてどうしたんだ?今日は部活じゃなかったのか?」
「うん、部活だったよ。でもサボっちゃった」
「どうしてサボるんだよ。そんな事してたらレギュラーから落とされるぞ」
「たまにはいいじゃん。部活よりも楽しい事、覚えちゃったんだから」
「部活より楽しい事?」
「そうそう。女のカ・イ・カ・ンってのをね」
「お、女の快感って……な、何言ってんだよ」
「お兄ちゃんには分からないだろうなぁ〜。この気持ちよさは」

 毎日、女子水泳部の練習を真面目に頑張り、二年生でレギュラーになった妹が部活をサボって帰ってきたのは初めてだ。俺は智代の少しふざけた言い方に苛立ちながらも、いつもとは違う雰囲気に違和感を覚えた。
 嬉しそうに、そしてなぜか頬を赤らめながら話す智代は、思いも寄らない言葉を口にし始めた。
突然現れた妹
「ねえお兄ちゃん。私とセックスしようよ」
「は、はぁ?」
「やっぱり私も高校生じゃん。セックスくらい経験してるんだから」
「き、急に何を言い出すんだ智代。ふざけるのもいい加減にしろっ」
「そんなに怒んなくってもいいじゃん。こんなに可愛い妹がセックスをせがんでいるんだから。妹の体、興味あるでしょ?お兄ちゃんって大学生だよね。妹よりもナイスバディな女子大生の方が好みかな?」
「どうしたんだよ。今日の智代はどうかしてるぞ」
「ニヒヒ、そうだよ。今日は飛びっきりおかしいんだ。だって私、智代じゃないもん」
「……はぁ?」
「実は〜。この体、乗っ取らせてもらいました!」
「…………」
「あれ?よく分かってないみたいだな。あのさ、南條智代ってあんたの妹だろ。俺、南條と同じクラスの桃木っていうんだ。よろしくな」

 何を言っているのか分からない。目の前にいるのは確かに妹の智代だが、本人は智代じゃないって言っている。
 体を乗っ取った?
 どういう意味だ。

「さっきから何を言ってるんだ?桃木って誰の事だよ。どうしてそんなしゃべり方するんだ」
「だ〜か〜ら〜。俺は南條のクラスメイトで、この体を乗っ取ってるの。どういえば分かるのかな。え〜と……幽霊になって憑依しているって感じかな」
「ひ、憑依!?」
「そうそう。だから南條の体は俺の思い通りに操ることが出来るんだ」
「じょ、冗談だろ?今時そんな馬鹿げた話……」
「別に信じて貰わなくても構わないんだけどさ。俺、とにかくこの南條の体でセックスしてみたいんだ。学校のトイレでオナニーしたらすげぇ気持ちよくて。実際にセックスしたらどんな感じかなって」
「う、嘘だ……。じょ、冗談だよな智代。俺をからかっているんだろ」
「はぁ〜。南條のお兄様はどうすれば信じるのかなぁ。まあ、とりあえず脱ぐからちょっと待ってよ」
「え?ぬ、脱ぐ?」
「そうさ。脱がなきゃセックスできないだろ。俺のツレが相手でも構わなかったんだけどさ。南條の記憶を辿ってみたらあんたに好意を持っていることが分かったんだ。へへ、ブラコンってやつか。それなら南條の意思を尊重して禁断のセックスを楽しもうと思って、わざわざ家に帰ってきたんだよ」
「ほ、本当に……智代じゃないのか」
「別にどっちでもいいけどさ。セックスすることには変わりないんだから」

 信じられない。智代の体が乗っ取られているなんて。
 俺の妹をクラスメイトの男子生徒が好き勝手に操っているなんて。
 きっと、智代は今日も部活をしたかったに違いない。それなのに、体の自由を奪われ、女子トイレで弄られて家に帰らされたのか――。

「お、おいお前っ!智代の体から離れろっ!」
「それは俺自身で決められないんだ。薬の副作用で、最低でも二十四時間はこのまま体を離れられない」
「何を馬鹿な事を。俺の大事な妹なんだぞっ」
「だから家に帰ってきてやったんだよ。他人の男とセックスさせられているなんて嫌だろ!」
「どうして妹に乗り移ったんだっ」
「実はさ。俺、南條が好きなんだ。で、何度か告ったんだけど嫌だって断られちゃって。仕方がないから南條自身を俺の物にしちゃおうって考えて、ネットから面白いアイテムを購入したんだ。それが幽体離脱して他人の体に憑依する薬。この薬のおかげで、南條の体に入り込むことが出来て、自由に操れるようになったんだ。この声も、体も全て。しかも、南條の記憶まで盗み見ることが出来るんだ。これ、マジですげぇ薬だよ」
「お前みたいなやつ、妹が好きになるはず無いだろ。その薬を中和するようなものはないのかっ」
「さあ。あったとしても、俺は使う気無いし。折角、南條の全てを手に入れたんだ。女の体を楽しまないと損だろ!」
「何てやつだ。このクソガキがっ!」
「あ〜。そんな風に言うんだ。自分の立場、分かってるの?今、妹の体を乗っ取られているんだぜ。このまま援交でもしに行こうかなぁ。記憶が読めるんだ。南條に成り切ることなんて簡単なことだからな」
「…………」

 そう言われると、手も足も出ない。
 結局、妹の体を人質に取られた俺は、こいつの――桃木という男子生徒の言いなりになるしかないんだ。
 俺は無言で拳を握り締めながら、桃木が乗り移っている智代を睨みつけた。

「そんなに怖い顔するなって。明日の今頃には、俺の魂は自動的に南條の体から抜け出ているんだからさ。それまでは両親にも内緒って事で。とりあえず見せてやるよ。この体がどれだけ発育がいいか」
「お、おい……」
「思春期になってから見てないんだろ?少なくとも、南條の記憶では見せてないって言ってるぜ。もちろん、覗き見しているなら別だけどさ!」

 智代が自らの手で青いリボンを緩め、ブレザーのボタンを一つずつ外してゆく。
 目の前に兄がいるのに――。

「や、やめろ智代っ」
「何、顔を赤くして照れてるんだよ。妹の体に欲情してんの?」
「くっ……。誰が妹の体に欲情するんだっ」
「まあいいや。ちょっと待っててくれよ」

 止める事は出来ないのか?
 俺は、妹が他人の意思で脱がされていく様子をただ眺めていることしか出来なかった。