妻を乗っ取られ……
「か、和美。お前……どうしてタバコなんか吸っているんだ」
「あ〜?何だお前は。はは〜ん、さてはこの女の旦那だな」
「こ、この女の旦那?か、和美。何を言っているんだ?」
「悪いな。あんたの女の体は俺がもらった」
「はっ?」
「俺があんたの女房に乗り移ってんだよ。分かるか?」
「の、乗り移る?」
「ああ。俺は浮遊霊ってやつさ。適当な体を見つけると乗っ取って、実体を得る。それを繰り返しているのさ」
「そ、そんな……。か、和美の体から出て行ってくれ」
「ダメだね。俺はこの体、結構気に入っているんだ。しばらくは俺の自由に使わせてもらうぜ」
「じょ、冗談はよしてくれ。和美は……和美は俺の大事な妻なんだ」
「へぇ〜。それじゃあこの体を可愛がってくれよ。俺さ、女に乗り移った時は、男では味わえない快感を得るのが楽しみなんだ。あんたがいつも女房を愛撫するように、俺を楽しませてくれよ」
「ば、馬鹿な……。どうしてそんな事を」
「俺が乗り移っている間はセックスレスで過ごすって言うのか?別に構わないぜ。俺はこの体で適当な男を誘ってセックスするだけなんだから」
「そ、そんな……」
「それが嫌ならお前が俺の相手をしろよ。そうすれば男を誘うようなことはやめてやるから。その代わり、俺が満足するまで続けろよ」
「……和美の体から離れてくれないのか?」
「飽きたら出て行ってやるよ。それまでは俺の器として操らせてもらう」
「くっ……」

 いきなり訪れた地獄の日々。妻の体を人質に取られた私は、浮遊霊の男に従うしかなかった。一日に何度もセックスを強要され、それでも飽き足らない場合はバイブを使って妻の体を弄んでいる。
 そして不思議なことに、浮遊霊は数日経つ頃には妻と同じような口調や喘ぎ方を覚え、一見すると本当に乗り移られているのか分からないほどになっていた。

「ねえあなた。早くセックスしましょうよ」
「い、いつまで和美の真似をするつもりだ」
「いいじゃない。その方があなたも気にならないでしょ?」
「いい加減、和美の体から出て行け」
「だ〜め、まだ出て行かないわよ。折角記憶が読めてきたところなのに、今出て行くのは勿体無いでしょ」
「き、記憶が読めてきた!?」
「そうよ。もう少しで和美は全てを開放するの。そうなったら体だけじゃなく、これまで生きてきた記憶も手に入れることが出来るわ」
「そ、そんな事……」
「よく考えてよ。浮遊霊に乗り移られる前の私って、地味でセックスも奥手だったでしょ。ところが今は進んであなたを求めている。あなたがセックスしたい時はいつだって出来るの。どちらの【私】がいいかしら?」
「き……決まってるだろ。和美は和美だ。浮遊霊なんかに取られてたまるかっ」
「記憶が全て手に入ったら、あなたは私が乗り移られているかどうか分からなくなるわ。浮遊霊が出て行ったと言って、しばらく奥手でいれば信じちゃうんじゃない?」
「それは……」
「判断できるかしら?」
「…………」
「ふふ。そんなに心配しないで。飽きたら本当に出て行くから。それまでは……ねっ!」

 俺は浮遊霊の言葉に返答できなかった。
 本当に和美の体から出て行くのだろうか?
 いつまでも和美に成りすまし、俺を欺き続けるのではないだろうか?
 一生、妻を疑いながら生活しなければならない。
 どうすればいいんだ。どうすれば……。



……という感じで、強制的に妻の体を奪われた夫は苦悩の日々を続けるのでした。
う〜ん、ダークな感じです〜。