「川党さんっ!」
「あっ、んん……」

 甘い香水の香りがする首筋を舐めながら彼女の髪を後ろに払い、綺麗な形の耳を眺める。

「川党さん、すごく綺麗だ」
「だめ、耳は弱いの」
「それじゃ尚更」
「ふっ……あぁん」

 仁科が生温かい息を耳に吹きかけると、千賀子は甘い吐息を漏らしながら仰け反った。
 彼女の温もりを全身に感じる。
 全く抵抗しない千賀子を、自分のものに出来たと錯覚してしまう。
 偽りの会話であっても、喘ぎ声であっても、彼女自身が発するものだと信じたい。
 そう思いながら仰向けに寝ている千賀子に自分の体を重ね、彼女の顔を両手で支えた。
 その距離、ほんの十センチほど。これほど間近で見たことなんてない千賀子の顎からおでこまで、視線を移動させながら確認した。

「綺麗な顔だ……」
「ファンデーションを塗っているから。化粧を取ればそれ程でもないわよ」

 千賀子は軽く微笑みながら仁科の目をじっと見ていた。
 その澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。

「あ、あのさ。その……」
「何?」
「あの。キ、キスしても……いいか?」
「……私とキスしたいの?」
「あ、ああ」
「私、体を乗っ取られているのよ。それが分かっていて言ってるの?」
「だ、だってその体は……その唇は川党さん本人のものだろ」
「そうよ。正真正銘、川党千賀子のものよ。ただこの体を動かしているのが私じゃなくて、加藤君なだけ」
「はぁ、はぁ。お前さえよければ……俺、マジでキスしたい……」
「……そんなに私とキスしたいなら、別に拒まないわよ。これまでにも女性に憑依して男性と一通りの行為をした事があるから。私の唇が欲しいなら、奪ってもいいわ」

 あくまで千賀子に成り切って話す加藤は、淡いピンクの口紅が塗られている唇を軽く尖らせてみせた。

「い、いいんだな?」

 その言葉に、ウィンクで合図をした千賀子が仁科の頭に両腕を回し、軽く力を入れて引き寄せる。
 徐々に彼女の顔が迫り、互いの息を感じることが出来るほどに近づいた。
 ずっと目を開いて見ている千賀子の視線を気にしながらも、仁科は唇を触れ合わせた。
 何とも柔らかい感触が伝わってくる。
 一度唇を遠ざけ、再度触れさせる。
 すると千賀子が頭を少し傾け、唇の間から舌を伸ばしてきた。
 驚いて頭を上げようとした仁科だが、彼女の両腕が彼の頭を引き付けた。

「んっ!」
「んん……。んふっ……んん」

 互いの唇が開くと、千賀子の舌が仁科の口内に入り込んでくる。
 他人の舌が口の中を這い回る感覚に、仁科は一瞬体を強張らせた。
 女性の生温かい舌が絡み付いてくる。そして歯茎や唇の裏をいやらしく撫で回している。
 その動きに興奮した仁科は、千賀子の口に舌を侵入させ、彼女と同じように舌で口内を犯した。
 互いの唾液が溶け合い、一つになる。
 二人は興奮を表現するために、足を絡ませたり体を擦り付けあった。

「んんっ、んっ。はんっ……」
「んっ、んんっ、んんんっ」

 激しくディープキスを行いながら頭を撫でたり背中に手を這わせたり。
 仁科は蕩けるような時間を過ごした。

「あふっ。はぁ〜」
「はあ、はあ、はあ」
「上手だったわよ。仁科君のディープキス」
「すごく気持ちよかった。キスがこんなに気持ちがいいなんて思わなかったよ」
「良かったわね。唇だけじゃなくて、乳首も愛撫してくれない?」
「も、もちろん」

 口内に千賀子の唾液を感じながら、仁科は下がって彼女の胸を目の前にした。
 大きくて柔らかそうな乳房を両手で掴むと、思った以上に指がめり込む。
 すでに勃起した乳首を舐めてみると、千賀子の体がビクンと震えた。
 彼女は顔を横に向け、両手を頭の横に上げたまま彼の行為を受け入れている。

「あっ、んっ……んんっ」

 乳首を口に含んで吸いつくと、彼女の背中が少し浮いた。
 汗臭いとか、しょっぱいという感覚はない。
 乳首の先端を硬くした舌で弄るとその快感から逃れようとしているのか、千賀子が足をしきりに動かした。
 そしてもう片方の乳首を指で摘んで引っ張ったり、捏ね繰り回したりすると「あっ、ああっ」と艶やかな喘ぎ声が千賀子の口から漏れた。
 玩具の様に乳房を乱暴に揉みしだき、乳首を甘噛みしていると、次第に千賀子の喘ぎ声が激しくなる。
 薄っすらと赤みを帯びてきた乳房がいやらしい。

「あんっ、あぁ〜」

 胸の感触を堪能した仁科がそのまま下へ移動し、股間へ顔を埋めようとした時、千賀子は両足を閉じた。

「え?」
「折角だからシックスナインしたいわ」
「シックスナインって……。い、いいのか?」
「仰向けに寝転んでくれない?」
「あ、ああ」

 仁科が彼女の体を開放し隣に仰向けに寝転がると、千賀子はゆっくりと上半身を起こして四つんばいになった。
 そして、体を反転させ仁科を跨ぐと、股間を彼の顔に合わせるように下げ始めたのだ。
 目の前に千賀子の性器が披露される。
 しかも跨ぐために足を広げているので、陰唇が開いて膣口が丸見えになっていた。
 その膣口から透明な愛液が溢れ出し、内ももに伝い落ちている。

「分かる?私が興奮していることが」
「す、すごい……」
「クリトリスがどれか分かる?」
「わ、分かるけど、この光景は何というか……」
「昨日、お風呂に入ってから洗っていないの。小便臭いかしら?」

 千賀子が更に股間を近づけると、仁科は両手で太ももを掴んで動きを止めた。

「抵抗あるの?やっぱり洗ってきたほうがいい?」
「そ、そうじゃなくて、女性の性器を目の前にしたのは始めてだから動揺しちゃって」
「そうなの。クンニしてくれるなら、フェラしてあげるわ」
「えっ……フェ、フェラ?」
「そう。こんな風にね」
「あ……うあっ!」

 不意に肉棒が掴まれると、亀頭がヌルッとしたものに包まれた。
 そして、そのまま肉茎までもが包み込まれたかと思うと、口では収まらない長さを無理やり咥え込むために喉の奥まで使い始めた。

「んふぅ〜」
「ううう……」

 千賀子の背中が丸まり、肉棒が根元まで口内に飲み込まれる。
 その後、ゆっくりと抜け始めると、ジュルッといういやらしい音と共に肉棒が開放された。

「んっ、どう?私のフェラは」
「はぁ、はぁ、はぁ……。す、すごすぎる。フェラチオってこんなに気持ちが良いんだ」
「こんな風にフェラするの、私は始めてなの。加藤君が持っている知識で、私の体を使って実現させているのよ」
「そ、そうなんだ」
「どんな風にすれば男が気持ちいいのかは、女より男の方が分かっているでしょ。加藤君は、私の口を上手く使って仁科君を気持ちよくさせる事が出来るのね。やっぱり、男が女の体を使うのは、相手をする男にとっては最高かもしれないわ」
「た、確かに……。本当の川党さんならこんなに気持ちいいフェラチオは出来ないのか?」
「少なくても、喉を使ってのフェラはした事ないわね。しかも、あまりフェラするのは好きじゃないからすぐにやめるみたいだし」
「そっか……」
「今の私なら、仁科君がイクまでフェラしてあげるわよ。この口と喉を使ってね。だから……あんっ!」

 千賀子が最後までしゃべらないうちに、仁科は彼女のお尻を抱きしめ、陰唇の中を舐め始めた。
 顔中に愛液を塗りたくりながら少し小便臭い尿道口を舐め、その上にあるクリトリスを舌で弄った。

「あっ、ああっ、すごっ……はぁ、はぁ、あ、ああ。き、気持ちいいっ。そこ、もっと舐めて……」

 クリトリスに吸い付き、硬くした舌で刺激すると千賀子の背中が思い切り仰け反った。

「ああ……。あっ、あっ、イイッ。すごくイイの。気持ちよすぎてイッちゃいそうよ」
「はぁ、はぁ。あ、あうっ……」

 今度は千賀子が肉棒を咥え込み、フェラチオを始めた。
 ズブズブといやらしい音を立てながら口内でしごかれると、クリトリスを舐めていた舌の動きが鈍くなり、お尻を支えていた彼の手に力が入らなくなる。

「うっ、うっ、はぁ」
「んっ、んっ、んっ、んん、んぐっ」

 定期的な口の動きがゆっくりになると、先ほどと同じように喉の奥まで肉棒を咥え込む極上のフェラへと変化する。
 吸い付きながら行われるバキュームフェラの快感に、仁科はたまらず腰を浮かせた。
 十分感じたのか、千賀子は仁科の口から愛液で濡れた股間を遠ざけるとフェラチオに専念し始めた。
 両腕で彼の太ももを抱きしめ、喉を鳴らしながら肉棒を刺激する。
 あまりの気持ちよさに情けない喘ぎ声を上げる仁科は、頭を上げてフェラチオする千賀子の様子を眺めた。
 揺れる胸の向こうに見える彼女の口。
 その口に唾液まみれになった肉棒が飲み込まれ、そして開放される。
 それが絶え間なく繰り返されている様子に頗る興奮した仁科は、すぐにでも射精しそうになってしまった。

「あっ、やばっ……で、出るっ!」
「んふっ……。後は手コキでね」

 仁科の言葉に、フェラを終えた千賀子は肉棒を力強く握り締め、上下にしごいた。
 柔らかい手に握られ、激しくしごかれた肉棒の先から白い精液が飛び出す。

「うあっ!あっ、あっ、あっ、あぁ〜」

 勢いよく出てきた精液が千賀子の髪や体に付着し、またシーツにも飛び散った。

「すごい量ね。貯めてたの?」
「はぁ、はぁ……。いや、昨日したばっかりだったけど、こんなに気持ちよかったのは初めてだから……」
「そんなに気持ちよかったの。でも、本番はこれからよ」
「わ、分かってるよ」
「私の誕生日なんだから、セックスでイカせてくれるまで返さないわよ」
「えっ……」
「なんてね、冗談よ。私の体、かなり出来上がってるからすぐにイッちゃうと思うわ」

 千賀子は跨いでいた仁科の体からベッドに座りなおすと、肉棒を優しくしごきながら話していた。

「あ、あのさ」
「何?」
「川党さんの……お、女の体って……気持ちいいのか?」
「そりゃもう。出来ることなら女に生まれたかったわ。毎日、こんなに気持ちよくなれるんだから」
「へ、へぇ〜」
「男の射精とは比べ物にならない気持ちよさよ。言葉で表現できないから分かりにくいと思うけどね。仁科君も私の体に乗り移って、女の快感を感じることが出来たらいいんだけど、加藤君の能力ではそこまで出来ないみたいよ」
「そうか……。俺も一度、女の快感を味わってみたいな」
「味わえるといいわね。ねえ、そろそろ大丈夫じゃない?しっかりと勃起したみたいだから」
「あ、ああ。そうだな」
「このオチンチンで私の膣を思い切り掻き回して。そして私にオーガズムをプレゼントしてね」

 軽く肉棒を弾いた千賀子がベッドに仰向けに寝転がると、仁科は起き上がって彼女の足を開き、その間に体を割り込ませた。
 初めてのセックス。しかも、相手は加藤が乗り移っているとはいえ川党千賀子なのだ。

「い、入れるから」
「ええ。早く来て」
「よ、よし……」

 仁科は亀頭を陰唇にめり込ませると、そのまま膣口に照準を合わせて腰を前に突き出した。

「んっ」

 千賀子が短く声を上げた。
 肉棒が膣に入り込んだのだ。更に腰をゆっくりと突き出すと、千賀子はシーツをギュッと握り締め、足の指を丸めた。

「あ、はぁ〜」
「うう」

 肉壁が絡みついてくる感じ。
 完全に肉棒が膣内にねじ込まれると、仁科は「ふぅ〜」と深く息を吐いた。
 彼女の下腹部と、自分の下腹部が密着している。
 この、滑らかで白い下腹の中に自分の肉棒が入り込んでいるのだと思うと興奮して仕方がない。
 仁科は千賀子の表情を見ながら、ゆっくりと腰を振り始めた。
 ニチ――ニチ――といういやらしい音が、肉棒を押し込むたびに聞え、それに合わせて千賀子の口からも喘ぎ声が漏れた。

「あ。あ。あっ……ん」
「はぁ。はぁ。はぁ」

 何も言わず、ゆっくりと腰を振り続ける。
 千賀子はシーツを掴んでいた手を胸に宛がい、自ら乳首を刺激していた。

「あっ、あっ、ああんっ。仁科君、もっと激しく動いて……」
「わ、分かったよ。こ、こうか?」
「ん……あっ、あっ、あっ、そ、そうっ。イ、イイッ!いいのっ、それがいいのっ」

 今度はパンパンという、肉同士がぶつかり合う音に変わった。
 仁科をイカせようと、肉壁がきつく締め付けてくる。

「あっ、あっ、すごっ……いぃ。そんなに激しく突いたらっ……す、すぐにイッちゃうのにっ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 気持ちよすぎて腰が止まらない。
 口内とは違った、肉棒全体をしごかれる感覚。
 それは、手でされるよりも数段気持ちよかった。
 加えて、目の前で千賀子の喘ぎ乱れる姿。
 会社では見ることの出来ない艶やかな女性としての千賀子は、彼の心を鷲掴みにした。
 もう離したくない。
 それが全てであった。

「ああっ!すごいっ。膣が掻き回されてるっ。だ、だめっ……、イイっ!」
「はぁ、はぁ、はぁ。お、俺も……すごく気持ちいいっ」
「はぁ、はぁ、あっ、あっ、あんっ、はぁ、イ、イクッ……イッちゃうっ。もうイッちゃうっ」
「俺だってイキそうだよっ。はぁ、はぁ、くうっ」
「いいのっ!いいのっ!イクッ、イクッ、イクゥ〜」

 千賀子は思い切り背中を仰け反らせた。
 そして大きく喘いだ後、オーガズムを迎えたようだ。
 同じく仁科も、彼女がオーガズムを迎える際に痙攣した膣の締め付けに、たまらず射精してしまったらしい。

「ああっ……はぁ、はぁ、ああ〜んぅ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ〜」

 仁科は千賀子に覆いかぶさると、そのまま二人でセックスの余韻を楽しんだ――。



 ――数分経った頃。

「気持ちよかった〜。川党さんの中って」
「そう?私もすごく気持ちよかったわよ」

 仁科がゆっくりと体を起こし、膣から肉棒を抜くと、白い精液が膣口から溢れ出した。

「や、やばい……」
「大丈夫よ。私、今日は安全日だから」
「そうなんだ」
「ああ。じゃなければ中出しなんかさせないわよ」
「そ、そうだよな……」
「もし子供が出来たら、責任取るつもりだったの?」
「それは……か、川党さんが俺を受け入れてくれるのなら」
「ということは、私と結婚してもいいってこと?」
「いいっていうか、できることなら結婚したいんだけど」 
「じゃあ、今までの記憶を川党さんの記憶に埋め込むか?」
「……は?」
「俺が乗っ取っている間の記憶はないんだけどさ。実は記憶を埋め込む事もできるんだ。もし記憶を埋め込めば、今までの行為は川党さん自身がしてしまった事になるんだ」
「き、急に加藤に変わったかと思えば、何を言い出すんだよ」
「面白いな。もしかしたら川党さん、お前を受け入れるんじゃないか?」
「な、何を馬鹿な事を」
「だってさ、自分からお前を誘ってセックスしているんだ。それにお前とのセックス。実は今までの男達と比べて、一番気持ちよかったんだ」
「……マ、マジで?」
「ああ。体の相性もいいみたいだ。多分、大丈夫だと思うから」
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな風に言われても俺、どうしたらいいんだよ」
「なる様になるさ。とりあえずここを出てまともな店に入ろうぜ」
「お、おい……加藤……」

 勝手に話を進め始めた加藤は千賀子の体をシャワーで綺麗にすると、身なりを整えさせた。

「俺に任せとけって」
「ま、任せとけって言われても……」

 結局二人は、そのまま歩いて駅前のレストランに入った。
 ガラス張りの店内からは、暗くなった外の景色が一層綺麗に見えた。

「ここなら雰囲気、いいだろ?」
「ま、待てよ。もしかしてお前、今すぐに川党さんの体から抜け出るんじゃないだろうな」
「もちろんそうさ。記憶を埋め込んでから出て行くよ。ちゃんと俺との会話についてはごまかしておくから。あくまで仁科と川党さんの間の言動だけ埋め込むってことで」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな事したら川党さんが……」
「ご注文はいかがしましょうか?」

 不意にウェイトレスに話しかけられた千賀子は、「私、白ワインにするわ。仁科君は?」と机上にあるメニューを手渡した。

「えっ……。あ。お、俺は……」

 慌ててメニューを見る仁科に軽く微笑んだ千賀子は、一瞬気を失ったように見えた。

「じゃ、じゃあ……生ビールにします」
「かしこまりました。後ほど料理をお伺いに来ます」
「はあ」

 軽く会釈をしたウェイトレスの後姿を確認した仁科が千賀子に視線を移すと、彼女は真っ赤な顔をしながら両手で口を隠していた。

「え?」
「に、仁科……君」
「……へ?」
「わ、私……ど、どうして」
「どうしてって……ま、まさか。川党……さん?」
「私。に、仁科君と……」

 彼女は相当、動揺しているようだ。
 どうやら加藤が話していたとおり、都合よく記憶を埋め込んだ状態で千賀子の体から抜け出たらしい。

「あ、あの川党さん」
「ご、ごめんなさい。わ、私……そんなつもりじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
「私が仁科君を誘って……やだ、どうしてあんな事を」
「落ち着いてくださいよ。俺……あ、僕は嬉しかったんですから」
「……え?」
「川党さんに誘ってもらえて、すごく嬉しかったです。だ、大好きな……か、川党さんに誘ってもらえて」
「に、仁科……君?」
「さ、最初はからかわれているのかと思いましたけど、そうじゃなかった。僕は入社した時からずっと川党さんの事が好きでした。だから本当に嬉しかったんです」
「私の事が? うそでしょ? 仁科君とは随分と歳が離れているのよ」
「離れているって、たかが5年じゃないですか。今時、5歳違いなんて普通ですよ。っていうか、僕は川党さん以外の女性に……興味がないんです」
「お待たせしました。白ワインとビールです。料理のご注文は?」
「ああ、後でするのでもう少し待ってください」
「かしこまりました」

 ウェイトレスが立ち去ると、仁科はビールの入ったグラスを持って千賀子の前に差し出した。

「乾杯しましょう。川党さんの誕生日に」
「……仁科君……」

 まだ動揺している千賀子は、震える手でワイングラスを持つと仁科と同じ高さに合わせた。

「川党さん、お誕生日おめでとうございます。乾杯」
「仁科君……ありがと」

 グラスが触れ合う音がした後、二人は一口ずつ飲んでテーブルに置いた。

「でも、どうしてあんなに大胆になっていたのかしら……」
「僕には分かりませんけど……。川党さん」
「何?」
「僕以外の男性には大胆にならないで下さいね」
「えっ」
「僕が川党さんを満足させますから。僕だけの川党さんでいて欲しいんです」
「……こんな私でよかったら……」
「こんな僕でよかったら」
「ね、ねえ。私達、もう他人行儀な呼び方をしなくてもいいなじゃないかしら」
「そうですね。じゃあ……下の名前で」
「そうね。……あ、仁科君の名前って何だっけ」
「ああ……そうか。昭信です」
「昭信……。それに、敬語も必要ないわね」
「敬語を使わないのはちょっと抵抗がありますけどね」
「プライベートならいいでしょ。千賀子って呼び捨てにしてみて」
「い、いいんですか?」
「いいわよ、昭信」
「じゃ、じゃあ……ち、千賀子」
「何?昭信」
「り、料理を注文しようか。お腹空いただろ?」
「そうね、昭信が激しすぎるから、すごくお腹が空いたわ」

 千賀子は落ち着いてきたのか、顔を赤らめながらクスッと笑った。

(ほら。俺の言ったとおり上手くまとまったじゃないか。また俺にも川党さんの体で楽しませてくれよなっ)

 二人の様子を幽体の姿でずっと眺めていた加藤は、満足げな表情を浮かべるとカプセルホテルに置いてある自分の体へと戻っていった――。




僕が先輩の誕生日を祝ってあげますよ……おわり


あとがき
まずは◎◎◎さん、素敵なイラストを頂きありがとうございました!
おかげで挫折することなく!?書き上げる事が出来ました。
いつも短く終わらせようと思うのですが、ダラダラと書いてしまいますね。
千賀子の心の隙間を、加藤と仁科は上手く埋めることが出来たように思います。
仁科については、好意を持っていた千賀子と素晴らしい関係になれた事を満足に思っているでしょう。
いつも終わり方をどうしようかと悩むのですが、今回はハッピーエンド系で終わりました。
これも、執筆しながらフラフラとストーリーが変化した結果なんですよね。
最初から「こういう終わり方をさせる」と決めていればいいのですがなかなか(^^

それでは最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
Tiraでした。