本来なら大空に向かって直線的に飛んで行けばいいものを、高所恐怖症の彼は比較的低いところを電車よりも遅いスピードで飛んでいた。
 すでに奥治は誰よりも近くで優梨子を見ることが出来るという優越感を感じており、カメラ撮影に最適な場所をキープしなければならないというプレッシャーから開放されているのだ。
(さあ、着いたぞ)レースクイーン0
 目の前に大きなドームが現れる。
 結構な時間を掛けて到着したが、疲れたという感覚は全くない。
 すでにイベントは始まっているが奥治は慌てることなく、入り口のゲートから堂々と無料で入っていった。
 誰も奥治に気づかない。
 それもまた面白かった。
 イベントはドーム内の半分ほどを使って行われており、多くの人でにぎわっていた。
 多数のブースにレーシングカーが並べられ、それを彩るレースクイーンが笑顔で手を振っている。
 奥治は目を輝かせながら、十メートル程の高さでゆっくりと会場を漂った。
(すごいな。こんな風に上から見るのは初めてだ。あっ!あいつらもいる)
 常連のカメラ小僧達が、一人のレースクイーンに向けてシャッターを切っていた。
 奥治も見たことのある女性で、スタイルが良くて美人だ。
 しかし、彼としては今ひとつ心に響く女性ではなかった。
 容姿が素晴らしいレースクイーンはたくさんいる。
 その中でも、この人だと思える女性はほんの一握りだ。
 また、レースクイーンが着ている衣装にもこだわりがある。
 彼いわく、セパレートやスカートになったものよりも、ワンピース水着やレオタードのような体の線を強調し、密着する衣装が好みらしい。
 最近はあまり見かけないが、彼一押しの優梨子が所属するレーシングチームはハイレグのレオタードだった。
 白をベースに青いラインが入っていて、胸元の谷間を強調する逆三角形の穴が空いている。
 そして腕には青色のアームカバー。
 そのハイレグレオタードを着こなす優梨子の表情やポーズが奥治の心を激しく惹き付けるのだ。
 何はともあれ、彼女が所属するチームを見つけなければならない。
 奥治はもう少し高く飛び上がると、会場全体を見渡した。
 似たようなチームが複数あるが、程なく優梨子が所属するチームを見つけることが出来た。
(あれだっ。あっ、優梨子ちゃんがいるっ!)
 会場の一番奥の壁際に並ぶチームの中に、ハイレグレオタードを着た女性達を見つけた。
 数十センチほど高くなったステージに三人並んでおり、中央にいるのが優梨子だ。
(よしっ!)
 彼女を見つけるや否や、今までにないスピードでステージに飛び降りた。
(優梨子ちゃん!)
 カメラ小僧達が眩しいフラッシュをたきながら、レースクイーンの彼女達をフィルムに納めている。
 奥治はステージの上でカメラ小僧達と優梨子の間に立つと、カメラを持つ真似をして彼女の姿を目に焼き付けていった。
レースクイーン1
(カシャカシャ。すごいな。目の前に優梨子ちゃんがいるなんて!)
 背中にカメラ小僧達の視線を感じる。
 一番前の特等席。普通は上がれないステージの上で、レースクイーンたちと一緒に立っている。
 それだけでも最高の気分だった。