「よし。それじゃ、授業を始めるぞ」

 ざわめきが静まった挨拶の後、普段と変わらぬ授業が始まった。数学を担当する朝川先生の授業は比較的静かで、たまに生徒達の囁き声が聞こえるくらい。普段は優しいが説教を始めると、教師の中でも群を抜いて長い事を皆が知っているからだ。
 基本的には朝川先生の声と黒板を叩くように書くチョークの音。そして教科書やノートを捲る音くらいだ。
 そんな中、純奈は両手で教科書を握り締めながら少々赤い顔で唇を噛んでいた。
 視線は教科書にあるが、意識は胸元に集中している。
 セーラー服の中、周囲の生徒達には全く気づかれない程度にブラジャーが動いているのだ。
 カップの裏生地が不自然に動くと、密着した乳房が人の指で揉まれる様にへこんでいる。

(や、やだ。ブラジャーが勝手に……。これも博の仕業なの?)

 朝川先生が背を向け黒板に数式を書き始めると、純奈は誰にも気づかれないようにセーラー服の襟元を軽く引っ張り、中を覗き込んだ。

「…………」

 博の体が入り込む事で少し黄ばんでいるブラジャーの表面が、微妙に動いている様に見える。それは、内側で乳房を押すカップよりも小さな動きに見えた。
 羞恥心を感じながら襟元を戻し、黒板に書かれた数式をノートに写し始める。
 誰も博がブラジャーに溶け込んで純奈の胸を触っているなんて想像しないだろう。
 左右に座る生徒をチラリと見たが、純奈を意識している様子はなさそうだ。
 このまま平常心を保っていれば皆にばれることは無い。
 そう思いながらノートに書き写していた彼女だが、思わず「うっ!」と小さな呻き声を上げてしまった。
 右に座っていた生徒と視線が合うと、純奈は「ううんっ」と喉を押さえながら咳払いをしてごまかした。
 別段、不審に思われた様子は無い様子。
 純奈が何事も無かったかのようにノートにシャーペンを走らせると、生徒も同じようにノートを書き始めた。

(ちょ、ちょっと……何してるのよ。そこは……ダメなんだから)

 乳房を押さえていたカップの動きが変化した。
 まだ開発され尽くしていないピンク色の可愛らしい乳首を弄り始めたのだ。
 少し硬くなり始めていた乳首をトントンと叩くような動きに、ノートに走らせていたシャーペンを止めた。
 俯いてセーラー服の生地を見たところで、その中で悪戯される様子を窺い知る事は出来ない。
 しかし、純奈の乳首は確実に弄られていた。
 周りは生徒達、そして朝川先生が教壇に立って説明をしている状況で男の子に乳首を弄られているなんて。
 シャーペンを握り締め、脇を締めながら目を細める彼女の乳首は、指で摘めるほど硬く勃起してしまった。

「ふっ……」

 そんな乳首への更なる刺激に、純奈はノートに置いていた左手を口に当てた。
 今度はセーラー服の赤いスカーフが軽く揺れているのが分かる。
 その刺激に声が漏れそうになる彼女は、口を塞ぐ手に力を入れた。

(あっ、やだっ。そ、そんな……ち、乳首が……あっ。やんっ!)

 ブラジャーのカップが勃起した乳首を摘むように挟み込み、そのまま上下に動き始めたのだ。
 痛くない程度に摘まれた乳首が、カップの生地に捏ねくり回され、乳房ごと揺さぶられている。

「ふっ、んっ、ぅっ、ぅっ、ぅっ」

 これ以上、動かれると皆に見つかってしまう。
 必死に閉じていた唇が開き、甘い声が漏れ始めた瞬間、彼女はシャーペンを手放し、セーラー服の上から胸を押さえた。

(い、いやっ!そんなに動かないでっ。ダ、ダメなんだから。そんなにされたら……あんっ)

 セーラー服の上からでもブラジャーが動いている感触が手や腕に伝わってくる。
 必要以上に乳首を摘まれた純奈は、気づかれない程度の小さな喘ぎ声と共に顎を上げながら快感に耐えていた。
 単に弄られるのではなく、この声が出せない状況で愛撫されるというのはある意味、刺激的だ。
 更には人の手で弄られるのではなく、普段見に付けているブラジャーに悪戯されているのだ。
 背筋を丸めてカップから胸を離そうとするが、博の意思によって動かされているブラジャーはいかなる体勢になっても密着したままであった。

(ひ、博っ。もう止めてっ!声が……声が漏れちゃうよぉ)

 まだ授業が始まって十五分ほどしか経っていない。
 純奈は息を乱しながら、拷問のような愛撫に終始身を捩らせ続けた――。




「もうっ!授業中にあんな事するなんてひどいじゃない!」
「純奈の胸、すごく柔らかくて気持ちよかったよ。乳首もコリコリして可愛かったし」
「なっ……。し、信じられない。女の子に向かってそんな事、言うなんて」
「でも純奈だって気持ちよかったって事だろ?切ない声を出したり体を捩じらせたりして。心臓がドキドキしているの、すごく分かったよ」
「こ、この変態っ!」

 授業が終わった休み時間。
 教室から少し離れた廊下では、純奈がものすごい剣幕で元の姿に戻った博に詰寄っていた。

「そんなに怒らなくてもいいだろ。あ、そうだ。それなら純奈にも薬をやるよ」
「変態になる薬なんて欲しくないもんっ」
「そうか?これを使えば……」

 博が純奈の耳元で囁くと、彼女の顔はみるみる赤くなっていった。

「なっ!誰にも見つからずに剛志のアレを見る事が出来るし、触る事だって出来る訳さ」
「だ、だって……そんな事、出来るはずないじゃない……」
「出来るんだって、俺みたいにさ。あいつの事、結構気になってたんだろ?まあ、俺達のクラスの中じゃ一番カッコいいもんな。だからこの薬で剛志が穿いているボクサーパンツになれよ」
「ボ、ボクサーパンツ……なの?」
「トランクスは履き心地が悪いからって、あいつはいつもボクサーパンツを穿いているんだ。俺もたまに穿くけどな」
「…………」



 教室に戻った純奈は、男友達と話している剛志を見つめた。
 あの黒いズボンの中に穿いているボクサーパンツになる事が出来る。
 博と同様、授業中に彼の下半身を好きなように触ることが出来るなんて。

「ダ、ダメ。そんな事を考えちゃ。私は博みたいな変態じゃない……」

 自分の中に芽生えた欲望を押し殺した純奈は席に着くと、次の授業の用意を始めた。
 その様子を後ろから眺めていた博はニヤリと笑い、彼女の横に立つと机の上に黄色い液体が入った小さな小瓶を置き、何も言わずに戻っていった。

「ちょ、ちょっと。私はこんなの要らないからっ!」

 他の生徒に見つからないよう、慌てて掌に握り締めた純奈だが、結局のところ小瓶を返した時には中身が入っていなかった。
 どうやら彼女も未知なる世界に足を踏み入れたらしい?