扉が開き、美術室へ戻ってきた美香に生徒五人は言葉を失った。唖然として口を開いているのは男子生徒の田宮と岡上だ。

 スーツを片手に白いブラウスのボタンを開き、束ねていた髪を靡かせている。表情も何となく緩んでいて、本来の沖河先生の雰囲気が感じられなかった。

「ごめんね、遅くなって。皆、描けた?」

 色っぽく腰を捻りながら沖河先生らしからぬ歩きで男子生徒、岡上の横で前屈みになる。彼には、開いた白いブラウスから胸の谷間が見えているはずだ。そのマシュマロのような谷間を見たいが、見てはいけないと泳ぐ視線が面白い。

「せ、先生……」
「何?岡上君」
「あ、あの……」
「あら、上手に描けてるじゃない。花びらが可愛らしいわ」

 全員が手を止めて美香の行動を見ている。それほど衝撃的だったのだろう。その様子がたまらない平治は、スーツを空いている椅子の背もたれに掛け、ゆっくりと生徒達の周りを歩き始めた。

「どうしたの?皆、手が止まっているわよ」

 沖河先生の言葉に生徒達がデッサンを始めると、平治は俯いて美香の体を眺めた。丸みを帯びて柔らかそうな胸の谷間。そして白いブラウスに浮き上がる二つの勃起した乳首。
 あの沖河先生がこんな姿で生徒たちの前を歩いているというだけでも平治は興奮した。その興奮が美香の体に乗り移り、さらに乳首を硬く勃起させる。
 ちらちらと生徒たちの視線を感じながらも平治は気づかぬ振りをして、潔癖症で神経質な性格を崩された美香の体を見せつけた。

「んん?花瓶のここはもう少し影をつけた方がいいわ。そう思わない?」

 平治は座っている女子生徒、水丘佐奈子の後ろから覆いかぶさるようにして右腕を伸ばし、彼女が描いている花瓶を指差した。
 肩の後ろに美香の柔らかくて大きな胸が押し付けられ、開いた左腕は制服の胸元に優しく宛がわれる。
 佐奈子は顔を真っ赤にしながら花瓶に影をつけ始めた。

「肩に力が入っているんじゃない?もう少しリラックスして描いたほうがいいわよ」

 美香の吐息交じりの声が佐奈子の耳元で囁かれた。その生暖かい息に、ビクンと体を震わせる。

「緊張しているの?リラックス出来るようにしばらく先生が抱きしめてあげるわ。だから頑張って描きなさい」

 そんなことを言われても、沖河先生に抱きしめられる行為に緊張する佐奈子は尚更、体を硬くして描き始めた。
 後ろから両腕で抱きしめられ、彼女の首下で交差した手が両胸に添えられている。大人の女性の両手は触れているのではなく、若干握っているように見えた。
 その様子を見ている他の生徒は集中してデッサン出来ないようだ。田宮と岡上は興奮しているのか、足をもぞもぞさせている。沖河先生が女子生徒を抱きしめ、制服の上から胸を揉んでいるように見えるのだ。それも、生徒に触れることすらなかった沖河先生が。
 明らかにおかしい。だからといってどうすることも出来ない。沖河先生は沖河先生なのだから。
 三分ほど佐奈子を抱きしめていた平治は、彼女の髪から漂うリンスの香りを楽しみつつ立ち上がった。
 そして今度は田宮の横にしゃがみ、左手を彼の太ももに置いて右手で描かれた花を指差した。

「この花の大きさは少し小さいわ。ほら、実際に花を見てみなさい。花瓶に対してどう?」

 太ももにあった左手が会話をするにつれてゆっくりと股間に近づき、その上で止まった。
 制服のズボン越しにも分かる、勃起した肉棒。
 平治は美香の手を肉棒の上に乗せたまま会話をした。

「小さいと思わない?」
「は、はい……」
「本当にそう思う?」
「はい。先生……」
「あら?田宮君が大きくなるんじゃないのよ。花を大きくするの。分かってるでしょ」

 勃起していることを言われているのだと分かった田宮は、顔を真っ赤にして俯いた。それでも美香の手は肉棒の上に乗せられたままだった。

「どうしたの?真っ赤な顔をして。熱でもあるんじゃない?」
「い、いえ……」
「大丈夫?」

 平治は腰を上げると、田宮の前に立って前かがみになり、両手で頭を押さえた。そして美香の顔を近づけると、おでこを触れ合わせて熱を測る振りをした。
 目の前に沖村先生の顔。鼻同士が触れたかと思うと、さらに顔が近づいて軽く唇が触れ合った。
 他の生徒からは死角になって見えていなかったかもしれない。
 何が起こったのか分からない田宮は、大きく目を開けたまま表情が固まっていた。

「熱はないみたいね。でも心配だから保健室に連れて行ってあげるわ。立ちなさい」
「あ、あの先生。大丈夫です」
「大丈夫じゃないでしょ。私の大事な生徒に何かあれば大変だし、ご両親に申し訳ないじゃない」
「だ、だから……」
「いいから。早く立って」

 沖河先生に促されると、田宮は動揺しながら鉛筆を置いて立ち上がった。

「先生、ちょっと田宮君を保健室に連れて行ってくるから描いていて。戻ってくるのが遅くなるようならいつもどおり部屋を片付けて帰っていいからね。あ、そうそう」

 思い出したかのように窓際に歩いた平治は、美香の指で窓の淵にたまっていた埃を擦り取って生徒たちに見せた。

「ほら、こんなに埃がたまっているわ。ここも綺麗に拭き取る事。分かった?」

 埃を素手で触って見せた美香に、生徒たちは顔を見合わせた後、「はい」と答えた。

「それじゃ、田宮君。行きましょうか」

 指についた埃に息を吹きかけて飛ばした平治は、沖河先生の手で田宮の背中を軽く押しながら美術室を出た。