普段の教室よりも一回り小さな部屋。窓から入る日差しを避けるように扇形に並べられた五つの椅子。
その中心には直径五十センチほどの丸テーブルが置かれており、花瓶に入った黄色くて可愛らしい花が数本挿されていた。
女子生徒三人に男子生徒が二人が真剣な表情でデッサンの真っ最中。沖河美香はゆっくりと生徒達の周りを歩き、状況を確認していた。
両手を後ろで組み、背筋を伸ばして指導する姿は教育熱心な若妻を想像させる。

「田宮君。この花びらはもう少し大きく書いたほうがいいわ。それに対して茎が太すぎるじゃない。あと一ミリ細くしたほうがいいわ」
「い、一ミリですか」
「そう。それから関口さん、花瓶の形がおかしいわよ。影のつけ方も不自然だし。もう少しよく見て」
「はい」

とても静かな部屋。鉛筆を走らせる音と、指導する美香の声、そして生徒の返事しか聞こえない。耳を澄ませば、グランドで部活をしている生徒の声が遠くに聞こえるくらいだ。
黙々と描き続ける五人から視線を離した美香は、窓際に立ってグランドで部活をしている生徒達を眺めた。トラックを走る女子生徒の集団。サッカーボールを蹴る男子生徒達が一生懸命頑張る姿が微笑ましかった。
一人の生徒がグランドから校舎に近づいてくる。その様子を目で追っていると、ふと窓の淵に薄っすらと埃が溜まっているのを見つけた。

「皆、毎週掃除してる?埃が溜まっているわよ」

こういう汚れた場所を見ると綺麗にしたくなるが、素手で拭き取るなんてありえない。大体、握手するだけでも抵抗がある彼女は、他人の手を握った後、出来るだけ早く石鹸で手を洗いたいという衝動に駆られるのだ。

「絶対に掃除はサボらないでね。先生、汚いのが一番嫌いなの。もっと綺麗な部屋にして欲しいわ」

美香は咳払いをした後、部屋の端に並んでいる棚からウェットティッシュを二枚ほど取り出した。これさえあれば汚れを素手で触る必要はない。それにビニール手袋をつける必要もないのだ。世の中、便利になったものだと思いつつ窓際に立ち、埃を拭き取ろうとしたのだが――体に妙な違和感を覚えた。
振り向いて生徒達を見ると、相変わらずデッサンを続けている。

「…………」

気のせいかと思い、埃が指に付かないようウェットティッシュを近づけた瞬間、また体を触られたような感覚がしたのだ。
背中からお尻にかけて撫でられた感じ。それは更に美香の股間にまで及んだ。

「えっ!?やっ!」

思わず声を出した彼女は、振り向いて腰からお尻の辺りを見つめた。
誰に触られているでもなく、タイトスカートに包まれたお尻に変化はなかった。
その様子を生徒達が見ている。

「どうしたんですか?沖河先生」
「な、何でもないの。そのまま続けて」

何でもない事は無い。今も尚、体を触られている感覚があるのだから。

(な、何よこれ。誰かに体を触られてるみたい……。どうなってるの?)

生徒達の視線を避けるよう窓側を向いた美香は、ウェットティッシュを持ったまま胸の前で両手を握り締めた。
グレーのスーツ、白いブラウスの中、更には白いブラジャーの中に何かが入り込み、乳首が弄られている。そして、タイトスカートで見えない股間。肌色のパンストやパンティの生地を通り越した何かが陰唇の中で動いていた。
体を硬直させ、グランドの一点を見つめる沖河先生の異変に生徒達は気づかない。

(やっ……そんな。な、何なの?この感じ……誰っ?ほんとに体を触れてる!?いやっ)

両手に力が入った。ブラジャーの中で乳首が踊っている。スーツの生地が独りでに揺れ、その中に着ているブラウスが、そしてブラジャーが不自然に動いていた。

「んんっ!」

(誰かの悪戯なの?し、下着が汚れちゃう……)

美香はお尻をぎゅっと窄めた。しかし、陰唇の中で蠢くものを止めることは出来ない。タイトスカートの中で、股間を覆うパンストとパンティがいやらしく動いている。足をモジモジさせ、下半身を襲う感覚を取り去ろうとした彼女に生徒の一人が声をかけた。

「沖河先生、これでいいですか?」
「きゃっ!な、何?」
「あ、あの……描き直したんですけど……」
「そ、そう」

体の違和感と戦っている最中に声を掛けられて驚いたようだ。美香はそのいやらしい感覚から逃げるように生徒へ近づくと、B2用紙に描かれた絵を眺めた。

「もう少し……ここを直したほうが……はあっ!」

花瓶を指差そうと伸ばした右手を戻した美香は、胸元で拳を作った。

「沖河先生?」
「……だめ……」
「え?」
「あっ、ううん。な、何でも……」
「大丈夫ですか?」

目を瞑って我慢している表情に、関口が心配そうな声で問いかけた。

「ご、ごめんね。先生、ちょっと席を外すから続きを描いていて。はぁ……すぐに戻ってくるから……ぁっ」

何が起きているのか分からない。何も無いはずなのに、膣の中が満たされた感覚。
今の彼氏だって美香が潔癖症だという事を理解し、一年半かけてようやく体を許したのに――この誰かに肉棒を入れられたような感覚は美香を激しく動揺させた。
気持ち悪い感覚。そして自分の意思とは関係なく感じてしまう体。
首をかしげている生徒たちの目を避けるように美術室を出た美香は、ブラジャーの中で乳首を勃起させながら出来る限り平静を装いつつ、職員用トイレに急いだ。