雪那と別れて間もなく、ベルゼブブ兇らアラームが来た。
目標がポストにハガキを投函したとの知らせだ。
雪那がポストに入れたハガキ。
あれが郵便局に届いてしまうのは正直ありがたくない。
なぜならあれは俺が用意したものだから。
実際に桜堂はそんなハガキを出していない。

あのハガキに『応募する』と丸をつけてもらう事が今回の作戦の肝であり、
間違いなくポストに投函した事実が確認されることが重要なのだ。

俺はベルゼブブ兇止まっているポストを切っても切れないナイフで切り裂いた。
もちろん周囲に人がいないことを確認した事は言うまでもない。
街の中でナイフを持っているだけで十分怪しいのに、いきなりポストに斬り付けたとあれば通報されること請け合いだ。
雪那が投函したハガキはすぐに見つかり、俺はそれを回収した。

前回の作戦では洵子さんに気持ち良くなってもらったが、俺は全く気持ち良くなかった。
彼女にイタズラする事と気付かれない事に集中するあまり、そのことまで気がまわらなかったのだ。
そこで今回は彼女がオナニー好きであるということに目を付け、それを利用することで俺も気持ち良くなろうというのがコンセプトだ。

さて、ここまで言えばもうお分かりだろうか?
今回彼女に送る予定の大人の玩具は、半分以上俺のアレだ。
作り方は簡単。本物のバイブを二つに切って、片方に俺のアレを入れる。
そいつを新型であると偽って送ればいい。
しかもある程度なら自由に動かせる。
俺の手元に残った部分を持って前後に動かせば伸縮自在だし、上下左右に動かせば中をかき回せる。

あんまりすぐ彼女の家に届くのはおかしいから3日間ほど間を空けて届くようにする。
3日後が待ち遠しいな…。

―――

その日、家の郵便受けには小包が届いていた。
差出人は『桜堂』とある。
「これって、アレかな?」
私はちょっと赤面すると、それを持って自室に向かった。

今日も両親は家に帰ってこなかった。
って、今更帰ってこられても困るけど。

小包を開けると便箋が一枚と、ハガキが一枚、小冊子が一部。
そして男性器にそっくりのバイブと、それに使用するローションの瓶が一本入っていた。

私は制服姿のまま、まずは便箋を読もうとして…やめた。
内容についてはだいたい見当がつく。

>この度はモニター募集に快く応募して下さって…

うんぬんから始まって、

>今後とも当社の製品に格別のご愛顧を賜りますよう…

うんぬんで終わるに決まっている。

ハガキに関しても同様だ。
感想などを書く欄が見えたので、これに書いて送るのだろう。

「それよりも、この説明書みたいなのよね…」

ベッドに仰向けで寝転びながら、その冊子を手に取り読んでいく。
使用方法で主な手順や内容を抜き出すと以下の通りだ。

・このバイブは本物の男性器に限りなく近づけて作成されました。

「このバイブを手で刺激する、口に含むなどしてその反応をお楽しみ下さい? やだ、そんなところまでこだわっているの?」

・充電は必要なく、人体の熱や圧力に反応して勝手に動作します。

「熱に反応して? ずいぶん凄い技術ね。あ、そういえばスイッチの類が見当たらないわ」

・膣に挿入する際は、付属のローションを是非お使い下さい。

「へえ、何だか面白そうね…じゃあ早速♪」

私は本物そっくりのそのバイブを手に取ってみた。
手に取った瞬間、そのバイブがピクッとわずかに動いた気がした。
「ひゃ!え、温かい? うそ、こんなところまで凝っているの?」
私はベッドの上で寝ながら、右手に持ったバイブにマジマジと見入る。

ふと思い付いて、ふーっと息を吹きかけてみる。
すると今度は間違いなくビクッと大きくバイブが反応し、大きく跳ねた。
「わ! 動いた…すごいすごい! これ本当に本物みたい」

その反応が気に入った私は今度は左手で根元を持ち、右手で幹部を持ってゆっくり上下させた。
何度かそうやってこすっていると、やはり何度かビクビクッと反応する。
「わぁ…これ本当にどうなっているんだろう?」

今度はウラすじの部分に重点を置いて触ってみようか。
もっと弱い刺激に対してどうなるのか気になった私は、さっきよりも力を抜いた微妙なタッチで触れることにした。
触れるか触れないかのところでさらにゆっくりと上下させる。
すると動きはしなくなったが、尿道口のところから透明な液体が盛り上がってきた。
「え、えぇ!? これって精液? 違う、カウパーとか呼ばれるヤツかな?」
ますます本物だとしか思えないほどリアルな反応を返すバイブだ。

私に男性経験は無いけれど、処女膜も無い。
激しい運動をすると破れることがあると聞いたことはあるけど、私にそんな記憶はない。
理由は分からないけれど、でも無いなら無いで都合が良いこともある。
事実、私がオナニーをする時には処女膜が無い事が幸いし、膣の中にまで指やらローターやらを入れることができるのだ。
「これ入れたらすごいかも…。でもまだダメよ♪」
私はいつしか、このリアルなバイブに対して言葉をかけるようになった。
だって、何だかとってもカワイイんだもの。

―――

「ま、まだダメなんですか」

幼なじみの…正直に言うと初恋の相手である雪那が、俺のアレをいじめている。
彼女のしなやかな指が俺のアレを…。

その様子が覗き穴を通して見えているこの状況。
俺は彼女が見えているのに、彼女は俺の存在に気付いていない。
視覚から得られる情報がマジでキツイ。

「今度は…舌か!」

た、耐えねば!
こんなところで出したりしたらさすがに彼女が不審に思うかもしれない。
うぉ!



―――

ん、もう章末。
今回は私の話。
興味が無ければ読まなくてもいい。



………読むの?



修二はまた何か思いついたらしい。
昨日も夜遅くまで起きて何やら準備を行っていた。
時々突拍子もないことを思いつくので私も助かっている。
私の発明品には修二がアイディアやひらめきをくれたのが元になっているものある。

修二の顔が明るく輝いていること。
それが今の私の望みだ。

私がいる限り、修二は普通の人生が送れない。

仮に私が死んだとしても、それで済まされる問題ではない。
私の生前の研究について様々な組織の人間が修二を拷問にかけるだろう。
そう、私たちの両親のように…。
両親の死。
表向きは事故として処理されているが、真相はそうではない。
そしてそのことを私の弟は知らない。
今後も知る必要はないと私は考える。

この件について詳細を語るのは今は差し控えることにする。

水が約100℃で沸騰するのは誰でも知っている常識だ。
そして、私にとってはあのナイフやベルゼブブなどを作成するための技術・知識は常識なのだ。
そう、私にとってはごく当たり前のこと。
しかし、そうではない人々にとっては喉から手が出るほど欲しい情報であるらしい。
そうとは知らず、うかつに発明品を発表した9年前のあの時。
あの時から私と修二は普通の人生を送る権利を永遠に失ったのだ。

私は呪った。
両親を死に至らしめたその組織はもちろん、自分自身も激しく呪った。
普通であるということが、何物にも代えられない宝物であるということを私はこの時知った。

私のせいで、私が生まれたせいで…。
私がいなければ両親は死ななかったし、修二だって普通の人生が送れたのに。
怒りよりも悲しみよりも、私を襲ったのはこれからの起こることへ恐怖と絶望だった。
当時の私は15歳、弟は10歳。
いったい何が出来るというのか。

打ちひしがれている私を、あの子が…修二が救ってくれた。
忘れはしない。
あの子はこう言ったのだ。

『悲しいことをまとめて吹き飛ばせる爆弾があればいいのにね、姉さん。作れない?』

………それがいい。

私が普通でないというのなら、普通でないという理由で世界が私に襲いかかるなら。
まとめて吹き飛ばしてやろう。

二人で普通ではない人生を楽しもう。
普通では絶対に味わえない人生を自分とあの子に贈ろう。

『修二、手伝ってくれる?』

修二は、それはそれは魅力的な笑顔で頷いた。