「ふぅ〜。いいお湯だった」
長い髪を乾かし終えた由菜が、パジャマ姿でキッチンに現れた。
「なあ由菜、ちょっとお父さんと話をしよう。規子、先に風呂に入ってくれないか」
「いいけど……」
「携帯を買い換える話をするだけだよ」
「……ええ。じゃあ先に入るわね」
「ああ」
規子があまりいい顔をせずにキッチンから離れた後、由菜は冷蔵庫に入っていたお茶をグラスに半分ほど入れて、一気に飲み干した。
「由菜」
「ちょっと待って」
流し台にグラスを置いた由菜が、リビングのソファーに座っている猪田の横に腰掛けた。
それも、肩が触れ合うほど近くに。
「……由菜じゃないだろ」
「え?何が?」
「とぼけないでくれよ。分かっているんだ」
「何言ってるの?お父さん」
「…………」
「クスッ。課長、食事をしているときから分かっていたんですよね」
「あんな話をされたらな」
「びっくりしました?」
娘の由菜が父親に向って、敬語を使い始めた。
その口調は高校生のものとは思えない。
「本当に妊娠していないんだろうな」
「ふふふ。お嬢さんの体、本当に綺麗ですね。肌に張りがあって胸も私と同じくらい大きいし。高校生とは思えないです」
由菜は腕や胸を撫でながら羨ましそうな顔をしていた。
「おい。話をごまかさないでくれ」
「この体で誘えば、どんな男性でも嫌とは言わないですよ。さすが課長と奥さんのお嬢さんですね」
「屋河。頼むから……もう許してくれないか」
「何をです?」
「お前を妊娠させるつもりなんて全く無かったんだ。本当に申し訳なかったと思っている。こんな事を言うのは酷いと分かっているが……出来れば……おろしてもらえないだろうか」
「……何を?」
「何をって……」
「まさか、赤ちゃんの事を言っているんじゃないですよね」
笑顔で話していた由菜が急に真剣な顔つきになったのを見て、猪田は口を閉ざした。
「私と課長の大事な赤ちゃんなのに……。そんな事言うなんて信じられませんよ」
「そ、それは……」
「……本気でそんな事を言っているんですか?」
「えっ……そ、その……」
「……分かりました」
「……え?」
「父親に愛されない赤ちゃんは生まれても可哀想ですから」
「そ、そうか。おろしてくれるのか!」
「その代わり……ねえ、お父さん。私、お父さんのことを愛してるの。だからお父さんの子供が欲しいよ」
「なっ!」
「お母さんがお風呂から上がってくる前にここでセックスしようよ。そして私の膣にお父さんの精子を思い切り流しこんで」
「お、おいっ!何を訳の分からないことをっ」
「私、本気だよ。体は親子でも心は違うんだから」
由菜はソファーから立ち上がると、いきなりパジャマを脱ぎ始めた。
「や、やめろ屋河っ!頼むから止めてくれよ」
「どうしたの?お父さん。大きくなった私の体、見たことないでしょ。ふふふ」
猪田の言葉を無視した由菜は手早くパジャマを脱ぐと、嬉しそうに猪田を見つめつつズボンから足を抜いた。
目の前に娘の下着姿。
更に両腕を後ろに回してブラジャーのホックを外した由菜は、そのままソファーに座っている猪田に勢いよく抱きついたのだ。
「わっ!お、屋河っ!」
「お父さん、大好きだよ。ほら、お父さんのオチンチン、すごく硬くなってる。娘の胸を見て興奮したんだ」
「ば、馬鹿っ!早く服を着ろっ」
「ふふふ。この口を使ってフェラチオしてあげる。娘にフェラチオしてもらうのってどんな気分?」
強引にズボンのファスナーを下ろした由菜が、その中に手を差し入れた。
娘の柔らかい掌がトランクスに包まれている肉棒を握り締める。
「わ、悪かった!頼むから由菜の体でそんな事するのは止めてくれっ!」
「フェラチオは嫌なの?じゃあそのまま膣に入れる?」
「だから……もうおろしてくれなんて絶対に言わないからっ」
「……ほんとに?」
「ああ。だから早くパジャマを。規子が風呂から上がってくる前に」
「絶対に言わない?」
「言わないよ。本当だ」
「……分かりました。信じますよ?」
「あ、ああ」
目を反らす猪田の前で、由菜はブラジャーを身につけ、パジャマを着直した。
「今日、話をしてもらえるんですか?」
「……それは……何ともいえない」
「そうですか。まだ決心がつかないんですね」
「そう簡単に話せる内容じゃないからな」
「私を妊娠させるのは、意図も簡単でしたけどね」
「……それを言わないでくれ」
「事実ですから」
「……分かってる」
「あ〜あ。このままお嬢さんに成りすまして、娘として課長と一生過ごすというのもいいかもしれないですねぇ」
由菜は猪田の横に座ると、う〜んと背伸びをしてみせた。
「本気で言っているのか?」
「結構本気ですよ。私の体で子供を生んで、お嬢さんの体に乗り移って育てるんです。実は私、自分の体にはあまり未練がないんですよね。だから魂が抜けて死んでしまっても構わないんです。自分の体がなくなれば、薬の効果が切れても強制的に戻ることは無いと思いますし」
「そんな無茶苦茶な……」
「お嬢さんの体って母乳は出ないですけど、粉ミルクがあれば育てられますし」
「規子が黙っていないだろ。それに誰の子供か疑われる。それよりも、由菜の人格が無くなるのは許せないっ」
「課長は我がままですね」
「わ、我がままって……」
「課長に選択肢なんてないんですよ。課長が早く奥さんとお嬢さんから別れればいいだけのことなんです」
「屋河……」
「もう少し時間がありますけど、もしかしたら薬が切れるかもしれないので今日はこの辺で失礼しますね。明日は土曜日。会社も休みですからゆっくりと言葉を考えて告白してくださいね。また見に来ますから」
「み、見に来るって……また規子や由菜に乗り移るのか?」
「そうですよ。それとも私の体で来ましょうか?」
「い、いや……それはよしてくれ」
「ですよね。じゃあ今日はこの辺で……うっ」
一瞬、苦しそうな表情をした由菜が、力なく猪田の肩に凭れ掛かってきた。
そして、ほんのしばらくした後、ゆっくりと目を覚ます。
「う……ううん。あ、あれ?お、お父さん?」
「ああ。大丈夫か?」
「わ、私……一体……」
「何も覚えていないのか?」
「どうなってるの?いつの間にお風呂に……」
「入っていたじゃないか。少し眠っていたから記憶が混乱しているのかもしれないな」
「眠っていたって……え〜?だって私、全然覚えていないのに」
「そういうこともあるさ。今日は早く寝たほうがいいぞ」
「だ、だって……ええ〜?」
頭をコンコンと叩いた由菜は、訳が分からないといった表情で自分の部屋に戻っていった。
「はぁ〜。もうこれ以上は延ばせないな。明日には二人に本当の事を言わないと……」
これ以上、規子や由菜に乗り移られては適わない。
志乃理の執拗な行動に決心がついたのだろうか?
猪田はまた大きなため息を付くと、上がってきた規子と入れ替わるように風呂に入った。