夜。
俺は隣のアパート306号室の河原洵子さんの部屋にいた。
彼女には絶対に起きないようぐっすりと眠ってもらっている。
最低でも4時間は起きることはないだろう。
姉さんの発明品の一つ、『熟睡スプレー』のおかげだ。
ガスマスクをしている相手には効果は無いが、人を傷つけず無力化するのに最適だ。
順を追って説明しよう。
以前から朝の通学時にとても綺麗な女の人をよく見かけることがあった。
隣のアパートから出勤しているところに出くわして、簡単に挨拶を交わしたこともある。
少々気になっていたところなのだ。
彼女には申し訳ないが、このナイフの被験者第一号に認定させてもらうことにした。

そこで今日、日曜日の昼間を調査と下準備に費やすことにした。
姉さんからゆずり受けたベルゼブブ兇鯣瑤个掘∩管屋を片っ端から調査する。
その間に俺は彼女にイタズラするための計画を練るってわけだ。

彼女の部屋自体は簡単に見つかった。
あとは侵入するだけだな。

≫河原洵子さんの部屋に侵入するまでの話は、長くなるので後半にまとめて記すことにする。
≫気が向いたら読んでみて欲しい。

彼女の部屋を調べると、いくつかの書類が見つかった。
過去にいろいろなことを経験したもんだから、こういう事の手際の良さは自分でもびっくりだ。
年齢は23歳、短大を卒業してすぐに就職。今はどこぞの会社のOLさんらしい。

彼女はベッドに仰向けになって健やかな寝息をたてている。
枕元にはいくつかのぬいぐるみ。クマにウサギにイルカ…これは分からないな。
俺の知識ではその愛嬌のある顔のぬいぐるみの正体は分からなかった。

彼女は極めて整った顔だちに、気が強いのか眠っていても分かるほどのツリ眉をしている。
髪は肩にかかるくらいの長さで、少しウェーブが掛かっている。
「ではちょっと失礼して、と」
俺は掛け布団をめくった。
その瞬間、女性の体臭というべきか、フェロモンのような香りが匂った。
意識はしてないのにゴクリと喉が鳴る。
「うぅ、これは興奮するな」

かわいらしい花柄のパジャマに包まれた彼女の肢体。
胸は…おお、かなり大きい。
Eカップはありそうだ。
このままイタズラしたいのはやまやまだが、相手が絶対に起きないと分かっているのは面白くない。
いくら被験者が無防備な姿をさらしているとしても、直接的な強姦など論外だ。
今回はこのナイフを使用したエロいことが目的だ。
あくまでもこのナイフを主としたイタズラに徹する必要がある。

いくつか思いついたこともあるし、彼女には軽いジャブから味わってもらおう。
俺は彼女が眠っている間に、部屋にいくつかの仕掛けを施すことにした。



――ここから後半――

アパート各部屋の基本構造は1LDKだ。
用意する道具は、このナイフ…『切っても切れないナイフ』と命名しようかな。
それに『消音靴下』『タコ吸盤』『暗視ゴーグル』『熟睡スプレー』
それから『なんでも接着剤』『10僉10僉2僂量擇糧帖戮睛儖佞靴討かなくては。
あとはベルゼブブ兇ら送られてくる緊急撤退用のアラーム受信機かな、耳に装着するタイプのヤツ。

まずは夜、彼女が眠るのを待つ。
兇話覺屬らずっと彼女の様子を観察し続けている。
彼女が眠ったかどうかはベルゼブブ兇量椶鯆未靴導稜Г垢襦

入り口のドアにタコ吸盤を張り付けて片手で支え、その近くにナイフを刺したら、四角を描くようにドアを切り抜く。
切り抜いた部分は吸盤を引っ張って取り外し、開いた大穴から手を突っ込んで内側のカギを開ける。
ここまでで遅くても20秒程か。

彼女に気付かれないよう慎重にドアを開け、身体を滑り込ませる。
身体が入るだけドアを開けられればいい。
もし、俺が侵入する際の物音で彼女が目を覚ましたならば、ベルゼブブ兇アラームで異変を知らせてくれる。

ドアを開けた瞬間、女性の部屋らしい芳香剤の香りが鼻をくすぐった。
消音靴下を履いたおかげで足音は無音だ。
侵入したらまた慎重に扉を閉める。
これでさらに25秒くらいかな。

だいたい合計で45秒くらいで外からは気付かれない状況にまで持っていった。

開いた大穴を先ほど切り抜いた部分で塞ぐ。
完全に塞がるまで10秒くらいか。
視界は暗視ゴーグルのおかげで良好。
あとは彼女の部屋に行き、熟睡スプレーを彼女に嗅がせて侵入作戦は成功だ。



おっと、この章を終わる前に、寝る前に姉さんが言っていた『シルバー』について説明しよう。
例によって読みたい人だけ読んでくれ。

簡単に言えば、戦闘に特化した人型ロボットだ。いわゆるサイボーグだな。

女性型で、名前の由来は将棋の駒である『銀』、開発コンセプトは『くノ一』だそうだ。
運動性と隠密性および索敵能力に優れ、スピードを重視したタイプだ。
俺のボディガードとしての付き合いが長く、二人一組で行動する。
俺は親しみを込めて「お銀さん」と呼んでいる。彼女も気に入っているらしい。
彼女は身体は二つだが人格は一つ。どちらがどちらというのではないらしい。
人間の手が二本あるように、彼女にとってはそれが当たり前のことで、お銀さん『たち』と呼ぶと二人同時に妙な顔をされてしまう。ちょっとややこしい。

彼女たち…じゃなかった、彼女のさらに詳細な説明はまたいつかの機会にしよう。