「ただいま」
「お、おかえりなさい」
「どうしたんだ?出てくるのが遅かったじゃないか」
「う、うん。ちょっとトイレに入っていたから」
「そっか」

鎮男は裕子に微笑みかけると、寝室にあるクローゼットにスーツを掛けに行った。

(へぇ〜。結構イケメンな旦那じゃないか)
「お願いよ。今日は帰って」
(折角来たんだからそんな風に言うなよ)
「勝手に入ってきたんじゃないのっ!」

出来るだけ小さな声で見えない沖村と話す。
それが分かっているのか、沖村も小さな声で裕子に話しかけていた。

(それにしても、そのジーンズ姿は相変わらずそそられるよな)
「じ、ジロジロ見ないで」
(俺が見ているかどうか分からないくせに!)
「きゃっ!」

不意にお尻を撫で上げられた感触に、驚いて声をあげてしまった。
その声に、鎮男が寝室から戻ってきた。

「どうした?」
「えっ、ううん。なんでもないの」
「今日の夕食は?」
「う、うん。今から作る。ちょっと待ってて」
「ああ。何か手伝おうか?
「いいよ今日は」
「そっか。じゃあテレビでも見てるよ」
「うん……」

別段、気にすることなくリビングのソファーに腰掛けた鎮男はテレビを見始めた。
ちょうど対面型のキッチンに背を向ける様にソファーが置かれているので、夕食の準備をする裕子の姿を見ることはなさそうだ。
その様子を確認した後、ライトブラウンのジャケットをテーブル椅子の背もたれに掛けた裕子は、たどたどしい手つきで冷蔵庫から野菜を取り出した。

「今日は何?」
「クリームシチューだけど」
「そっか。早く食べたいな」
「うん、すぐに用意するから……っ!」

テレビ画面を見ながら話す鎮男に答えた裕子は、ビクンと体を震わせた。
肩に両手が添えられた感触。
そして、薄手の白い長袖セーターに包まれた背中がなぞられてゆく。

「や、やめて……」
(いいだろ。旦那はテレビを見ているんだ。気づかれないさ)
「そういう問題じゃないでしょっ」
(そう怒るなよ。旦那に声が聞こえるぜ)
「…………」

耳元で囁いた沖村は、まな板の上で野菜を切る裕子の背中に密着すると、お腹に手を回し後ろから優しく抱きしめた。
セーターの生地がお腹に貼り付いている。
そして、背中全体に生暖かい感触を覚えた。
後ろでは鎮男がテレビを見ている。
もし男が家に入り込み、妻の体を触られていると知ったら――。

「お、お願い……」
(折角の機会なんだ。楽しませてもらうよ)
「そ、そんな……」

包丁を動かしながら小声で話していた裕子は、乳房を包んでいるセーターの生地が歪に動き始めたのを見て歯を食いしばった。
何も見えないのに、不自然に乳房が動いている。
最初は上下に揺れ、次に左右から押しつぶされるように寄せられる。
その異様な光景に包丁を握る手が止まった。

(どうした?旦那が夕食を待っているんだぞ)
「…………」

また包丁を持つ手が動き始めた。
胸を弄る見えない手に不快感を抱きつつ、夕食の準備を続ける。
自分の妻が悪戯されている事に気づかない鎮男は、ずっとテレビのニュース番組を見ているだけだった。
野菜や肉を切り終わり、鍋を出して煮込む準備を始めた彼女の背後に居座る沖村が、ひたすら乳房を揉み続けている。
激しく乳房を揺すられると、裕子の口から「うっ、うっ」と小さな声が漏れたりした。

(へへへ……)

U首になっているセーターの襟元が不意に引っ張られ、見えない手が入り込んできた。
とっさにセーターの上から胸を押さえた裕子。
しかし、その動きは止められなかった。
ブラジャーの中に忍び込んだ指が、固く勃起した乳首を弄っている。

(乳首、勃ってるな)

その言葉に、裕子は無言で顔を赤らめた。
セーターが異様に盛り上がり、その生地が蠢いている。
それでも裕子は夕食を作り続けなければならなかった。
煮立った鍋に食材を入れ、灰汁を取りながらルーを入れる表情は険しくもあり、艶やかでもあった。
生暖かい掌で乳房を揉まれる。
そして、また乳首を弄られる。

「っ……。ふっ」

一度襟元から抜け出た見えない手が、今度はセーターの裾から入り込んだ。
両手がブラジャーの上からそれぞれの乳房を揉み始める。
指の形がセーターの生地に浮かび上がり、中で執拗に揉んでいるのが見て取れた。

(感じてるんだろ?もっと声を出してもいいんだぜ)
「…………」

セーターの中でブラジャーが捲り上げられ、直接乳首を摘まれる。
電車で痴漢に遭った時は強引に振りほどいたりするのだが、鎮男がいる状況では抵抗できない。
裕子は鎮男に気づかれたくないのだ。
愛する夫の前で悪戯されている体を。
異様に盛り上がるセーターに、裕子の額から汗が滲み出た。
そんな状況がしばらく続いた後、ようやく夕食の準備が完了した。
キッチンテーブルの上にはクリームシチューと小皿に入ったちょっとしたおかずが並んでいる。

「出来たよ、鎮男」
「ああ。今日は遅かったな」
「ごめんね、シチューを煮込むのに時間がかかったの」
「もっと簡単な料理でも構わないよ。大変だろ」
「ううん。そんな事ないけどね」

テーブルを挟んで対面で座った二人が夕食をとり始めた。
今は体を触られていると言う感覚がない。
おそらく、目の前に旦那がいるので手を出してこないのだろう。
そう思っていたのだが――。