「村岡プロデューサー。二人を連れてきました」
「ああ」
「あ、あの……。は、はじめまして。日浦咲希といいます」
「はじめまして。日浦優衣といいます」
「君達が双子の姉妹か。どちらが姉なんだ?」
「あ、はい。私です」

ふんぞり返って座っている村岡の威圧感に、咲希はオドオドしながら手を上げた。

「そうか。本当に見分けが付かないな」
「はい。大学でもよく間違われます。ねえ、咲希姉ちゃん」
「う、うん」

妹の優衣より、姉の咲希の方が緊張している様だ。
村岡はそのやり取りをニヤニヤしながら見つめていた。

「おい主任。今日は何時からあるんだ?」
「はい。一回目は十一時から十二時まで。二回目は十四時から十五時です」
「ふ〜ん。楽しみだな」
「はい。二人とも、しっかりと演技するんだぞ」
「いつもどおり頑張ります。ね、咲希姉ちゃん」
「うん」
「よし、もう行っていいぞ」
「失礼しました。二人とも、ほら」
「はい。失礼しました」

主任に背中を押された二人は、村岡に軽く会釈をして部屋を出た。

「咲希姉ちゃん、緊張しすぎだよ」
「そんな事ない。優衣が緊張しなさすぎだって」
「たかがプロデューサーでしょ」
「結構なバイト料をもらってるのよ。気に入られなかったらバイト辞めさせられるかも知れないのに」
「そんな事、気にしてたの?」
「当たり前じゃない。バイトしなければ服だって、彼氏の誕生日プレゼントだって買えないんだから」
「まあね。咲希姉ちゃんは彼氏がいるから必死だね」
「優衣も彼氏が出来たら同じ様に思うって」
「私はまだ彼氏を作る気がないの。でも、咲希姉ちゃんに成りすましてデートしてみようかな?」
「何バカな事を言ってるのよ」
「へへへ、冗談だよ。でも私と咲希姉ちゃんの区別、つかないだろうね」
「外見は同じでも中身が違うからすぐに分かるよ。私、優衣ほど大雑把な性格していないから」
「そんなの、猫被ってたら分からないし」
「何?優衣はやっぱり彼氏が欲しいの?」
「ぜ〜んぜん。前に付き合っていた奴と別れてからは彼氏欲しいなんて思わなくなったし」
「あっそう」

そんな会話をしながら更衣室に入ろうとした二人に、後から追いかけてきた主任が声を掛けた。

「二人とも、もう着替えるのか?」
「はい。少し早いですけど」
「ならば話しておくが……。今日は……その。言いにくいんだが、下着は付けずに演技をしてもらいたい」
「ええ!?」
「下着の線が見えるだろ。村岡プロデューサーは本物志向だから、そういうところを嫌うんだよ」
「下着を着けないなんて、そんなの無理です」
「無理と言われても困るんだよ。分かるだろ、俺の立場」
「そんなのセクハラじゃないですか」
「そう言うなって。今日だけなんだから」
「だって……恥ずかしいですよ。大勢の前で下着を付けずに演技するなんて。咲希姉ちゃんもそう思うでしょ」
「うん……。私はちょっと無理です」
「……困るんだ。村岡プロデューサーの機嫌を損ねるのは。二人もこのバイトを続けたいのなら聞き入れてくれよ」
「それって、バイトを辞めさせられるってことですか?」
「まあ……村岡プロデューサーを怒らせると、結果的にそうなるな」
「そんな……。おかしいですよ。下着を着けずに演技をしなかったからバイトを辞めさせられるなんて」
「俺に言われても困るんだよ。村岡プロデューサーの考えなんだから」
「どうする?咲希姉ちゃん。下着を着けずに演技するなんて無理だよね」
「……うん」
「ならば、今日は特別にバイト代を出すことにするよ」
「お金の問題じゃないです」
「直接裸を見られるわけじゃないだろ?全身タイツを着ているんだから。透けて見えることもないし」
「それでも……ねえ」
「主任さん。特別にバイト代貰えるって、幾らなんですか?」
「さ、咲希姉ちゃん?」
「プラス一万五千円だ」
「プラス一万五千円……」
「ふ〜ん。プラス一万五千円だなんて、主任も結構太っ腹ですね」
「俺だって必死なんだよ」
「咲希姉ちゃん、プラス一万五千円って言われてやる気になったんでしょ」
「……ちょっとね」
「もうすぐ彼氏の誕生日だもんねぇ」
「優衣っ」
「咲希姉ちゃんがいいっていうのなら私もいい事にする。水着なんかよりも露出度は断然低いし、部活のレオタードよりも生地が厚いから」
「とにかく頼むよ。なっ!」
「…………」

二人はしばらく考えた後、主任の話を受け入れたのだった。