「五百七十六円になります」
「……はい」
「二十四円のお返しです。ありがとうございました」

小銭を財布に仕舞い、小さな弁当とペットボトルのお茶が入ったビニール袋を片手にコンビニを後にする。
白いブラウスに、足首まで丈のあるロングスカートは、スポーツクラブで鍛えた美しい理恵の足を覆い隠していた。
新たに借りたワンルームマンションまで歩いて五分程度。
他人の目が気になるのだろう。理恵は外に出る際には必ずサングラスをするようになった。

香夏子にチンポを付けれられてから二ヶ月ほどの月日が流れた。
実家に近いワンルームマンションを借りたのは、心細かったからかもしれない。
しかし、実家に帰るだけの勇気は無かった。
両親にこんな体を見せられるはずが無い。
だから、両親には近くに引っ越した事もスポーツクラブを辞めた事も話していなかった。


殺風景な部屋の中。
理恵は靴を脱いでガラステーブルの上に弁当の入ったビニール袋を置くと、化粧を落としてスウェットの上下に着替えた。
最近はパンティを穿かず、下腹部を覆い尽くす男性用のボクサーパンツを穿いていた。
そうしなければ窮屈で気持ち悪いからだ。
朝になれば、自分の意志とは無関係に勃起する。
ハサミで切ろうかと思った事もあった。
しかし、ハサミの刃がチ○ポに触れたときの感触が恐怖感を覚えさせた。

引っ越してからはずっと一人の生活。
他人との会話は買い物をする時だけ。
これから一人孤独に生きてゆき、女性の幸せも、男性としての幸せも無いまま死んでゆくのだと考えると失望感で気がおかしくなりそうだった。

孝彦との甘い生活を考えて貯めた貯金が約二百万円。
このお金がなくなる前に働かなければならない。
でも、働く元気が出るはずも無かった。

テレビだけが理恵の心をほんの少しだけ癒す薬だった――。