PiPiPi――


「あ、電話。同僚の純一からだわ。出てもいい?」
「あ、ああ」
「ちょっと待ってね」

和馬はテーブルに置いていた携帯を手にすると、通話ボタンを押して話し始めた。
「もしもし。ああ、俺だけど。今?今はちょっと手が離せないんだ……はは。そんなわけないだろ、寛子がいるんだぜ。いま浮気なんてしちゃいられないっつ〜の!」

携帯を顔に当てながら、ぺロッと舌を出した和馬。
その様子は、まるで和馬本人のようだった。
景子がしゃべっているのに……自分以上に和馬らしいと思えた。
そして、普段はこんな風に男を演じているのだ。そんな風に感じた。

「ああ、そっか。それはやばいな。ちょっとしたら戻るよ。会社から少し離れた所にいるんだ。ええ?分かってるって。今夜は付き合うから。じゃあな」

和馬は笑いながら電話を置いた。

「ごめんね。純一って私の親友なんだ」
「へぇ〜。随分親しい仲なんだな」
「そうね。純一は行動派だから色々なことを教えてもらったわ。純一のおかげで男らしくなれたと思うことが多いわね」
「そっか。いい親友にめぐり合えてよかったな」
「そうね。私、そろそろ帰らないと課長に怒られちゃいそう」
「そうだな。それにしてもさっきの会話。俺以上に俺らしい感じがしたよ」
「ふふ。和馬も私以上に私らしかったわよ」
「そうかな。さあ、早く会社に戻った方がいいな。結構時間が掛かるだろ」
「ええ。夕方は車が混むから」
「車で来たのか?」
「うん。営業車があるからね」
「へぇ〜。運転免許、取ったんだ」
「簡単だったわよ。和馬の体なら」
「そっか。俺も取ろうかな」
「私の体は運動音痴だったから、結構難しいかも」
「大丈夫さ。あれから体を鍛えているから」
「そう。……じゃあ、そろそろ行くわ」

和馬は携帯をカバンにしまうと、グラスのコーヒーを勢い良く飲み干した。

「だな。なあ景子……」
「何?」
「俺たち、二度と会わない方がいいな」
「えっ……」
「そう思っているだろ、景子だって」
「やだ……そんな……」

優しく微笑む景子の突然の言葉に、和馬の表情が消えた。

「これきりにしよう。携帯からメールアドレスも消すよ。景子も携帯から俺の情報を削除してくれ」
「…………」
「なあ景子。……景子」
「……な、何……よ」
「どうして泣くんだよ」
「だ、だって……。急にこれきりだなんて言うから……」

この数年間、あまり会うことは無かったが、もう二度と会わないと宣告されると急に今までの思い出があふれ出てきた。
目の前にいる自分の姿、そして和馬本人と会えなくなる。
意識はしていなかったが、辛いときや悲しいときは、不思議と二人でいたときの事を思い出していた。
こうやってこの6年を一生懸命生きてこれたのは同じ境遇の和馬がいるから、そして、会おうと思えば会えるという気持ちがあったからなのだった。

「その方がいい。俺と会ったり、メールのやり取りをしている事がばれたらまずいだろ。景子の家族は俺に任せろ。だから、景子も俺の親父とお袋を頼んだぞ」
「……和馬。ほ、本気で言ってるの?」
「当たり前じゃないか。俺は景子に幸せになって欲しいし、俺だってこれから幸せに……なりたいんだから……な……」

景子は俯いたまま足の上で拳をギュッと握り締めていた。
その震える拳に、何粒もの雫が落ちている。

「和馬……」
「早く……行けよ。幸せにな」
「待って。そんな風に言わないで……」
「いいから早く」
「そんな……酷いよ。大事なことなのに、勝手に決めないでよ」

その言葉に、景子は俯いたまま頭を振った。
おそらく、何を言っても聞いてくれないだろう。
和馬はそう思った。

「……うん。分かったわ……。……ねえ和馬。私……和馬の事、忘れない」
「あ、当たり前だろ。忘れられたら……たまんないって。お互いの事を一番知ってる……仲なんだからな……」
「うん……」

和馬はワイシャツで涙をふき取ると、ゆっくりとテーブルを後にした。
時折振り返るが、景子はずっと背を向けたままだった――。




そして数ヵ月後――。


「ねえ和馬。赤ちゃんの名前、考えた?」
「んん。考えてるよ」
「聞かせてくれない?」
「男の子なら和義、女の子なら……」
「女の子なら、景子にしたいんじゃなの?」
「えっ……。どうして分かったんだ?」
「ふふ。何となく……ね」

寛子は和馬に寄り添いながら、大きなお腹を優しく撫でていた。
もうすぐ生まれる我が子を愛しそうに――。




その後……おわり。



あとがき
う〜ん。上手く落とせませんでしたが、とりあえずこれで終了。
やはり分かりにくかったですね(^^;
景子の体になった和馬は、このあとどうしたんでしょうね。
幸せになったのかな?

それでは最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
Tiraでした。