――あれは高校二年の夏休み。
クラスメイトというだけで、お互いに友達という感覚は無かった。
そんな二人が偶然交通事故に遭遇して――。
病室に並んだベッドの上で、同時に意識を取り戻した二人に異変が起きていた。
目の前にいるの見知らぬ大人達が、喜び合っている。
そして、隣のベッドには自分の両親がいて、同じように喜び合っていた。

「景子!ああ、良かったわ。もう意識が戻らないのかと思ったもの」
「もう大丈夫だからな。お父さんがずっと付いていてやる」
「えっ……あ、あの……お、俺……」


「お父さんっ!和馬が目を覚ましたわよっ!」
「おお!和馬っ。よく目を覚ましたぞ。さすが俺の息子だ。親を心配させる奴があるか!」
「そんなに怒鳴っちゃだめよ。病室なんだから」
「分かっとる。しかし……叫びたいんだよ」
「えっ……ちょ……あ、あの……わ、私……」

上半身を起こした二人は、互いの顔を見合った。
最初は鏡を見ているのかと思った。
しかし、瞳に映る自分の体は、自分と相反する行動を取っていた。

「えっ!?えっ!?」

今、こうやって動くのは自分の体ではない。
それが分かると、二人はまた意識を失ってしまったのだった。



――それからしばらくして。

互いの体が入れ替わってしまったことを確認した二人は、動揺しながらもこれからの事を考えた。
とりあえず記憶喪失になった事にしよう。
それからゆっくりと考えようと。

家族は記憶を失った我が子に思い出してもらおうと小さい頃の写真やビデオなど、色々な情報を提供してくれる。
夏休みが終わった後、友達も助けてくれた。
もちろん、これまで殆ど接したことのない、体に合った友達が。



最初の三ヶ月は厳しかった。
お互いの事を全く知らない状態だったものだから、学校で毎日のように情報交換したものだ。
勉強が出来た景子は、和馬の体になってしまった事でわざと試験の解答を間違えた。
一方、逆の立場になってしまった和馬は、景子の学力に近づこうと一生懸命勉強した。
だが、そう簡単に賢くなれるわけも無く、学年でトップクラスだった景子の成績は中くらいのランクまで落ちてしまった。それでも、元々後ろから数えた方が早かった和馬にとっては努力した方だ。
それまで殆ど接点のなかった二人の仲は、勉強や情報交換を通じて急速に深まるのだった。

その後、高校を卒業することになり、和馬の体になった景子は地方の会社に就職。
景子の体になった和馬は私立の女子短大に入学することになった。
たまに携帯メールでやり取りはしていたが、互いの生活に追われて顔をあわせることも無く、あっという間に四年の年月が流れてしまったというわけだ。


「ねえ、覚えてる?」

和馬がグラスの中で溶ける氷を見ながら口を開いた。

「何を?」
「私の親友だった寛子の事」
「ああ、覚えているよ。だって、寛子は俺の初恋の人だったから」
「そう言っていたわね」
「寛子のような愛想が良くて可愛い女の子が好きだったんだ。片思いで終わってしまったけどな」
「聞いてもいい?」
「何?」
「高校を卒業する時点で、私と寛子のどちらが好きだった?」

和馬の意表をついた問いかけに、景子は腕組をしながら「う〜ん」と難しい表情をした。

「そうだな。寛子が好きだったような気がする」
「やっぱりね。私もそう思ってた」
「だってさ。景子は俺の体だったわけだし」
「ふふ、そうよね。自分の体を持っている女性を好きになるはずないよね」
「まあ、それはお互い様って事で。俺、ちょっとトイレに行って来る」
「うん」

景子は椅子から立ち上がると、和馬に軽く手を振ってトイレへ歩いていった。
ほっそりとした体。髪の毛のラインも綺麗だ。脹脛も嫉妬してしまうくらいすらりとしている。
その後姿を眺めていた和馬は、「私の体、大事にしてくれてたんだ」と呟いた。