とりあえず、バレンタインデーのお返しをしなければいけないと思った裕介は、二人分のホワイトチョコを学校に持っていった。
どちらも同じチョコレート。
結論が出ていない裕介には、こうするしかなかった。
裕介は1時限目の休み時間にのぞみに会い、放課後に校舎の裏まで来てほしいと頼んだ。そして、くるみには別の休み時間に同じく放課後、校舎の裏まで来てほしいとお願いした。
二人からOKの返事をもらった裕介は、自分の鼓動で体が震えそうになるのを感じながら授業を受けていた。

「どうしよう……どうしよう……」

絶対どちらかが傷つくのは目に見えて分かっている。
でも、こんなチャンスは二度と無いと確信していた。
今回を逃すと、もう付き合ってほしいなんて言ってくれる人はいないだろう。
裕介の心は揺れ動いていた。

「どっちにしよう。ああ、どうして一度に二人も……」



キーンコーンカーンコーン!



今日最後の授業が終わった。
とうとう来るべきときがやってきた。

覚悟を決められないまま、同じクラスのくるみよりも先に校舎の裏に向かう。

「ま、まずいよ。まだ決まらない」

校舎裏に着いた裕介は、頭がパニックになりそうだ。
しかし無情にも、のぞみの姿が目の前に現れた。



「裕介さん」
「や、やあ。のぞみちゃん」
「私、この1ヶ月がとても長く感じました。でも、やっとこの日が。なんか、心臓が飛び出しちゃいそう」

のぞみは両手を胸に当てながら裕介を見つめていた。

「のぞみちゃん。あ、あのね……」
「ごめーん。待ったぁ?」

話を切り出そうとしたところに、くるみがこちらに走ってきた。
裕介の顔が青ざめる。

「はぁ、はぁ。ちょっと優子につかまっちゃってさ。遅くなっちゃった。あれ、この子は?」

のぞみに気付いたくるみが裕介に問い掛けた。

「裕介さん。この人は?」

のぞみも裕介に問い掛ける。
裕介はクラクラとめまいがしてきた。

「あ、あの。実は……」

二人の視線が裕介に降り注がれている。

「バ、バレンタインデーのときに……二人からチョコレートをもらったんだ」
「やっぱり。この子だったの、あの日の朝にチョコをもらったのは。でも裕介はもらわなかったって言ったじゃない」
「あ、あれは……みんなにバレたくなかったから」
「そんな。私の事、みんなにバレるのいやだったんだ」
「あっ、のぞみちゃん。そ、そう言うわけじゃなくて……」
「だったらどういうわけだったのよ。二股かけようと思ったの?」
「ち、違うんだよ。そうじゃないんだ」
「……それなら最初から受け取ってほしくなかった……」

のぞみが今にも泣き出しそうな顔をしている。

「の、のぞみちゃん、待ってよ。違うんだって」
「私……私……ヒック、ヒック」

とうとうのぞみが泣き出してしまった。

「はぁ〜。私もチョコ渡すんじゃなかったなあ」
「く、くるみ。そ、そんな・・・」
「結局どっちにするか決めれなかったんでしょ」
「…………」
「このままじゃ、この子もかわいそうだよ。今ここでどっちと付き合うか決めてほしいんだけど」
「い、今!?」
「だって、私も裕介の事……好きなんだもん」

その言葉を聞いたのぞみは、急に走って行ってしまった。

「の、のぞみちゃん!」

とっさに後を追おうとする裕介。
でも、なぜか足を踏みとどめてしまった。

「……追いかけなくてもいいの?」
「……うん」
「どうして?」
「今……答えが出たから」
「どんな答え?」
「…………」

裕介は無言でカバンを開けた。
そして、箱に入ったチョコレートを一つ取り出した。

「……はい」

くるみに差し出す裕介。

「えっ!」
「これ、受け取ってよ」
「…………」

箱を手に取ったくるみ。

「いいの?私がもらっても」
「うん」
「あの子の事はどうするの?」
「……断るよ。って言っても、もう分かってると思うよ」
「裕介……」

くるみは裕介にギュと抱きついた。

「ちょ、ちょっと。恥ずかしいよ」
「いいのっ!ちょっとだけこのままがいいのっ」


裕介はくるみの肩に手を置いて、そっと抱きしめた――。