その日の授業は全く聞いていなかった。
カバンの中に押し込んだ彼女からもらった小さな箱。
やはりチョコレートなんだろうか?

「みんなに気付かれないようにしなきゃ」

悪い事をしているかのようにオドオドと不審な行動を取りながらも、何とか気付かれずに最後の授業を受け終えた。




そして放課後――。




「ねえ、裕介。今朝、かわいい女の子からチョコもらったんじゃないの?」
「ええっ!」
「私の友達が見たって言ってたよ」
「そ、そんなことないよ。きっと見間違えたんじゃないかな。だって僕、モテないから」「そうよね。あんたはなんか弱弱しいし、いっつもオドオドしてるからね。きっと見間違えたんだ」
「そ、そうだよ。僕が女の子からチョコレートなんかもらうはずないじゃない」
「うん、そうだと思った。まだ一つもチョコもらってないんでしょ」
「う、うん……」
「じゃあ、かわいそうだから私が義理チョコあげるよ」

人気の無い教室。
クラスメイトのくるみは、小学校の頃から裕介と遊んでいた仲。
しかし、男勝りな彼女は頼りがいの無い裕介を馬鹿にする事が多かった。
そんなくるみが、カバンの中からごそごそと綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

「はい」

結構大きな箱。
義理チョコにしては高そうな包装紙。

「ぼ、僕にくれるの?」
「目の前にいるのはあんたしかいないじゃないのよ」

くるみの顔がちょっと赤くなっていた。
チラチラと裕介の目を見ながらチョコを差し出している。

「あ、ありがとう……」

裕介は、くるみからチョコを受け取るとカバンの中に仕舞いこんだ。

「ちゃんと食べなさいよ。私が作ったんだから」
「えっ、くるみが作ったの?」
「あ、いやっ。そうじゃなくて……わ、私が買ってきたんだから」

くるみは顔を赤らめながら、手をもじもじさせている。

「そ、そうだよね。義理チョコを自分で作る人なんていないや」
「あ、当たり前じゃないの。手作りのチョコは本命の人にしかあげないのよっ。それじゃ、また明日ね」

ぎこちない雰囲気を残しながら、くるみは教室を出て行った。
こういう展開に慣れてない裕介は、どうしてくるみの顔が赤くなっていたのかよく分かっていなかった。

「は、早く家に帰ろっと」

いつもより膨れたカバンを持ち、裕介は家路についた――。