ホテルの裏口に移動した三人の前に、大型のワンボックスカーが停まっていた。横のドアから乗り込んだ三人。後ろの椅子を取り除いて広いスペースに改造された車内。数着の衣装が吊ってあり、簡単な化粧台も置いてある。そして、メイクや衣装を担当する若い男女が一人ずつ乗っていた。

「じゃあ早速始めましょう」

 車がゆっくりと動き出したのと同時に、メイクを担当する男性が美穂、いや、勉と香奈をクッションの上に座らせる。勉は言われるがままにクッションに座ると、目の前にある鏡を見つめた。鏡には不安そうな表情をした美穂が映っている。

 そんな勉に男性が、「どうしたの、美穂ちゃん。浮かない顔して」と、話し掛けた。
 勉は鏡の中に割り込んできた男性の顔を見ながら、「ううん……なんでもないの」
と、返事をした。パフにつけた化粧水で顔を拭かれる。
 そしてファンデーションやアイシャドウなど、勉には分からない化粧を次々と施された。
 ふと隣に座っている香奈を見ると、メイクをしている女性と楽しそうに会話をしている。田中マネージャーは勉が乗り移っている美穂の様子が気になるようだったが、今日のスケジュールの概略を説明すると、前の助手席に移動した。

 「もうちょっと我慢してね。もうすぐだよ」

 男性が優しく声を掛けてくる。勉はニッコリと笑いながら目で返事をした。鏡に映っている美穂の顔が、いつもテレビで見ている顔へと変化してゆく。
 化粧する前とは明らかに違う表情。化粧をする事で、これほど表情が変わるのか?
 勉は男性が髪を整える間も、ずっと鏡に映る美穂の顔を見ていた。
 あのアパートの薄汚れた勉の部屋。押入れの下に隠してあった雑誌の切り抜き。
 それに映っていた美穂が、目の前にある鏡の中に映っている。
 あの切リ抜きの写真に映っていた美穂の表情と全く同じだ。

 メイク担当の男性によって、髪を整えられた美穂。

 サラリとした茶色の短い髪が耳に当っている。勉は不安だった気持ちが、徐々に嬉しさへと変わっていく事を感じていた。鏡の中の美穂を見てドキドキしている。

「お疲れ様。あとは今日の衣装を着てもらうだけだね」
「はい」

勉は美穂の顔で笑顔を作ると、男性の方を向いてニコッと笑った。

「お、元気が出てきたみたいだね」
「……そうみたい」

 少し揺れる車内。男性が、香奈をメイクしていた女性と代わる。そして、女性が勉の方に歩いてくると、「じゃあ服を着替えましょうか」そう言って、カーテンで車内に仕切りを作った。
 勉がそのカーテンで仕切られた場所に移動すると、女性が今日の衣装を持って中に入って来た。

「今日はこれを着てもらうわ」
「はい」

 女性が手に持っている衣装は、黒い襟付きの七分丈Tシャツと長ズボン。Tシャツはおヘソが出るくらい丈が短い。どちらもナイロン製のようで、車内のランプで光っている。
 勉はそれを手渡しされると、早速着替える事にした。昨日テレビで見ていた衣装とは違うが、こちらの方が大人っぽくセクシーに見える。うれしそうな表情で着ている服を脱ぎ始めた勉。
 ボーダーTシャツを勢いよく脱ぎ捨てる。
「あらら、そんなに勢いよく脱いじゃったら髪が乱れるじゃない」

 笑いながら女性が言うと、勉は「あ、ごめんなさい」と言って黒いナイロン製の七分丈Tシャツを着込んだ。
 身体にフィットするそのTシャツは、美穂の胸を強調する。Vネックになっているせいで、胸の谷間が少し見えるのだ。
 俯いてそのVネックから覗く胸を見る勉。美穂の胸の谷間がなんともセクシーに感じる。Tシャツの裾を下に引っ張ってもおヘソは隠れない。ナイロン製なのに少し伸縮性があるようで、Tシャツの裾は身体にぴったりとくっついていた。

勉の……いや、美穂の表情は緩みっぱなしだ。

 続いてイージーパンツを脱ぎ、黒いナイロン製の長ズボンを穿く。これもTシャツと同じように身体にフィットし、美穂の細い足を模っていた。張りのある太ももに光が反射している。お尻もズボンのせいでムチッとしていい感じだ。まさに女性の身体だと言う事を見せ付けている。
 勉は美穂のお尻を両手で擦りながら、その柔らかい弾力を堪能した。アイドル「美穂」のお尻を触っているんだと考えると、とてもドキドキするのだ。

「お尻がきつい?」

 女性が勉に話し掛けてきた。勉はお尻を触るのを止めると、「ううん。そんな事ないよ。丁度いいみたい」と、言ってみせたのだった。