「1,2……1,2」
女子ソフトボール部の女の子達が列になってグランドをランニングしている。
友里と亜季に乗り移っている二人も、彼女たちの中にまぎれて走っていた。
周りから聞こえてくるのは女の子達の声だけ。
もちろん、自分の口から出てくる声色も男のそれではなかった。
前後を女の子に囲まれた状態に、二人は終始笑顔だった。

グランドを5周ほど回った後、少し体をほぐしてキャッチボールをする。
もちろん、志郎と博和はペアを組んでキャッチボールをした。
おそらく、自分の手ならもう少ししっかりと握り締めることが出来るだろう。
握るたびに、女の子の手なんだということが実感できる。

そんなことを思いながらボールを投げあった。

そのあと、守備練習が始まり、二人もキャプテンのノックを受けることになった。

「行くよ」
「はい」

博和が友里の体を使ってソフトボールをキャッチしようとする。
しかし、ほとんど体験したことがないのでまともに取れるはずもなく。

「どうしたの?全然取れてないじゃない」
「す、すいません」
「もっと行くよ」
「は、はい」

結果は散々だった。
もちろん、そのあとにノックを受けた志郎も博和と同じく。
本来、亜季と友里という女の子はソフトボールが上手かったようだ。
そのギャップに、部員全員が首をかしげた。

「どうしたのよ、二人とも。今日は調子悪いの?」
「えっ……は、はぁ。まあ……」
「それにしても、いつもと全然違うじゃない。構え方からおかしいよ」
「ああ、それはその……ねえ」
「えっ……ま、まあ……」

二人は、キャプテンの言葉にお互いの顔を見合わせた。

「後輩も見ているんだから、もっとしっかり練習してよね」
「はい……」

そう返事はしたものの、これ以上上手く取れるはずもなく、またバッティングについては
1度もボールをかすめる事がなかった。

「どうしたのかな、先輩たち」

そんな声が後輩たちの間から漏れていた。

「やばいよな、志郎。どうする?」
「どうしたい?」
「う〜ん……」
「一旦この体から離れるというのも手だけどな」
「そんな、勿体無い」
「別に何度でも乗り移れるんだからかまわないじゃないか」
「いや、俺はそうしたくない。友里ちゃんの体でいたいんだ」
「わがままなやつだな」
「そんな事ないだろ」

「何話しているの?ほんと、今日の二人はおかしいよ」

二人の会話に不信感を抱いた先輩が声をかけてきた。

「ほら、博和が大きな声を出すから」
「だってさ……」

「ひ、博和?」

「ああ。何でもありません。ちょっとトイレに行ってきていいですか?」

「え……あ、い、いいけど」

「ほら、友里も一緒に行くんでしょ」
「えっ……あ、え、ええ!」

「ちょ、ちょっと……」

二人は皆が注目する中、校舎へと走っていった。


「はぁ、はぁ」
「もう戻れないな。このままこの体で遊ぼうぜ」
「俺はもっと亜季ちゃんに成りすまして楽しみたかったんだけどな」
「もう十分だろ。それに、あんな調子じゃ明らかにおかしいと思われるじゃないか」
「ソフトボールだからだめなんだよ。ほかの部活なら何とかなっていたと思うんだ」
「ほかの部活って何だよ」
「基本的には文化部さ」
「部活にこだわる必要ないし」
「まあな。でもこうなったら博和の言うように、このまま体を楽しむしかなさそうだな」
「だろ。どこに行く?」
「他の部活している生徒もいるからな。トイレもいいけど狭いし」
「使っていない教室にでも行くか」
「ああ、それがいい」

亜季と友里に成りすますことを放棄した二人は、並んで歩きながら校舎の中に消えた。