過去作品を掲載します。
挿絵はあさぎりさんに描いていただいたものです。
挿絵はあさぎりさんに描いていただいたものです。
「早く行かないと遅刻するわよ」
「分かってるってお母さんっ!じゃあいってきま〜す」
松原 由維(まつはら ゆい)は、夕べ遅くまで起きていたせいで寝坊してしまったようだ。
母親に叩き起こされ、無理矢理食パンを口の中に押し込んだ由維は、身だしなみだけはきちんと整えると急いで靴を履き、玄関から走って出ていった。
「はぁはぁ、おしっこしたかったのに」
そう思いながら、一生懸命走った由維。
角を曲がると、緑が生い茂っている広場が見えてきた。
「はぁ、はぁっ。ゴメン、寝坊しちゃった」
「何だよそれ」
「夕べ、明菜に借りていたドラマを見ていたのよ」
「それで夜更かししたのかよ」
「うん」
由維と話しているのは、幼馴染の横田 徹(よこた とおる)だ。
家が近い二人は、いつも近くの公園で待ち合わせをして、一緒に高校へ行っている。
しょっちゅう喧嘩をしている二人は、男女の仲というよりは友達のような関係だ。
由維が寝坊して遅れたため、二人は駆け足で駅まで走ると、いつもより二つほど遅い電車に乗った。
「はぁ、はぁ……わっ、すごく混んでる」
「仕方ないだろ。遅い電車はサラリーマンのおっさんが多いんだから。お前のせいだぞ」
「分かってるわよそんな事。うるさいわねぇ」
「お前のせいだからな」
「もうっ、しつこいんだから」
そんな会話をしながら、ドアの近くでサラリーマン達に揉みくちゃにされる二人。
混んでいると、降りる駅までの時間が長く感じる。
「まだ着かねえのかよ」
「あと駅が4つね」
「まったく……」
「ブツブツ言わないのっ」
「だってよぉ〜……」
と言った瞬間、いきなり電車が急ブレーキをかけた。
「わっ!」
「きゃっ!」
二人は、周りの乗客と同じように遠心力によって傾いた。
反射的に由維を守ろうと、ドアに手をついて体全体で由維をかばった徹。
一瞬踏ん張ったが、もたれかかってくる乗客の重さはすさまじく、ドアにつっかえていた手はすぐに耐え切れなくなった。そして、ズルッと滑ってしまうと、そのまま由維の体をドアに押しつぶす格好になってしまった。
「ぐっ!」
それを防ごうと、ギュッを身をかがめて踏ん張ろうとした徹だったが……
ゴチンッ!
身をかがめたせいで、徹の頭と由維の頭は思い切りぶつかってしまったのだ。
「ぐっ」
「いっ……」
脳がグラグラと揺れる感覚。
電車が揺れているのか、頭が揺れているのか分からない。
それは、ほんの数秒ほどの出来事だった――
「お客様にご迷惑をお掛けしております。ただいま当列車は緊急停止
いたしました。しばらくお待ちください」
電車内がざわついている。
完全に倒れてしまった人たちもいるようだ。しかし、皆自分達のことだけで
精一杯。それは由維も徹も同じ。
「ううっ」と頭を擦りながら、お互いの顔を見合った。
「大丈夫か、由維」
「う、うん……大丈……夫?」
「…………」
最初は鏡を見ているのかと思った二人。
目をぱちくりさせながらお互いの顔を見詰め合っている。
「……え?」
「……あ、あれ?」
周りをきょろきょろ見た後、もう一度顔を見る。
「……由維?」
「……とお……る?」
「俺?」
「え?私が……目の前に?」
「ええっ!?」
「ええええっ!!」
二人は声を張り上げた。
周りの乗客が一斉に二人を見る。
「な……ど、どうしてっ?」
「シッ!皆が見てるだろっ」
「だ、だって!」
「とにかく黙れっ!」
「…………」
二人とも何が起こったのか全く分からない。
目の前に「もう一人の自分」が存在するのだ。
そして……
「わ、私……と……徹になってる!?」
「……俺は……由維に……」
二人とも俯いて、自分の姿を見た。
白いセーラー服に青いプリーツスカート。
その姿をしているのは徹。
そして、黒い制服に身を包んでいるのは由維なのだ。
「ど、どういうことだよ……」
「どうなってるのよ……」
「お待たせいたしました。列車が動きますのでご注意ください」
アナウンスが流れると、列車はゆっくりと動き出した――
「俺、由維だよな」
「うん……私、徹になってるの?」
「ああ。俺の姿だ」
電車を降りた二人が、ホームでお互いの姿を確かめ合う。
目の前にいる自分に問いかける二人の会話は、他人が聞いているととても滑稽に思えた。だが、先ほどの緊急停止でざわついている駅の構内で、二人の会話を聞いている人は誰もいない。
「どうして体が入れ替わってしまったんだろう」
「そんなの私が聞きたいわよ」
「もしかして、さっき頭を強くぶつけたからか?」
「……分からないわ。でも、あのあと体が入れ替わっちゃったのよね……」
「だよなぁ……。うう……」
「どうしたの?」
「ションベンに行きたくてたまんねぇんだ」
「あ……そっか……。私、おしっこ行きたかったんだ……」
「ちょっと行って来るから改札を出て待っててくれよ」
「う、うん……」
由維(徹)はお腹を押さえながら、走ってトイレに向かった。
その後姿を見ていた徹(由維)は、ゆっくりと階段を降りると、徹の定期券を使って自動改札機をから出た。
「どうしてこんな事に……」
そう呟きながら、じっと待つ徹(由維)だったが、ふとあることに気づいた。
「えっ……もしかして、徹が私の体でおしっこするの!?やだっ、そんなのダメよっ!」
自分の体が見られてしまう。
そう思った徹(由維)は、また自動改札口を入ると、階段を駆け上っていった――
「うう、早くしないと漏れちまう」
そう思いながらトイレに着いた由維(徹)。
いつもどおりトイレの前に立ち、股間に手を当てたところで周りの視線に気づく。
「ん?」
周りを見ると、サラリーマンのおっさんがあんぐりと口をあけていたり、びっくりした若い男がションベンをこぼしてしまったりしていた。
(こいつら何だよ。人のことジロジロ見やがって)
そう思った由維(徹)だが……
「ん?……あ、やべっ!そうかっ。俺って今、由維の体になってるんだった」
女子高生が男子トイレに入って、立小便をしようとしていたのだ。
周りにいる男性が驚かないはずはない。
「は、ははは。ま、間違えちゃった……かな?」
由維(徹)は、苦笑いしながら男子トイレを出ると、急いで隣の女子トイレに入った。
そして、個室のドアを閉めると肩にかけていたカバンを横に置き、洋式トイレに背を向けてプリーツスカートの中に両手を入れた。
「俺、このままションベンしてもいいんだよな。……って、早くションベンしねぇと……」
尿意には勝てない。
由維(徹)は、プリーツスカートの中でパンティのゴムを掴むと、そのままスルスルと下へ降ろしていった。そして、膝下まで降ろすとプリーツスカートをお尻に敷かないようにして便座に座った。
「……んっ……」
下腹部に力を入れると、由維の体から小便が出始める。
勢いよく出ているのだろうが、プリーツスカートが太ももに
覆い被さっているので全然見えない。
「……折角だから見ておくか」
そう言って、プリーツスカートの裾を掴み、手前に引いた由維(徹)。
両太ももの間から小便が出ているのが見えた。
「すげぇや。こんな風に出るんだ」
そんな事を呟き、小便をしながら両足を広げると、上半身を丸めて股間を覗き込んだ。
「うわぁ……由維のココってすげぇや……」
薄く繁った黒い茂みの奥から出てくる小便。
こんなに近くで……というか、女性が小便している姿を初めて見た徹が興奮する。
「ど、どれどれ……」
今度は、その茂みを両手の指で左右に開いてみた。
左右に開いた部分から小便が噴出している。
そして、そこには初めて見る女性のアレがついていた。
「すげぇ……」
先ほどから「すげぇ」を連発する由維(徹)は、小便が出終わった股間を更に眺めた。
思っていたよりも、結構グロテスクだ。
「へぇ〜。こんな風になってるんだ。ほぉ〜」
由維の声でそんな事を呟く。
そして、一通り眺め終わったあと、トイレットペーパーで
由維の股間を綺麗に拭いた。
「あうっ!」
トイレットペーパー越しに触れたところ。
それは由維の体が一番感じるところだった。
「な、何だよ。今の感じは……」
そう思いながら、もう一度その部分を触ろうとした。
しかし……
「徹っ!徹っ!早く出てきてっ!徹〜っ!」
女子トイレの前から大きな声が聞こえたのだ。
「あ、やべっ!由維だっ」
徹(由維)を待たせている事をすっかり忘れていた由維(徹)は、急いでパンティを引き上げると、プリーツスカートを手で叩いてトイレから出た。
「徹っ!」
「由維……わ、わりぃ。待たせたなっ」
「ちょっとこっちに来てっ!」
「わっ!イ、イテェッ!そんなに引っ張るなってっ」
「早くっ!」
徹(由維)は由維(徹)の手を引っ張り、改札口を出ると駅の裏にある空き地の隅に連れ出した。
「イッテェなぁ。そんなに引っ張るなよ」
「……ね、ねえ徹」
「何だよ」
「わ、私の体で……お、おしっこしたの?」
「あ、当たり前じゃねぇか。そのためにトイレに行ったんだから。それともションベン漏らしてほしかったのかよ」
「ち、違うわよ。そ、その……み、みた……の?」
「な、何をだよ」
「な、何をって……その……」
徹(由維)は、顔を真っ赤にしながら呟いた。
由維(徹)は、何が言いたいのか分かっていたのだが、恥ずかしそうにモジモジしている徹(由維)をからかってやろうと、「何を見たっていうんだよ」と、分からないフリをして答えた。
「だ、だから……」
「なあ、そんな事より早く学校に行かないと俺達、遅刻しちまうじゃねぇか」
「えっ……で、でも……体が……」
「とにかくさ、このまま学校にいくしかねぇだろ。今日は数学のテストがあるんだから休めねぇし」
「そ、それはそうだけど……」
「いいのか?テストを受けなくても」
「そ、それは……」
「仕方ねぇだろ。俺だって好きでこうなったわけじゃねぇんだからさ」
「そ、そんな事分かってるわよ……ふぅ〜。分かったわよ。行くわよ、学校に」
「俺も行きたくないんだけどさ。こうなったらお互いのフリをするしかねぇよな」
「……私、徹のフリなんて出来ないよ」
「何となかるって。ほらっ」
「きゃっ」
由維(徹)は、徹(由維)のお尻をポンと叩いた。
「もうっ!スケベッ!」
「どうしてだよ。俺は徹のケツを叩いただけじゃねぇか」
「なっ……それでもスケベじゃないのっ」
「そうか?それならこれは?」
そう言って由維(徹)は、徹(由維)の黒い制服の上から思い切り胸を揉んだ。揉んだと言っても胸がないので無理矢理掴んだと言った所か。
「キャアッ!」
思わず大きな声を出して両手で胸を隠し、その場にしゃがみ込んでしまった徹(由維)。その裏返った自分の声に鳥肌が立った由維(徹)は、
「うわっ!頼むから俺の声でそんな風に叫ぶのは止めてくれよ。気持ち悪くて
仕方がねぇ」
と言った。
「し、信じられないっ!胸まで触るなんてっ!」
「だって自分の胸なんだからな、ははは」
由維(徹)は、可愛らしい由維の声で笑った。
「このスケベオヤジっ!」
「うるせぇなぁ、スケベオヤジはねぇだろ。自分の体に向かってさぁ」
「うっ……」
「ほら、早く行こうぜ。走らないと遅刻するって」
「信じられないわ……」
そう言うと、二人は走って学校に向かった――
キーンコーンカーンコーン!
チャイムが鳴り終わる寸前に教室に入った二人。
はぁはぁ息を切らせながら、お互いの体に合った机の椅子に座る。
もちろん二人の体が入れ替わっていることに気づく生徒はいない。
すぐに先生が来て、英語の授業をはじめる。
「この文章はこうやって訳すんだ」
いつもどおり授業が進む。
そんな中、二人はそれぞれ違う思いを持って授業を受けていた。
「やだなぁ。どうして私が徹になって授業を受けなければならないのよ」
由維(徹)が座っている席の二つほど斜め後ろに座って、自分の後姿を眺めた徹(由維)がため息をつき、徹のカバンから取り出していたノートを開く。
そのノートには、徹の汚い文字が少しだけ書かれていた。
先生が黒板に書いた内容はほとんど写していないようだ。
「何よこれ。全然メモってないじゃない。これじゃ成績が悪いのも頷けるわ」
そう思いながら、また由維(徹)の後姿を眺めた。
すると、由維(徹)はちょうど茶色いカバンから小さなピンク色の手帳のようなものを取り出しているところだった。
「あっ!それはっ!」
思わず声を出してしまった徹(由維)。
「ん?どうした横田」
「えっ……あ……い、いえ……」
「当ててほしかったのか?それじゃあ12ページの内容を訳してみろ」
「え……ええっ!?」
「何驚いているんだ。早くしろ、横田」
「そ、そんな……わ、わた……」
教室中の生徒が徹(由維)を見ている。
徹(由維)は仕方なく立ち上がると、先生に言われた12ページの英文を訳して読んだ――
「……せ、先生?終わりましたけど」
「……あ、ああ。よ、よく訳せたな。お前にしたら上出来じゃないか」
「おい徹っ!お前、頭わりぃのに予習なんかしてくるんじゃねえよ」
「「「あはははは」」」
教室中に笑いがこだまする。
よくよく考えてみると、徹はこんな英文の訳、出来るはずがないのだ。
それをスラスラと読んでしまったのものだから、皆、勉強嫌いな徹が予習してきたと思って笑っているのだ。
「あ……わ、わた……も、もうっ……」
(あ〜あ。どうして私が笑われなきゃならないのよ……)
そう思いながら、ふと由維(徹)を見ると、ピンク色の手帳を見て肩が上下に震えているのが分かった。手帳の内容を見て笑っているのだ。
「あっ……」
「よし、座っていいぞ。横田」
「えっ……あ、は……はい……」
徹(由維)は、じっと由維(徹)の背中を見ながら座った。
すると、由維(徹)が口を押さえて徹(由維)のいるほうに振り向く。
「……ちょ、ちょっと」
(勝手に人の手帳を見ないでよ。それには私の考えた詩が書いてあるのに……)
きっと由維(徹)は、その詩を読んで笑っているのだ。
現実離れしたファンタジックな詩を書いているのが、普段の由維から考えられないようで、そのギャップがおかしくて笑っているらしい。
「信じられない……」
徹(由維)は、顔を真っ赤にしながら由維(徹)の背中を睨みつけていた――
そして授業も終わり、休み時間。
「ちょっと!何、勝手に人の手帳を見ているのよっ!」
「ん?どうしたの徹。そんなに怖い顔して」
「なっ……わ、私の真似なんかしないでよっ!」
「徹ったら気持ち悪〜い。何、女みたいなしゃべり方しているのよ」
「うっ……」
「おいおい、どうしたんだよ徹」
「……えっ……わ、わたし?」
二人の会話に割って入ったのは、徹の友人の加藤 広志(かとう ひろし)だった。
後ろから徹(由維)の肩をポンポン叩いて笑っている。
「何怒ってんだよ、徹」
「あ……いや……う、ううん。なんでもないの」
「な、なんでもないのって……お前、何かしゃべり方おかしいぞ」
「えっ……」
「そうなのよ。徹ったらまるで女みたいなしゃべり方して」
「なっ……」
徹(由維)はそう言われて言葉を出せなくなってしまった。
(そんな事言ったって、私は女の子なんだから!)
「あ、そうだ。ねえ加藤君」
「え?何?」
「ちょっと耳貸してよ」
「え……」
「いいから」
「あ、ああ……」
由維(徹)は、徹(由維)の目の前で広志にヒソヒソ話をした。
「あのね、加藤君。昼休みにちょっと付き合ってくれない?いいもの見せてあげるから」
その言葉を聞いた広志は、徹(由維)の顔をチラッと見た後、由維(徹)の顔を見て、
「あ、ああ。いいよ別に」
と答えた。
「な、何を話してたの……じゃなくて、話してたんだよ」
「何でもないよ、徹。ねぇ、加藤君っ」
「え……あ、ああ」
「ちょ、ちょっと……何よ……あ、な……何だよそれ」
ぎこちない男のしゃべり方をする徹(由維)。
由維(徹)が広志に何を話したのか、気になって仕方がない。
「じゃあまた後でね」
「あ、ああ……」
そう言うと、次の授業のチャイムがなった。
広志が自分の席に座ると同時に、次の授業の先生が現れる。
「ねえ徹、何を話してたの?」
「う〜ん、何でもないよ。それより私は由維なんだから、徹なんて呼ばないでよ。徹はあんたでしょ」
「……もうっ」
結局何も聞けないまま時間は過ぎてゆき、あっという間に昼休みになる。
由維(徹)も徹(由維)も、いつも学校の食堂で昼食を取るのだが……
「加藤君、いいかな?」
「ああ、構わないよ。でも徹は……」
「いいのいいの。早く行きましょ」
「あ、ああ」
徹(由維)がよそ見をしている間に広志を誘い出した由維(徹)。
教室から出てゆく後姿を目撃した徹(由維)は、ハッとして
「ちょ、ちょっと!何処に行くのよっ!」
と声を上げた。
まるで女のしゃべり方だ。
「何あのしゃべりかた。まるで女子みたい」
そのしゃべり方に、女子生徒たちがクスクスと笑っている。
「あ、まずいっ。見つかった」
「え?」
「加藤君っ。早く来てっ」
「ええっ!ちょ、ちょっと」
「早くっ!」
由維(徹)は広志の手を掴むと、急に走り始めた。
手を握られた広志が、少し顔を赤らめながら一緒に走る。
「ま、待って!ちょっと待ちなさいっ!」
後ろから徹(由維)が追いかけてくる。
それを振り切るように走る二人。
「ま、松原っ。どうして逃げるんだよ」
「いいからいいから」
階段を下りて1階に辿り着くと、そのまま校舎の外に出て人影少ない体育館の裏へと走ってゆく。
徹(由維)は同じように階段を下りて1階に辿り着いたのだが、ちょうどそこで見失ってしまった。
「そんなっ!何処に行ったのよ……。徹ったら一体何を……」
そう言いながらも、頭の中には最悪な展開がイメージされていた。
「まさか……まさか私の体で。でも……徹ならやりかねないわ……」
――そして、人気のない体育館裏。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ……そんなに走らなくても、徹は追って来ないって」
「はぁ、はぁ……そうね。もう見失っているわね」
「ふぅ〜、何だよ。どうしてこんな事するんだ?徹には聞かれたらまずい事でもあるのか?」
「はぁ、はぁ……聞かれたらっていうか……」
由維(徹)は息を整えると、周りに誰もいないことを確認した。
「ねえ加藤君」
「何だよ」
「見ても驚かないでね」
「な、何を?」
「クスッ!」
首をかしげて立っている広志の前で、背を向けた由維(徹)。
そして……
「ほら!」
「わっ!」
由維(徹)が、プリーツスカートの裾を両手で持ち、そのまま上へと引き上げたのだ。広志の目の前に、由維の白いパンティに包まれた可愛らしいお尻が披露される。
そのあまりの衝撃的な光景に後ずさりし、地面に尻餅をついてしまった広志。
「あはははは。驚かないでって言ったのに」
「そ、そんな事言ったって、驚くなって方が無理だろ」
「そう?別に大したことじゃないじゃない」
「ど、どうしたんだよ松原。どうしてそんな物を俺に見せるんだ」
「見たかったかなって思ってね。フフ」
「どうして俺が松原の……パ、パンティを……」
「見たかったんでしょ。だって見たいって言ったじゃない、徹に」
「と、徹……あいつ、そんな事までしゃべってるのか」
「別にいいじゃない。そんな事よりも……ねえ……」
「な、何だよ……」
お尻に付いた土を叩きながら立ち上がった広志。
その広志を、体育館の壁際に誘った由維(徹)。
「誰も見てないみたい」
「……そ、それがどうしたんだよ」
「フフフ……加藤君……」
「えっ……な、何?」
「後ろ、向いてくれない?」
「後ろ?」
「そう。早く」
「…………」
何を考えているのかさっぱり分からない。
そんな事よりも、由維の幼馴染である徹を差し置いて、由維と二人でこんな事を
しているのがとても申し訳なく思えた。
喧嘩はしょっちょうしているが、本当は仲のよい二人……だと思っている広志。
それなのに……
「……わ!な、何してるんだよっ!」
「いいからいいから」
「ちょ、ちょっと……や、止めろって」
「いいじゃない。一度してみたかったのよ」
「だ、だって……そ、そんな……うっ……」
「わっ!もう我慢汁がいっぱい出てる」
「お、おい……松原……お、お前……んうっ……」
「どう?私の手の感触は。柔らかい?」
「うっ……うっ……」
広志は何も答えなかった。いや、答えられなかった。
広志の後ろから抱きついた由維(徹)がズボンのベルトとボタンを外し、お腹ところからスルスルと右手を忍ばせたのだ。
トランクスにまで忍び込んだ手が、その中にある広志のムスコを握り締め、ゆっくりと上下にしごいている。
由維の少し小さくて柔らかい手に包まれているムスコは、ズボンの中で硬く反り返っていた。
「気持ちいい?」
「んっ……うう……」
「ねえ、気持ちいいの?加藤君」
「はぁ……はぁ……」
「何も言えないの?」
狭いズボンの中、由維(徹)の手の動きが早くなる。
「うっ……あうっ、はぁっ……はぁ……あうっ……うっ、ううっ……」
「ん?足に力が入らないの?」
自然と前かがみになり、足を曲げる広志。
どうして由維が自分に対してするのだろうという不信感にも似た気持ちはあるのだが、今こうやってムスコをしごかれている気持ちよさには敵わない。
由維の手は、まるで男の感覚を知っているような感じでムスコをしごいていた。
この動きは、ムスコをしごきなれているに違いない。
もしかしたら、とっくの昔から由維は徹と……
「うっ……ううっ……や、やばいっ……」
「もう出そうなんだ。じゃあそろそろ止めよっかな」
「うっ……そ、そんな……」
「そろそろお昼ごはんを食べないと時間がないわよ」
「あ……」
もうイク瞬間がそこまで来ていたのに……由維の手はスルッとズボンから抜けてしまった。
「クンクン……臭っ!」
「なっ……」
「がまん汁で指が濡れちゃった」
「…………」
「今日の放課後はどの部活も体育館を使わないよね。体育館の倉庫、誰も来ないよ」
「えっ?」
「ね……加藤君。私が何を言いたいのか分かるでしょ」
「…………」
「じゃあ私、ご飯食べてくるから」
「…………」
「放課後すぐに……ねっ。加藤君も早く食べに行かないと午後の授業が始まっちゃうわよ。しっかり食べておかないと……体力が持たないよ……クスッ!」
由維(徹)は、最後まで由維の真似をして食堂へと走っていった。
由維に成りすました徹に全く気づかなかった広志は、その後姿が消えるまでずっと眺めていた。
「ま、松原って……も、もしかして徹よりも俺の事を……」
淡い期待を持ちつつ、広志は同じく学食を食べに走っていった――
「ど、何処に行ってたのよっ!」
「え?何が?」
「『えっ?』じゃないでしょ。加藤君と何処に行ってたのよっ!」
「何処だっていいじゃねぇか。そんなの俺の勝手だし」
「勝手じゃないわよ。それ、私の体なのよっ!」
「今は俺の体だけどな」
「そんな無責任なこと、言わないでよっ!」
「うるせぇなぁ。そんなことよりさ……」
由維(徹)は、徹(由維)の耳元でそっと呟いた。
「お前のアソコってすげぇ毛が生えてるんだな」
「なっ……」
徹(由維)の顔が見る見る赤くなる。
「や、やっぱり見てたのねっ!し、信じられない……」
「だってしょうがねぇだろ。ションベンするときに見えたんだから」
「見えたんじゃなくて、わざと見たんでしょっ!」
「ははは。それにさ……」
また由維(徹)は、由維(徹)の耳元で囁いた。
「広志ってさ、お前のパンティ見たらすげぇ興奮してたぜ」
「や……やだ……み、見せたの?か、加藤……君に……」
「……アイツ、お前の手が柔らかくて気持ちいいんだってよ」
「……そ、それって……ど、どういう事よ……」
「どういうことって、分からないか?こういうことだよ」
由維(徹)は右手を軽く握ると、そのまま手を上下に動かした。
それはまるで……
「……そ、そんな……」
「お前、顔が真っ赤になってるぜ」
「そんな事まで……したの?」
「さあ……」
「ひ、ひどいよ……私の体なのに……」
そう言ったとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
数学のテストを持った先生が教室に入ってくる。
「こら、早く席に着かんかっ!」
「…………」
生徒たちは皆自分の席に着いた。
徹(由維)も半泣きになりながら席に着く。
そして数学のテストが始まった。
「……許せないわ。勝手に人の体を使って」
シャーペンを持つ手に力が入る。
「許せないよ……」
そう呟くと、テスト用紙に徹の名前を書き、そのままシャーペンを置いた――
「どうだった?簡単だったよなぁ、今回のテスト」
「さあ。そんなの知らないわ。だって問題なんて見てないもの」
「はぁ?それってどういうことだよ」
「別に」
「も、もしかして、お前……俺のテスト用紙……」
「白紙で出してあげたわ」
「なっ……なんて事するんだよっ!お前のテスト用紙にはちゃんと回答してやったんだぞっ!」
「そんなの知らないわ。徹が私の体を変な風に使うのが悪いんじゃない」
「ちっ……そうきたか……よし、それなら俺にだって……どうなっても知らねぇからな」
「な、何よそれ……」
由維(徹)は、椅子から立ち上がるとずっとこちらを気にしていた広志の下へ歩いていった。
「ねえ加藤君」
「えっ……」
「さっきの話だけど、絶対に徹には内緒だからね」
「え……で、でも……徹に……」
「あのね……」
また広志の耳元に唇を近づけ、そっと囁く。
「体育館の倉庫で……しようよ……セックス!」
「なっ!セ……セック……うむむむっ」
大きな声を出そうとした広志の口を、由維の手で塞いだ徹。
「シッ!徹に聞こえちゃう」
そう言って、近づいてくる徹(由維)の方を見た由維(徹)。
「な、何を話してるんだよ、広志」
徹(由維)は、恥ずかしい気持ちをこらえながら男のしゃべり方をした。
「と、徹……」
「さっきから由維と何コソコソ話してるんだよ。なあ」
「な、何でも……ないんだ」
「お、俺にも教えろよ。そうやってコソコソされたら、変な気持ちになるだろ」
「わ、わりぃ徹……」
「何よ。これは私と加藤君の秘密なんだから。徹はあっちに行っててよ」
由維(徹)が話をさえぎろうとする。
すると、徹(由維)はギュッと拳を握り締めて、恥ずかしそうに話し始めた。
「……か、加藤君っ」
「はぁ?加藤君?」
「ほ、本当は私が由維なの。目の前にいる私は私じゃなくて……」
「何言ってるの徹。急に変なしゃべり方して。気持ち悪いからあっちに行って!」
「な、何だ徹?お前、何を言ってるんだよ」
「加藤君信じて。私が由維なのっ」
「うるせぇなぁ。早くあっちに行けよっ!」
「きゃっ!」
由維(徹)は、徹(由維)の肩を突いた。
「ま、松原……」
「……ひ、ひどいよ……と、徹なんて大嫌いっ!」
そう言って、教室を出て行ってしまった徹(由維)。
「え?え?」
どうなっているのかよく分からない広志。
そんな広志を見て、
「大丈夫よ、加藤君。徹はね、ヤキモチ焼いているだけだから」
「だ、だって……それにあのしゃべり方ってすごくおかしいじゃないか。それに……」
「気が動転しているのよ。それよりも……ねっ!」
由維(徹)は、広志に軽くウィンクした。
「……ま、松原……」
そして最後の授業が始まった。
教室を出て行った徹(由維)は、授業が始まっても戻ってこない。
結局、最後まで戻らず終いで授業が終わってしまい、放課後になってしまった――
「……な、なあ松原。徹のやつ、結局戻ってこなかったな」
「そうね、でもいいじゃない。明日になればころっと機嫌も直っているわよ」
「そういう問題じゃないような……」
体育館の倉庫。
少し埃っぽい匂いがするこの場所に、由維(徹)と広志が来ていた。
「そんな事より、早くしようよ。セックス」
「あ……う」
「私とセックスするのが嫌なの?」
由維(徹)は、セーラー服の上から胸を揉み始めた。
「うわ……すげぇ柔らかけぇ……こんなに柔らかい胸に触れるのに。それに……」
今度は、右手をプリーツスカートの前に持っていき、
スカートごと股間の部分をクイッと持ち上げるような仕草をした。
「私、もうココが疼いて仕方がないんだ。ココが早くほしいって言ってるの。加藤君の……その大きくなったものを」
そう言って広志の股間を見る。
その視線に、広志は思わず両手で股間を隠した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。やっぱり何か変だって」
「何が?」
「だ、だってさ。ま、松原……お前がそんな風に言うなんて……一体どうしたんだよ」
「ん〜?何かおかしい?」
「だってそうだろ。絶対おかしいって。それに……徹だって……」
「そうかなぁ?普段の私たちと変わらないけど」
あごに指を当てながら首をかしげた由維(徹)だが、
そろそろだまし続けるのも無理かなぁ……なんて思ったりしている。
「なあ、どうしたんだよ。徹と何かあったのか?」
「ん〜?何かって……何?」
「そ、そりゃ……け、喧嘩したとか……」
「そうねぇ。喧嘩は……どうかなぁ」
「それじゃあ他に理由があるのか?」
「あるといえばあるかなぁ」
「な、何だよ、一体……」
「ねえ加藤君。教えてほしい?」
「……い、言いたくなければ……いいけどさ」
「でも知りたいでしょ」
「……あ、ああ……」
「ふふふ。実はね……」
由維(徹)はゆっくりと広志に近づき、耳元で囁いた。
「あのね……」
「……ああ」
「実は……」
「…………」
「私って……」
「……わっ!」
ドキドキしながら聞いていた広志のムスコを、ズボンの上からムギュッと掴んだ由維(徹)。
思わず腰を引いた広志だったが、由維(徹)の手はムスコを離さなかった。
「お願い、動かないで」
「ちょ、ちょっと待てよっ。話の続きは……」
「後で教えてあげるから。それより……」
「うっ……ちょ、ちょっと……ああっ」
「お昼休みの続きをしてあげるから」
「ちょっと……うっ……ううっ……」
由維(徹)は、制服のズボンのファスナーを下ろすと、トランクスの中で窮屈そうにしていたムスコを引っ張り出した。
そして、そのまま右手を使ってしごき始めたのだ。
「うっ……はぁ……はぁ……だ、だめだって……」
「そんな事言いながら、ココはしっかり大きくなってるし。やっぱり興奮してるんだ、私の体に」
「ち、違うって。そうじゃないって」
「いいからいいから。そのまま座ってよ」
「だ、だから……」
広志は反論しながらも、その手を止めようとはせず、言われたとおり床にお尻を付いて座り込んだ。
すると、由維(徹)は空いている左手をプリーツスカートの中に入れて、パンティの奥の湿り具合を確かめる。
「うっ……すげぇ……もうこんなになってる……これならすぐに入りそうだわ」
「お、おい……松原」
「何も言わなくてもいいよ。ほら、体の力を抜いて」
「ちょっと……ほ、ほんとに俺と?」
「そうよ。加藤君と」
「と、徹は……アイツのことはいいのかよ」
「今はそんな事、気にしないで。ほら、こうやって……う……んあああ〜」
「ううっ……ま、松原……」
「うぁぁぁ……す、すげぇ……は、はいった……」
「ほ、ほんとに……い、入れちまった……」
右手で広志のムスコを上に向け、左手でプリーツスカートの中のパンティを横にずらした由維(徹)はゆっくりと広志の上に腰を下ろした。すると、ヌプヌプという感じと共に、ムスコが由維の中に埋もれていく。
そして、何の抵抗もなく入り込んでしまったムスコを、由維の体が勝手に締め付けている。
「あうっ……い、入れただけなのに……こんなにすごいなんて……」
「ま、松原……」
「こ、このままこうやって……う……うあっ……あうっ……ぅんあっ」
「はぁ、くっ……」
由維(徹)が、広志の肩に両手を沿えて、ゆっくりと腰を動かし始める。
体の中をグリグリと突かれる感覚は、男の徹が味わえるはずのないものだった。
「これが……あっ……女の……か、快感……」
「うっ……ま、松原……な、何言ってるんだよ……」
「すげぇ……すごすぎるぜ……はああっ」
「ま、松原?」
「さ、最高だ……最高だって……広志のムスコは最高だ……はあっ、あっ……あうっ」
「松原……お、おい……お前って……」
「はぁっ……あうっ、あうっ……」
広志の上で跳ねる由維(徹)。
意識しなくても、勝手に腰が動いているように感じた。
硬くて太い広志のムスコ。
それが、由維(徹)の中で暴れまわっていた。
「すげぇっ!すげぇっ……んあっ……あっ、あうっ……ひぃっ……」
「うっ……ううっ……ま、松原……」
と、その時っ!
「そ、そんな……ちょっと!私の体で何してるのよっ!!!」
ガラガラッ!と倉庫の扉が開き、徹(由維)が険しい表情で現れた。
「ゲッ!ゆ、由維っ!」
「え?由維??ま、松原?」
「ひ、人の体で……ぜ、絶対に許せないっ!」
そう言って、勢いよく二人の方へ駆け寄ってきた。
しかし、勢い余って躓いた徹(由維)が……
ゴチンッ!
電車と同じく、頭をぶつけてしまったのだ――
「なるほど……そういうわけだったのか。全然気づかなかったな……」
「気づいてよ。私、ちゃんと言ったじゃない」
「でも、松原にしか思えなかったんだ。ほんとに……入れ替わってたのかよ」
「へへ。それだけ俺の演技が上手かったってことだな。何たって幼馴染なんだからさ」
「何言ってるのよ。バカッ!」
バシンッ!
暗くなりかけた帰り道を歩く三人。
体が元に戻った後、二人の話を聞いた広志は未だに信じられないようだった。
しかし、由維とセックスしてしまったことを考えると……信じるしかなさそうだ。
由維がそんな事をするはずないのだから。
「でも、すげぇ気持ちいいよな、由維の体って。お前、いつもあんなに気持ちいい思いしてるのかよ」
「なっ……そ、そんな事聞かないでよっ!」
バシンッ!
何度叩かれても懲りない徹は、
「なあ由維。今度もし入れ替わったらさ、俺がお前の口を使って気持ちいいことしてやるよ。なんたって、男がどうやったら気持ちいいのかしってるからな」
「もう入れ替わることなんてないわよっ!」
「そんなの分かんねぇぜ。また頭をぶつけたらさ……」
「え?あっ!」
そう言うと、徹は由維の頭を抑えて、思い切り自分の頭をぶつけた――
女の体ってすげぇよ……おわり
「分かってるってお母さんっ!じゃあいってきま〜す」
松原 由維(まつはら ゆい)は、夕べ遅くまで起きていたせいで寝坊してしまったようだ。
母親に叩き起こされ、無理矢理食パンを口の中に押し込んだ由維は、身だしなみだけはきちんと整えると急いで靴を履き、玄関から走って出ていった。
「はぁはぁ、おしっこしたかったのに」
そう思いながら、一生懸命走った由維。
角を曲がると、緑が生い茂っている広場が見えてきた。
「はぁ、はぁっ。ゴメン、寝坊しちゃった」
「何だよそれ」
「夕べ、明菜に借りていたドラマを見ていたのよ」
「それで夜更かししたのかよ」
「うん」
由維と話しているのは、幼馴染の横田 徹(よこた とおる)だ。
家が近い二人は、いつも近くの公園で待ち合わせをして、一緒に高校へ行っている。
しょっちゅう喧嘩をしている二人は、男女の仲というよりは友達のような関係だ。
由維が寝坊して遅れたため、二人は駆け足で駅まで走ると、いつもより二つほど遅い電車に乗った。
「はぁ、はぁ……わっ、すごく混んでる」
「仕方ないだろ。遅い電車はサラリーマンのおっさんが多いんだから。お前のせいだぞ」
「分かってるわよそんな事。うるさいわねぇ」
「お前のせいだからな」
「もうっ、しつこいんだから」
そんな会話をしながら、ドアの近くでサラリーマン達に揉みくちゃにされる二人。
混んでいると、降りる駅までの時間が長く感じる。
「まだ着かねえのかよ」
「あと駅が4つね」
「まったく……」
「ブツブツ言わないのっ」
「だってよぉ〜……」
と言った瞬間、いきなり電車が急ブレーキをかけた。
「わっ!」
「きゃっ!」
二人は、周りの乗客と同じように遠心力によって傾いた。
反射的に由維を守ろうと、ドアに手をついて体全体で由維をかばった徹。
一瞬踏ん張ったが、もたれかかってくる乗客の重さはすさまじく、ドアにつっかえていた手はすぐに耐え切れなくなった。そして、ズルッと滑ってしまうと、そのまま由維の体をドアに押しつぶす格好になってしまった。
「ぐっ!」
それを防ごうと、ギュッを身をかがめて踏ん張ろうとした徹だったが……
ゴチンッ!
身をかがめたせいで、徹の頭と由維の頭は思い切りぶつかってしまったのだ。
「ぐっ」
「いっ……」
脳がグラグラと揺れる感覚。
電車が揺れているのか、頭が揺れているのか分からない。
それは、ほんの数秒ほどの出来事だった――
「お客様にご迷惑をお掛けしております。ただいま当列車は緊急停止
いたしました。しばらくお待ちください」
電車内がざわついている。
完全に倒れてしまった人たちもいるようだ。しかし、皆自分達のことだけで
精一杯。それは由維も徹も同じ。
「ううっ」と頭を擦りながら、お互いの顔を見合った。
「大丈夫か、由維」
「う、うん……大丈……夫?」
「…………」
最初は鏡を見ているのかと思った二人。
目をぱちくりさせながらお互いの顔を見詰め合っている。
「……え?」
「……あ、あれ?」
周りをきょろきょろ見た後、もう一度顔を見る。
「……由維?」
「……とお……る?」
「俺?」
「え?私が……目の前に?」
「ええっ!?」
「ええええっ!!」
二人は声を張り上げた。
周りの乗客が一斉に二人を見る。
「な……ど、どうしてっ?」
「シッ!皆が見てるだろっ」
「だ、だって!」
「とにかく黙れっ!」
「…………」
二人とも何が起こったのか全く分からない。
目の前に「もう一人の自分」が存在するのだ。
そして……
「わ、私……と……徹になってる!?」
「……俺は……由維に……」
二人とも俯いて、自分の姿を見た。
白いセーラー服に青いプリーツスカート。
その姿をしているのは徹。
そして、黒い制服に身を包んでいるのは由維なのだ。
「ど、どういうことだよ……」
「どうなってるのよ……」
「お待たせいたしました。列車が動きますのでご注意ください」
アナウンスが流れると、列車はゆっくりと動き出した――
「俺、由維だよな」
「うん……私、徹になってるの?」
「ああ。俺の姿だ」
電車を降りた二人が、ホームでお互いの姿を確かめ合う。
目の前にいる自分に問いかける二人の会話は、他人が聞いているととても滑稽に思えた。だが、先ほどの緊急停止でざわついている駅の構内で、二人の会話を聞いている人は誰もいない。
「どうして体が入れ替わってしまったんだろう」
「そんなの私が聞きたいわよ」
「もしかして、さっき頭を強くぶつけたからか?」
「……分からないわ。でも、あのあと体が入れ替わっちゃったのよね……」
「だよなぁ……。うう……」
「どうしたの?」
「ションベンに行きたくてたまんねぇんだ」
「あ……そっか……。私、おしっこ行きたかったんだ……」
「ちょっと行って来るから改札を出て待っててくれよ」
「う、うん……」
由維(徹)はお腹を押さえながら、走ってトイレに向かった。
その後姿を見ていた徹(由維)は、ゆっくりと階段を降りると、徹の定期券を使って自動改札機をから出た。
「どうしてこんな事に……」
そう呟きながら、じっと待つ徹(由維)だったが、ふとあることに気づいた。
「えっ……もしかして、徹が私の体でおしっこするの!?やだっ、そんなのダメよっ!」
自分の体が見られてしまう。
そう思った徹(由維)は、また自動改札口を入ると、階段を駆け上っていった――
「うう、早くしないと漏れちまう」
そう思いながらトイレに着いた由維(徹)。
いつもどおりトイレの前に立ち、股間に手を当てたところで周りの視線に気づく。
「ん?」
周りを見ると、サラリーマンのおっさんがあんぐりと口をあけていたり、びっくりした若い男がションベンをこぼしてしまったりしていた。
(こいつら何だよ。人のことジロジロ見やがって)
そう思った由維(徹)だが……
「ん?……あ、やべっ!そうかっ。俺って今、由維の体になってるんだった」
女子高生が男子トイレに入って、立小便をしようとしていたのだ。
周りにいる男性が驚かないはずはない。
「は、ははは。ま、間違えちゃった……かな?」
由維(徹)は、苦笑いしながら男子トイレを出ると、急いで隣の女子トイレに入った。
そして、個室のドアを閉めると肩にかけていたカバンを横に置き、洋式トイレに背を向けてプリーツスカートの中に両手を入れた。
「俺、このままションベンしてもいいんだよな。……って、早くションベンしねぇと……」
尿意には勝てない。
由維(徹)は、プリーツスカートの中でパンティのゴムを掴むと、そのままスルスルと下へ降ろしていった。そして、膝下まで降ろすとプリーツスカートをお尻に敷かないようにして便座に座った。
「……んっ……」
下腹部に力を入れると、由維の体から小便が出始める。
勢いよく出ているのだろうが、プリーツスカートが太ももに
覆い被さっているので全然見えない。
「……折角だから見ておくか」
そう言って、プリーツスカートの裾を掴み、手前に引いた由維(徹)。
両太ももの間から小便が出ているのが見えた。
「すげぇや。こんな風に出るんだ」
そんな事を呟き、小便をしながら両足を広げると、上半身を丸めて股間を覗き込んだ。
「うわぁ……由維のココってすげぇや……」
薄く繁った黒い茂みの奥から出てくる小便。
こんなに近くで……というか、女性が小便している姿を初めて見た徹が興奮する。
「ど、どれどれ……」
今度は、その茂みを両手の指で左右に開いてみた。
左右に開いた部分から小便が噴出している。
そして、そこには初めて見る女性のアレがついていた。
「すげぇ……」
先ほどから「すげぇ」を連発する由維(徹)は、小便が出終わった股間を更に眺めた。
思っていたよりも、結構グロテスクだ。
「へぇ〜。こんな風になってるんだ。ほぉ〜」
由維の声でそんな事を呟く。
そして、一通り眺め終わったあと、トイレットペーパーで
由維の股間を綺麗に拭いた。
「あうっ!」
トイレットペーパー越しに触れたところ。
それは由維の体が一番感じるところだった。
「な、何だよ。今の感じは……」
そう思いながら、もう一度その部分を触ろうとした。
しかし……
「徹っ!徹っ!早く出てきてっ!徹〜っ!」
女子トイレの前から大きな声が聞こえたのだ。
「あ、やべっ!由維だっ」
徹(由維)を待たせている事をすっかり忘れていた由維(徹)は、急いでパンティを引き上げると、プリーツスカートを手で叩いてトイレから出た。
「徹っ!」
「由維……わ、わりぃ。待たせたなっ」
「ちょっとこっちに来てっ!」
「わっ!イ、イテェッ!そんなに引っ張るなってっ」
「早くっ!」
徹(由維)は由維(徹)の手を引っ張り、改札口を出ると駅の裏にある空き地の隅に連れ出した。
「イッテェなぁ。そんなに引っ張るなよ」
「……ね、ねえ徹」
「何だよ」
「わ、私の体で……お、おしっこしたの?」
「あ、当たり前じゃねぇか。そのためにトイレに行ったんだから。それともションベン漏らしてほしかったのかよ」
「ち、違うわよ。そ、その……み、みた……の?」
「な、何をだよ」
「な、何をって……その……」
徹(由維)は、顔を真っ赤にしながら呟いた。
由維(徹)は、何が言いたいのか分かっていたのだが、恥ずかしそうにモジモジしている徹(由維)をからかってやろうと、「何を見たっていうんだよ」と、分からないフリをして答えた。
「だ、だから……」
「なあ、そんな事より早く学校に行かないと俺達、遅刻しちまうじゃねぇか」
「えっ……で、でも……体が……」
「とにかくさ、このまま学校にいくしかねぇだろ。今日は数学のテストがあるんだから休めねぇし」
「そ、それはそうだけど……」
「いいのか?テストを受けなくても」
「そ、それは……」
「仕方ねぇだろ。俺だって好きでこうなったわけじゃねぇんだからさ」
「そ、そんな事分かってるわよ……ふぅ〜。分かったわよ。行くわよ、学校に」
「俺も行きたくないんだけどさ。こうなったらお互いのフリをするしかねぇよな」
「……私、徹のフリなんて出来ないよ」
「何となかるって。ほらっ」
「きゃっ」
由維(徹)は、徹(由維)のお尻をポンと叩いた。
「もうっ!スケベッ!」
「どうしてだよ。俺は徹のケツを叩いただけじゃねぇか」
「なっ……それでもスケベじゃないのっ」
「そうか?それならこれは?」
そう言って由維(徹)は、徹(由維)の黒い制服の上から思い切り胸を揉んだ。揉んだと言っても胸がないので無理矢理掴んだと言った所か。
「キャアッ!」
思わず大きな声を出して両手で胸を隠し、その場にしゃがみ込んでしまった徹(由維)。その裏返った自分の声に鳥肌が立った由維(徹)は、
「うわっ!頼むから俺の声でそんな風に叫ぶのは止めてくれよ。気持ち悪くて
仕方がねぇ」
と言った。
「し、信じられないっ!胸まで触るなんてっ!」
「だって自分の胸なんだからな、ははは」
由維(徹)は、可愛らしい由維の声で笑った。
「このスケベオヤジっ!」
「うるせぇなぁ、スケベオヤジはねぇだろ。自分の体に向かってさぁ」
「うっ……」
「ほら、早く行こうぜ。走らないと遅刻するって」
「信じられないわ……」
そう言うと、二人は走って学校に向かった――
キーンコーンカーンコーン!
チャイムが鳴り終わる寸前に教室に入った二人。
はぁはぁ息を切らせながら、お互いの体に合った机の椅子に座る。
もちろん二人の体が入れ替わっていることに気づく生徒はいない。
すぐに先生が来て、英語の授業をはじめる。
「この文章はこうやって訳すんだ」
いつもどおり授業が進む。
そんな中、二人はそれぞれ違う思いを持って授業を受けていた。
「やだなぁ。どうして私が徹になって授業を受けなければならないのよ」
由維(徹)が座っている席の二つほど斜め後ろに座って、自分の後姿を眺めた徹(由維)がため息をつき、徹のカバンから取り出していたノートを開く。
そのノートには、徹の汚い文字が少しだけ書かれていた。
先生が黒板に書いた内容はほとんど写していないようだ。
「何よこれ。全然メモってないじゃない。これじゃ成績が悪いのも頷けるわ」
そう思いながら、また由維(徹)の後姿を眺めた。
すると、由維(徹)はちょうど茶色いカバンから小さなピンク色の手帳のようなものを取り出しているところだった。
「あっ!それはっ!」
思わず声を出してしまった徹(由維)。
「ん?どうした横田」
「えっ……あ……い、いえ……」
「当ててほしかったのか?それじゃあ12ページの内容を訳してみろ」
「え……ええっ!?」
「何驚いているんだ。早くしろ、横田」
「そ、そんな……わ、わた……」
教室中の生徒が徹(由維)を見ている。
徹(由維)は仕方なく立ち上がると、先生に言われた12ページの英文を訳して読んだ――
「……せ、先生?終わりましたけど」
「……あ、ああ。よ、よく訳せたな。お前にしたら上出来じゃないか」
「おい徹っ!お前、頭わりぃのに予習なんかしてくるんじゃねえよ」
「「「あはははは」」」
教室中に笑いがこだまする。
よくよく考えてみると、徹はこんな英文の訳、出来るはずがないのだ。
それをスラスラと読んでしまったのものだから、皆、勉強嫌いな徹が予習してきたと思って笑っているのだ。
「あ……わ、わた……も、もうっ……」
(あ〜あ。どうして私が笑われなきゃならないのよ……)
そう思いながら、ふと由維(徹)を見ると、ピンク色の手帳を見て肩が上下に震えているのが分かった。手帳の内容を見て笑っているのだ。
「あっ……」
「よし、座っていいぞ。横田」
「えっ……あ、は……はい……」
徹(由維)は、じっと由維(徹)の背中を見ながら座った。
すると、由維(徹)が口を押さえて徹(由維)のいるほうに振り向く。
「……ちょ、ちょっと」
(勝手に人の手帳を見ないでよ。それには私の考えた詩が書いてあるのに……)
きっと由維(徹)は、その詩を読んで笑っているのだ。
現実離れしたファンタジックな詩を書いているのが、普段の由維から考えられないようで、そのギャップがおかしくて笑っているらしい。
「信じられない……」
徹(由維)は、顔を真っ赤にしながら由維(徹)の背中を睨みつけていた――
そして授業も終わり、休み時間。
「ちょっと!何、勝手に人の手帳を見ているのよっ!」
「ん?どうしたの徹。そんなに怖い顔して」
「なっ……わ、私の真似なんかしないでよっ!」
「徹ったら気持ち悪〜い。何、女みたいなしゃべり方しているのよ」
「うっ……」
「おいおい、どうしたんだよ徹」
「……えっ……わ、わたし?」
二人の会話に割って入ったのは、徹の友人の加藤 広志(かとう ひろし)だった。
後ろから徹(由維)の肩をポンポン叩いて笑っている。
「何怒ってんだよ、徹」
「あ……いや……う、ううん。なんでもないの」
「な、なんでもないのって……お前、何かしゃべり方おかしいぞ」
「えっ……」
「そうなのよ。徹ったらまるで女みたいなしゃべり方して」
「なっ……」
徹(由維)はそう言われて言葉を出せなくなってしまった。
(そんな事言ったって、私は女の子なんだから!)
「あ、そうだ。ねえ加藤君」
「え?何?」
「ちょっと耳貸してよ」
「え……」
「いいから」
「あ、ああ……」
由維(徹)は、徹(由維)の目の前で広志にヒソヒソ話をした。
「あのね、加藤君。昼休みにちょっと付き合ってくれない?いいもの見せてあげるから」
その言葉を聞いた広志は、徹(由維)の顔をチラッと見た後、由維(徹)の顔を見て、
「あ、ああ。いいよ別に」
と答えた。
「な、何を話してたの……じゃなくて、話してたんだよ」
「何でもないよ、徹。ねぇ、加藤君っ」
「え……あ、ああ」
「ちょ、ちょっと……何よ……あ、な……何だよそれ」
ぎこちない男のしゃべり方をする徹(由維)。
由維(徹)が広志に何を話したのか、気になって仕方がない。
「じゃあまた後でね」
「あ、ああ……」
そう言うと、次の授業のチャイムがなった。
広志が自分の席に座ると同時に、次の授業の先生が現れる。
「ねえ徹、何を話してたの?」
「う〜ん、何でもないよ。それより私は由維なんだから、徹なんて呼ばないでよ。徹はあんたでしょ」
「……もうっ」
結局何も聞けないまま時間は過ぎてゆき、あっという間に昼休みになる。
由維(徹)も徹(由維)も、いつも学校の食堂で昼食を取るのだが……
「加藤君、いいかな?」
「ああ、構わないよ。でも徹は……」
「いいのいいの。早く行きましょ」
「あ、ああ」
徹(由維)がよそ見をしている間に広志を誘い出した由維(徹)。
教室から出てゆく後姿を目撃した徹(由維)は、ハッとして
「ちょ、ちょっと!何処に行くのよっ!」
と声を上げた。
まるで女のしゃべり方だ。
「何あのしゃべりかた。まるで女子みたい」
そのしゃべり方に、女子生徒たちがクスクスと笑っている。
「あ、まずいっ。見つかった」
「え?」
「加藤君っ。早く来てっ」
「ええっ!ちょ、ちょっと」
「早くっ!」
由維(徹)は広志の手を掴むと、急に走り始めた。
手を握られた広志が、少し顔を赤らめながら一緒に走る。
「ま、待って!ちょっと待ちなさいっ!」
後ろから徹(由維)が追いかけてくる。
それを振り切るように走る二人。
「ま、松原っ。どうして逃げるんだよ」
「いいからいいから」
階段を下りて1階に辿り着くと、そのまま校舎の外に出て人影少ない体育館の裏へと走ってゆく。
徹(由維)は同じように階段を下りて1階に辿り着いたのだが、ちょうどそこで見失ってしまった。
「そんなっ!何処に行ったのよ……。徹ったら一体何を……」
そう言いながらも、頭の中には最悪な展開がイメージされていた。
「まさか……まさか私の体で。でも……徹ならやりかねないわ……」
――そして、人気のない体育館裏。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ……そんなに走らなくても、徹は追って来ないって」
「はぁ、はぁ……そうね。もう見失っているわね」
「ふぅ〜、何だよ。どうしてこんな事するんだ?徹には聞かれたらまずい事でもあるのか?」
「はぁ、はぁ……聞かれたらっていうか……」
由維(徹)は息を整えると、周りに誰もいないことを確認した。
「ねえ加藤君」
「何だよ」
「見ても驚かないでね」
「な、何を?」
「クスッ!」
首をかしげて立っている広志の前で、背を向けた由維(徹)。
そして……
「ほら!」
「わっ!」
由維(徹)が、プリーツスカートの裾を両手で持ち、そのまま上へと引き上げたのだ。広志の目の前に、由維の白いパンティに包まれた可愛らしいお尻が披露される。
そのあまりの衝撃的な光景に後ずさりし、地面に尻餅をついてしまった広志。
「あはははは。驚かないでって言ったのに」
「そ、そんな事言ったって、驚くなって方が無理だろ」
「そう?別に大したことじゃないじゃない」
「ど、どうしたんだよ松原。どうしてそんな物を俺に見せるんだ」
「見たかったかなって思ってね。フフ」
「どうして俺が松原の……パ、パンティを……」
「見たかったんでしょ。だって見たいって言ったじゃない、徹に」
「と、徹……あいつ、そんな事までしゃべってるのか」
「別にいいじゃない。そんな事よりも……ねえ……」
「な、何だよ……」
お尻に付いた土を叩きながら立ち上がった広志。
その広志を、体育館の壁際に誘った由維(徹)。
「誰も見てないみたい」
「……そ、それがどうしたんだよ」
「フフフ……加藤君……」
「えっ……な、何?」
「後ろ、向いてくれない?」
「後ろ?」
「そう。早く」
「…………」
何を考えているのかさっぱり分からない。
そんな事よりも、由維の幼馴染である徹を差し置いて、由維と二人でこんな事を
しているのがとても申し訳なく思えた。
喧嘩はしょっちょうしているが、本当は仲のよい二人……だと思っている広志。
それなのに……
「……わ!な、何してるんだよっ!」
「いいからいいから」
「ちょ、ちょっと……や、止めろって」
「いいじゃない。一度してみたかったのよ」
「だ、だって……そ、そんな……うっ……」
「わっ!もう我慢汁がいっぱい出てる」
「お、おい……松原……お、お前……んうっ……」
「どう?私の手の感触は。柔らかい?」
「うっ……うっ……」
広志は何も答えなかった。いや、答えられなかった。
広志の後ろから抱きついた由維(徹)がズボンのベルトとボタンを外し、お腹ところからスルスルと右手を忍ばせたのだ。
トランクスにまで忍び込んだ手が、その中にある広志のムスコを握り締め、ゆっくりと上下にしごいている。
由維の少し小さくて柔らかい手に包まれているムスコは、ズボンの中で硬く反り返っていた。
「気持ちいい?」
「んっ……うう……」
「ねえ、気持ちいいの?加藤君」
「はぁ……はぁ……」
「何も言えないの?」
狭いズボンの中、由維(徹)の手の動きが早くなる。
「うっ……あうっ、はぁっ……はぁ……あうっ……うっ、ううっ……」
「ん?足に力が入らないの?」
自然と前かがみになり、足を曲げる広志。
どうして由維が自分に対してするのだろうという不信感にも似た気持ちはあるのだが、今こうやってムスコをしごかれている気持ちよさには敵わない。
由維の手は、まるで男の感覚を知っているような感じでムスコをしごいていた。
この動きは、ムスコをしごきなれているに違いない。
もしかしたら、とっくの昔から由維は徹と……
「うっ……ううっ……や、やばいっ……」
「もう出そうなんだ。じゃあそろそろ止めよっかな」
「うっ……そ、そんな……」
「そろそろお昼ごはんを食べないと時間がないわよ」
「あ……」
もうイク瞬間がそこまで来ていたのに……由維の手はスルッとズボンから抜けてしまった。
「クンクン……臭っ!」
「なっ……」
「がまん汁で指が濡れちゃった」
「…………」
「今日の放課後はどの部活も体育館を使わないよね。体育館の倉庫、誰も来ないよ」
「えっ?」
「ね……加藤君。私が何を言いたいのか分かるでしょ」
「…………」
「じゃあ私、ご飯食べてくるから」
「…………」
「放課後すぐに……ねっ。加藤君も早く食べに行かないと午後の授業が始まっちゃうわよ。しっかり食べておかないと……体力が持たないよ……クスッ!」
由維(徹)は、最後まで由維の真似をして食堂へと走っていった。
由維に成りすました徹に全く気づかなかった広志は、その後姿が消えるまでずっと眺めていた。
「ま、松原って……も、もしかして徹よりも俺の事を……」
淡い期待を持ちつつ、広志は同じく学食を食べに走っていった――
「ど、何処に行ってたのよっ!」
「え?何が?」
「『えっ?』じゃないでしょ。加藤君と何処に行ってたのよっ!」
「何処だっていいじゃねぇか。そんなの俺の勝手だし」
「勝手じゃないわよ。それ、私の体なのよっ!」
「今は俺の体だけどな」
「そんな無責任なこと、言わないでよっ!」
「うるせぇなぁ。そんなことよりさ……」
由維(徹)は、徹(由維)の耳元でそっと呟いた。
「お前のアソコってすげぇ毛が生えてるんだな」
「なっ……」
徹(由維)の顔が見る見る赤くなる。
「や、やっぱり見てたのねっ!し、信じられない……」
「だってしょうがねぇだろ。ションベンするときに見えたんだから」
「見えたんじゃなくて、わざと見たんでしょっ!」
「ははは。それにさ……」
また由維(徹)は、由維(徹)の耳元で囁いた。
「広志ってさ、お前のパンティ見たらすげぇ興奮してたぜ」
「や……やだ……み、見せたの?か、加藤……君に……」
「……アイツ、お前の手が柔らかくて気持ちいいんだってよ」
「……そ、それって……ど、どういう事よ……」
「どういうことって、分からないか?こういうことだよ」
由維(徹)は右手を軽く握ると、そのまま手を上下に動かした。
それはまるで……
「……そ、そんな……」
「お前、顔が真っ赤になってるぜ」
「そんな事まで……したの?」
「さあ……」
「ひ、ひどいよ……私の体なのに……」
そう言ったとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
数学のテストを持った先生が教室に入ってくる。
「こら、早く席に着かんかっ!」
「…………」
生徒たちは皆自分の席に着いた。
徹(由維)も半泣きになりながら席に着く。
そして数学のテストが始まった。
「……許せないわ。勝手に人の体を使って」
シャーペンを持つ手に力が入る。
「許せないよ……」
そう呟くと、テスト用紙に徹の名前を書き、そのままシャーペンを置いた――
「どうだった?簡単だったよなぁ、今回のテスト」
「さあ。そんなの知らないわ。だって問題なんて見てないもの」
「はぁ?それってどういうことだよ」
「別に」
「も、もしかして、お前……俺のテスト用紙……」
「白紙で出してあげたわ」
「なっ……なんて事するんだよっ!お前のテスト用紙にはちゃんと回答してやったんだぞっ!」
「そんなの知らないわ。徹が私の体を変な風に使うのが悪いんじゃない」
「ちっ……そうきたか……よし、それなら俺にだって……どうなっても知らねぇからな」
「な、何よそれ……」
由維(徹)は、椅子から立ち上がるとずっとこちらを気にしていた広志の下へ歩いていった。
「ねえ加藤君」
「えっ……」
「さっきの話だけど、絶対に徹には内緒だからね」
「え……で、でも……徹に……」
「あのね……」
また広志の耳元に唇を近づけ、そっと囁く。
「体育館の倉庫で……しようよ……セックス!」
「なっ!セ……セック……うむむむっ」
大きな声を出そうとした広志の口を、由維の手で塞いだ徹。
「シッ!徹に聞こえちゃう」
そう言って、近づいてくる徹(由維)の方を見た由維(徹)。
「な、何を話してるんだよ、広志」
徹(由維)は、恥ずかしい気持ちをこらえながら男のしゃべり方をした。
「と、徹……」
「さっきから由維と何コソコソ話してるんだよ。なあ」
「な、何でも……ないんだ」
「お、俺にも教えろよ。そうやってコソコソされたら、変な気持ちになるだろ」
「わ、わりぃ徹……」
「何よ。これは私と加藤君の秘密なんだから。徹はあっちに行っててよ」
由維(徹)が話をさえぎろうとする。
すると、徹(由維)はギュッと拳を握り締めて、恥ずかしそうに話し始めた。
「……か、加藤君っ」
「はぁ?加藤君?」
「ほ、本当は私が由維なの。目の前にいる私は私じゃなくて……」
「何言ってるの徹。急に変なしゃべり方して。気持ち悪いからあっちに行って!」
「な、何だ徹?お前、何を言ってるんだよ」
「加藤君信じて。私が由維なのっ」
「うるせぇなぁ。早くあっちに行けよっ!」
「きゃっ!」
由維(徹)は、徹(由維)の肩を突いた。
「ま、松原……」
「……ひ、ひどいよ……と、徹なんて大嫌いっ!」
そう言って、教室を出て行ってしまった徹(由維)。
「え?え?」
どうなっているのかよく分からない広志。
そんな広志を見て、
「大丈夫よ、加藤君。徹はね、ヤキモチ焼いているだけだから」
「だ、だって……それにあのしゃべり方ってすごくおかしいじゃないか。それに……」
「気が動転しているのよ。それよりも……ねっ!」
由維(徹)は、広志に軽くウィンクした。
「……ま、松原……」
そして最後の授業が始まった。
教室を出て行った徹(由維)は、授業が始まっても戻ってこない。
結局、最後まで戻らず終いで授業が終わってしまい、放課後になってしまった――
「……な、なあ松原。徹のやつ、結局戻ってこなかったな」
「そうね、でもいいじゃない。明日になればころっと機嫌も直っているわよ」
「そういう問題じゃないような……」
体育館の倉庫。
少し埃っぽい匂いがするこの場所に、由維(徹)と広志が来ていた。
「そんな事より、早くしようよ。セックス」
「あ……う」
「私とセックスするのが嫌なの?」
由維(徹)は、セーラー服の上から胸を揉み始めた。
「うわ……すげぇ柔らかけぇ……こんなに柔らかい胸に触れるのに。それに……」
今度は、右手をプリーツスカートの前に持っていき、
スカートごと股間の部分をクイッと持ち上げるような仕草をした。
「私、もうココが疼いて仕方がないんだ。ココが早くほしいって言ってるの。加藤君の……その大きくなったものを」
そう言って広志の股間を見る。
その視線に、広志は思わず両手で股間を隠した。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。やっぱり何か変だって」
「何が?」
「だ、だってさ。ま、松原……お前がそんな風に言うなんて……一体どうしたんだよ」
「ん〜?何かおかしい?」
「だってそうだろ。絶対おかしいって。それに……徹だって……」
「そうかなぁ?普段の私たちと変わらないけど」
あごに指を当てながら首をかしげた由維(徹)だが、
そろそろだまし続けるのも無理かなぁ……なんて思ったりしている。
「なあ、どうしたんだよ。徹と何かあったのか?」
「ん〜?何かって……何?」
「そ、そりゃ……け、喧嘩したとか……」
「そうねぇ。喧嘩は……どうかなぁ」
「それじゃあ他に理由があるのか?」
「あるといえばあるかなぁ」
「な、何だよ、一体……」
「ねえ加藤君。教えてほしい?」
「……い、言いたくなければ……いいけどさ」
「でも知りたいでしょ」
「……あ、ああ……」
「ふふふ。実はね……」
由維(徹)はゆっくりと広志に近づき、耳元で囁いた。
「あのね……」
「……ああ」
「実は……」
「…………」
「私って……」
「……わっ!」
ドキドキしながら聞いていた広志のムスコを、ズボンの上からムギュッと掴んだ由維(徹)。
思わず腰を引いた広志だったが、由維(徹)の手はムスコを離さなかった。
「お願い、動かないで」
「ちょ、ちょっと待てよっ。話の続きは……」
「後で教えてあげるから。それより……」
「うっ……ちょ、ちょっと……ああっ」
「お昼休みの続きをしてあげるから」
「ちょっと……うっ……ううっ……」
由維(徹)は、制服のズボンのファスナーを下ろすと、トランクスの中で窮屈そうにしていたムスコを引っ張り出した。
そして、そのまま右手を使ってしごき始めたのだ。
「うっ……はぁ……はぁ……だ、だめだって……」
「そんな事言いながら、ココはしっかり大きくなってるし。やっぱり興奮してるんだ、私の体に」
「ち、違うって。そうじゃないって」
「いいからいいから。そのまま座ってよ」
「だ、だから……」
広志は反論しながらも、その手を止めようとはせず、言われたとおり床にお尻を付いて座り込んだ。
すると、由維(徹)は空いている左手をプリーツスカートの中に入れて、パンティの奥の湿り具合を確かめる。
「うっ……すげぇ……もうこんなになってる……これならすぐに入りそうだわ」
「お、おい……松原」
「何も言わなくてもいいよ。ほら、体の力を抜いて」
「ちょっと……ほ、ほんとに俺と?」
「そうよ。加藤君と」
「と、徹は……アイツのことはいいのかよ」
「今はそんな事、気にしないで。ほら、こうやって……う……んあああ〜」
「ううっ……ま、松原……」
「うぁぁぁ……す、すげぇ……は、はいった……」
「ほ、ほんとに……い、入れちまった……」
右手で広志のムスコを上に向け、左手でプリーツスカートの中のパンティを横にずらした由維(徹)はゆっくりと広志の上に腰を下ろした。すると、ヌプヌプという感じと共に、ムスコが由維の中に埋もれていく。
そして、何の抵抗もなく入り込んでしまったムスコを、由維の体が勝手に締め付けている。
「あうっ……い、入れただけなのに……こんなにすごいなんて……」
「ま、松原……」
「こ、このままこうやって……う……うあっ……あうっ……ぅんあっ」
「はぁ、くっ……」
由維(徹)が、広志の肩に両手を沿えて、ゆっくりと腰を動かし始める。
体の中をグリグリと突かれる感覚は、男の徹が味わえるはずのないものだった。
「これが……あっ……女の……か、快感……」
「うっ……ま、松原……な、何言ってるんだよ……」
「すげぇ……すごすぎるぜ……はああっ」
「ま、松原?」
「さ、最高だ……最高だって……広志のムスコは最高だ……はあっ、あっ……あうっ」
「松原……お、おい……お前って……」
「はぁっ……あうっ、あうっ……」
広志の上で跳ねる由維(徹)。
意識しなくても、勝手に腰が動いているように感じた。
硬くて太い広志のムスコ。
それが、由維(徹)の中で暴れまわっていた。
「すげぇっ!すげぇっ……んあっ……あっ、あうっ……ひぃっ……」
「うっ……ううっ……ま、松原……」
と、その時っ!
「そ、そんな……ちょっと!私の体で何してるのよっ!!!」
ガラガラッ!と倉庫の扉が開き、徹(由維)が険しい表情で現れた。
「ゲッ!ゆ、由維っ!」
「え?由維??ま、松原?」
「ひ、人の体で……ぜ、絶対に許せないっ!」
そう言って、勢いよく二人の方へ駆け寄ってきた。
しかし、勢い余って躓いた徹(由維)が……
ゴチンッ!
電車と同じく、頭をぶつけてしまったのだ――
「なるほど……そういうわけだったのか。全然気づかなかったな……」
「気づいてよ。私、ちゃんと言ったじゃない」
「でも、松原にしか思えなかったんだ。ほんとに……入れ替わってたのかよ」
「へへ。それだけ俺の演技が上手かったってことだな。何たって幼馴染なんだからさ」
「何言ってるのよ。バカッ!」
バシンッ!
暗くなりかけた帰り道を歩く三人。
体が元に戻った後、二人の話を聞いた広志は未だに信じられないようだった。
しかし、由維とセックスしてしまったことを考えると……信じるしかなさそうだ。
由維がそんな事をするはずないのだから。
「でも、すげぇ気持ちいいよな、由維の体って。お前、いつもあんなに気持ちいい思いしてるのかよ」
「なっ……そ、そんな事聞かないでよっ!」
バシンッ!
何度叩かれても懲りない徹は、
「なあ由維。今度もし入れ替わったらさ、俺がお前の口を使って気持ちいいことしてやるよ。なんたって、男がどうやったら気持ちいいのかしってるからな」
「もう入れ替わることなんてないわよっ!」
「そんなの分かんねぇぜ。また頭をぶつけたらさ……」
「え?あっ!」
そう言うと、徹は由維の頭を抑えて、思い切り自分の頭をぶつけた――
女の体ってすげぇよ……おわり
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