過去作品を掲載します。
その日の夜、進一はベッドの上で作戦を考えていた。

進一:「幽体のまま近づいたらすぐに気づかれるよな。でも、猫に乗り移ってももう少しのところでばれちゃったし・・・」

今日の行動を反省してみる。
何が悪かったのだろうか?

進一:「乗り移るときに幽体をつかまれなければいいんだよな。どうやったらつかまれないかというと・・・やっぱり後ろから身体に入り込む方法だよな」

もっともらしい意見だ。
後ろまで手は回りにくいのだから。

進一:「でも、どうやって後ろから入り込むか・・・座禅を組んでいるときは・・・・」

以前、住職のおじいさんと一緒に座禅を組んでいるところを見たことがある。
そのときなら・・・

進一:「いやいや、あのおじいさんは優奈よりも霊感が強そうだからな。あのおじいさんに叩かれた日には地獄に突き落とされるかもしれない」

やはり、彼女一人の時がねらい目なのだ。

進一:「やっぱり何かに乗り移って接近するのがいいよな。優奈の親とか友人とか・・・あるいは先生か・・・そうだな・・・うんっ!この方法がいいかもしれないぞっ」


どうやら明日の作戦が決まったようだ。
進一はそのまま次の朝まで眠りについた・・・







目的は宿題?それとも私の身体?(第3話)






そして次の日。
今日も昨日と同じく太陽の光が容赦無く照りつけている。
せみの声が一段と激しさを増す神社は、昼寝も出来ないくらい五月蝿(うるさ)かった。そんな中、相変わらず神社の前を巫女装束で掃除する優奈の姿があった。


そこへ階段を上ってくる人影が・・・


息を切らせながら階段を上りきり、優奈のもとに歩いて行く。
それに気づいた優奈は軽く手を振って笑顔で話しかけたのだ。


優奈:「そんなに息を切らして登って来なくてもいいのに」
美空:「だってゆっくり上るほうが疲れるじゃない」
優奈:「美空らしいね」
美空:「へへっ!」

二人は笑顔で会話を交わしている。

「篠本 美空(ささもと みそら)」は優奈達と同じクラスメイト。
特に優奈と美空は親友同士なのだ。
二人ともショートカットの髪型でかわいらしい顔立ち。どことなく姉妹を思わせる。
白いノースリーブに黄色い短パン姿の美空は、とても健康的に見えた。
いつも日焼けを嫌っている美空にとって、今日の服装はかなり露出度が高いように思えるのだが・・・


優奈:「今日はやけに肌を出してるじゃない。日焼けしちゃうよ」
美空:「う、うん。なんかいつもの服装だと暑いから。今日は妹の服を借りてきたんだ」
優奈:「そっか。でもせっかく白い肌なのに」
美空:「いいのいいの。たまには日焼けしないと・・・ねっ!」

美空は優奈に軽くウィンクして見せた。
それに答えるかのように優奈は少し微笑んだ・・・が、その表情はなんとなく警戒している様子だった。
話し方はいつもの美空そのものだが、日焼けを嫌う美空がノースリーブと短パンだなんて・・・
それに昨日、進一が猫に乗り移って近づいたというのこともある。
優奈は、もしかしたら親友の美空の身体に進一が乗り移っているのではないかという
不安にかられていた。
でも変に疑って、もし違ったりしたらお互いの関係がおかしくなりかねない・・・そう思ったのだ。
それに、最後まで白(しら)を切られたら、たぶん分からないだろう。

幽体は見えるが、人に乗り移っているかどうかを知る術(すべ)を優奈は持っていなかった。
こういうときは、それとなく話をして様子をうかがうしかない。
優奈は、仮に進一が美空に乗り移っていても、そのうちボロを出すと思ったのだ。

美空:「う〜ん、いいよね。神社って。なんか緑がいっぱいですがすがしいし」

美空は両手を空に向かって突き出し、大きく背伸びをした。
優奈は、ふと、その美空の胸元が目にとまった。
程よく膨らんでいるノースリーブの胸に、うっすらと二つの突起が浮き出ている事に気付く。
美空はブラジャーを着けていないのだ!

優奈:「えっ?」

優奈は驚いた。

美空:「ん?どうしたの?」
優奈:「美空、もしかしてブラジャー付けてないの?」
美空:「あ、うん。暑いし付けると苦しいから」
優奈:「そ、そうなんだ・・・」

ますます怪しい。
優奈はそれとなく美空に話しを持ちかけた。

優奈:「昨日ね。進一が神社に来たの」
美空:「えっ、進一君が?」

美空はいつも進一のことを「進一君」と呼んでいる。
もし進一が乗り移っているなら、とっさには「進一君」とは言わないかもしれない。

優奈:「そうなの。で、何しに来たと思う?」

何気ないそぶりで話を進める優奈。

美空:「さあ?分からないな。でも進一君、優奈のこと、かなり気にしてるみたいよ」
優奈:「えっ!?」

思わぬ回答にあせる優奈。

美空:「だってこの前私にね、優奈が好きな男性のタイプを聞いてくるんだもん」
優奈:「うそ・・・」
美空:「ほんとよ。私、優奈は進一君のこと、別になんとも思ってないと思ってたから適当にごまかしてあげたけど。それで良かった?」
優奈:「・・・あ、うん・・・」
美空:「あれは絶対優奈に気があるよ。うん。間違いないよ」
優奈:「そ、そうかな・・・」

優奈の顔がなんとなく赤いような気がする。

美空:「ねえ優奈、もしかして進一君のこと、好きだったりして。」

胸の前で腕組して美空が笑いながら問いかけてくる。
優奈は話の流れからその言葉が来るのをなんとなく予感していた。

優奈:「べ・・・べつに・・・そんな事ないよ。私はなんとも思ってないし・・・」

明らかに意識している返事。

美空:「その返事は怪しいなぁ」

いたずらっぽくにらみつける美空。
そしてその後、優奈を追い詰めるような言葉を言い始めた。

美空:「優奈が別に意識してないなら、私、進一君と付き合ってもいい?」
優奈:「えっ!?進一と・・・」

いつの間にか優奈のほうが聞かれる立場になっている。

美空:「うん。前からなんとなく気になってたんだ、進一君のこと。最近特に気になり始めて。夢にまで出て来るんだよ」
優奈:「そ、そう・・・」
美空:「夢の中でね、どこかの遊園地に行って、二人でデートしてるの。進一君、とてもやさしく接してくれるんだよ」
優奈:「・・・・」
美空:「なんか最近、すごく進一君と付き合いたいなっていう気になっちゃって。恋に目覚めたのかな・・・だから今度私から告白しようと思うの。こんな気持ちになったの初めてだし・・・」

うれしそうに話す美空を見て、なんだか心の中にもやもやした気持ちが現れる。

優奈:「でも、進一は私に気があるんじゃ・・・」

まるで、進一が美空よりも自分の方に付き合いたがっているようないい方をしてしまう。

美空:「だって優奈は進一君に興味無いんでしょ」
優奈:「き、興味がないってわけじゃ・・・ない・・けど・・・」

最後の方になるほど、ボソボソッと小声になる優奈。
胸の前でほうきをもじもじと触っている仕草がなんともかわいい。

美空:「それなら進一君から付き合ってくれって告白されたら付き合う?」
優奈:「そ、それは・・・急に言われても・・・」
美空:「私、もしも優奈よりも先に告白されたらOKしちゃうよ」
優奈:「そ、そんな・・・」
美空:「ふふっ、やっぱり優奈、進一君の事が好きなんだ」
優奈:「・・・好きかどうかは分からないけど・・」
美空:「でも私に進一君を取られるのが嫌なんだ」
優奈:「・・・・」
美空:「いいよいいよ、無理しなくったって。私たち、親友じゃない」
優奈:「・・う・・・うん」
美空:「でも、他の人に取られちゃったら知らないよ。」
優奈:「・・・・うん」

うまく誘導され、美空に優奈が進一の事を好きだという事がばれてしまった。
いや、優奈も自分自身で進一の事が好きだという気持ちを初めて知ったようだった。

美空:「へへっ。あ、それよりね。今日来たのは別の事で相談に来たの」
優奈:「あ、そうなの」

話の話題が変わって、少しほっとする優奈。

美空:「実はね。昨日変な事があって・・・」
優奈:「変な事って?」
美空:「あのね、昨日の夜のことなんだけど、私、知らないうちに変な事しちゃってて・・・」

美空の顔色が次第に悪くなっていく・・・
昨日の事を思い出して、急におびえ始めたようだ。

優奈:「変な事?」
美空:「うん。いつのまにか部屋の中で水着姿になってて・・・」
優奈:「うそ・・」
美空:「うそみたいな話なんだけど・・・なんかね、セーラー服やチアリーダーの制服まで部屋の中に散らばってるの。はじめは泥棒かと思ったんだけど家にはみんないたし。それに・・・なんていうか・・・ビキニパンツが汚れてたの・・・」
優奈:「それって・・・もしかして・・・」
美空:「私、自分でした覚えがないのに・・・でも身体は・・・」

優奈の頭に不安が過ぎる。
もしかしたら進一の仕業かもしれない。いや、むしろその方が正しいと言える。

優奈:「もしかしたら、それって・・・」
美空:「何か知ってるの?私怖くて・・・」
優奈:「う、ううん。分からないけど・・・」
美空:「どうしたらいいのか分からない・・・またこんな事があったら私、気がおかしくなりそう・・・」

瞳に涙をためながら話す美空。

優奈:「よく分からないけど・・・霊の仕業ならお祓いすれば大丈夫だと思うから、一度お祓いしてみる?」
美空:「・・・・うん・・・・」
優奈:「それじゃ、おじいちゃんにお願いするからついて来て」
美空:「大丈夫なの?」
優奈:「大丈夫だよ、うちのおじいちゃんはすごいんだから」
美空:「ほんとに・・・・そ、それじゃ、優奈のおじいちゃんにお願できる?」
優奈:「うん。じゃ、こちだから」
美空:「うん」

美空の顔に少し笑顔がもどった。
それを見た優奈は、下駄を脱いで木で出来た階段を数段のぼり、神社の奥へと入っていく。

優奈:「こっちだよ」
美空:「あ、待ってよ」

美空が靴を脱いで優奈の後を追う。

優奈:「おじいちゃんは奥の部屋でお経を唱えてると思うから」
美空:「そっか・・・ねえっ、優奈っ!」

美空が後ろからギュッと優奈を抱きしめた。

優奈:「きゃっ!どうしたのよ、美空っ」

廊下で立ち止まる二人。

美空:「さっき進一君のことが気になるって言ったよね」

美空が後ろから耳元でささやく。

優奈:「う・・・うん・・・でもどうしたの、急にそんな事聞いて」
美空:「だったらさ、進一君に身体を貸してあげたら?」
優奈:「えっ?ど・・・どうしてそれを・・・・ええっ?・・・・ああっ!」

美空の身体から幽体が抜け出し、優奈の身体に入り込んでいく。
二人とも身体を密着させているので、あっという間に幽体が優奈の中に入り込む。

優奈:「そ・・・・そんな・・・・・あ・・・・ああ・・・・・・」

ビクンと身体を震わせた優奈は目を見開き、苦しそうに息をしながら廊下に膝を付いた。

優奈:「くぅ・・・・・や・・・・やだ・・・・・わ・・・私の中に・・・・・は・・・・入って・・・・・こ・・・・こない・・・・で・・・・・」

後ろで抱きついていた美空は意識を失った状態で優奈の背中にしがみついている。
その美空の重さに耐え切れなくなった優奈の身体は、前のめりになって廊下に倒れた。
上から美空の身体がのしかかる。

優奈:「あ・・・ああ・・・・し・・・・・しん・・・い・・・ち・・・・・・」

幽体が全て優奈の身体の中に入り込む。
苦しそうに声を漏らした後、目の前が真っ暗になった優奈は気を失ってしまったのだ・・・・





目的は宿題?それとも私の身体?(第3話)・・・・・おわり