過去作品を掲載します。

進一:「ううん。失敗したか・・・」

帰った様に見せかけて、実は神社の裏に隠れている進一。
幽体がまだヒリヒリと痛みを訴えている。

進一:「あの様子だと、多分1メートルくらいに近づいたらばれるんだよ。絶対そうだ。気配で分かっちゃうんだ」

頭の中でいろいろと考える。

進一:「もしかしたら幽体ってのがまずいのかな。それなら・・・」

と考えている目の前に、神社に住みついている猫が日向ぼっこをしている
姿を見つけた。

進一:「猫で近づけばどうかな?」

ふとそんな事を思いつく。

進一:「よし、一度やってみるか!」

進一はゆっくりと猫に近づいた。
猫の耳がぴくぴくと動いている。

進一:「猫も近づいたら気付くのかな・・・」

そう思ったが、猫はそれ以上の反応を示さなかったので、進一はそのまま猫の身体に幽体を入れ始めた。猫の毛がぶわっと逆立ち、爪を出し始める。進一からは見えなかったがきっと猫のは目を見開き、怖い顔をしていたのだろう。

自分よりも小さな生き物に乗り移るのははじめての体験だったが、幽体がするすると猫の身体に入っていくので、進一はそのまま逆立っている毛の中に頭まで入れ込んでいった。


・・・おなかのあたりに温かさを感じる。


ゆっくりと目を開けると、目の前に地面が広がる。
すごく視線が低い。
何度か目をぱちくりさせた後、ゆっくりと体を起こしてみた。
なんとも味わったことのない感覚。
両手、両足が地面についたままの四つん這いの格好だが、それが全然苦しくない。
しかも、顔を前に向けても首に負担がかからないのだ。
人間ならかなりつらい体勢のはずだ。

進一:「これが猫の視線なんだ・・・」

そう言った・・・・つもりだが、口から出たのは

「にゃにゃにゃにゃにゃぁ・・・」

という猫の声だった。
人間の言葉を猫語にするとこんな風なんだろうか・・・
それよりも、猫の脳みそって人間よりも小さいのにこうやって考える事が出来るんだ・・・
幽体になった時って、脳みそ、どうなってるんだろ・・・

そんな事を考えながら歩いてみる。
歩き方はよく分からなかったが、自然と身体が歩いてくれるので助かった。調子に乗って走ってみると、地面がすごい速さで迫ってくる。まるでF1レースをしているような感じだ。
ジャンプ力もすさまじい。

猫(進一):「にゃにゃぁ〜っ!(うほ〜っ!)」

こんなにはしゃいでも殆ど息が上がらない。
改めて猫ってすごいと感心した進一。

しばらく猫として楽しんだあと、この姿のまま神社の表に歩いていき、水を撒(ま)いている優奈に近づいた。

猫(進一):「にゃにゃにゃにゃ・・・(ばれるかな)・・・」

そうつぶやきながら優奈の後ろまで来て、一声鳴いてみた。

猫(進一):「にゃぁ」

優奈が振り返って猫(進一)の方を見る。

優奈:「ん?どうしたのチーちゃん」

どうやらこの猫の名前はチーちゃんというらしい。最近飼い出したのだろうか?
進一はこの猫がこの神社の飼い猫だとは知らなかった。
猫(進一)はそのまま優奈の足元に近づき、身体を摺り寄せるように甘えてみせた。

優奈:「どうしたの?お腹すいた?」

優奈はジョーロを地面に置いた後、猫(進一)の前にしゃがみこんだ。
優奈がずっと見つめるものだから、思わず目線をそらしてしまう。

優奈:「さっき食べたばかりでしょ」

そう言いながら猫(進一)ののどを右手の指でころころと撫でる。
その撫でられるという感覚はとても気持ちがいい。
自然にゴロゴロと喉がなってしまう。

どうやら進一のことは全く気付いていないようだ。

優奈はその後、両手で猫(進一)を抱き上げた。
彼女の胸の前に抱きかかえられる猫(進一)。
白衣の奥から優奈の柔らかい胸の感触が伝わってくる。

猫(進一):「にゃ〜・・・(良い気持ち)・・・」

前足で白衣の上から胸を押してみる。

優奈:「もうっ、チーちゃんたら!」

優奈に押していた前足を片手で掴まれてしまった。

おっと!

こんな事をしている暇はない。
ちょうど優奈が気を許しているところなのだ。
このまま猫の身体を抜け出し、優奈の身体に入れば完璧に乗り移れるはず!

猫(進一)はおとなしく優奈の身体にもたれかかるようにして力を抜いた。
優奈もそんなチーちゃんを優しく抱きかかえる。

猫(進一)は、慎重にタイミングを計った後、サッと猫から抜け出し、そのまま優奈の胸めがけて頭から幽体をスッと滑り込ませ始めた。

優奈:「あっ!な・・・・」

驚いた優奈。
猫の身体から自分の身体に進一の幽体が流れ込むのが見える。

優奈:「あ、やだっ!ち、ちょっと・・・」

優奈はうろたえながらも、渾身(こんしん)の霊力を両手にこめて身体に入り込もうとする進一の幽体をがっしりと掴んだ。
そしてそのままずるずると幽体を抜き始めたのだ。

その力には到底かなわない。

進一の幽体がだんだんと優奈の身体から抜けて、しまいには完全に抜けてしまった。

猫:「フギャ〜ッ!」

進一の幽体が抜け出た猫が驚いて走り去ってしまう。

進一:「あ・・・あれ?」
優奈:「よくもだましてくれたわね。そんな事したらこうなるんだから!」


優奈は右手に霊力を集中させ、握りこぶしを作った。
そして、目の前にいる進一の幽体めがけて力いっぱいパンチを食らわせたのだ。

幽体がちぎれるかと思うほどの霊力が進一に伝わる。

進一:「ウギャーーーーーーーーッ!」

あまりの痛さで言葉にならない!
神社の屋根の向こうまで吹き飛ばされた進一の幽体。

進一:「うががががが・・・・」

さっきよりも激しい痛みが幽体を襲う。
頭が割れそうだ。

進一:「あが・・・あ・・・あがが・・・ああ・・・」

本当に言葉では表現できない。
成す術のないまま、進一は空中でもがき苦しみ、そのまま勢いに流されていった・・・・

優奈:「はぁ、はぁ、はぁ。あ、危なかったわ。もう少しで乗り移られるところだった・・・」

まさか猫に乗り移っているとは思わなかった優奈はマジであせっていた。
なんせ、進一の幽体の半分は身体に侵入されたのだから。

優奈:「まったく油断も隙も無いんだから・・・」

そう言うと、またため息を1つついてジョーロを持ち、神社の中に入っていった・・・






進一:「くぅ〜・・・・めちゃくちゃ痛い・・・」

神社からずいぶんと離れた空中を漂う進一の幽体。
痛みがおさまるまで15分くらいはかかったのではないだろうか?
結局猫に乗り移っても失敗に終わった。

進一:「ううっ。き・・・今日はもう止めとくか。このままじゃ、ほんとに死んでしまうかもしれないし・・・」

とりあえず今日は諦めることにした進一。
明日はどんな手を使って優奈に乗り移ろうか・・・

ビリビリする幽体を摩りながら(?)進一はゆっくりと家に向かったのだった・・・・






目的は宿題?それとも私の身体?(第2話)・・・・終わり