「大丈夫か?」
「うん。ちょっと熱があるだけだから」
「昨日の部活は随分頑張ってたもんな」
「もうすぐ試合だから……でもこんな調子じゃ元も子もないよね」
「今はゆっくり休んで、元気になったら挽回すればいいじゃないか」
「……そうだね」
「ああ。じゃあ俺、帰るよ」
「うん。わざわざ来てくれてありがと」
「ああ」

私は来週の日曜日にある試合に向かって一生懸命練習していたんだけど、
ちょっと頑張りすぎて熱を出してしまった。
陸上部で短距離を走っているんだけど、今来てくれていたのは同じく陸上部の祐司。
私の彼なんだ。
祐司も試合があるから、私の家に来るよりも練習したかったと思う。
それを考えると悪い気がするけど、こうやって見舞いに来てくれる優しい祐司の事が大好き。
そんな祐司まで――


私がそれを聞いたのは、祐司が帰ってから2時間ほど立った後。
お母さんが教えてくれた。

「祐司君、車に轢かれたんだって」
「えっ……」
「信号のない交差点で、軽トラックが飛び込んできて……」
「ゆ、祐司は……」
「幸い骨には異常ないって話だけど、念のために入院したんだって」
「にゅ、入院……どこの病院なの?」
「近くの総合病院よ」
「わ、私行ってくるっ。私の見舞いに来たせいで祐司が……」
「ダメよ。まだ熱があるのに」
「だ、だってっ!」
「大丈夫。さっきも言ったけど、念のために入院しただけなんだから。明日になればきっと退院できるわよ」
「そ、そんな事言っても……」
「それよりも早く病気を治しなさい。何か分かったらお母さんが教えてあげるから」
「…………」

信じられなかった。祐司が入院するなんて。
私のせいだ。
私が熱なんか出すから祐司が――

祐司っ!
祐司っ!

私は泣きながら祐司の事を想った。

会いたい、会いたいよぉ。

とても心細かった。
胸が締め付けられる感じ。
こんなに祐司のことを想った事はない。それくらい祐司を心に浮かべた。
すると――

火照っていた体から、熱がスッと下がった感じがした。
そして、体がすごく軽い。

「えっ……」

最初は何が起きたのか分からなかった。
でも、次第にそれを理解した。

「う、うそ……わ、私。浮いてるっ」

そう。私は宙に浮いていた。
しかも、足元には自分の体がある。
これって一体――

「わ……私、もしかして死んじゃったの??」

そう思ったけど、お母さんは寝ている私の体に布団をかけて、

「もう寝ちゃったの。疲れてたんだね」

と言って、部屋を出て行ったしまった。
確かに私の胸を覆った掛け布団は、規則正しく上下に動いている。

「ど、どうなってるの?」

お母さんは、今の私に全然気づいていなかった様子。
これってもしかして幽体離脱!?
私は初めての体験に、顔が引きつった。

「も、元に戻らなきゃ」

慌てて自分の体に戻ろうとしたけど、ふとあることに気づいた。

「……私って今、自由に動けるんだ。もしかして外にも出れるのかな?」

ちょっとした好奇心で部屋の壁を触ってみる。すると、私の手は壁を無視して外に出てしまった。
と言うことは――

「やっぱり自由に飛べるんだ!」

私は壁に体をめり込ませると、家の外に出た。
マンションの5階なので、いきなり下が見えると怖い。
でも、落下する様子もなく私の思い通り、空中に留まることが出来た。

「す、すごい……」

行き先は決まっている。
私はこの不思議な状態で、祐司が入院している病院へと飛んだ。