「ねえ、明日学校が終わったら何処かに遊びに行こうよ」
「え〜。明日は帰ってゆっくり寝たいし」
「もうっ!どうしてそうなるのよ」
「別に〜」
「私が子供っぽいから?一緒にいるの、恥ずかしいの?」
「誰もそんな事、言ってないし」
「聞いたよ、重郷君から」
「あいつ、余計なことを……」
「ねえ遼一、私ってそんなに子供っぽいかな」
「子供っぽいというか、童顔だよな」
「……う、うん」
「別に晶子の童顔が嫌だって言ってるんじゃないからな」
「……うん」
「気にすんなって。本気で言ったわけじゃないし」
「……う、うん。別に気にしてないよ」

やばいな、落ちこんでるし。
俺は必死で笑顔を作る晶子に対して、これ以上の言い訳が思いつかなかった――


中学3年生の終わりころに付き合い始めたが、高校は別々になった俺と晶子。
それでもお互いの高校が終わったあとにこうやって会っているのだが、最近はちょっとマンネリというか、中学生の幼い雰囲気がそのまま残る晶子に少し冷めてしまった感じだった。
ほんとに嫌いじゃないんだけど、今通っている高校にはもっと高校生らしいというか、先輩で女性らしい人もいるわけで。
どちらかといえば、俺はお姉さんっぽい女性の方が好きだ。晶子と付き合いだしてから尚更そう思うようになっていた――






やっぱりというか何というか――

晶子は学校を休んだらしい。
そんなに気にしていたんだ。童顔だって事。
そりゃ高校生には見えないもんなぁ。
やっぱり、どちらかといえば猪川さんのような――

1時限目の体育。
俺は体育館でバスケをしている3年女子の中に、猪川さんを見た。
入学していた時から気になっていたけど、まだ話したことがない。
そりゃ、猪川さんも俺のことなんて知らないだろうし。
全く接点がないんだから。

あの白い体操服を盛り上げる大きな胸。そしてに青いブルマから伸びるほっそりとした足。
見ているだけで幸せだった。

そう、幸せだったのだが――

「何見てるのよ」

不意に目線が合った猪川さんが、俺の元に来て話しかけてきた。


「えっ、いや。何でもない……です」
「うそ。私の体を見てたんでしょ」
「ち、違いますよ。そんなんじゃ」
「クスッ。遼一って嘘ついているの、すぐに分かるよ」
「えっ?」

猪川さんはバスケットボールを持ったままぺロッと舌を出した。

「エッチだよね。遼一って」
「お、俺は……その……」
「必死に言い訳しようとしているところが余計にエッチだし」

妙に親しげに話してくる猪川さんに、俺はどう対応してよいのか分からなかった。

「いや、言い訳っていうか何というか」
「私よ、わ・た・し!」
「え?」
「クスッ!」
「なっ!?」

俺は驚いて尻餅をついてしまった。
いきなり猪川さんの体から――ヌッとの晶子が現れた!!
半透明で透けている。
まるで猪川さんの体にめり込んでいるような感じだ。

「うふふ。驚いたでしょ」
「お、驚いたって……ど、どうなってるんだよ」
「へへ。私ね、今、この人の体に憑依してるんだ」
「ひょ、憑依!?」
「うん。だからこの体は私が自由に動かせるんだ」

ぺロッと舌を出した猪川さん。
その体にめり込んでいる半透明の晶子。

「ねえ、こんな顔でこんな体だったら文句ないんでしょ」
「…………」
「放課後、付き合ってくれるよね。もちろんこの体だよ」
「…………」

俺は何も言えず、ただ「うん」と頷くだけだった――