スキューバダイビングをしている彼女のスタイルは素晴らしい。
青いトップスに黒くて非常に丈の短いスカートは俺の視線を――いや、男共の視線を集めた。
そんな彼女が女友達と二人で立ち寄ったファミレス。
背筋を伸ばして座っている姿も様になっていて素敵だ。

「出来るか?彼女に」
俺は少し離れた席に座り、友人の健彦に問いかけた。
すると健彦は「ああ。問題ない」
そう答えた。

「お客さま、ご注文は?」
「ああ。ホットコーヒー」
「かしこまりました」

ウェイトレスが俺に注文を聞きに来た。
しかし、健彦の注文は取らない。
それは健彦がウェイトレスに見えいからだ。
俺の目の前にいる健彦は、幽体という存在で、体から抜け出した魂のようなもの。
俺には見えるが、俺以外の人間には見えないらしい。
それは、俺と幽体になった健彦の波長がたまたま同じだったからだと言っていた。
よく分からないが、俺にとっては初めての体験。
目の前にいるのが、いつも大学で一緒に講義を受けている健彦だとは思えない。
実態がなく半透明。
体の輪郭はかろうじてあるものの、人間というよりは『影』のようにしか見えなかった。

「なあ、本当に出来るのか?」

俺は再度、幽体の健彦に問いかけると、一言答えた。

「百聞は一見にしかず……だな」

ちょうど彼女の前に座っていた女友達が席を立った。
きっとトイレに行くのだろう。
それを見ていた健彦は、すっと店の中を漂うように彼女の元へと移動した。
足で歩いているのではなく、空中移動している感じ。
俺はその様子をじっと眺めていた。

彼女は何をするわけでもなく、じっと窓の外を見ていた。
そんな彼女の背後に回りこんだ健彦は、ゆっくりと彼女の背中に――忍び込み始めた。

「ひうっ!」

声にならない声をあげた彼女がビクンと震えた。
こわばった表情が、彼女に起きた異変を物語っている。

「ぁ……ぁぁ……」

搾り出すような声に、険しい表情。
こんな彼女の表情は初めてだ。
俺はどきどきしながら、じわりじわりと背中に埋もれてゆく健彦の幽体を見ていた。

ビクン、ビクンと脈打つように震えた彼女。
健彦の幽体は20秒くらいかけて彼女の背中に入り込んでいった。
今では全く見えない。

「ぁっ……は……ぁ……うっ……ふぅ」

苦しそうな表情が和らぎ、大きく息を吐いた彼女。
そして、すぐに俺の方を見て笑顔で笑いかけると、「こっちへおいで」と手招きした。

「…………」

俺は半信半疑なまま、女友達が座っていた椅子に座った。

「どう?」

彼女が微笑みながら俺に問いかける。

「ど、どうって……」
「言ったとおりだろ」
「……ほ、ほんとに……健彦なのか?」
「ああ。そろそろ女友達が帰ってくるから、先に店を出ようぜ」
「……あ、ああ……」

戸惑いながらも、俺は彼女に言われるままに店を出た――