「もうご飯食べたの?お母さんから連絡があったでしょ」
「うん。お姉ちゃんは?」
「友達と食べてきた。今日は早く寝るからお風呂のスイッチ、入れたわよ」
「うん……ねえ、お姉ちゃん」
「何?」
「……私の周りに何か見えない?」
「え?何かって?」
「だからその……」
「……また幽霊とか?」
一美は「ふぅ〜」とため息をつくと、部屋の中をグルリと見渡した。
「あのねぇ〜。全然見えないんだけど」
「そ、そうなんだ」
「いるの?幽霊が」
「う、ううん。多分いないと思うけど」
「何それ。久美に見えないものが私に見えるわけ無いじゃないの」
「そ、それもそうだね」
「変な久美。じゃあお風呂入れるね」
「うん」
茶色の長い髪を掻き上げた一美は、そのまま隣にある自分の部屋に戻っていった。
「俺のこと、全然見えてなかったみたいだな」
「うん。元々お姉ちゃんには霊感なんてないから」
「ふ〜ん。それにしても……綺麗な人だった」
「……うん。私には全然似てなかったでしょ」
「う〜ん、そうだなぁ……」
基本的に顔の骨格が違うような気がする。
少し丸みを帯びた久美に対し、姉の一美は面長だ。
その顔は大人の女という雰囲気を漂わせていた。
もちろん、体の線を強調する白い長袖Tシャツにスリムタイプのブーツカットジーンズという服装も、
彼女のプロポーションのよさを強調してとてもセクシーに見えた。
目が悪いのか、コンタクトレンズをしているようだ。
それは普通のコンタクトレンズではなく、おしゃれな茶色いカラーコンタクト。
そのコンタクトが、一美を少し日本人から遠ざけているような感じ。
「だってお姉ちゃん……私の本当のお姉ちゃんじゃないもの」
「えっ……そ、それって……」
「うん。お母さんが違うんだ」
「……そ、そうなんだ」
「私のお父さんは一度離婚してるんだ。で、お姉ちゃんを引き取ったの。その後、二度目の結婚で今のお母さんが私を生んだの」
「なるほど。じゃあお父さんとお母さんは久美ちゃんの本当の親なんだね」
「うん。だからお姉ちゃんと血が繋がっているのはお父さんだけ」
「ふ〜ん……」
「でも、みんな家族として仲良く生活してるよ。時々喧嘩もするけれど、私の大事なお姉ちゃんなの」
「……そっか」
「うん。でもね、結構お姉ちゃんって秘密主義なんだ」
「秘密主義?」
「うん。私、まだ一度もお姉ちゃんの部屋に入った事ないし」
「え〜?そうなの。だって、隣の部屋なのに?」
「お姉ちゃんが絶対に入らないでっていうから。お母さんも入ってないんじゃないかな」
「ふ〜ん。でも、さっき入って来たけど別段変わった様子は無かったけどな」
「だと思うよ。単に自分の物を勝手に見られたり触られるのが嫌いなだけみたいだから」
「潔癖症とか?」
「じゃないと思う。だって共通で使う物は使ってるし、結構大雑把なところもあるし」
「ふ〜ん。後でもう一度見てこようかな」
「あまり見ない方がいいよ」
「大丈夫だって。俺のこと、全然気づいてないし」
「それはそうだけど……」
「久美ちゃんも気になるんじゃないの?一美さんの部屋」
「気にはなるけど、別に……」
「俺が一美さんに乗り移れば自由に見ることが出来るけどな」
琢次郎は、ちょっといやらしい目つきで笑いながら久美を見た。
「そ、そんな事しなくてもいいよ。そこまで見たいと思わないし。それに琢次郎、もしかしてお姉ちゃんの体を狙ってるんじゃないでしょうね」
「ちょっとね。一美さんって美人だし、一度乗り移ってみたいな」
「ダメよ。私のお姉ちゃんなんだから」
「悪戯しなければいい?」
「そ、それでもダメよ……」
「どうして?」
「だ、だって……勝手にそんな事しちゃ、いけないんだから……」
「じゃあ交換条件って事でどう?」
「交換条件?」
「久美ちゃん、明日はソフトボール部の練習試合があるんだろ」
「そ、そうだけど」
「さっきも話したけど、俺も大学の野球部で久美ちゃんと同じセカンドを守ってたんだ。ライバルと競っていた事もあって、結構練習してたんだよ。で、自分で言うのもなんだけど、かなり上手いと思う」
「……で」
「でさ、明日試合に勝てるように……」
「私に乗り移って代わりにセカンドを守ってあげると」
「その通り」
「私、自分で言うのもなんだけど、結構上手いと思うんだけどな」
「……そ、そうなんだ」
「……琢次郎ほどじゃないかもしれないけど」
「そ、そっか……じゃ、じゃあそんな事、無理にしなくてもいいよな」
「そう。でも……」
「でも?」
「明日対戦するのは、まだ一度も勝った事ない高校なのよねぇ」
「……なるほど。じゃあ俺が別のやり方で手を貸してあげるよ」
「別のやり方?」
「そう。例えば……」
琢次郎は久美のベッドに胡坐をかいて座ると、嬉しそうに自分の考えを話した。
それを聞いた久美は、ちょっと顔を赤らめながらも――コクンと頷いたのだった。
ちょっと卑怯な――というか、反則だけどそうしなければ勝てないくらい強い相手。
後ろめたい気持ちを感じながらも、勝ちたいという願望に推されたようだ。
まあ――練習試合だし。
「じゃあ明日の試合、久美ちゃんの手助けをするということで!」
「……お、お姉ちゃんに変な事、しないでよ」
「分かってるって!」
言うのが先か、琢次郎は久美の目の前からスッと消えてしまった。
「あっ!た、琢次郎!?」
そう叫んだ声は、久美しかいない部屋に微かに響いただけだった――
「うん。お姉ちゃんは?」
「友達と食べてきた。今日は早く寝るからお風呂のスイッチ、入れたわよ」
「うん……ねえ、お姉ちゃん」
「何?」
「……私の周りに何か見えない?」
「え?何かって?」
「だからその……」
「……また幽霊とか?」
一美は「ふぅ〜」とため息をつくと、部屋の中をグルリと見渡した。
「あのねぇ〜。全然見えないんだけど」
「そ、そうなんだ」
「いるの?幽霊が」
「う、ううん。多分いないと思うけど」
「何それ。久美に見えないものが私に見えるわけ無いじゃないの」
「そ、それもそうだね」
「変な久美。じゃあお風呂入れるね」
「うん」
茶色の長い髪を掻き上げた一美は、そのまま隣にある自分の部屋に戻っていった。
「俺のこと、全然見えてなかったみたいだな」
「うん。元々お姉ちゃんには霊感なんてないから」
「ふ〜ん。それにしても……綺麗な人だった」
「……うん。私には全然似てなかったでしょ」
「う〜ん、そうだなぁ……」
基本的に顔の骨格が違うような気がする。
少し丸みを帯びた久美に対し、姉の一美は面長だ。
その顔は大人の女という雰囲気を漂わせていた。
もちろん、体の線を強調する白い長袖Tシャツにスリムタイプのブーツカットジーンズという服装も、
彼女のプロポーションのよさを強調してとてもセクシーに見えた。
目が悪いのか、コンタクトレンズをしているようだ。
それは普通のコンタクトレンズではなく、おしゃれな茶色いカラーコンタクト。
そのコンタクトが、一美を少し日本人から遠ざけているような感じ。
「だってお姉ちゃん……私の本当のお姉ちゃんじゃないもの」
「えっ……そ、それって……」
「うん。お母さんが違うんだ」
「……そ、そうなんだ」
「私のお父さんは一度離婚してるんだ。で、お姉ちゃんを引き取ったの。その後、二度目の結婚で今のお母さんが私を生んだの」
「なるほど。じゃあお父さんとお母さんは久美ちゃんの本当の親なんだね」
「うん。だからお姉ちゃんと血が繋がっているのはお父さんだけ」
「ふ〜ん……」
「でも、みんな家族として仲良く生活してるよ。時々喧嘩もするけれど、私の大事なお姉ちゃんなの」
「……そっか」
「うん。でもね、結構お姉ちゃんって秘密主義なんだ」
「秘密主義?」
「うん。私、まだ一度もお姉ちゃんの部屋に入った事ないし」
「え〜?そうなの。だって、隣の部屋なのに?」
「お姉ちゃんが絶対に入らないでっていうから。お母さんも入ってないんじゃないかな」
「ふ〜ん。でも、さっき入って来たけど別段変わった様子は無かったけどな」
「だと思うよ。単に自分の物を勝手に見られたり触られるのが嫌いなだけみたいだから」
「潔癖症とか?」
「じゃないと思う。だって共通で使う物は使ってるし、結構大雑把なところもあるし」
「ふ〜ん。後でもう一度見てこようかな」
「あまり見ない方がいいよ」
「大丈夫だって。俺のこと、全然気づいてないし」
「それはそうだけど……」
「久美ちゃんも気になるんじゃないの?一美さんの部屋」
「気にはなるけど、別に……」
「俺が一美さんに乗り移れば自由に見ることが出来るけどな」
琢次郎は、ちょっといやらしい目つきで笑いながら久美を見た。
「そ、そんな事しなくてもいいよ。そこまで見たいと思わないし。それに琢次郎、もしかしてお姉ちゃんの体を狙ってるんじゃないでしょうね」
「ちょっとね。一美さんって美人だし、一度乗り移ってみたいな」
「ダメよ。私のお姉ちゃんなんだから」
「悪戯しなければいい?」
「そ、それでもダメよ……」
「どうして?」
「だ、だって……勝手にそんな事しちゃ、いけないんだから……」
「じゃあ交換条件って事でどう?」
「交換条件?」
「久美ちゃん、明日はソフトボール部の練習試合があるんだろ」
「そ、そうだけど」
「さっきも話したけど、俺も大学の野球部で久美ちゃんと同じセカンドを守ってたんだ。ライバルと競っていた事もあって、結構練習してたんだよ。で、自分で言うのもなんだけど、かなり上手いと思う」
「……で」
「でさ、明日試合に勝てるように……」
「私に乗り移って代わりにセカンドを守ってあげると」
「その通り」
「私、自分で言うのもなんだけど、結構上手いと思うんだけどな」
「……そ、そうなんだ」
「……琢次郎ほどじゃないかもしれないけど」
「そ、そっか……じゃ、じゃあそんな事、無理にしなくてもいいよな」
「そう。でも……」
「でも?」
「明日対戦するのは、まだ一度も勝った事ない高校なのよねぇ」
「……なるほど。じゃあ俺が別のやり方で手を貸してあげるよ」
「別のやり方?」
「そう。例えば……」
琢次郎は久美のベッドに胡坐をかいて座ると、嬉しそうに自分の考えを話した。
それを聞いた久美は、ちょっと顔を赤らめながらも――コクンと頷いたのだった。
ちょっと卑怯な――というか、反則だけどそうしなければ勝てないくらい強い相手。
後ろめたい気持ちを感じながらも、勝ちたいという願望に推されたようだ。
まあ――練習試合だし。
「じゃあ明日の試合、久美ちゃんの手助けをするということで!」
「……お、お姉ちゃんに変な事、しないでよ」
「分かってるって!」
言うのが先か、琢次郎は久美の目の前からスッと消えてしまった。
「あっ!た、琢次郎!?」
そう叫んだ声は、久美しかいない部屋に微かに響いただけだった――