「ん……んん」

全身が暖かい何かに包まれている感じ。
アタシはゆっくりと目を開けた。
目の前にはライトパープルの枕。そして白い手。

「…………」

眠りから覚めた所――という感覚。
アタシの部屋じゃない。それよりも、枕に流れる青い髪に気づいて、ハッと目を覚ました。
そして、慌てて上半身を起こした。

「あっ!!」


裸――
それに、とても大きな胸。
その胸に、太ももに優しくなびいた長くて青い髪。
「は、遙さんの体っ!」

そう口にした声も、遙さんそっくり。いや、遙さん自身。
アタシの幽体、遙さんの体に入り込んだんだ。
これが――憑依なんだ。

アタシはドキドキしながら遙さんの体を眺めた。
中学生のアタシとは違い、その女性のスタイルはすごいと思った。
アタシがお兄ちゃんだったら、こんな女性と結婚したいなって思うかもしれない。

「すごい……遙さんのスタイル」

大人の女性。
アタシにだって魅力的だと感じる。
遙さん、この体でお兄ちゃんと――

胸を触ると、肌に張りと弾力がある。
足の先が随分と向こうに見える。

うらやましい――

アタシもこんなスタイルだったら――ううん、違う。
これが今のアタシ。
お兄ちゃんの妻、遙なんだ。
アタシがこの体の持ち主なんだ。
そう思うと、心の底から嬉しさがこみ上げてきた。
お兄ちゃんは、アタシだと気づくかな?
ふと隣を見ると、お兄ちゃんの姿はなかった。
もう起きたんだろうか?
それよりも、寝るときはダブルベッドでこんな風に裸で寝ているんだろうか?

嫉妬してしまう。

「でも、アタシは今、その遙さんになってるんだから!」

そう思いなおし、タンスやクローゼットから適当な服と下着を取り出して穿いた。
ベッドの横にある鏡台に姿を映すと、そこには普段着の遙さんがアタシをじっと見つめている。
アタシが笑いかけると、鏡の中にいる遙さんが一瞬の間も置かずに笑いかけてくる。
アタシが「おはよう」としゃべりかけると、遙さんは同時に「おはよう」と同じトーンで話しかけてくる。
それは、「アタシ=遙」の証明とも思えた。

「遙さん。アタシ、恨んでるんじゃないよ。でも、アタシは誰にもお兄ちゃんを取られたくなかっただけ。だから……遙さん。遙さんの体、5時間だけ貸してね。5時間したらちゃんと返すから。その代わり、その5時間は……この体をアタシの自由にさせて」

鏡に向かって呟いたアタシは、遙さんの腕でギュッと体を抱きしめた。
大きすぎる胸が苦しいくらい。

「ああ……アタシ、遙さんなんだ」

同じような事を何度も呟いてしまう。
だって――この体なら、お兄ちゃんとどんな事だって出来るんだから。
そう、どんな事だって――

「お兄ちゃん、何処に行っんだろう?そっか、お兄ちゃんって、朝は軽くジョギングしてたんだっけ。まだ朝ごはん食べてないだろうから、アタシが作ってあげよっと!」

きっと遙さんは、こんな軽い話し方はしないだろう。
もう少し大人っぽい話し方なんだろうな。

そんな事をふと考えたアタシはキッチンに歩いていくと、遙さんの体にピンクのエプロンを纏わせて朝ごはんを作り始めた。
目玉焼きとトーストしか焼けないけど。


つづく