「お、あの姉ちゃん。いいよなぁ。あっちにいるお姉さんも」
「相変わらずお姉さん好きだね、晴樹は」
「悪いか?」
「別にぃ〜。周りの女性ばかり見ないで、もっと私の事を見てよ。こんなに可愛い女の子と一緒に歩いているのに」
「俺が付き合ってやってるんだろ」
「またそんな事。そりゃ、私は晴樹の事が大好きだけど、晴樹も私がいなくなったら嫌でしょ」
「……まあな」
「私の事、愛してる?」
「それとこれとは別だって」

晴樹はセーラー服を着て腕に纏わり付いて来る稚香子(ちかこ)を見ながら否定した。
緑の髪にショートカットの彼女は、高校生としてはちょっと幼い雰囲気をしている。
元々お姉さん系が好きな晴樹には、タイプではない彼女だが、実は稚香子には他人には言えない秘密があった。
大好きな晴樹にだけ教えた秘密。
それは――


「なあ稚香子。今度はあのナース服を着たお姉さんがいいな」

晴樹の視線は病院の前、救急車を背にしてしゃがんでいる看護師に向いていた。
彼女はちょうど退院する男の子に笑顔で話しているようで、両手を胸の前に持ってきて丸を作っている。
会話を聞いていないので、それが何を意味しているのかは分からないが、男の子は嬉しそうに話をした後、両親と共に帰って行った。
その後姿を見送った看護師が、病院へと消えてゆく。

「ナースハットがすげぇ似合ってたな。きっとあの紫の髪は長いんだ。なあ稚香子、そう思うだろ」
「さあねぇ。私、わかんない」
「何、膨れっ面してるんだよ」
「だって最近、晴樹は私の秘密の事が利用したいだけで私と付き合ってる感じがするもん」
「……そんな事ないって。お前も十分可愛いんだから」

機嫌を損ねさせるのはいけない。
膨れっ面した頬に、チュッとキスをした晴樹。
その行為は、近くで歩いていた人たちの目をひいている。
他人に見られている中、キスをされるというのは嬉しくもあり、恥ずかしいもの。
ちょっとした行為で、稚香子の機嫌は直ったようだ。

「もう。調子いいんだから」
「俺、稚香子の事が大好きなんだって。秘密の事は世界中で二人しか知らない絆だろ」
「……うん、分かってる。私も晴樹が大好き!だから晴樹のしたい事、させてあげる」
「いいのか?」
「うん。じゃあ用意が出来たら電話するから」
「どのくらい掛かりそうだ?」
「そうね、あの人の波長とはちょっとずれてたから……でも2時間くらいあれば何とかなりそう」
「そうか」
「先に私の家に来てもらっててもいいんだけど、今日は親が早く帰ってくるかもしれないから」
「分かってるって。電話をもらってからいく事にするよ。上手くいかないときもあるしな」
「うん。じゃあまた」
「ああ」


稚香子は笑顔で手を振ると、自分の家に戻っていった。
その後姿を見送った晴樹。

「今回は上手くやってくれるかな?あの看護師と……電話がかかってくるのが楽しみだ!」

そんな事を呟いた晴樹も、一旦家に戻る事にした。


つづく