「ではこれから会議を始める」

部長のこの一言で会議は始まった。
廊下を歩き、突き当りを右に曲がった四つ目の会議室。
外の光は一切入らず、ライトグレーの大きな円いテーブルが蛍光灯の白い光に照らされていた。
そのテーブルには十個の椅子が並べられてあり、それぞれの椅子には部長を始め、他の課から集まった課長クラスの社員が座っていた。
もちろん、浩美と宮崎も。
誰も話さなければ、本当に静かな会議室。

「じゃあ奥田課長から始めてくれ」
「はい。それでは……」

声が少し響いて聞こえる感じで、部長の隣に座っていた奥田課長の説明が始まった。
全員に同じ資料が配られ、それを見ながら説明を聞く事になっている。
浩美の前にも、今説明をしている奥田課長や他の課長たちの資料が置いてあった。

机に肘を突き、その資料を両手で持つ浩美の息遣いはいつもと少し違う。
緊張して高揚しているのではなく……

先ほどまで続いていた乳房への刺激が消えた変わりに、今度は全身を這いずりだした「見えない両手」。
首筋を優しく撫でた後、10本の指の腹が背中の上から腰へと優しく、ゆっくりと降りてゆく。
たまらず背筋を伸ばし、その指のタッチから逃れようとする浩美。
しかし、胸の時と同様に、その感覚から逃れる事はできなかった。
腰まで降りた指が再び背中の上に移動すると、また下へと降りてゆく。
触れるか触れないか……そんな微妙なタッチで浩美の背中を愛撫する。

「……ぅっ……はぁ……はぁ……」

それは、浩美の全身を性感帯にしてしまうほどの絶妙な刺激だった。
しばらく背中を這っていた手は、浩美の肩をそっと掴むと、そのままジャケットの袖の中を移動してゆく。
二の腕を撫でられ、肘や腕を撫でられる。

「はぁ……」

ピクッ、ピクッと体を震わせる浩美。
その手は更に前へと移動し、ついに浩美の手の甲までやってきた。
もちろんその感触がするだけで、実際には見えない。
だが、見えない手は浩美の手の甲を優しくなぞった後、それぞれの指の間に割り込んできた。
ほっそりとした浩美の指の間に、指一本分の隙間が出来始める。
そして絡み合う指たち。
透明な指が、ぎゅっ、ぎゅっと浩美に手の甲ごと握り締めている。
机の上に置いている両手の指が、握られるたびに軽く動いているのが分かる。

あぁ……

意識が遠ざかってゆくような感じ。
手を握られているだけなのに、どうしてこんなに気持ちがいいんだろう?
こんな感覚、初めてだ。
力の抜けた浩美の手がゆっくりと手前に引かれ、ジャケットの胸元に添えられる。
そして、そのままゆっくりと円を描くように動き始めたとき、ハッと我に返った浩美が慌てて胸元から手を遠ざけた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

わ、私。今……何を……

見えない手に、浩美の手が操られていた事は分かっていた。
何時の間にか見えない手のいいなりになってしまっていた事に、悔しさと恥ずかしさでじわりと涙が滲んだ。
皆、資料に視線を落しているが、もしかしたら今の行為を誰かに見られたかもしれない。
そんな浩美の気持ちを無視するかのように、見えない手が浩美のお腹に移動した。
浩美を後ろから抱きしめている感覚。
優しくお腹を撫でまわした後、ゆっくりと下に降りてゆく。

「ぅっ!」
い、いやっ……

力いっぱい足を閉じた浩美。
見えない手は、タイトスカートの生地、肌色のパンストを通り越して直接浩美の太ももを撫で始める。
でも、太ももの上を円を描くように動く手は、決して内側に入ってこようとしなかった。
ゆっくりゆっくりと撫でた後、膝からふくらはぎへと移動する。
その瞬間、ぞわぞわっという寒気が浩美の全身を襲った。
そして、かかとからつま先まで撫でた後、フッと手の感覚がなくなったのだ。

「…………」

お、終わったの?

そう思ったとき、右足の親指の先に生暖かい感触を覚えた。
その感触が、親指全体を包み込む。

ひっ……

まるで、親指を口に咥えられた感じだ。
親指全体を温かさと滑りが包み込む。
そして、舌のような物が親指の腹をチロチロと舐め始めたのだ。

「ぅぅっ……」

こそばゆいのではない。
気持ちがいいのだ。
この蕩けるような気持ちよさは、男性では味わえない女性の特権。
本当に、体全体が性感帯になったように思える。
平静を装いながらも、その内面では快感に打ちひしがれている。
悟られまいと、必死に資料を読み返す振り。

ああ……そんなに舐めたら……んんっ

何時の間にか、見えない手がふくらはぎから太ももまでを優しく撫でている。
ぎゅっと閉じていた足も、力が入らなくなったのか徐々に開き始めていた。
そんな浩美の内ももに入り込んだ手は、次第に足の付け根へと動き始めたのだ。

だめっ!

理性を総動員して、太ももを閉じる。
しかし、もともと実体のない手は閉じた太ももに関係なく刺激を送り続け、そして更なる奥へと移動する。

だめっ、それ以上来ないでっ!

ギュッと目を閉じて拳を作った浩美。
するとその手は太ももの下に入り込み、お尻の方に回った。
そして、そのむっちりとしたお尻を、惜しげも無くもみ始めたのだ。
ムニュ、ムニュッと形を変えるお尻。
大事なところを触られなかったのは幸いだが、お尻を揉まれるのは嫌だ。
そうは言っても、見えない手は許してくれない。
何度も何度もお尻を揉み続けている。

「はぁ……ぅっ……」

お尻を左右に広げるような動きをする。
タイトスカートを穿いているため、それほど左右に開く事はないが、無理矢理親指で左右に開かれる感触は、浩美の顔を赤らめさせた。

「じゃ、次は吉原課長。進捗を説明してくれ」

不意に部長に話し掛けられた浩美。
見えない手との格闘に神経を集中させていた為、返事が遅れてしまった。

「おい」
「あっ……はい。す、すいません。それでは報告します」

慌てて自分が用意した資料に目を向け、説明を始める。

「ま、まず2枚目の資料を見ていただけますか。A社との契約ですが、担当者との会議を行った結果、目的の……」
「ん?どうした」
「……す、すみません……」

い、いやっ……

浩美は心の中で叫んだ。
今までお尻を揉んでいた手が、信じられない事にパンストを引き下ろし始めたのだ。
腰のゴムが掴まれ、そのまま強引に脱がせてゆく。

「おい」
「えっ……あ、あの……すいません。目的に達する契約を結ぶ事が出来ました」
「それから?」
「そ、それから……」


するっ……


必死の抵抗も空しく、パンストはお尻を包み込む事を拒否した。
そして、そのまま太ももを降りて、足首まで引き下ろされた。

こ、こんな……ひ、人がいる前で……

黒いローヒールが脱がされると、パンストは浩美の足から完全に離れた。
そして、素足にローヒールが履かされる。

浩美の説明に、部長は苛立っている様子。
浩美は同様を隠し切れないまま、足元に落ちたパンストを気にしつつも説明を続けた。
その間にも見えない手の悪戯は続く。
またブラジャーのホックが外れ、今度は肩紐の金具まで外されると胸から抜き取られた。
そして、ブラウスの裾がタイトスカートから手繰られ、出てきた裾の間からブラジャーが足元に落とされた。
その後、丁寧にブラウスの裾を元に戻される。
ついには……

だ、だめっ……そ、そんな……うう……

パンティまで脱がされてしまったのだ。
赤面し、言葉を詰まらせながらの説明に、呆れ顔の部長たち。

「はぁ〜。もういい。代わりに宮崎係長が説明してくれないか」
「はい。分かりました」

チラリと浩美を見た宮崎は、ここぞとばかり内容を説明する。
他人の前で下着を着けていないという異常な状態。
会議の事なんてまったく意識できない浩美は、ただ俯いてこの状況に耐えるしかなかった。
もちろん、未だに見えない手は浩美の体全体を弄っている。

はぁ、はぁ……こ、こんなの……ひ、ひどいよ……

心の中で悲痛な叫びをあげる浩美。
幽霊な何か得たいの知れない者の仕業か?
それとも、別の誰かの仕業なのだろうか?
浩美には全然分からなかった。



その後も、他の課長級の社員が次々に説明をしている。
活発なやり取りが行われる中、浩美だけは無言で俯いていた。
誰も気づいていないだろうが、気づかれるのではないかという不安ばかりが頭によぎる。

そういえば、脱がされた下着……

それだけは回収しなければならない。
そう思った浩美は、それとなくシャーペンを床の絨毯に落とすと、腰をかがめてテーブルの下を覗き込んだ。

あ、あれ……

そこのあるはずの下着が見当たらない。

ど、どうして?どこに行ったの?足元に落ちているはずなのに!

浩美の顔が青ざめた。
まさか、もう誰かに取られた!?
いや、誰もそんな素振りは見せていなかった。
どういうわけか、あるべきはずの下着がないのだ。

そ、そんな……うそでしょ

テーブルの下、必死に視線をめぐらせる。
しかし、どれだけ見ても下着は見当たらないのだ。

「何してるんだ?吉原課長」
「えっ……は、はい」

いつまでもテーブルの下を覗いている浩美を不思議に思った部長が問い掛けた。

「まったく。説明は出来ん、意見も出さん、おまけに集中して聞く事もせんとはな」
「す、すいません」
「いくら業績がいいからといっても、そんな態度じゃ課長の資格はないぞ」
「は、はいっ。す、すいませんでした」
「もっと会議に集中しろっ!」
「はいっ」

太ももの上に両手で拳を作り、何度も部長に頭を下げる浩美。
他の社員たちは他人の振り。
その中で、宮崎だけは含み笑いをしながら浩美を見ていた。

その後、30分ほど会議が続いた。
何とか会議に集中しようと、他の社員の説明に耳を傾ける。
しかし、見えない手が下着を着けていない胸を、太ももを、お尻を撫でまわすのだ。
更に見えない舌がうなじから脇の下、背中や乳房を優しく愛撫する。
でも、決して快感の急所を弄らない。
乳首の手前まで舐めると、そのまま別の場所へと移動するのだ。
下腹部や内ももは舐めるが、クリトリスや膣等には触れない。
とは言いながらも、膣の入り口と肛門の間に舌が這いまわっている。

はぁ、はぁ、はぁ……

理性で拒んでも、体はその動きを求めていた。
焦らされるもどかしさ。
いっそ、思い切り乳首を舐められたい。そしてクリトリスを弄られたい。
……いや。だめっ。そんな事されたくないっ!

説明している社員の方に顔を向けつつ、浩美はそんな葛藤と戦っていた。
そして、精神的にも負けそうになった時、ようやく1時間の会議が終わった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

口で大きく呼吸する。
部長を筆頭に、ぞろぞろと会議室を出てゆく社員たち。

「吉原課長。先に戻りますよ」
「え、ええ……」

宮崎の問いかけに、一言返事をした浩美は一人会議室にとどまった。
誰もいなくなったことを確認した後、そっと胸に手を伸ばして自ら愛撫しようとした浩美。

「……だめっ」

ギュッと手を握り締めた後、テーブルの下に潜って下着を探した。

「はぁ、はぁ……ど、どこ?どこに行ったの?」

何度見ても見当たらない下着。
そのまま5分ほど探したが、テーブルの下を始め会議室内で見つける事が出来なかった。

「……どうしてないの?」

途方にくれた浩美は、絨毯の上に女座りをした。

「あっ……」

今まで気づかなかったが、太ももの下に冷たいものを感じる。
会議室に誰も入ってこない事を確認した浩美は、絨毯に両膝を立てると顔を赤らめながらタイトスカートの裾をまくった。

「やだ……わ、私……」

椅子に座っていたときには気づかなかったのだろう。
タイトスカートのお尻の裏生地には、浩美の甘酸っぱい愛液が丸いシミを作っていた。
信じられないが、浩美はそれだけ感じ、「濡れて」いたのだ。

内ももにも愛液が少し垂れようとしている。

「…………」

そう言えば、生理が近いのでパンティには生理用のナプキンを付けていた。
だからパンティを穿いている間はナプキンが愛液を吸い込んでいたのだ。
と言う事は、あのパンティには愛液がたっぷり染み込んだナプキンがついたまま……

「や、やだ……そんなの人に見せられないっ!」

と思っても、そのパンティがどこにあるのか分からない。

「そんな。もしかして……誰かが……」

兎に角、オフィスへ戻ろうと思った浩美は身なりを整えると会議室を後にした――