最寄の駅に着いた浩美は、真っ先に女子トイレへと駆け込んだ。
兎に角、何がどうなっているのかを確かめなければならない。

息を切らせながらトイレの個室に入ると、ショルダーバッグを様式便器のフタの上に置いてテーラードジャケットの三つボタンを外す。
そして、白いブラウスのボタンを外すと、恐る恐るブラウスの生地を左右に開いてみた。

「なっ……」

予想していたとおり……というか、そこには異様な光景が広がっていた。
浩美の乳房は、まるで透明な手に揉まれているかのような動きをしていたのだ。
その乳房のへこみ具合から、数本の指だと判断できる。
そして、最初に思い切り掴まれたところが、少し赤くなっているのが分かった。

「ど……どうなってるの?」

自分の手で胸を抑えてみる。しかし、浩美の手とは関係なく胸が動いていた。
まるで透明人間に揉まれている様な雰囲気だが、その見えない手には実体がなく、浩美の手でその動きを止める事が出来ない。

「い、いや……」

ぎゅっと上半身を抱きしめた浩美。
腕の中で、まだ揉まれている二つの胸。
今の浩美には、この状況をどうする事も出来なかった。

「やだ……このまま会社に行かなければならないなんて……」

この状態で会議に出席、そして得意先へ出張しなければならないと思うと冷静さを保つ事なんて出来ない。

「病院……だめ、こんなの見せられない」

浩美にとっては、誰かに相談できるような内容ではない。
ましてや、男性に医者にこの状況を見せるなんて事、浩美の理性が許さなかった。
そう。彼女の性格からして、今の状況を隠し通すしかないのだ。

「…………」

歪にたわむ胸を見つめてぎゅっと目を瞑った後、後ろに回されたブラジャーを付け直す。
そして、ブラウスとジャケットのボタンを留めた。

「どうしよう……」

身なりを整え、ショルダーバッグを肩に掛けた浩美は、少し前かがみになりながら女子トイレを後にした。
その浩美の足取りはとても重かった――