久しぶりに超能力ネタを書こうと思いました。
なかなか他のジャンルでのネタが思い浮かばなくて(^^
気分転換です。


四六時中(1)

毎日恒例の満員電車。
いつの日か、運転手つきの高級車で通勤できるようになりたい。
そんな事を思いながら、吉原浩美は他の女性と共に女性専用車両に乗り込んだ。
ネイビーのテーラードジャケットに、お揃いの色のタイトスカート。
ライトブルーのカラーブラウスの襟をジャケットの上に出して、爽やかな雰囲気を漂わせている。
肩から提げている小さめの茶色いショルダーバッグが潰れそうなほどの混雑を鬱陶しく思いながら、彼女は他の乗客と共に電車に揺られ始めた。この混雑も15分ほど過ぎれば、座れるくらいに乗客も少なくなる。
それまでの辛抱だ。

浩美はショルダーバッグを握り締めながら、目の前にある吊り広告を眺めた。
女性誌の広告で、今流行のブランドアイテムを紹介するという記事。

あのブランドの服が欲しいな。今月の給料で買えるかしら?

欲しいものはたくさんある。
そして、今の浩美にはそれらを買う余裕が出来始めていた。

今月は幾らもらえるのかな?ちょっと楽しみ!

そんな事を思いながら、別の吊り広告に目を移した。


――浩美は、今月初めに辞令を受けた。
女性にしながら課長というポスト。いや、女性にしながらと言うのは偏見だが、男女平等になったとはいえ、そう言いたくなるくらい珍しいと言う事だ。
しかも、まだ28歳と言う若さ。そんな彼女の下には、女性社員を含めて15人ほどの社員が付く事になる。中には30代、いや40代で家庭を持つ男性社員もいる。そんな中で彼女が課長になれたのは、もちろん仕事の能力が長けていたから。残業や休日出勤して仕事をこなすのではなく、効率的に仕事を行える事が評価されたようだ。また、浩美のほっそりとした顔立ちにダークブラウンの少しカールがかったセミロングの髪は、美人と呼ばれる部類に入る。身長168センチ、上から89、56、85センチというスタイルもモデルに引けを取らないだろう。そんな彼女の容姿が、他企業に対して優位な契約を容易に結ばせる1つの武器でもあった。もちろん、その体を使って担当者を落したわけではないのだが。

着実に成果を上げ、先々月には特に大きな契約を結んだ浩美に対しての報酬が、係長を飛ばしての課長というポストだった。
現係長を含め、他の社員達は浩美が課長というポストに付く事を、納得せざるを得なかった。それだけの仕事をしているのだから。でも、だからと言って「はいそうですか」と頷ける社員ばかりではない。
年功序列という制度がまだ残っている会社は多い。そして、順番からして次は自分だと思っている社員だって少なからず存在する。そんな社員は、浩美が課長になることを望んではいないのだ。

能力主義と言えでも、俺達はこの会社のために長年頑張ってきたじゃないか。
それなのに、ちょっと仕事が出来るからっていきなり課長かよ!

そんな声が密かに囁かれている事に、浩美は気づいていなかった。
更に、課長となった浩美は部下に対する要求が厳しいのだ。
他の社員が自分と同じように出来ると思っているのかもしれないが、特に年上の男性社員に対しては厳しい事を要求している。

「これくらい出来るでしょ。だって私よりずっと長い間働いているんだから」
「あ、ああ。す、すいません。吉原課長」

年下の女性に見下されるなんてな……

こんな会話がオフィス内に聞こえてくるのだった――



「ふぅ」

多くの乗客が雪崩のようにホームへと流れてゆく。
ようやく混雑から開放された浩美は、空いた長椅子に腰掛けるとショルダーバッグをタイトスカートの上に置いて中から黒いスケジュール帳を取り出した。

「今日の予定はどうだったかしら?」

アナウンスの後、電車が動き出すのと同時にスケジュール帳を開く。
今日は9時30分から会議が入っている。そして、その後は得意先へ出向いての打ち合わせ。

今日はそれほど忙しくないわね。

そう思った浩美はスケジュール帳を仕舞うと、自分の横にショルダーバッグを置いた。もちろん、盗まれないように肩紐に腕を通しておく。
会社の最寄の駅までは、まだ30分ほどある。
浩美はいつものように、この時間を利用して仮眠を取り始めた。

そんな浩美に怪しげな視線を送る男性が一人。
女性専用車両の隣の車両からじっと見つめていた男性は、不敵な笑みを浮かべた。
そしてこの後、信じられないような事が浩美を襲い始めるのだった――