それからしばらく経過して、恵美の家――

バタン……

じっと紀子の部屋に篭り、ベッドの上で寝転がっていた紀子(恵美)は、隣にある恵美の部屋の扉が開いた音に気づいた。
どうやら恵美(紀子)が帰ってきたようだ――

「…………」

元はといえば、自分が勝手に紀子の身体を使って好きな事をしたのだ。
だから悪い事は分かってる。
でも、紀子が恵美のフリをしてあそこまで白をきった事に腹を立てている紀子(恵美)は、恵美(紀子)が謝りにくるまで自分から動くつもりは無かった。


すると、しばらくしてコンコンと扉をノックする音が。

「……何?」

紀子(恵美)は、ぶっぴら棒に返事をした。

「恵美?」
「えっ?お母さん?」

「恵美」と扉の向こうから聞こえてきたのは、母親の声だった。
しかも、紀子とは言わずに恵美と言ったのだ。

「恵美なんでしょ、入るわよ」
「う、うん……」

扉が開くと、1階のリビングにいた母親の姿が現れた。

「お母さん、私……」
「……紀子の姿をしているけど、本当は恵美なんでしょ」
「……どうして分かったの??」
「だって、恵美のお母さんだもの」
「…………」

ベッドに座っている紀子(恵美)の横に座った母親は、紀子の背中をやさしく擦りながら話を始めた。

「実はね、さっき紀子から聞いたの。二人の身体が入れ替わってるって」
「……やっぱり私の身体にはお姉ちゃんが入っていたんだ」
「そうね。でも、元々恵美が紀子の身体に乗り移ったらしいわね」
「……うん」
「どうして?」
「……夕べのことなんだけど……」

紀子(恵美)は、夕べからこれまでの事を母親に全て話した。
もちろん、恥ずかしい事も。

「そうなの。それなら紀子が怒るのも無理ないわ」
「うん……でも、でもねお母さん。お姉ちゃんたら……」
「分かってるわ。でも紀子に身体を返してほしいなら、先に身体を乗っ取った恵美から謝らないと」
「…………」
「紀子もすぐに許してくれるわよ。ねっ」
「……私から謝るの、ちょっと嫌だけど……」
「ねえ恵美」
「何?」
「紀子の身体から、どうやって抜け出せるのか分かるの?」
「……実は分からないの。簡単に抜け出せると思ったんだけど……」
「それなら尚更謝らないとねっ!クスッ」

母親はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

「お母さん……」

よく分からないが、何となく違和感を覚えた紀子(恵美)だった――