十分ほど経っただろうか?

「ごめんね優奈。もうちょっとだけ待ってくれる?」

 その声に振り向くと、葵と秋生が二人して歩み寄ってきた。

「あ、ううん。別にいいけど」

「三木畑君、多目的トイレで必死になってスーツを着ているわ」

 微笑みながら優奈の隣に座った葵は、「優奈は絶対にOKしてくれると思うわ」と言った。

「お姉ちゃん……私ね。今、お姉ちゃんが言った【必死になってスーツを着ている】って言葉で無理だと思った。だって三木畑さんって、お姉ちゃんとあんなに身長差があったし、体格も全然違ってたじゃない。私はお姉ちゃんに長谷岡さんと旅行に行って欲しいと思ってるよ。これは嘘じゃないから。でも……」

「ごめんね優奈ちゃん、心配かけて。それに、無理に協力してくれって頼んで」

 姉の隣に座った秋生は、彼女の膝上にあった手に、自分の手を添えながら申し訳なさそうに言った。

「あ……いいえ。私は親にバレなければいいだけなんですけど」

「なあ葵。こんなに優奈ちゃんが心配しているんだ。旅行は延期しようよ。また二人で貯めればいいだけだし、就職しても休みは取れるから」

「えっ。でも私……」

「もしダメなら、三木畑と二人で行って来てって言ってたけど、俺は葵と行きたいからさ」

 その言葉に、葵は何かを思いつめる様に暫く沈黙した。そして、天井を見つめながら「ふぅ〜」と大きく息を吐いた。

「……そうね。予約もしていたし、日が近づくと次第に嬉しくてなっちゃって……。二人で一年間、頑張って貯めたお金だったし。ごめんね優奈。私、大学生の間にどうしても秋生と思い出を作りたいと思って、焦ってたみたい。優奈の気持ちをきちんと考えてなかったね」

「お、お姉ちゃん。何か私のせいで二人の旅行がダメになっちゃったみたいで……」

「あっ……ごめん優奈ちゃん。そういう意味じゃないんだ。俺達が優奈ちゃんを巻き込んで、こうなっただけだからさ。元々、俺達の旅行を優奈ちゃんに決断させるなんておかしいんだ。だから、ほんとに気にしないで」

 そう言った秋生のスマートフォンから着信音が鳴った。

「ああ、三木畑か。悪いな、準備してもらったんだけど、旅行はまた改めて行く事にするよ。やっぱりリスクが高いし、バレた時が大変だからさっ」

 彼が三木畑と話している間、少し落ち込んでいる優奈の肩を引き寄せた葵が、「ねえ優奈。今度は家族旅行を計画しようよ。秋生も一緒にね。それまでに、秋生を父さんと母さんに紹介するよ」と囁いた。

「家族で?」

「そう。それならみんな、OKを出してくれるでしょ!」

「……そうだね。多分だけど」

「優奈も来年は大学に行くんでしょ? 大学に行っている間に家族旅行が出来るよう、秋生と私と優奈でいっぱいお金を貯めようね」

「あ……うん。お姉ちゃん……ごめんね、折角の旅行だったのに」

「いいのよ。流石に妹を困らせてまで、自分達だけ楽しむなんて出来ないから……って、さっきまで、そうしようとしてたんだけどね!」

 葵が笑うと、優奈もつられて笑った

「三木畑と話したんだけど、折角だから優奈ちゃんに見てもらってから変身スーツを脱ぎたいんだってさ。優奈ちゃん、構わないかな?」

「あ、はい。私もどんな感じか見てみたいです」

 優奈はそう言った後、思わずプッと吹き出してしまった。

「何笑ってるのよ。三木畑君の姿を想像したんでしょ。でも、見たらきっと驚くわよ。じゃあ、私はここで待ってるから、二人で見に行ってくれる?」

「ああ、分かった。じゃあ優奈ちゃん、行こうか」

「はい。ちょっとテレビでよくやっている特殊メイクを思い出しちゃって」

「なるほど。特殊メイクだと表情が上手く表現出来ないかもしれないからね。それよりはマシだと思うけど」

 秋生の話に頷いた優奈は、葵に手を振りながら、キャリーバッグを引く秋生と歩いて行った。

「優奈、どんな反応をするかな?」

 クスっと笑った葵は、肩に掛けていたショルダーバッグから手鏡を取り出すと、軽く化粧を整えた――。



……と言う事で、ブログでの掲載はここまでです。
以降はtoshi9さんのTS解体新書で秋ごろから始まる「令和元年変身モノ祭り」に掲載して頂きます。ストーリーは決めていますが、皮モノとしてハァハァ出来る内容に仕上げる事が出来たらいいなぁと思っています(^^
さて、優奈は三木畑の変身っぷりにどんな表情をするのでしょうかぁ〜(笑