最も混雑するお盆休みを来週に控えた火曜日。それでも空港のロビーはたくさんの人で賑わっていた。

 【空港のロビーで十時に待ち合わせをしよう】そう姉妹で決めていた。少し早めに来ていた優奈がロビーのベンチに座っていると、白いTシャツに水色のハーフパンツ姿の姉が、キャリーバッグを転がす二人の男性と共に近づいてきた。

 それに合わせて立ち上がり、軽く会釈をする。

「初めまして優奈ちゃん。お姉さんとお付き合いさせてもらっている長谷岡 秋生です」

「あっ……初めまして。妹の優奈です」

「今日は俺達の我儘を聞いてくれてありがとう。優奈ちゃんのおかげで、素敵な旅行が出来そうだよ」

 姉にスマートフォンで見せてもらっていたが、目の前で見上げる彼氏は優奈が見ても格好よく、美人の姉とお似合いに見えた。

 外見からしモテるだろうから、軽い性格かと思っていたが、丁寧な挨拶をされて面喰ってしまった。

身長は一八〇センチ以上あるだろうか? 結構背が高い姉と比べても、頭一つ分以上の差がある。姉が結婚したら、この人がお義兄さんになるんだ――そんな事を瞬間的に思った。

そして、二人の隣にいる男性。きっと彼が三木畑という人だろう。

「優奈、彼が三木畑君。この前、話をした人よ」

 葵が優奈に紹介すると、彼は笑顔で話し掛けてきた。短髪で嫌味の無い、人懐っこそうな顔立ちだ。

「こんにちは、優奈ちゃんって呼んでいいかな。僕が三木畑です。暫くの間、よろしくね」

「あの……」

 優奈は、三木畑を見ながら戸惑いを見せた。秋生よりも背は低いが、それでも姉との身長差は十センチ以上ある。スポーツをしているのか、黄色いポロシャツを着る肩幅はかなり広く感じた。どう考えても、彼が葵の姿になるとは思えない。

「優奈。三木畑君には私の部屋や服を自由に使ってもいいって話してるから、色々と教えてあげてね。私からも出来るだけの事は話しているけど、分からない事も多いと思うから」

「えっ。あっ……ちょっと待ってお姉ちゃん。勝手に話を進めないでよ。私はまだ……」

 戸惑いを隠せない優奈に、三木畑が声を掛けた。

「ははっ、そうだよね。僕の姿で話をしても、優奈ちゃんが混乱するだけだ。準備してこようか」

「そうね。優奈、ちょっと待っててくれる?」

「お姉ちゃん。何か私、すごく不安で仕方ないんだけど。それに、その三木畑さんにお姉ちゃんの部屋を見せるの? それにお姉ちゃんの服って……」

「ふふっ、優奈が心配している事は分かるわ。でも別にいいの。秋生も気にしてないし」

 姉が秋生と笑いながら頷き合っている。そして、優奈の耳元で囁いた。

「あのね優奈。私が親に内緒でヌードモデルのバイトをしている事、知ってるでしょ。三木畑君、デッサンに来てるの。私の裸を全部見られているのよ。だから、今更隠すような事は無いの。秋生と三木畑君、幼馴染で親友だしねっ」

 親友なら自分の彼女の全てを見せても平気なのか? 下着なんて絶対に見られたくないと思うけど。

これが大人の事情というやつか――。

 優奈は、自分が知らない世界を聞かされているような気がした。

「兎に角、まずは優奈ちゃんに納得してもらわないと」

「うん。じゃあ優奈、ここで待っててね」

 そう言うと、三人は何処かに歩いて行った。

「なんか、私だけ子供扱いされた感じ。私だっていつまでも子供じゃないんだけど」

 そう思いながら、巨大なガラス越しに見える滑走路の景色を眺めた――。