geocitiesのサービスが来年3月で終了とのことなので、「まぐりょの日記」に掲載していた作品をブログに移動しました。
気力と時間が無いので、いつかシナリオ調の文章を修正したいものです。

梅雨もそろそろ明けそうな、ある晴れた日。
じわじわと蒸し暑さを感じる今日は、昨日一日中雨が降っていたせいで、不快指数85%以上ありそうな湿気を漂わせていた。
県立藤川高等学校。
県内ではそこそこのレベルの高校で、生徒数もかなり多い。
まだ出来て数年しか経っていない校舎は、外から見るとまだ白く輝いているようだった。
ただ、校舎の中は肌に感じるような湿り気があることを誰もが感じている。
まるで冬に部屋を閉めきっているときのように、壁に水滴が見える。
廊下もまた同じで、少し湿った感じがする。
どうもこの校舎は風の通りが悪いようだ。
その学校に昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
 
 
キーンコーンカーンコーン!
 
 
田辺:「それじゃあ今日はここまで。ちゃんと復習しておくように」
 
教卓で教科書をトントンと鳴らしながら今日の授業を締めくくる言葉を口にした。
生徒達が椅子から立ち上がり、礼をする。
それを見とどけた田辺先生は、教室の前の扉から廊下に出て行った。
 
田辺:「暑いな・・・・」
 
背広を着ているせいもある。
田辺先生は、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、歩きながら額の汗を拭いた。
田辺則助、46歳。
結婚し、今教えてくる生徒と同じ18歳の一人娘がいる。
家庭円満・・・そう、今の田辺には悩み事など一つも無い。
則助はこの学校が出来たときに、隣接する高校から転任してきた。
転任してきた事により、家からは近くなったので喜んでいる。
それに、前の学校に比べて生徒の人間的な「質」・・・はよかった。
前の学校はかなり最悪だったので、ここに来たときはまるで天国かと思ったくらいだ。
いい事尽くめの田辺だったが、今日、彼の身に大変な事態が起こる事になる。
昼休み、生徒達はいち早く食堂に向かうために教室を飛び出して廊下を走る。
まあ、一人二人なら注意すればいいのだが、クラスの半分以上が食堂を利用するので
各階、5クラスの生徒が一斉に廊下を走り出すともう手をつけることが出来ない。
といっても、これはいつもの事なのだが・・・
則助は一斉に出てきた生徒達にまぎれながら廊下を歩いていた。
始めはやはり男子生徒が勢いよく走っていく。
で、その後に女子生徒が数人の束になって走っていくのだ。
これもいつもの光景。
則助はため息をつきながら階段をゆっくりと降りて行った。
残り4段ほどで降り切ろうとしていたとき。
後ろからバタバタと足音を立てながら2〜3人の女子生徒の声が近づいてきた。
 
女子生徒:「早く早くっ!あのパンが売り切れちゃうよ〜っ。」
小代里:「分かってるって。そんなに押さないでよ、滑るんだからっ・・・・・あっ!」
女子生徒:「きゃっ、小代里っ!」
小代里:「きゃあああ!」
 
後ろの声に、とっさに振り向いた則助。
目の前にはダイビングをしているかのような女子生徒の顔が・・・
 
則助:「っ!」
 
声を出す暇も無かった。
小代里に体当たりされた則助は、二人で仲良く廊下に転げ落ちた。
則助の手から離れた教科書と名簿が床を滑るように移動し、少し離れたところで止まる。
 
女子生徒:「小代里っ!」
女子生徒:「田辺先生っ!」
 
女子生徒二人があわてて階段を駆け下りる。
則助も小代里も気を失っているように見える。
しかし、女子生徒達が階段を降り切った時、則助の上にかぶさるように倒れていた小代里がむくっと
身体を起こした。
そして、その下の則助も目を覚まし、頭を押さえながら身体を起こす。
 
女子生徒:「大丈夫?」
 
女子生徒達が小代里に声をかけると、
 
小代里:「こらぁ!危ないじゃないかっ!廊下や階段は走るなと言ってるだろうがっ!」
女子生徒:「こ、小代里っ。やばいよ、ぶつかったのは先生だよ。」
 
女子生徒達は、小代里が則助に向かって怒鳴ったので驚いている。
 
女子生徒:「さ、先に行ってるね。」
 
自分達も怒られかねないと思った女子生徒二人は、逃げるようにその場から離れていった。
 
小代里:「まったくあいつらときたら・・・・おい、大丈夫か?」
 
腹立たしい気持ちを抑えながら、ぶつかった女子高生に初めて声をかけた・・・・はずだった。
しかし、目の前には見慣れた灰色の背広を来た・・・・則助自身がおろおろした目でこっちを見ている。
 
小代里:「えっ!」
 
思わず声を上げる。
 
則助:「あ・・・・わ、私・・・・・」
小代里:「な・・なんで俺が・・・・目の前に・・・・」
則助:「ど、どうして・・・」
小代里:「どうなっているんだ!」
 
その時、お互いに自分が出している声がいつもと違う事に気がついた。
そして、いつもの自分にそぐわない服を着ていることも。
 
則助:「どうして私が目の前にいるのっ?」
小代里:「それは俺の言いたい事だっ!」
則助:「なんなの?私、もしかして田辺先生になっちゃったの?」
小代里:「お、俺は・・・・・・・俺は誰なんだ?」
 
二人が座り込んでいる横を、まばらになった生徒達が気にするわけでもなく通り過ぎていった・・・・
お互いが目の前にいる自分の姿に戸惑い、何がどうなっているのか理解できないまま・・・
でも、このままではマズイと感じた二人は、床から立ち上がって周りをキョロキョロと見回した。
則助(小代里):「わたし・・・先生の身体になってるんだ・・・」
小代里(則助):「俺は・・・女子生徒か・・・」
則助(小代里):「あ、あの・・私・・・私です。、南出 小代里です。先生のクラスの。」
小代里(則助):「南出 小代里・・・・・あっ、み、南出なのかっ!」
則助(小代里):「はい。一体どうなっちゃったんですか?」
小代里(則助):「お、俺にも分からん。なぜ身体が入れ替わってしまったんだ。」
則助(小代里):「どうなっちゃったの・・・」
小代里(則助):「分からんのだ。とにかく別の場所に移動しよう。ここではまずい。」
則助(小代里):「はい・・・」
 
 
とにかく二人は校舎を出ようと思い、廊下を歩き出した。
 
 
則助(小代里):「い、痛いっ!」
小代里(則助):「どうしたんだ?」
則助(小代里):「右足の膝が・・・」
小代里(則助):「さっきお前がぶつかってきた時に痛めたんだな。ゆっくりなら歩けるか?」
則助(小代里):「は、はい。」
小代里(則助):「じゃあ、俺の後について来い。」
則助(小代里):「はい。分かりました。」
 
それは非常に不自然な会話だった。
どうして女子生徒の小代里が先生に向かって、えらそうにタメ口をきいているんだろう。
しかも命令口調で。
田辺先生も、それが当たり前のように受け答えし、敬語まで使っている。
他の生徒が聞けば、まるで田辺先生が小代里に弱みを握られているかのように聞こえる。
幸い、今はほとんど廊下を歩いている生徒はいない。
なんたって自分達の昼食の時間なんだから。
みんな教室や食堂に行って食べているところ。
二人は運がよかった。
 
則助(小代里)は、小代里(則助)の後を右膝を擦りながら廊下を歩き、校庭に出る。
小代里(則助)は、則助(小代里)が少し顔をゆがめて右膝を擦りながら歩いているのをチラチラと見ながら
先導するように人影の無い校舎裏に向かった。
則助(小代里)のことは気になっていた。しかし、それよりも、今、自分が小代里の姿になっていることに
とても奇妙な感覚を覚えているのだ。
スカートのせいで、太もものあたりがスースーする。歩くたびにスカートの生地が足にまとわりつくような感じだ。
ズボンを穿いていた時よりもはるかに涼しい。
次に気になったのはやはり胸。
前足を地面に付けるたびに、その振動で微妙に胸が揺れる感じがする。
たまに後ろに歩いている則助(小代里)を見たあと、前に向くときに何気なく胸に目線を落とす。
小代里の身体に付いている二つの胸は、歩くたびに白いブラウスの中で上下に揺れているようだった。
あとは、ショートカットの短い髪が耳を覆いかぶさるように伸びている事。
振り向くたびに、目の前にちらつくそのストレートの髪からは、女性ならではの心地よいシャンプーの香りが漂っていた。
そんな事を思いながらも、外面は平然とした態度で歩いているのだった。
少し歩いた二人は、校舎裏で日陰になっている場所に辿り着き、コンクリートで出来ている壁にもたれかかった。
 
小代里(則助):「大丈夫か?」
則助(小代里):「はい。大丈夫です。」
 
則助(小代里)の額には汗がにじみ出ている。
 
小代里(則助):「どうしたものだか・・・」
則助(小代里):「・・・・・」
小代里(則助):「・・・・・」
 
しばらくの沈黙の後、則助(小代里)が口を開いた。
 
則助(小代里):「・・・どうなっちゃうの・・・・」
 
小代里(則助)が則助(小代里)の顔を見ると、目から涙が零れ落ちるところだった。
 
小代里(則助):「お、おい・・・・泣かないでくれよ。俺だって泣きたいくらいなんだから。」
則助(小代里):「だ、だって・・・グスッ・・・・なんで先生の身体に・・・・」
小代里(則助):「だから、俺だってどうしようもないじゃないか。とにかく今日一日、何とかしなければ。」
則助(小代里):「ううっ・・・・」
小代里(則助):「と、とにかくだ。ほかの人にバレないように気をつけよう。」
則助(小代里):「グスッ・・・・」
 
ああ・・・・俺の泣き顔ってこんなに不細工なのか・・・・
こんな状況でも、そんな風に思えるくらいだから大した度胸だ。
 
小代里(則助):「お前、俺が普段話しているような喋り方、できるだろ。」
則助(小代里):「・・ヒック・・・ヒック・・・グスッ・・・」
小代里(則助):「とりあえず足を怪我したって理由で、後の授業は自習ってことにしよう。今日は後1時限で終了なんだから。」
 
則助(小代里)は泣きながらうなずいた。
 
小代里(則助):「それから、授業が終わったらすぐにここに集合すること。そのあと、お互いの家族にはこの事をちゃんと伝えるから。」
則助(小代里):「ええっ。父さんや母さんに言うの?」
小代里(則助):「当たり前じゃないか。でないと、どうやって家に帰るんだ。バレないはずないだろ。」
則助(小代里):「そんな・・・・先生の身体で家に帰るなんて・・・私、嫌です。」
 
則助の体もえらく嫌われたものだ。
 
小代里(則助):「じゃあ、お互いの身体にあった家に帰るのか?そんな事出来ないだろ。お前は俺じゃないんだから。」
則助(小代里):「そ、そんな事言われても・・・・」
小代里(則助):「大丈夫。そのうち戻れるさ。」
則助(小代里):「どうやって戻るんですっ。戻れるなら今戻してくださいっ。」
小代里(則助):「だ、だから・・・今は分からないだろ。お前と俺とは同じ状況なんだから。」
則助(小代里):「嫌よ・・・こんな事・・・」
小代里(則助):「・・・・・」
 
またしばらく沈黙が流れる。
 
小代里(則助):「・・・・・・と、とにかくだ。今は俺たちだけしか知らないんだから。この秘密がバレないようにしないと。そうだ。お前、まだ飯食ってないんだろ。俺が買ってきてやるから。背広の内ポケットに財布が入ってるだろ。それを取ってくれ。」
 
そう言われ、則助(小代里)は背広に右手を突っ込んで、内ポケットから財布を取り出して小代里(則助)に渡した。
誰にも見られていないだろうな・・・・これじゃあまるで俺が女子生徒に恐喝されているみたいだからな・・・
財布から1000円札を取り出したあと、再び則助(小代里)に財布を返す。
 
小代里(則助):「ちょっとまってろ。今、パンでも買って来てやるから。絶対そこを動くなよ。」
 
そう言い残し、小代里(則助)は食堂に走っていった。
則助(小代里)はその場にしゃがみ込み、頭を手で包み込みながら泣いていた・・・・
 
 
 
 
小代里(則助):「はぁっ。はぁっ・・・・すごいな。この子の身体は。」
 
走って食堂に向かう小代里(則助)は、その若々しい女性の身体を全身で実感していた。
これだけ走ってもほとんど息が上がらない。
軽々と足が前に出るのだ。
すごく身体が軽くなった気分がする。
それに・・・・ブラウスの中の胸が上下に激しく躍っているのだ。
それも、自分が走るリズムにあわせて。
担当するクラスの中では、少し幼げな雰囲気をもつ生徒。
元気よく振る舞う彼女は男女問わず、誰とでもでも仲良く出来る性格。
ほとんど授業中でしか知らないが、悪いうわさを聞いた事は無かった。
少し茶色がかったショートヘアーに、最近流行のアイドルグループに出てくるような
かわいい顔立ち。
もちろん制服と体操服姿しか見たことが無いが、その体つきは・・・・女の子ではなく、明らかに女性として扱う必要があった。
そんなことを思いながら、食堂に辿り着く。
中では多くの生徒達が定食や、うどん、カレーなどを食べている。わざわざ弁当をここまで持って来て食べている生徒もいた。
小代里(則助)は、出来るだけ他の生徒を避けるように適当なパンとコーヒー牛乳を二つ取って、食堂のおばちゃんの所に
持っていった。
 
おばちゃん:「はい。560円ね。」
 
小代里(則助)は無言で1000円札を渡したあと、袋に入れてもらったパンとコーヒー牛乳、おつりを受け取りその場を後にしようとした。
しかし、不意に後ろから誰かに肩を叩かれる。
ビクッとして後ろを振り向くと、さっき小代里と一緒にいた女子生徒が立っている。
 
女子生徒:「遅かったね。こっぴどく叱られてたんだ。」
小代里(則助):「・・・・・」
女子生徒:「あっちに小代里の席も取ってるから。いこっ!」
小代里(則助):「・・・・・」
女子生徒:「んっ?どうしたの?」
 
小代里(則助)は、完全に固まってしまっている。
一体なんて話せばいいんだ?
そんなことも知らず、女子生徒は小代里(則助)の腕を掴んで、席に向かおうと引っ張り始めた。
それに逆らうように、思わず足に力が入る。
 
女子生徒:「小代里?」
小代里(則助):「あっ、あのっ・・・・・・」
女子生徒:「なに?」
小代里(則助):「ご、ごめんっ!」
女子生徒:「えっ!?」
 
小代里(則助)は、女子生徒の手を払いのけて食堂の外に走っていってしまった。
 
女子生徒:「小代里・・・・」
 
一体どうしたんだろうか・・・
よっぽどきつく叱られて、気分が乗らないのかと思った女子生徒。
少し気になりながらも、席に戻ってほかの女子生徒と一緒に昼食を取り始めた・・・
 
小代里(則助)が額に汗をかきながら走る。
この汗は・・・・走ってかいた汗ではなく、冷や汗だ。
 
小代里(則助):「まずいよなあ・・・・」
 
小代里の友達に対して、上手く対応できなかった。
バレてしまっていたらどうしよう・・・・
そんな気持ちが頭によぎる。
 
 
 
小代里(則助):「はぁ、はぁ、お・・・お待たせ。」
 
校舎裏に辿り着いた小代里(則助)は、うずくまっている則助(小代里)に
袋の中からパンとコーヒー牛乳を取り出して渡そうとした。
 
小代里(則助):「さあ、とりあえず食べてくれよ。」
 
うずくまっていた則助(小代里)がゆっくりと顔を上げる。
もうく涙と鼻水が混じってしゃくしゃの顔になっていた。
 
小代里(則助):「はぁ・・・・あのなあ。そんなになるまで泣く事は無いだろ。」
則助(小代里):「先生・・・・私たち、もとに戻れるの?」
小代里(則助):「だ、だからそれは・・・・」
則助(小代里):「もう一生このままなのかなあ・・・」
小代里(則助):「・・・・」
則助(小代里):「もうみんなと楽しくおしゃべりする事も出来ないのかなあ・・」
小代里(則助):「・・・・」
 
なんて言って慰めてやったらいいんだろう。
元にもどれる保障なんて一つも無い。
彼女がこのまま俺の姿で生きていくなんて無理なこと。
小代里(則助)は言葉を失ってしまった。
 
則助(小代里):「・・・・でも・・・・・先生も同じだもんね。」
小代里(則助):「えっ。」
則助(小代里):「先生だって私と同じ立場だから。」
小代里(則助):「あ、ああ・・・」
則助(小代里):「私一人が辛いわけじゃないんだもん。」
小代里(則助):「そ、そうだな。同じ立場だからな。」
則助(小代里):「・・・・先生も・・・・私の身体になって嫌でしょ。」
小代里(則助):「・・・・」
則助(小代里):「いいですよ。正直に言ってもらって。」
小代里(則助):「・・・・そ、そりゃあ先生は男として生まれてきたからなあ。まさか女の身体では生きていけないし。」
 
その答えは半分正解、半分不正解だった。
すでに則助は女性の身体の魅力に少しづつ気付き始めていたのだから。
 
小代里(則助):「俺には家族がある。家内や子供を養っていかなければならないだろ。こんな事になって、どうやっていけばいいのか見当もつかないさ。」
則助(小代里):「私もです。先生の身体になっちゃって、どうやって生活していけばいいのか・・・」
小代里(則助):「・・・・少し落ち着いたか?」
 
コクリと頭を下げる則助(小代里)。
 
小代里(則助):「じゃあ、ズボンのポケットにあるハンカチで顔を拭いてこれを食べろ。先生のおごりだ。」
 
則助(小代里)がハンカチで顔を拭いたあと、包装しているビニールからパンを取り出して食べ始めた。
小代里(則助)もほっとしてパンをかじる。
 
則助(小代里):「このパン、あんまり美味しくないですね。」
小代里(則助):「そうか?結構うまいと思うけどな。」
則助(小代里):「そうですか。あまり味がしないなあ。」
小代里(則助):「・・・・・もしかして・・・」
則助(小代里):「はい?」
小代里(則助):「それは多分、俺の身体のせいだ。」
則助(小代里):「先生の身体のせい?」
小代里(則助):「ああ。先生はタバコを吸うからな。結構舌の感覚が鈍くなっているのかもしれないな。だって、お前の身体で食べるこのパン、すごく美味しく感じるぞ。」
則助(小代里):「身体が変わると味覚も変わるんですか?」
小代里(則助):「それは分からない。でも、今はそんな感じがするな。そう思わないか?」
則助(小代里):「なんとなく・・・」
小代里(則助):「まあ、お前が俺の代わりになるんだったら、しばらくタバコは吸わんだろう。お前はタバコ吸ってないよな。」
則助(小代里):「す、吸ってないです。」
小代里(則助):「ははっ。ちょうど禁煙が出来るな。家内から禁煙しろって言われていたところなんだよ。」
則助(小代里):「あの、先生。私の身体でタバコなんか吸わないで下さいよ。」
小代里(則助):「分かってるさ。大事な生徒の身体なんだ。そんなことするわけ無いだろ。」
則助(小代里):「そうですよねっ。」
小代里(則助):「当たり前じゃないか。」
 
 
・・・・こうして二人はパンを食べてコーヒー牛乳を飲み終えた。
そして、お互いの振る舞い方について急いで話し合った。
もうお昼休みは5分しかないのだから。
 
 
則助(小代里):「要するに、偉そうに話せばいいんですか。」
小代里(則助):「ま、まあそういうことだ。しゃべってみろ。」
則助(小代里):「は、はい・・・・お前はサボりすぎなんだ。もう少し勉強しろ。」
小代里(則助):「そうそう、そんな感じだ。なかなかやるじゃないか。」
則助(小代里):「だって、先生。授業の時いっつもこんな風に言ってるじゃないですか。」
小代里(則助):「そんなに偉そうに言ってたか?」
則助(小代里):「言ってますよぉ。」
小代里(則助):「そ、そうか・・・とにかく、職員室に行ったら俺の席は知ってるだろ。その机に次の授業の教科書があるから。それと今もっている名簿をもって教室に行くんだ。その後、みんなの前で今日は自習だと言えばいい。お前ら、それだけで大喜びするだろ。」
則助(小代里):「・・・後は・・・・・・」
小代里(則助):「保健室にでも行って休んでろ。たぶん足をねじっているだろうから、ちょっと保健の先生に診てもらってくれ。帰りは車を運転しなければならないからな。あとは、保健室で時間をつぶすのもよし。職員室で時間をつぶすのもよし。他人としゃべりたくなかったら適当なところにいればいいさ。授業が終わる時間になればここにいればいいんだから。」
則助(小代里):「そんなんでいいんですか。」
小代里(則助):「いいんだよ。大しておかしいとは思われないさ。」
則助(小代里):「じゃあ、先生の方は大丈夫ですか。」
小代里(則助):「ああ、さっきは失敗したけどな。言い忘れてたんだが、さっき食堂でお前の友達に声をかけられてな。ほら、あのお前と一緒にいた二人だよ。」
則助(小代里):「律っちゃんとノブッぺ・・・・です。」
小代里(則助):「律っちゃんとノブッペ・・・・っていうのか。」
則助(小代里):「別のクラスの生徒だから・・・先生、ほとんど知らないと思いますよ。髪の長いほうが律っちゃん。短い方がノブッペです。」
小代里(則助):「じゃあ、授業中は関係ないんだな。あの二人は。」
則助(小代里):「はい。部活で一緒の子達なんですよ。」
小代里(則助):「なるほどな。まあ、うちのクラスの生徒なら何とかなるか。」
則助(小代里):「あの・・・・私の身体で友達に怒鳴ったりしないでください。お願いします。」
小代里(則助):「わかってるさ。でも先生、なんだか若返ったみたいな感じがするぞ。」
則助(小代里):「だって18歳だもん。」
小代里(則助):「そっか。先生46だから26歳も若返ったな。はははは。」
 
キーンコーンカーンコーン!
 
予鈴のチャイムが鳴り響く。
 
小代里(則助):「さあ、行こうか。」
則助(小代里):「先生、本当に大丈夫ですか?」
小代里(則助):「んっ?大丈夫だよ。みんなとちゃんと話せるもんっ。」
 
やや無理がある気もするが、二人はそれぞれ教室と職員室に戻っていった・・・・
さて、職員室に入った則助(小代里)は・・・
 
周りをキョロキョロしながら時折ズキッと痛む足を引きずるように歩き、則助の席に座った。
机上の本棚には教科書や参考書が並んでいる。
丸いペン立てには黒いボールペンやシャーペンのほかに、採点用か、赤い水生ペンが数本入っていた。
 
則助(小代里):「えっと・・・確か物理って言ってたから・・・」
 
少し目を動かすと、本棚に見慣れた物理の本がある。
別に授業しないから必要ないのだが、則助(小代里)はその本を手に取って立ち上がった後、
名簿と一緒に脇に抱えた。
 
先生:「どうしたんですか?足。」
 
隣にいた別の先生に声をかけられる。
 
則助(小代里):「あ、いや・・・・ちょっと階段で転んでしまって・・・・」
 
とっさに声をかけられた則助(小代里)は、一瞬ドキッとしながらも何とか返事を返すことができた。
 
先生:「大丈夫です?」
則助(小代里):「いや、次の授業は自習にして保健室に行って来るので。」
先生:「そうですか。気をつけてくださいね。」
則助(小代里):「どうも・・・」
 
そう言うと、また足を引きずりながら湿気のせいで滑りやすくなっている廊下を歩き、教室へ向かった。
 
本鈴のチャイムが鳴り、少しして教室の前のドアから入る。
今までざわついていた生徒達が一斉に自分の席に戻ると、1人の生徒が号令をかける。
 
生徒:「起立、礼、着席。」
 
自分の存在が数十人の生徒を動かしている。
小代里にとっては初めての体験だった。
教卓へ立った則助(小代里)は、緊張した趣(おもむき)で目の前にいる生徒達を見た。
殆どの生徒が則助(小代里)と視線を合わせている。
自分のクラスの生徒ならよいが他のクラスとなると全くと言っていい程、知らない生徒ばかり。
 
則助(小代里):「・・・・・あ、あの・・・・」
 
気持ちが舞い上がってしまい、上手くしゃべる事が出来ない。
額に汗をにじませながら、やっとの思いでしゃべり始める。
 
則助(小代里):「・・・・今日はちょっと体調が悪いので自習にします。」
 
きっと本当の則助なら「自習にするっ!」と言い切るところだろう。
緊張していたせいで、丁寧な言葉を使ってしまったのだ。
しかし、そんな小代里の想いも知らずに、生徒達は一斉に喜び始めた。
ざわざわという生徒達の声を聞きながらもう一度口を開く。
 
則助(小代里):「では先生は保健室に行くから、隣のクラスに迷惑をかけないようにおとなしくするんだぞ。」
 
今度は一応、則助らしく話すことができた。
 
生徒達「はぁ〜い!」
 
自分が楽する事に関してはとても素直だ。
何人かの生徒達が声をそろえて返事をする。
それを聞いた後、額の汗を拭取った則助(小代里)は足を引きずりながら教室を出たのだった・・・・
 
 
その頃、小代里の身体になった則助は教室で初めて女子高生として授業を受けていた。
他の生徒の話しかけにも適当に答える。
何もしなくても、小代里の身体からいい匂いが鼻から伝わってくる。
本当の小代里なら、きっとこんな感覚にはならないのだろう。
一度ぐるっと周りを見渡してみる。
 
娘もこんな感じで授業を受けているんだろうな・・・・
 
そんな想いが込み上げてくる。
机の上にはかわいいキャラクターの付いたシャーペンや消しゴム、筆箱が置かれている。
ノートを開くと、方々にいたずら書きをしている。
 
小代里(則助):「まったく・・・人が一生懸命教えてやっているというのに・・・・」
 
生徒達の現状を知り、少し憂鬱になった小代里(則助)であった・・・・
 
 
 
・・・あっという間に時間は過ぎ、放課後。
 
 
小代里(則助)がカバンに教科書などを詰め込んで待ち合わせの校舎裏に行くと、すでに則助(小代里)が来ていた。
いつも持ち歩いている黒いカバンを持っている。
 
小代里(則助):「早かったな。足の方は大丈夫だったか?それにそのカバン、俺のじゃないか。よく分かったな。」
則助(小代里):「足は捻挫しているだけみたいですけど・・・それにカバンは先生の机の上に置きっぱなしだったから・・・」
小代里(則助):「ああ、そうそう。そう言えば机の引出しにしまうの忘れてたんだ、ははははっ!」
 
小代里が大きな笑い声で笑う。
その仕草は小代里の身体にはとても似合っていなかった。
 
則助(小代里):「それよりこれからどうするんですか?」
小代里(則助):「ああ、まずは二人そろって両方の家に行って事情を話そうか。」
則助(小代里):「やっぱり話すんですか・・・でも、どうやって行くんです?」
小代里(則助):「そりゃ決まってるだろ。俺の車で・・・・あっ!」
則助(小代里):「誰が運転するんですか?」
小代里(則助):「そうか・・・・お前、仮に足が大丈夫でも運転できないよな。」
則助(小代里):「運転なんかしたことありません。」
小代里(則助):「かといって、今のこの姿で運転するわけにも行かないしなあ。免許書持ってないんだろ。」
則助(小代里):「だから運転したこと無いって言ってるじゃないですか。」
小代里(則助):「う〜ん・・・・・」
 
しばらく考える小代里(則助)。
電車で帰ると、かなり回り道しなければならないため、2時間以上かかる。
それに小代里の家にも行かなければならない。
あまり遅く帰る訳にはいかないのだ。
 
小代里(則助):「よし、こうなったら仕方ないな。俺の家内に車で迎えに来てもらおう。」
則助(小代里):「えっ!先生の奥さんに?」
小代里(則助):「軽四がもう1台あるんだ。それで迎えに来てもらうよ。そして、まずはお前の家に行って事情を説明し、お前を帰したあとそのまま俺は家内と家に戻る事にする。」
則助(小代里):「でも、奥さんはこの状況知らないのに・・・」
小代里(則助):「車の中で話すさ。」
則助(小代里):「絶対信じてもらえないと思います。」
小代里(則助):「信じられないのならお前の家についてからまとめて話すまでだ。」
則助(小代里):「・・・・・」
小代里(則助):「とりあえずだ。お前が俺の家に電話をかけて家内を呼び出してくれ。」
則助(小代里):「そ・・・そんな。私、出来ないです。」
小代里(則助):「大丈夫だって。タイヤがパンクしたからとでも言えばすぐに迎えに来るさ。電車なら2時間かかるけど車なら20分で来れるんだから。」
則助(小代里):「そういう問題じゃなくて・・」
小代里(則助):「んん?何だ?俺の家内とうまく話せないって言うのか?」
則助(小代里):「当たり前じゃないですか。私は先生じゃないんですよ。」
小代里(則助):「だったら俺が話してやるよ。カバンから携帯を取ってくれ。」
則助(小代里):「せ、先生が話すって言っても・・・私の声なのに・・・」
小代里(則助):「まあ任せておけっ!」
 
則助(小代里)がカバンから携帯電話を取り出して小代里(則助)に手渡すと、メモリーに記憶してあった
自分の家に電話をかけ始める。
 
則助(小代里):「先生・・・」
 
不安そうに小代里(則助)を見つめる則助(小代里)。
小代里(則助)は、軽く則助(小代里)にウィンクしたあと、耳に携帯をかざした。
電話が繋がったようだ。小代里(則助)が話を始める。
 
小代里(則助):「あ、あのっ、田辺先生のお宅ですか?私、先生のクラスの南出 小代里っていいます。・・・・」
 
小代里のマネをしながら則助は家内に話している。
それを黙って見つめる則助(小代里)。
 
小代里(則助):「先生の車がパンクしちゃって・・・・・はい、先生が直しているんですがなかなか時間がかかるそうなんです。それで車で迎えに来るように伝言してほしいと言われまして・・・」
 
大人になると、こうも簡単にウソが出てくるものなのか・・・
則助(小代里)は感心すると同時に呆れながら小代里(則助)の話を聞いていた。
 
小代里(則助):「あ、はい・・・・分かりました。30分くらいですね。伝えておきます・・・・・・それじゃ、失礼します・・・・プーッ、プーッ、プーッ」
 
電話を切る小代里(則助)。
 
小代里(則助):「30分なら妥当なところだろう。とりあえずそれまでここで待つとしよう。」
則助(小代里):「先生ってすごいですね。ああも簡単に奥さんを騙すなんて・・・本当に私が話していたみたい。」
小代里(則助):「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ。亭主なんだぞ、亭主!」
則助(小代里):「なんか私が悪い事しているみたい・・・」
小代里(則助):「いいや。全部話すさ。だから安心しろよ。」
則助(小代里):「・・・・・はい。」
 
 
 
 
本当に分かってくれるのだろうか・・・・
不安な気持ちで二人は30分待った・・・・
 
 
 
 
分かりやすいように駐車場に入るための裏門の前で待っていると、見慣れた白い軽四自動車が近づいてきた。
 
小代里(則助):「あれだ。」
則助(小代里):「どうやって説明するんです?」
小代里(則助):「お前がまずしゃべるんだ。・・・すまんなあ。車は学校に置いておくよ。それからちょっと事情があって彼女を家まで送ってくれないか・・・・とな。」
則助(小代里):「先生の奥さんにですか?」
小代里(則助):「俺に話したって意味無いだろうが。」
則助(小代里):「緊張するなぁ・・・」
 
不安を隠しきれない則助(小代里)。
 
小代里(則助):「車に乗り込んだら後は何とかなるだろ。」
則助(小代里):「そうでしょうか・・・」
小代里(則助):「ああ。」
 
二人の前に車が横付けされる。
まず則助(小代里)が助手席のドアを開けて座り込んだ。
 
則助(小代里):「すまん。車は学校に置いていく事にするよ。それからちょっと事情があって彼女を家まで送ってくれないか?」
 
恥ずかしいのを堪えながら則助(小代里)は奥さんと目を合わせて話した。
歳の割には綺麗な顔をしている女性だと感じだ。
 
光子:「いいけど。彼女、さっき電話に出た子なの?」
則助(小代里):「あ、ああ・・・」
 
則助(小代里)が車の外にいる小代里(則助)に視線を送る。
目が合った小代里(則助)は、ぺこりと会釈すると後部座席のドアを開けて入ってきた。
 
小代里(則助):「すいません。お願いします。」
光子:「ええ・・・」
 
何があったのかよくわからない則助の家内「光子」だが、理由は聞かずにそのまま車を発進させた。
 
光子:「家はどちら?」
 
ルームミラーで小代里(則助)の顔を見る。
 
則助(小代里):「その信号を左です。」
 
答えるのは則助(小代里)。
 
光子:「どうしてあなたが知っているの?」
 
不思議そうな顔で則助(小代里)を見る光子。
 
則助(小代里):「あの・・・・実は・・・・」
小代里(則助):「信じられないだろうが、俺たちの身体が入れ替わってしまったんだ。」
 
後部座席に座っていた小代里(則助)が話を始める。
 
光子:「はぁ?」
則助(小代里):「あっ、その信号を右です。」
光子:「み、右ねっ。」
 
則助(小代里)の言葉に反応し、ハンドルを右に切る。
 
小代里(則助):「実はな・・・・」
 
 
小代里(則助)は、今日学校であった出来事を光子に丁寧に話した。
しかし、女子高生が話すことを鵜呑みに出来るような歳ではない。
  
 
光子:「ねえ、あなた。あの子一体さっきから何を言ってるの?」
 
全く信じられない様子で則助(小代里)に問いただす。
 
則助(小代里):「だ、だから先生の言っている事は本当のことで・・・あ、先生と言っても身体は私なんですけど・・・・」
 
二人でからかっているのだろうか・・・・
光子は全然納得がいかない様子。むしろ馬鹿にされているような気分で、
少し腹立たしさを感じながら運転していた。
 
光子:「だって、さっき電話かけてきたのは彼女でしょ。」
小代里(則助):「それは俺が演じてたんだよ。なかなかうまかっただろ。」
光子:「そんな事言われても・・・」
小代里(則助):「じゃあ光子と俺しか知らないことを話せば納得するか?」
光子:「見ず知らずのあなたに名前を呼び捨てされる覚えはありません!」
 
ルームミラー越しににらみつける光子に、小代里(則助)は話を続けた。
 
小代里(則助):「俺の娘の穂奈美(ほなみ)は18歳で誕生日は○月○日。光子と初めてデートしたのは○○の○○で・・・・」
 
小代里(則助)は絶対に二人しか知らないことを幾つも話した。
次第に顔色が変わる光子。
誰にもナイショにすると言ったことまで女子高生が話している。
 
光子:「そ、そんな・・・・・」
則助(小代里):「分かっていただけましたか?本当に身体が入れ替わってしまったんです。」
小代里(則助):「これは事実なんだ。どうやって戻ることが出来るかまだ分からない。このことを彼女の両親にも話さなければならないから、二人揃って彼女の家に行かなければならないんだ。分かってくれたか?」
光子:「もし・・・もしそれが事実なら・・・・私たち、これからどうすればいいんですか。一体どうなるんです!」
小代里(則助):「だから今は何とも言えないんだ。とにかく今夜ゆっくりと考えるから。」
光子:「そんな事言ったって・・・・穂奈美だっているんですよ・・・」
 
光子が何ともいえない絶望的な顔をしながら運転している。
半分放心状態のようだ。
 
則助(小代里):「あ、そこの信号を右に曲がるとコンビニがあるので、そこを左に曲がった3つ目の家です。」
 
この言葉が耳に入っているのか・・・・
光子は無言のまま則助(小代里)の言うとおりに運転し、小代里の家に着いた。
 
小代里(則助):「光子はここで待っていてくれ。二人で話してくる。」
則助(小代里):「ありがとうございました。」
 
車で話された事が納得できる二人の話し方。
光子は背もたれにもたれかかり深いため息をついたあと、ゆっくりと目を閉じた・・・
 
 
 
玄関の扉を開けて家の中に入る二人。
 
小代里(則助):「すいません。」
則助(小代里):「ただいま。」
 
奥から廊下を歩いてきた小代里のお母さん「寿美子(すみこ)」。
小代里(則助)が軽く会釈をする。
 
寿美子:「あら、えっと確か・・・・小代里の担任の田辺先生。どうしたんですか、急に?もしかしてうちの子が何か・・・」
小代里(則助):「まあ、色々とありまして・・・・」
寿美子:「い、色々ありましてって・・・小代里?」
則助(小代里):「家に上がって話そうよ。」
小代里(則助):「そうだな。玄関で話すような内容じゃないか。上がってもよろしいですか?」
則助(小代里):「なんか家庭訪問みたい。」
 
そう言うと則助(小代里)が靴を脱ぎ、ズカズカと奥の応接間に歩いて行った。
 
寿美子:「あ、あの・・・・」
小代里(則助):「それでは私も失礼します。」
 
小代里(則助)は綺麗に靴を並べると、則助(小代里)の後を追って廊下を歩いて行った。
 
寿美子:「どうなってるの?」
 
首をかしげながら二人の後を歩いていく寿美子。
 
   
 
・・・・応接間で・・・・・
 
 
 
寿美子:「うそ・・・・・・」
則助(小代里):「お母さん、本当なの。私が小代里なの。」
寿美子:「そんな事、急に言われても・・・」
小代里(則助):「これは事実なんです。どういう訳か、お互いの身体が入れ替わってしまったんですよ。」
寿美子:「そんな話、信じられない・・・・」
 
という事で、光子のときと同じように、今度は則助(小代里)が寿美子やお父さんしか知らない話を幾つもしたのだ。
 
寿美子:「ほ、本当にあなたが小代里・・・」
則助(小代里):「そう。私が小代里なの・・・」
小代里(則助):「今はどうやって戻れるのかよく分からないんです。ですから、今日のところはお互いの身体が入れ替わった状態でいるしかありません。」
寿美子:「・・・・・」
小代里(則助):「小代里さんも私の体になってしまって気が滅入っているはずです。だから私の身体でも普段どおりの接し方をしてあげてください。」
寿美子:「・・・・・は、はい・・・・」
 
どうしてうちの娘がこんな身体に・・・・
そんな事を思っているのだろう。そういう目をしながら則助(小代里)を見ているのだ。
 
小代里(則助):「小代里。今日のところはお互い違う身体で過ごさなければならないけど、明日までに何とか方法を考えておくよ。だから・・・・すまん。今日はこのまま帰るよ。」
則助(小代里):「先生・・・・・はい・・・分かりました。」
小代里(則助):「ああ。それじゃあ小代里さんのお母さん。申し訳ありませんが娘さんの身体、お借りします。」
 
そう言って立ち上がり、軽く会釈をする。
そして玄関に歩いていき、靴を履いて待っている光子の車に乗り込んだのだ。
無言で車を走らせる光子。
小代里(則助)も無理には話そうとはしなかった。
少し外が暗くなり始める頃。助手席の窓ガラスに写る自分の顔を見ながらため息をついた小代里(則助)であった・・・・

寿美子:「あ、あの・・・・ほんとに小代里なの?」
 
まだ信じられないといった表情で則助(小代里)を眺める母、寿美子(すみこ)。
 
則助(小代里):「うん・・・・お母さん・・・やっぱり信じてくれないの?」
 
小代里(則助)が帰ったあと、応接間で二人きり・・・
急に静かになった部屋で、心細くなったところに寿美子がそんな事を言うものだから
則助(小代里)の目には涙がじわっと溢れてきた。
 
寿美子:「ご、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないのよ。」
 
則助(小代里)の涙を見て慌てて言葉を取り消す。
 
しかし、目の前にいるのはどう見ても田辺則助なのだ。
七三分けした髪型。顔には今朝、剃ったであろうひげが伸びかけている。
そして少しシワのよった背広を着込んでいるのだから。
 
則助(小代里):「グスッ・・・・私、お父さんに会いたくない・・・」
寿美子:「・・・こ・・・小代里・・・」
 
頬に伝って流れ落ちる涙を見ても、目の前にいる人物を素直に小代里と呼べない。
当たり前といえば当たり前か・・・
それが普通の感情だ。
則助(小代里)は手で涙を拭きながら立ち上がると、
2階の自分の部屋に閉じこもってしまった。
 
寿美子:「・・・・・一体どうすればいいの・・・」
 
寿美子も頭を抱えながらため息をついた。
もうすぐ父親が帰ってくる。
なんて話せばいいのだろうか?
 
娘が急にお父さんと同じくらいの男になってしまったのよ・・・
いや、いっそごまかして小代里に則助のフリをさせようか・・・
 
そんな事を思いながら、とりあえず小代里がどうすれば傷つかずに済むのかを考えた。
いつ元の身体に戻れるのか分からないのだ。
もしかしたら、一生あの田辺先生の身体のままかもしれない・・・・
そう考えれば早いうちに話をするほうがいいに決まっている。
 
寿美子:「そうよ・・・その方がいいに決まっている・・・」
 
寿美子は、まず則助(小代里)抜きで亭主と話をしようと決心した。
ちょうどその時、小代里の父親である信次が仕事から帰ってきた。
 
信次:「ただいま。」
寿美子:「お帰りなさい。」
 
玄関まで出迎えた寿美子が、信次からカバンを受け取りタンスのある部屋に持っていく。
靴を脱ぎ終えた信次は、玄関に置いてある見慣れない男性の靴を見て不審に思ったようだ。
 
信次:「おい、寿美子。この靴、誰の靴だ?」
寿美子:「えっ。」
信次:「この靴だよ。俺の靴じゃないだろ。」
寿美子:「え、ええ。それは・・・・た、田辺先生の靴なの。」
信次:「田辺先生?ああ、小代里の担任の先生か。なんだ、今来ているのか。」
寿美子:「・・・・その事でちょっとお話が・・・・」
 
寿美子はいい出すタイミングをうかがっていたのが、いきなり信次から話を振られた事で急遽(きゅうきょ)、説明する機会に出くわした。
応接間に座った二人。
 
信次:「田辺先生は?小代里の部屋にいるのか。」
寿美子:「・・・ねえ、あなた。驚かないで聞いてくださいよ。」
信次:「んん?もしかして小代里が学校で何かしたのか。」
 
真剣な寿美子の表情を見てただならぬ事が起きたと察知した信次は、学校で何かトラブルがあったのだと心の中で思った。
 
寿美子:「・・・実はね・・・」
信次:「・・ああ・・」
寿美子:「小代里が・・・」
信次:「小代里がどうしたんだ?」
寿美子:「こ・・小代里が・・・」
信次:「んん?だから小代里がどうしたんだ?」
寿美子:「田辺先生の身体に・・・・」
信次:「田辺先生の身体に?何かしたのか?」
寿美子:「・・・なってしまったの・・・・」
信次:「・・・・・はぁ?」
 
何を言い出すのやら。
田辺先生の身体になってしまった?
田辺先生の身体を殴ってしまった・・・の聞き間違いか?
それとも田辺先生のものになってしまったのか・・・
 
寿美子:「だ、だから・・・小代里の身体が田辺先生の身体に・・・・」
信次:「ど・・・どういう事なんだ?セクハラされたのか、田辺先生にっ!」
寿美子:「い、いいえ。そうじゃなくて・・・・」
信次:「だったらどうだというんだ!」
 
自分の娘を田辺先生に傷つけられたと勘違いしたらしい。
ふるふると拳を震わせて、顔を真っ赤にしている。
 
寿美子:「あなた、よく聞いてくださいよ。だれもそんな事は言ってないじゃないですか。」
信次:「い・・・一体何を言っているんだ?上にいるんだろ。田辺先生を連れて来いっ!」
寿美子:「だからちょっと待ってくださいよ。これは小代里にとって、いえ、私たちにとっても大切な話なんですから。」
信次:「・・・・・」
 
鼻息を荒くした信次が数回、深呼吸をする。
 
寿美子:「ちゃんと説明しますから。」
 
そう言うと、寿美子は信次に今日の事を全て話した・・・・・
 
 
 
信次:「・・・・・ほ・・・本当の話なのか・・・・」
寿美子:「・・・・ええ。」
信次:「小代里の身体と田辺先生の身体が入れ替わってしまったと・・・」
寿美子:「はい。私も信じられないんですけど、確かに2階にいる田辺先生は小代里なんです。」
信次:「・・・・ちょっと連れて来てくれないか。」
寿美子:「小代里、お父さんに会いたくないって、部屋に閉じこもったままなんです。自分の姿を見られるのがつらいんでしょう。」
信次:「そんな事言ったって、これからずっと田辺先生の身体で生きていかなければならないかもしれないんだろ。一生俺と顔を合わさないつもりなのか。」
寿美子:「今日、こんな事になったばかりですから・・・・小代里も心の整理がついていないんでしょう。」
信次:「・・・・しかしなぁ・・・まったく信じられないな。」
寿美子:「やさしくしてやってくださいね。身体は違っても、小代里は小代里なんですから。」
信次:「わ、分かってるさ。ただ、俺も気持ちの整理が必要だからな。いきなり大の男が自分の娘だなんて・・・普通は思えないだろ。」
寿美子:「それは私も同じですよ。でも小代里の気持ちを考えてやってください。一番辛い思いをしているのは小代里なんですから。」
信次:「・・・・・そうだな。出来るだけいつもの小代里と同じ様に振る舞ってやらないとな。」
寿美子:「ええ。」
信次:「もう夕食の時間だろ。小代里もお腹が空いているんじゃないか?」
寿美子:「そうですね。すぐに用意します。今日は小代里の好きなハンバーグですから。」
信次:「そうか。じゃあ俺は先に風呂に入ってくるよ。その間に小代里をここへ来るように説得してくれないか。俺は全然何とも思ってないって伝えてくれ。俺の大事な娘なんだから。」
寿美子:「ええ、分かりました。夕食の準備が整ったら呼んでおきます。」
信次:「頼んだぞ・・・」
 
そう言うと、信次はパジャマを持って風呂に向かった。
寿美子は殆ど出来ていた夕食を作り終えた後、則助(小代里)のいる2階に上がり、部屋のドアをトントンと叩いた。
 
寿美子:「小代里。ご飯が出来たら一緒に食べましょ。」
則助(小代里):「私、いらない。」
 
ドアの向こうから男の声がする。
 
寿美子:「お父さんも帰ってきているから。ねっ!」
則助(小代里):「いやなのっ。絶対お父さんに見られたくないっ!」
 
女言葉を使う男の声が部屋に響く。
 
寿美子:「小代里・・・・あのね、小代里のこと、お父さんに話したの。」
則助(小代里):「・・・・・」
寿美子:「お父さん、小代里がどんな身体になっても、小代里は俺の娘だって言ってたわよ。このままずっとお父さんに会わないつもりなの?」
則助(小代里):「グスッ・・・・グスッ・・・」
 
部屋の中からすすり泣く男の声が聞こえる。
 
寿美子:「小代里が降りてくるまでお父さんと一緒に食べずに待ってるから。ここにお父さんのパジャマ、置いてるからね。背広のままじゃ、疲れるでしょ。」
 
そう言うと、寿美子はドアの前に真新しい信次のパジャマをそっと置いた。
ドアには鍵がついていないので、入ろうと思えば入れるのだ。
しかし、あえて寿美子は中に入らなかった。
小代里が自分から出てくるのを待つ事にしたのだ。
 
寿美子:「じゃあ下で待ってるからね。」
 
寿美子はそのまま1階に降りて行った。
 
則助(小代里):「グスッ・・・・・・・・・・・」
 
部屋に置いてあるベッドの上に顔をうずめている則助(小代里)。
ずっとこのままお父さんに顔を合わさない訳にはいかない。
それは分かっているが、恥ずかしさと悔しさ、絶望感が入り混じってどうする事も出来ないでいるのだ。
 
 
そして・・・・
 
 
 
信次:「だめか。」
寿美子:「説得したんですけどね。」
信次:「よし、俺が行こう。」
 
風呂から上がった信次が、パジャマ姿で2階の小代里の部屋まで上がってきた。
 
コンコンとドアを叩く。
 
信次:「おい、小代里。」
則助(小代里):「・・・・」
 
声をかけるが返事がない。
 
信次:「一緒にご飯を食べよう。今日はお前の好きなハンバーグなんだ。」
則助(小代里):「・・・・」
信次:「・・・部屋に入ってもいいか?」
則助(小代里):「ダ・・・ダメッ!」
 
信次がドアのノブを掴んだ音がすると、則助(小代里)は大きくそう叫んだ。
初めて聞いた則助・・・いや、小代里の声。
信次は、その衝撃に言葉を失ってしまった。
  
 
あれが自分の娘の声なのか・・・・
 
 
それは明らかに成人している男の声。
信次は動揺を隠し切れなかった。
ドアのノブからそっと手を離す。
 
信次:「・・・・・」
 
拳をギュッと握り締め、強く瞼を閉じる。
込み上げてくるものをグッとこらえてしばらく沈黙・・・
 
信次:「・・・・こ・・・小代里。小代里が降りてくるまで、お父さんとお母さんはご飯食べないで待っているからな・・・」
 
それだけ伝えると、信次は階段を1段ずつゆっくりと降りていった。
 
則助(小代里):「・・・・お父さん・・・・・」
 
両親の優しさを十分過ぎるほどに感じとる則助(小代里)。
しかし、二人の前に現れるまでにはもう少し心を整理する時間が必要だった・・・
 
 
寿美子:「どうでした?」
信次:「あ、ああ・・・」
 
ダイニングキッチンでテーブルに料理を並べ、椅子に座っていた寿美子が問いかける。
信次も力なく椅子を引き、髪の毛を掻(か)き毟(むし)りながら座った。
 
寿美子:「小代里、何か言ってました?」
信次:「・・・・俺が動揺してしまったよ。小代里の声を聞いただけなのに・・・」
寿美子:「・・・・・」
信次:「小代里・・・辛いだろうな・・・」
寿美子:「・・・・ええ・・・」
信次:「俺が部屋に入ろうとしたら拒否されてしまったよ。当然と言えば当然か・・・」
寿美子:「そうですね・・・」
信次:「今の俺にはどうする事も出来んな。小代里の気持ちが落ち着いて降りてくるまで待つことにしたよ。」
寿美子:「私もその方がいいと思いましたよ。だって無理矢理つれて来ても小代里がかわいそう・・」
信次:「とにかく待っていよう。小代里が降りてくるまでずっと・・・」
寿美子:「ええ・・・」
 
 
 
二人はテレビもつけず、静まり返ったキッチンで無言の時を過ごした。
カチコチと時計が時を刻む音だけが妙に大きく聞こえる。
 
信次:「大丈夫かな・・・・小代里・・・・」
寿美子:「・・・・・分かりません・・・」
信次:「やっぱり待つしかないか・・・」
寿美子:「ええ・・」
 
 
 
それから1時間が経過した・・・・
 
 
 
小代里の部屋では・・・
 
 
 
勉強机の椅子に座り込んでいる則助(小代里)の姿があった。
太ももの上に両手を置き、机の上に置いてある、友達と一緒に撮った1枚の写真をじっと見つめている。
これまで仲良く過ごしていた友達との日々が、走馬灯のように・・とまではいかないが、頭の中でグルグルと回っている。
あんなに楽しい時は、もう二度と訪れないのだろうか・・・
 
これからみんなとどうやって接すればいいのか?
田辺則助として、相手の家族と過ごさなければならないのか?
それよりも、もう元の身体に戻ることが出来ないのだろうか?
 
そんな事を考えていると、もうどうしたらいいのか分からなくなり、全ての事から逃げ出したくなる。
しかし、両親の事を考えると・・・・
こんな身体になったって、両親は小代里を、小代里として受け入れてくれると言うのだ。
中年の男になったって・・・
別に親に反抗してきたわけではないが、今、改めて親のありがたみを知ることが出来た。
どんな事になったって、守ってくれるのは親だけなのかもしれない・・・
先ほど両親から受けた言葉を思い出し、そう納得する。
 
則助(小代里)は、写真を机の引出しにしまい込むと、そっとドアをあけて、廊下に置いていた父親のパジャマを取り、またドアを閉じたのだった・・・・
 
 
 
1時間半が経過・・・・
 
 
階段を降りてくる足音が聞こえる。
 
 
寿美子:「あなた・・・」
信次:「ああ。分かってる。」
 
少しすると、二人の目の前に父親のパジャマを着た則助(小代里)が現れた。
どう見ても小代里の姿には見えない。
あの可愛らしい小代里が、こんな男の姿に・・・・
 
信次:「小代里・・・・」
 
信次は表情を変えまいと必死だった。
目線を反らしたくなるのを懸命に堪えて則助(小代里)を見る。
 
寿美子:「パジャマ、似合ってるじゃない。お腹空いたでしょ。早く椅子に座りなさい。」
則助(小代里):「・・・待っててくれたの・・・」
 
やはりその声は先ほど聞いた成人男性の声・・・
 
寿美子:「お父さんも待ってるって言ったでしょ。ねえ!」
信次:「あ、ああ。早く座りなさい。」
寿美子:「お料理、冷めちゃったから温めなおすわね。」
 
ラップに皿を包んで、電子レンジに入れる。
信次がリモコンでテレビのスイッチを入れた。
 
則助(小代里):「ごめんね。私のせいで・・・・」
信次:「なに言ってるんだ。お前は何も悪い事無いんだよ。どうして謝るんだ。」
則助(小代里):「だって・・・・」
寿美子:「そんな事話さなくてもいいから。それよりお父さん、ビール出しますか?」
信次:「お、そうだった。そう言えばさっきから何となく喉が渇いてたんだよ。」
 
信次は笑って寿美子から缶ビールを受け取ると、グラスに注いでゴクゴクッと飲んだ。
その様子をじっと見つめる則助(小代里)。
 
全員の料理を温め終わる。
目の前に並んでいるお皿には、小代里の好きなハンバーグが湯気を立てて美味しそうに食べられるのを待っているようだった。
 
「いただきます。」
 
全員でそう言い、食事が始まる。
いつもより2時間ほど遅い食事。
普段は今日学校であったことを楽しそうに話す小代里だが、今日はさすがに何も話そうとはしなかった。
それを感じていた両親は、あえて学校の話を聞きだそうとはしない。
大人の男が2人と女が1人、キッチンで黙々と食べている。
何とも不思議な雰囲気だった。
 
寿美子:「どう?ハンバーグおいしい?」
則助(小代里):「う、うん・・・・・でもなんかいつものより少し・・・・」
寿美子:「おいしくないの?」
則助(小代里):「そんな事無いけど・・・・」
寿美子:「いつもと同じように作ったんだけど・・・」
信次:「俺はいつもどおりの、おいしいハンバーグだと思うけどな。」
則助(小代里):「うん・・・それは分かってるんだけど・・・」
 
則助(小代里)は、先ほどからしきりに信次のビールを見ている。
信次も則助(小代里)がずっとグラスを見ているのに気付いていた。
 
信次:「小代里、お前さっきからどうしてビールを見ているんだ?」
則助(小代里):「えっ。な、なんとなく・・・おいしそうだなって思って・・・」
信次:「ビールがか?飲んだ事も無いのに?」
則助(小代里):「うん。どうしてだろ?」
寿美子:「身体が大人になったからって、そんなもの飲んじゃダメよっ!」
 
飲みたそうにしている則助(小代里)に寿美子が注意する。
 
信次:「まあいいじゃないか。今日は特別だぞ。」
 
信次は立ち上がって、冷蔵庫に冷やしていたグラスを一つ取り出し、則助(小代里)の前に差し出した。
 
信次:「持ってみろ。」
則助(小代里):「・・・うん・・・」
 
則助(小代里)は、寿美子の顔色をうかがいながら、グラスを手に持った。
信次が、トクトクとグラスにビールを注ぐ。
何となくうれしそうな表情をする則助(小代里)。
 
則助(小代里):「初めてなのに、すごくおいしそうな気がする・・・」
信次:「そうなのか?」
則助(小代里):「うん。」
 
喉を鳴らしながら、泡の立ったグラスを覗き込む。
 
信次:「一口飲んでみろ。」
則助(小代里):「なんかドキドキする・・・」
寿美子:「もう、お父さんったら。」
信次:「分かってるって。一口だけだぞ。」
則助(小代里):「うん。」
 
則助(小代里)は、グラスを口元に運んだ。
上唇に、ビールの泡が当る感触。
更にグラスを倒すと、口にビールが当り始める。
そして、恐る恐る口の中に流し込む・・・・
 
信次:「・・・・どうだ?苦いだろ。」
 
一口、ゴクンと喉に通したあと、唇からグラスを離した。
 
則助(小代里):「・・・・・おいしいかも・・・・」
寿美子:「まあ・・・」
信次:「うまいか。」
則助(小代里):「苦いと思ってたけど、飲んだらそんなに感じなかったよ。」
信次:「う〜ん・・・・身体が覚えているのかもしれないな。田辺先生がビールを飲んだときの感覚を覚えていたのかもな・・」
則助(小代里):「もう一口、飲んでもいい?」
信次。「あ、ああ。」
 
則助(小代里)は、ゴクッ、ゴクッと喉を鳴らして、グラス半分ほどを飲み干した。
 
則助(小代里):「はぁ・・・おいしい。ビールがこんなにおいしいなんてしらなかったよ。」
信次:「そうか、お前にもビールの味がわかるのか。」
則助(小代里):「炭酸ジュースみたいに、喉にジワッて炭酸の泡が当るんだけど、その後がすごくスッキリするんだね。」
信次:「それを喉越しがいいって言うんだ。」
則助(小代里):「そっかぁ。これが喉越しスッキリっていうんだ。コマーシャルで言ってたのが分かったよ。」
信次:「だろっ。父さんが毎日飲むの、分かるだろ。」
則助(小代里):「うん。すごく分かるよ。」
寿美子:「小代里っ。ダメよ、お酒飲んじゃ。まだ高校生じゃないの。あなたも小代里にお酒なんか勧めないで下さいよ。」
信次:「すまんすまん。きっと身体が大人だから平気なんだよな。でも、小代里は高校生なんだからもう飲んじゃダメだぞ。」
則助(小代里):「ええ〜っ。折角ビールの味がわかったのにぃ・・・」
 
ちょっと残念そうな顔をする則助(小代里)。
アルコールのせいで、少し気分がまぎれているようだ。
それを狙っていたのかどうかは分からないが、楽しそうに笑っている則助(小代里)を見て、信次も少し落ち着いた。
則助の口から出てくる言葉は、紛れも無く小代里が普段使っている言葉なのだ。
 
信次:「寿美子、今日だけ小代里に飲ませてやってくれないか。今日だけだから。」
寿美子:「そんな事言っても・・・・・」
 
寿美子が困った顔をしている。
しかし、目の前にいる大の大人に見つめられ、仕方なく・・・・
 
寿美子:「・・・今日だけですからね。」
 
そう言って許してくれたのだ。
 
信次:「よぉし、そうと決まればジャンジャン飲むぞぉ〜っ!」
寿美子:「あなたっ!飲んでもいいって言いましたけど、程々にしてくださいよ。」
信次:「お、おう。分かってるさ。小代里、注いでやるよ。」
則助(小代里):「お父さんに注いで上げるよ。はい。」
信次:「おお、すまんなぁ。」
 
則助(小代里)が信次のグラスにビールを注いでいる。
信次は、身体は違えど初めて娘に注いでもらったことに感動しているようだ。
まるで、二人は飲み仲間のように笑いながら話している。
そんな二人を見ていた寿美子は、少し頭が痛くなってしまったようだ・・・・
 
寿美子:「あんまりたくさん飲んだら・・・・家計が苦しくなるから・・・」
 
寿美子・・・あんた心配する事を間違えているのではないか・・・・
 
 
・・・遅い食事が終わり、お皿の上に乗っていた食べ物が全て無くなる。
二人は顔を真っ赤にしながらケタケタと笑っていた。
信次の会社で面白い事があったらしく、それを聞いた則助(小代里)もおかしくて笑い転げていたのだ。
 
寿美子:「さあ小代里、もう今日は遅いからお風呂に入って寝なさい。」
則助(小代里):「ええっ。まだ寝たくなぁい・・・」
 
酔っ払いの中年男が甘えた声を出している。
寿美子はため息をつきながら食器を下げた。
 
寿美子:「明日学校があるんでしょ。早く寝ないと遅刻するわよ。」
則助(小代里):「学校かぁ。もう、どうでもいいや。」
寿美子:「何言ってるのよ。田辺先生が、元にもどる方法を考えてくれているかもしれないでしょ。」
信次:「そうだぞ。とりあえず明日は学校に行くんだ。休んだって何の解決にもならないんだからな。」
則助(小代里):「・・・はぁ〜い・・・」
 
アルコールのせいでかなり酔っ払っていて、思考力が極端に低下していた則助(小代里)は椅子から立ち上がると、そのまま風呂場に向かった。
 
信次:「寿美子、俺の新しい下着を出しておいてやれ。」
寿美子:「ええ。でも大丈夫かしら?」
信次:「大丈夫だろ・・・・たぶん・・・」
 
寿美子が風呂場に着替えを持っていくと、湯船で鼻歌を歌っている則助(小代里)の声が・・・
寿美子にはよく分からなかったが、その鼻歌はきっと若い音楽グループが歌っている曲なのだろう。
中年男がそんな曲の鼻歌を歌っているのはとても滑稽に聞こえる・・・・
 
寿美子は何も言わず、そのまま着替えを置いてキッチンに戻っていった・・・
 
 
 
・・・・・・30分後
 
 
すこし長めに風呂に入っていた則助(小代里)が、さっぱりした顔でキッチンに歩いてきた。
寿美子は洗い物を済ませて椅子に座っている。
 
寿美子:「あ、小代里。さっき田辺先生から電話があって、1時間ほど早く学校に来てくれないかって。何か元にもどる方法を考えたみたいよ。」
則助(小代里):「ほんと!」
寿美子:「ええ、まだ分からないけど、多分元に戻れるって言ってたわよ。」
 
寿美子の言葉に喜びを隠し切れない則助(小代里)。
むこうの応接間でテレビを見ていた信次が手招きをしている。
それに気付いた則助(小代里)は、信次の元に歩いていった。
 
信次:「明日はお父さんが車で学校に連れて行ってやるよ。1時間前なら会社に行くのにちょうどいい時間だしな。」
則助(小代里):「うんっ!」
信次:「今日はもう疲れただろ。早く寝て疲れを取った方がいいぞ。」
則助(小代里):「うん。そうする。あっ、そうだ。湿布ある?」
信次:「湿布?」
則助(小代里):「うん。田辺先生、階段で転んだ時に足怪我しちゃってて。まだ少し痛いんだ。」
 
そう言って足を見せる。
則助(小代里)がパジャマのズボンを上げて指さすと、そこが少し青くなっているのが分かった。
 
寿美子:「はい。これを貼っておきなさい。」
 
キッチンで話を聞いていた寿美子が薬箱の中から湿布を取り出し、則助(小代里)に手渡した。
 
則助(小代里):「ありがと!」
 
則助(小代里)がビニールを剥がして痛めた足に貼る。
 
則助(小代里):「つめた〜い・・・」
信次:「大丈夫か?」
則助(小代里):「うん。全然平気。」
信次:「そうか。」
則助(小代里):「じゃあもう寝るわ。お父さんお母さん、お休みなさい。」
信次:「ああ、おやすみ。」
寿美子:「おやすみ。」
 
則助(小代里)が、うれしそうに部屋に上がって行った。
 
信次:「本当に元に戻れるのかな。」
寿美子:「さあ、田辺先生を信じるしかないわ。もし戻れれば、他の人には何事も無かったことになるんですから・・・」
 
 
 
二人は、明日の朝に元の身体に戻れる事を祈っていた・・・・

小代里(則助):「それじゃあ小代里さんのお母さん。申し訳ありませんが娘さんの身体、お借りします。」
 
そう言って立ち上がり、軽く会釈をする。
そして玄関に歩いていき、靴を履いて待っている光子の車に乗り込んだのだ。
無言で車を走らせる光子。
小代里(則助)も無理には話そうとはしなかった。
少し外が暗くなり始める頃。助手席の窓ガラスに写る自分の顔を見ながらため息をついた小代里(則助)であった・・・・
   
 
車で揺られながら、どうしてこんな事になってしまったのかをじっと考えてみる。
南出小代里が階段につまづき、田辺則助と衝突。
その後、お互いの身体が入れ替わってしまった・・・・
単純と言えば単純だが、どうしてそういう事になったのか理解できない。
普通、相手とぶつかっただけで身体が入れ替わるか?
そんな事があったら世の中、どれだけの人が入れ替わっているだろう・・・
そうやって考えていると、この現実がどれくらいの偶然で起きたのか想像がつかなくなる。
今まで宝くじでさえ3000円と当った事の無い則助が、
おそらく数億円手に入れるその確立よりも低い現実に
当ってしまったのだから。
 
小代里(則助):「まったく・・・・」
 
窓の外を見ながらぶつぶつと独り言を言っている女子高生「小代里」。
助手席で足を組んでため息をついている姿をチラリと見た則助の家内「光子」は、
そのスカートから見える艶(なまめ)かしい2本の白い足を見て、これが本当に
亭主「則助」なのかと疑うしかなかった。
 
光子:「・・・・ねえ・・・・」
 
車の中、初めて光子が口を開いた。
 
小代里(則助):「んん?」
 
外を見ながら返事だけしている。
 
光子:「もう一度聞くけど、本当にあなたなの?」
小代里(則助):「・・・・普通は疑うよなぁ。横に乗っているのが女子高生なんだから。」
光子:「そういう事が聞きたいんじゃなくて、あなたは私が愛していた則助なのかと聞いているのっ。」
小代里(則助):「・・・・ああ。則助だ。田辺則助、おまえの夫だよ。」
 
女子高生の口から、声はかわいいのだが内容の重い返答がなされる。
 
光子:「・・・・あなた・・・・」
小代里(則助):「・・・んん?」
光子:「・・・・私、まだ信じられない・・・んです。」
小代里(則助):「・・・・仕方ないさ。俺が逆の立場でもお前と同じことを言っているだろうからな。」
光子:「・・・・」
小代里(則助):「別にいいさ。ま、何とかなるだろ。」
光子:「何とかなるって言っても・・・」
小代里(則助):「心配だろ・・・俺だって同じ気持ちさ。娘と同じ女子高生・・・・しかも教え子の身体と入れ替わってしまったんだから。」
光子:「・・・・そう言えば、穂奈美にどういう風に話すの・・・・ですか?」
 
則助にはいつも敬語口調で話しているのだが、
女子高生の身体ということもあって、どうも話しにくい。
 
小代里(則助):「正直に話すさ。お父さんは教え子の南出小代里という女の子と身体が入れ替わってしまったんだ・・・ってな。」
光子:「そんな単純に話しても分からないでしょう。大人の私でさえ、まだ全てを信じられないんですから・・・」
小代里(則助):「ま、それならそれでもいいんだけどな。」
光子:「よくありませんよ。しっかりしてください。
          穂奈美がノイローゼでもなったらどうするんですか。」
小代里(則助):「穂奈美はそんな事にならないさ。」
光子:「そんな無責任な・・・」
小代里(則助):「会って見なけりゃ分からないだろ。」
光子:「・・・・」
小代里(則助):「心配するなって。穂奈美にとっては姉妹が出来たようなものかもしれないじゃないか。」
光子:「あかの他人が?しかもそれが父親なんですよ。」
小代里(則助):「・・・まあまあ。とにかく会わないわけには行かないだろ。もう家が見えているんだ。今更どうこう言ったって仕方ないさ。」
光子:「でも・・・」
小代里(則助):「ほら、着いたぞ。動揺して壁にぶつけないでくれよ。」
光子:「・・・・・」
 
光子は家の敷地内にある駐車場に車を止めた。
2台駐車できるスペースがあるのだが、1台は学校に置きっぱなし。
それでも光子は、今から穂奈美にどうやって話せばいいのか、
頭の中がいっぱいだったので危なく壁にぶつけそうになる。
 
小代里(則助):「おいっ!」
光子:「・・・・・・・・・・ふぅ・・・・」
小代里(則助):「頼むよ。まだ家のローン、終わってないんだからな。」
光子:「わ、分かってますよ。そんな事・・・」
 
二人が車から降りて、玄関のドアを開く。
小代里(則助)も幾分緊張しているように見えた。
 
光子:「ただいま。」
小代里(則助):「ただいま。」
穂奈美:「お帰りなさいっ。」
 
廊下の奥の部屋から穂奈美の声が聞こえた。
二人が靴を脱いで廊下を歩いていく。
いつもは則助が前を歩くのだが、今日は後ろだ。
何も言わなくても、二人は自然とそういう順番を取っていた。
 
光子は足取りが重そうだ。
小代里(則助)はそう感じながら、ゆっくりと光子の後を歩いた。
 
 
そして穂奈美のいる応接間・・・・
 
穂奈美:「遅かったね。」
 
ソファーに座り、テレビを見ている穂奈美は二人の方を見ないで話し掛けた。
 
光子:「ほ、穂奈美。」
穂奈美:「ん〜。」
 
テレビに夢中の穂奈美は一向にこちらを見ようとはしない。
しかし、それとなくいつもの雰囲気と違う事を悟った穂奈美は、ふと二人の方に顔を向けた。
 
穂奈美:「・・・・・お母さん。誰?その子。」
 
光子の横に並んで立っていた制服姿の小代里(則助)を見て、まず質問をする。
 
光子:「あ、あの・・・・」
小代里(則助):「ただいま。」
穂奈美:「・・・・・はぁ?」
小代里(則助):「まあ、驚かないで聞いてほしい。」
穂奈美:「誰よ、あんた。」
 
初対面にも関わらず態度の大きい小代里(則助)に、穂奈美は少し腹を立てた。
そんな事もお構いなしに、小代里(則助)は、穂奈美が座っている前に置いているソファーに腰を下ろした。
光子も慌てて小代里(則助)の隣に腰を下ろす。
 
小代里(則助):「ふぅ・・・」
穂奈美:「何よ、ため息なんかついて。」
光子:「穂奈美。」
穂奈美:「ねえお母さん、この子誰なのよ。どうして連れてきたの?」
光子:「穂奈美・・・実はね、」
小代里(則助):「お父さんなんだよ。穂奈美。」
穂奈美:「はぁ?」
小代里(則助):「信じられないだろうが、お前の目の前にいる女子高生はお父さんなんだ。」
穂奈美:「ねえお母さん、この子、さっきから何訳の分からない事言ってるの?」
 
二人は穂奈美がイライラしている事を、言葉の強さから感じていた。
 
光子:「・・・・・あのね、彼女の・・・・ううん、お父さんの言っていること、本当なのよ。お父さんの身体と彼女の身体が、入れ替わっちゃったのよ。」
穂奈美:「お、お母さんまで・・・一体どうなってるの?」
小代里(則助):「落ち着いて聞いてくれよ。お父さんな、学校でこんな事があったんだ・・・」
  
 
小代里(則助)は、今日の出来事を全て穂奈美に話した・・・・
 
   
穂奈美:「・・・・・う、うそよ・・・・お父さんが・・・こんな姿に・・・・」
光子:「私も信じられなかったんだけど、本当の話なのよ。」
穂奈美:「だって・・・・どう考えたって信じられない・・・」
小代里(則助):「だったら、お父さんとお前しか知らない事を話してやるよ。」
穂奈美:「お、お父さんとしか知らない事?」
 
 
 
小代里(則助)は、光子ですら知らない二人だけの秘密を話した。
光子もそんな事があったのかと、初めて聞く内容に驚いているようだ。
 
 
 
穂奈美:「そ、そんな・・・・ほ、本当にお父さん・・・・なの?」
小代里(則助):「まだ信じられないのか?それならお前が10歳の時にした「とっておきの話」をお母さんの前でしてやろうか?」
穂奈美:「10歳の時?・・・・・・って、まさかっ!や、やだっ!あの事だけは絶対にしゃべらないでっ。」
光子:「10歳の時の事って?何なの?」
穂奈美:「ダメダメッ!分かったから!信じる、信じますっ!」
 
穂奈美が両手を広げ、身体の前で左右に振っている。
よっぽど話されたくないらしい。
 
小代里(則助):「よしよし、やっと分かったようだな。」
穂奈美:「もうっ!でも、どうしてそんな姿になっちゃうのよぉ。」
小代里(則助):「お父さんだってなりたくてなったわけじゃないんだ。偶然と言うやつだな。」
穂奈美:「お父さんと入れ替わったって言うその女の子。どうしてるの?」
小代里(則助):「向こうの家で過ごしているよ。お父さんと同じだな。」
穂奈美:「お父さんの姿で相手の家にいるの?」
小代里(則助):「そうだ。」
穂奈美:「うわぁ・・・かわいそう・・・」
小代里(則助):「か、かわいそうとはどういう事だ。俺だってこんな姿になっちまったんだぞ。」
穂奈美:「お、お父さんって呼ぶの、何か抵抗あるな・・・」
光子:「そんな事言ったら、お父さんがかわいそうでしょ。」
穂奈美:「だって・・・」
小代里(則助):「南出小代里。この子の名前は小代里って言うんだ。」
穂奈美:「へぇ・・・・小代里・・・・ちゃんか。」
小代里(則助):「お前と同い年だ。」
穂奈美:「じゃあ18歳なんだ。ふ〜ん・・・・お、お父さん・・・どう?18歳の女子高生になった気分は?」
小代里(則助):「そりゃあ、娘と同い年の女の子になったんだ。恥ずかしいに決まっているだろうが。」
穂奈美:「実はうれしかったりして!」
小代里(則助):「こら、からかうなよ。」
穂奈美:「だってお父さん、このまえ女子高生のいやらしいビデオ借りたでしょ。」
小代里(則助):「なっ!」
光子:「ほんとうなの?」
穂奈美:「うん。私、この前の休みにレンタルビデオ屋で、お父さんが借りてるところ見ちゃったんだもん。」
小代里(則助):「こ、こんな時にしゃべらなくてもいいだろうっ!」
穂奈美:「へへ〜っ!さっき二人だけの秘密をお母さんの前でしゃべったお返しだよっ!」
小代里(則助):「うっ・・・・それは・・・お前が信じないから・・・」
光子:「お父さんっ!」
小代里(則助):「す、すまんっ!つい出来心で・・・」
穂奈美:「いやらしいんだぁ・・・・」
小代里(則助):「・・・・・も、もうそのくらいでいいだろ。腹が空いているんだ。早く夕食にしようじゃないか。」
穂奈美:「ああっ、話をごまかそうとしてる〜っ。」
小代里(則助):「違うさ、ほんとに腹がへってるんだ。今日は色々とあったらな・・・」
光子:「・・・・じゃ、その話は後でゆっくりと聞くとして・・・・ご飯にしましょうか。」
小代里(則助):「ああ。」
穂奈美:「うん。」
 
 
光子は、冷蔵庫の前まで歩いていき、遅い夕飯の用意をし始めた。
その表情は、ホッとしている。
穂奈美が精神的に追い詰められる事をとても心配していたのだが、光子が思っていたほど心配する事もなく、この現実を受け止められているようだ。
 
光子:「私のお父さんがこんな事になったら・・・・」
 
光子は夕食の用意をしながら、穂奈美の立場に立って考えてみた。
やはり素直に納得できるはずがない。
 
光子:「やっぱり考え方が古いのかしら・・・」
 
そう思いながら、テーブルにお皿を並べるのであった・・・・
 
 
 
・・・応接間では・・・
 
 
 
穂奈美:「ねえ、小代里って女の子、絶対嫌な思いしてるよね。だってお父さんの身体になっちゃったんだもん。」
小代里(則助):「そうだなあ。ほんとに悪い事したもんだよ。でも、こうなりたくてなったわけじゃないからなあ。」
穂奈美:「でも・・・なんかお父さんの身体、他の人に見られるのって嫌な感じがするな。」
小代里(則助):「え?」
穂奈美:「だって・・・・その子、お父さんの身体でお風呂に入るんでしょ。お父さんの裸、見られちゃうね。」
小代里(則助):「あ、そうか・・・・まあ大した身体じゃないし。それよりこっちの方が問題だよ。どうやってお風呂に入ればいいものか・・・」
穂奈美:「目隠しして入れば?」
小代里(則助):「それもそうだな。でも目隠しすると、顔や髪を洗うのは難しいぞ。」
穂奈美:「目を瞑って洗えばいいじゃない。」
小代里(則助):「そ、それもそうだな・・・」
穂奈美:「・・・・見たいの?その子の身体・・・」
小代里(則助):「ば、ばかっ!何て事言うんだよ、まったく・・・」
穂奈美:「あ〜、顔が赤くなってる!やっぱり見たいんだぁ。」
小代里(則助):「う、うるさいぞっ!くだらない事言ってないで、先に風呂に入って来い!」
穂奈美:「へへっ。そんな顔で怒られたってぜんぜん怖くないもんねえ〜!」
小代里(則助):「なっ・・・・」
 
穂奈美に一本取られた感じだ。
舌の回らなくなった小代里(則助)を見て笑いながら、自分の部屋に着替えを取りに行く。
その表情はとてもうれしそうだった。
 
小代里(則助):「・・・・・・・・まあ・・・・・いいか・・・」
 
小代里(則助)は、一つため息をついたあとソファーに深々と座りなおした。
 
小代里(則助):「元気じゃないか・・・・穂奈美のやつ・・・・」
 
そう思い、フッと笑ったのであった。
小代里(則助)も、光子同様心配していたのだが、思っていたよりも穂奈美は落ち込まなかったのでホッとした。
落ち込まなかったのがうれしかった反面、なんだかさびしい気持ちにもなる。
 
小代里(則助):「俺の身体じゃなくても、こんなに素直に父親と思えるものなのかなあ・・・・」
 
頭の後ろで両手を組んで、ゆっくりと目を閉じる。
 
小代里(則助):「南出・・・両親とちゃんと過ごせているんだろうか・・・・」
 
 
頭の隅に、則助の身体になった小代里のことがずっと引っかかっている。
両親にひどい事を言われているのではないか・・・・
ずっと部屋に閉じこもっているのではないか・・・
もう元の身体に戻れないと思いつめて、ベランダから・・・
 
小代里(則助)は、ブルブルと頭を左右に振って妄想をかき消した。
 
小代里(則助):「つまらんことを考えてしまった・・・」
 
小代里(則助)は、リモコンを片手にチャンネルを変えて、ニュース番組を見始めた・・・・

タンタンタンッ!
穂奈美が階段を降りてくる足音がして、小代里(則助)のいる応接間に入ってきた。
 
穂奈美:「ねえ、お父さん。」
小代里(則助):「んん・・・・・」
穂奈美:「制服のままじゃ、疲れるでしょ。」
小代里(則助):「そうだな・・・なんかスカートっていう奴は全然慣れないし、なんて言うか・・・全体的には堅苦しいな。しかし、背広よりはましか・・・」
穂奈美:「だったらこれを貸してあげるよ。体格もちょうど私と同じ位みたいだし。」
 
穂奈美はテーブルの上に綺麗に折りたたんでいる白いジャージを置いた。
 
小代里(則助):「ジャージか・・・・その方が楽そうだな。」
穂奈美:「パジャマの方がいい?私のパジャマ、着てみたい?」
小代里(則助):「お、おいおい・・・そんな言い方するなよ。」
穂奈美:「へへ。パジャマの方がいいんだったらパジャマ貸してあげるよ。」
小代里(則助):「いいよ、ジャージで。これでもずいぶん楽そうだからな。」
穂奈美:「そう、じゃ、私、お風呂に入ってくるね。」
小代里(則助):「ああ。」
 
穂奈美が廊下の向こうにある風呂場に歩いて行く。
小代里(則助)はグッと背伸びをしたあと、テーブルの上のジャージを手に自分の部屋に向かった。
階段を上って一つ目のドア。
ノブを回してドアを開けると、いつもの見慣れた空間がある。
大きく息を吐き、何となく落ち着いた気分になった小代里(則助)は、いつも使っている机の上にジャージを置いた後、制服を脱ぎ始めた。
白いブラウスのボタンを、上から一つずつ外していく。
普段、背広の下にはカッターシャツを着ているので、着替えるという仕草は変わらないのだが、いつも膨らんでるビール腹よりも更に上のところ、
すなわち「胸」が膨らんでいて、その部分のボタンを外そうとすると、両手の内側に柔らかい感触が伝わってくる。
不器用なのか、両手で胸を押し付けながらボタンを外すのでどうも変な感じだ。
それでも平静を装いながら、ボタンを外していく。
徐々に白いブラジャーがブラウスの間から見え始める。
胸の谷間にあるボタンを外すと、谷間の向こうにのっぺりとしたお腹が見えた。テレビでよく見る、女性が胸の谷間を強調するシーン・・・
今、則助の目の前ではその光景が惜しげもなく披露されている。
 
小代里(則助):「ああ・・・・南出君・・・君はなんて罪深い身体なんだ・・・」
 
そう思いながら最後のボタンを外したあと、両腕からスルリとブラウスを脱ぐ。
背中からブラウスがスルッと落ちると、小代里の細い上半身が目に飛び込んでくる。
両手をお腹に当てると、そのスリムさがすぐに分かった。
張りのある柔らかなお腹・・・
小代里(則助)は、両腕を中途半端に上げて、自分の・・・いや、小代里の身体をキョロキョロと見回す。
顔を左右に振るたびに、小代里の髪からまだシャンプーのいい香りがした。
 
小代里(則助):「・・・・まったく・・・・」
 
理性のネジが急速に緩み始めるのを感じながらも、自分の生徒の身体には絶対に手を出すまいと、グッと理性のネジを締めなおす。
だが、とても力なく締め直しているのが、自分でもよく分かる。
人間とは弱い生き物だ・・・
とにかく、このままではまた理性のネジが緩みそうになった小代里(則助)は、脱いだブラウスをいつも背広を掛けているハンガーに掛けようと、タンスのある方に歩いて行く・・・と、不意に窓ガラスに映る自分の姿が目に飛び込んできた。
既に暗くなっている窓の外・・・
その窓に、ブラウスを片手に、上半身はブラジャーしか身に付けていない南出小代里の姿がうっすらと映っている。
そして、その表情は固まっていた。
目だけが、上から下にゆっくりと動く。
 
小代里(則助):「・・・・・・・・」
 
しばらく言葉を失ってしまった小代里(則助)。
こんな形で小代里の身体を見るとは思ってもみなかった。
上から見た身体に比べ、窓ガラスに映る小代里の身体は「女性」としてかなり成長しているように見える。
程よく膨らんだ胸。その下から急速に細くなるウェスト。
 
小代里(則助):「・・・・・はぁ・・・・・」
 
生唾を飲み込む小代里(則助)。
理性のネジがくるくると外れていく・・・・・が、それは完全に外れる事は無かった。
グッと堪えて、ハンガーにブラウスを掛けると、机に置いていたジャージを手に取る。
まさか自分の娘のジャージを着る事になるとは・・・・
両腕を通して肩を入れたあとファスナーをあわせてゆっくりと上に上げる。
胸のところでファスナーが少し硬くなったが、そのまま強引に首根っこまで上げた。
 
小代里(則助):「・・・・ぴったりだ・・・・」
 
娘のジャージがぴったりと身体に合う・・・・
なんとも複雑な気分だ。
少し胸のあたりが窮屈な感じがしないでもない。
こんなものなのか?
小代里(則助)は、そのまま窓ガラスの前に立ってみた。
上半身は白いジャージ。その下には紺のスカート。
そのアンバランスなところが、またしても小代里(則助)の理性のネジを緩める。
それにも増して、今の小代里の表情が何とも言えない。
大して普段とは変わらない顔だが、則助の前でどんな姿をしても恥ずかしげもなくこちらを見つめるその表情を見ていると、まるで則助に身体を見られるのが当たり前のように錯覚してしまう。
南出は、俺にその身体を見せたいのか・・・・
馬鹿なことを考える小代里(則助)。
これが自分の姿なのに・・・
妄想に引きずり込まれそうになるところを這い出した小代里(則助)は、腰の横に付いているホックを外したあと、ファスナーを下げる。
そして、そのまま足元にパサリとスカートを落とした。
ムチッとして張りがある太ももは決して太くない。
スカートを脱いで、改めて感じたのは、
膝から足首にかけては、もう高校生の足では無かったという事。
太ももから足首までの一連を眺めると、もう「女性」の足になっているのだ。
かがんで、落ちたスカートから片方ずつ足を抜くと、いつの間にか内股になっている自分に気付く。
自分でそういう仕草をしているのだが、その格好が何ともそそられるのである。
小代里(則助)は、意識して窓ガラスの前に立ってみた。
片手にスカートを持った小代里の両足はスラリと長く、白い靴下を穿いている。
視線を上にあげていくと、ジャージに隠されて股のところだけが少しだけ三角に見えている白いパンティに気がつく。
その見え方がこれまた何とも「いやらしい」のだ。
そんな姿をしていながらも、平然とした表情を見せる小代里・・・
則助には、それがたまらない「ギャップ」となっていた・・・・
 
そんな顔で・・・・そんな姿で俺のほうを見るなよ・・・・
 
小代里(則助):「・・はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・・い・・・・いかんいかんっ!」
 
小さな心臓が激しく揺さぶられる。
股間に手が伸びようとしていたところを懸命に堪えた小代里(則助)。
まるで蛇の生殺しだ。
せめてこの子が自分の教え子じゃなかったら・・・・
身勝手な逃げ道を作ろうとしたが、世の中そんなに甘くない。
息を荒くしながら、ブラウスと同じハンガーにスカートを掛け、また机の上に置いていたジャージのズボンを手に取る。
ズボンに片足ずつ入れたあと、グッと腰まで引き上げる。
いつもならモッコリとする股間だが、なんの障害物も無いままお腹まで柔らかな曲線を描いている。
それを確かめるように、下腹部を右手で撫でる。
 
小代里(則助):「・・・やっぱり・・・・無いな・・・・」
 
当たり前のことを、とりあえず確かめた小代里(則助)は、靴下を脱いで手に持ったあと、ドアを開けて下に降りて行った。
洗濯かごの中に靴下を入れ、料理が並び始めているキッチンに入り、いつもどおり椅子に座る。
 
光子:「あら、穂奈美のジャージに着替えたんですか。」
小代里(則助):「ああ、小代里が貸してくれたんだ。体格も似ているから着れるだろうってな。ぴったりだったよ。」
光子:「そうですか。」
 
最後の料理を並べ終わった光子が席につく。
 
小代里(則助):「穂奈美はまだ風呂に入っているのか?」
光子:「さっきドアの音がしたから、もう来るんじゃないかしら。」
小代里(則助):「そうか・・・」
 
その会話のほんの少し後に、赤いパジャマでまだ髪の毛が乾ききっていない穂奈美が現れた。
 
穂奈美:「ふぅ・・・」
光子:「ちゃんと髪の毛乾かさないと風邪ひくわよ。」
穂奈美:「へへ、少し乾かしてきたから大丈夫だって。それよりお父さん、そのジャージ、似合ってるね。ちょっと胸が苦しそうだけど。私の胸より大きいんだ。」
小代里(則助):「そ、そうなのか。南出の胸の方が大きいのか・・・」
 
そう言いながら、張り出している胸にそっと手を当てる。
 
光子:「お父さんっ!」
小代里(則助):「はっ!す、すまん・・・つい・・・」
 
あわてて両手を太ももの上に置いた小代里(則助)。
 
光子:「子供の前なんですからそのくらい、きちんと弁(わきま)えてくださいよ。」
小代里(則助):「あ、ああ。分かってる。分かってるから。」
穂奈美:「お父さん、いやらしいんだぁ〜。」
小代里(則助):「・・・・・ゴホンッ!・・・いいから早く食べよう。」
 
かわいい咳払いをし、さっさと箸を持ってご飯を食べようとする小代里(則助)。
 
光子:「じゃあ、いただきましょう。」
小代里(則助)&穂奈美:「いただきます。」
 
いつもより少し遅い夕食の時間。
お母さんに、若い娘が二人の夕食。
女性が三人とは、まるで父親が単身赴任している家庭のようだ。
 
穂奈美:「ねえ、お父さん。今日はさすがにビール飲まないんだね。」
小代里(則助):「あ、そうか。忘れてた。・・・・でもなぁ・・・南出の身体だし・・・それに、ビールって気分じゃないんだよ。これだけ疲れていたらビールでプハァ〜ッといきたいところなんだけどなぁ。」
穂奈美:「ふーん・・・」
光子:「ビールなんて絶対に飲んじゃダメですよ。よそ様のお嬢さんの身体なんですからね。」
小代里(則助):「わ、わかってるさ。それより今日のご飯はいつもよりうまいな。ブランド変えたのか?」
光子:「いいえ、いつもどおりです。昨日のご飯と同じですよ。」
小代里(則助):「そうか・・・妙にうまく感じるな。ご飯が甘く感じる。」
光子:「別にいつもと変わらない味ですよ。ねえ穂奈美。」
穂奈美:「うん。何とも感じないけど。」
小代里(則助):「そうか・・・」
 
箸を持った右手の人差し指で鼻をくしゅくしゅと擦ったあと、いつもとは違う味覚に戸惑いながら数口ご飯を食べる。
ご飯を食べるときに鼻を擦るのはいつもの則助の癖だ。
ご飯を飲み込んだ後、おかずも幾つか摘んでみる。
どれもいつもよりも美味しい・・・というか、はっきりと味がわかるのだ。
 
小代里(則助):「なあ・・・・味付け濃いくしたのか?」
光子:「いいえ、いつもどおりですよ。」
穂奈美:「お父さん、さっきからそんな事ばかり言ってるね。」
小代里(則助):「そうなんだ。どうもいつもと舌の感覚が違うんだ。今日のおかずは何とも味付けがよく分かる。まるで舌が生き返ったみたいだ。」
穂奈美:「やっぱり他人の身体だから舌の感覚も違うんじゃない?」
小代里(則助):「・・・・そうかもな。タバコを吸っていたから舌の感覚が麻痺していたのかもな。」
穂奈美:「でも面白いね。味がいつもよりよく分かるって。」
小代里(則助):「ああ。それにな、いつも食べたくないと思う物も食べたくなるんだよ。」
 
そう言いながら、普段はあまり食べない南京に手を付ける。
 
小代里(則助):「南京は甘いからあまり食べたくないんだけどな。何となく手にとって食べてしまうんだ。それもとても美味しく感じるし。」
 
南京を食べながら小代里(則助)がしゃべる。
 
穂奈美:「へぇ〜、じゃあ、小代里ちゃんが南京好きなんじゃないの?」
小代里(則助):「モグモク・・・・なるほどな。」
 
 
たわいも無い会話が続き、夕食の時が終わる・・・・
 
 
小代里(則助):「ご馳走様。」
光子:「えっ?もう食べないんですか。」
小代里(則助):「ああ。もうお腹がいっぱいなんだ。」
光子:「まだ一膳しか食べてないのに?」
小代里(則助):「もう入らないよ。それに食べたいという気にもならないしな。」
光子:「・・・・そうですか。」
穂奈美:「私よりも食べる量が少ないね。」
小代里(則助):「何でだろ?南出ってそんなに食べないのか?」
穂奈美:「それだけしか食べなくてその胸の大きさは反則だよね。」
小代里(則助):「そんな事、お父さんに言われても仕方ないだろ。」
穂奈美:「そりゃそうだけどさ。」
光子:「そんな話はもういいから。食べ終わったのならお風呂に入って来て下さいよ。私も入りたいんですから。」
小代里(則助):「あ、ああ・・・」
穂奈美:「あっ、お父さんちょっと待って。」
小代里(則助):「んん?」
 
穂奈美がテーブルの上に箸を置き、急いで2階に上がる。
そして、1分もしないうちに戻ってきた。
 
穂奈美:「はい、これ。下着ないでしょ。」
 
穂奈美の手には、薄いピンクのパジャマと、その上には白いブラジャー、パンティがあった。
 
小代里(則助):「こ、これを俺が?」
穂奈美:「うん。だって女の子なんだもん。トランクスにノーブラなんて無理よね。」
小代里(則助):「し、しかし・・・・」
 
小代里(則助)の視線が光子に注がれる。
 
光子:「・・・・仕方ないんじゃないですか。」
小代里(則助):「・・・・そ、そうか・・・まさか穂奈美の・・・・」
穂奈美:「また明日新しいパジャマとか買えばいいじゃない。いつまでその身体なのかわからないんだから。」
小代里(則助):「そ、そうだな・・・・そうするか。」
 
小代里(則助)は、穂奈美からパジャマと下着を受け取ると、そのまま風呂場に向かった。
 
穂奈美:「お父さん、かわいいね。」
光子:「・・・・からかうんじゃないの!」
穂奈美:「でも、一生あの子の姿のままなのかな。」
光子:「さあ・・・・」
穂奈美:「進路指導の時に、先生の前にあの姿で現れたらすごく驚くでしょうね。私のお父さん、実は私と同じ女子高生なんですって。」
光子:「馬鹿な事ばかり言うんじゃないの。深刻な問題なんだから。あちらの家族も困っているはずでしょ。」
穂奈美:「そりゃそうだけど。でも想像したらすごいよね。あっちはお母さん一人にお父さん二人なんだから。なんか浮気か不倫の関係みたい。」
光子:「穂奈美っ!」
穂奈美:「へへ、ごめんなさい。でもどうすれば元に戻れるんだろう。」
光子:「・・・・・・」
 
 
・・・・しばらくの時が流れ、真っ赤な顔をした小代里(則助)が現れた。
穂奈美のパジャマを着た小代里(則助)は、若き女子高生そのままの姿に見える。
 
小代里(則助):「ふぅ・・・・上がったぞ。」
穂奈美:「わぁ。すごく似合ってるね。私がもう一人いるみたい。」
小代里(則助):「長湯してしまった。しかしブラジャーってのは付けにくいな。えらく時間がかかったぞ。」
穂奈美:「そんなの慣れれば簡単よ。それより顔が真っ赤だよ。」
 
穂奈美がニヤニヤしながら小代里(則助)に話し掛ける。
 
小代里(則助):「あ、ああ。のぼせそうになったよ。」
穂奈美:「それだけ?」
小代里(則助):「ん?それだけって?」
穂奈美:「うふっ。なんでもない。」
小代里(則助):「なんだよ、それ。」
 
光子が食器を洗い始める。
小代里(則助)と穂奈美は応接間のソファーに移動しテレビを見ながら話を始めた。
 
穂奈美:「ねえお父さん。」
小代里(則助):「んん?」
穂奈美:「もし一生その身体だったらどうするの?」
小代里(則助):「さあな・・・・今日こんな事になったばかりだから何も考えてないよ。」
穂奈美:「ふ〜ん・・でも明日から大変だね。」
小代里(則助):「ああ・・・さてどうしたものかな。周りの人間を説得すると言っても現実離れした事だから・・・・信じてもらえないだろうな。」
穂奈美:「そうだね・・・・すぐに元にもどれればいいんだけど。」
小代里(則助):「すぐに・・・か・・・・」
穂奈美:「ねっ、お父さんはその子の身体のままでいたい?」
小代里(則助):「な、何言ってるんだよ。そんなはずあるわけ無いだろ。この身体でどうやって教師をやれって言うんだよ。」
穂奈美:「そういう意味じゃなくてね、女性の身体で・・・・って事。」
小代里(則助):「お、お父さんは・・・・お父さんの身体の方がいいに決まってるじゃないか。女装の趣味なんて無いぞ。」
 
やや無理のある回答をする。
 
穂奈美:「ふ〜ん・・・女性の身体って魅力的じゃない?」
小代里(則助):「何言ってるんだ?さっきから。」
穂奈美:「だってお父さん、いやらしいビデオとか借りてるし・・・」
小代里(則助):「そ、そりゃ男だからさ。女になればそんなもの借りる気もなくなるよ。」
穂奈美:「ほんとに?」
小代里(則助):「あ、ああ。ほんとさ。」
穂奈美:「私がもし男になったら・・・・女性に興味が出るのかな?」
小代里(則助):「・・・・・さあ。それは分からんよ。でもお父さんは南出の身体になっても男に魅力は感じないな。」
穂奈美:「へぇ〜、じゃあやっぱり女性の身体に興味があるんだ!それなら穂奈美ちゃんの身体にも興味があるんだね。」
小代里(則助):「な・・・・馬鹿だな。何言い出すんだ・・・まったく・・」
穂奈美:「へへ・・・・今日のお父さんね、なんかいつもよりも話しやすい感じがする。」
小代里(則助):「・・・・・」
穂奈美:「なんとなくお父さんっていうか、友達みたいな感じで話せるんだ。」
小代里(則助):「・・・・そ、そうか・・・」
 
そう言えば、普段はこんなに会話する事はない。
それがこうやって長々と会話しているのは、年齢が極めて近い女性・・・
それも、普段接している女子高生なので安心するのだろうか?
こんなことで親子の会話を楽しく出来るのか・・・・
小代里(則助)は、それはそれでいいかもしれないと思った。
穂奈美は恥ずかしげも無く今日の出来事や自分の思ったことを話してくる。
今までにはなかった事だ。
姿が変わるだけでこれほど娘の態度が変わるとは・・・・
周りから見れば、仲のよい友達同士で会話をしているように見えるのだろう。
小代里(則助)はうれしい気持ちとは裏腹に、複雑な気分で話を聞いていた。
 
 
穂奈美:「でね、私考えたの。」
小代里(則助):「何を?」
穂奈美:「元に戻る方法?」
小代里(則助):「えっ?!」
穂奈美:「簡単だと思うんだ。元に戻るのって。」
小代里(則助):「ほ、ほんとか!それはどうやったらいいんだ?」
穂奈美:「同じ事をもう一度するの。」
小代里(則助):「・・・・・・はぁ?」
穂奈美:「だって、階段で転げ落ちた時に身体が入れ替わっちゃったんでしょ。それなら同じように二人で転げ落ちれば元にもどれると思うんだけど。」
小代里(則助):「・・・・それが元に戻る方法なのか?」
穂奈美:「うん。」
小代里(則助):「・・・そんな事で・・・しかしなあ・・・・」
 
しばらく考え込む小代里(則助)。
 
小代里(則助):「・・・う〜ん・・・そうか・・・・なるほどな・・・・同じ方法でなあ・・・・」
穂奈美:「それなら簡単でしょ!」
小代里(則助):「そうだな・・・それ、いいかもしれないな!よしっ!それで決定!!」
 
何とも単純な考えだ。
誰でもそのくらい思いつくが、殆どが元には戻れない結末・・・
それでも、この方法で戻れると確信した小代里(則助)は、さっそく則助(小代里)の家に電話をかけて、いつもより早い時間に学校に来るよう話したのだ。
 
穂奈美:「どうだった?」
小代里(則助):「ああ、始めはお父さんのこと、間違えて南出だと思ったみたいだ。無理もない事だろう。とりあえず明日、いつもより早く来るように言ったから。みんなが来る前に学校で試してみるよ。」
穂奈美:「うん。うまく言ったら元の身体に戻れるね。」
小代里(則助):「ああ。そう祈ってるよ。」
穂奈美:「ほんとに?」
小代里(則助):「ほんとさ。」
穂奈美:「ふ〜ん・・・・でも・・・私は・・・・」
小代里(則助):「ん?どうしたんだ?」
穂奈美:「私は・・・・しばらくその身体のままでいてほしいと思った・・・」
小代里(則助):「・・・・どうして?」
穂奈美:「だって・・・お父さんとこうやって話ができるんだから・・・」
小代里(則助):「どうしてだよ。元に戻っても同じように話せばいいじゃないか。」
穂奈美:「それはそうなんだけど・・・・何となく今のお父さんの方が話しやすいし・・・」
小代里(則助):「・・・・・お父さんも出来るだけ穂奈美が話しやすいような雰囲気を作るよ。お父さんもこうやって穂奈美が色々な出来事を話してくれるのがうれしいんだ。」
穂奈美:「・・・・・お父さん・・・」
小代里(則助):「・・・・よし、明日はいつもより早いんだ。そろそろ寝るとするか。」
穂奈美:「・・うん・・・そうだね。元のお父さんに戻れればいいね。」
小代里(則助):「ああ。」
穂奈美:「ねえ、お父さん。」
小代里(則助):「んん?」
穂奈美:「今日は・・・・お父さんとお母さんのベッドで一緒に寝てもいい?」
小代里(則助):「・・・・・」
 
小代里(則助)はタジタジになりながらOKしたのだった。
洗い物をしながら二人の会話を聞いていた光子は何とも複雑な気持ち。
 
光子:「明日、元の身体に戻ってくれないかしら・・・」
 
夫を娘に取られないかと妙な心配をする光子であった・・・・

ジリリリリリリリ・・・・・・
 
目覚し時計の音で目が覚める。
まだ疲れが溜まっているようで、なかなか目が開けられない。
 
則助(小代里):「んんん・・・」
 
片手で目を擦りながら、もう片方の手でベッドの上にある目覚し時計のスイッチを押す。
ぼんやりと部屋がかすんで見えるので、目を擦ってみる。
目を擦る手の感触が硬い。
そう・・・眠りからさめても、身体は田辺則助のまま・・・
 
則助(小代里):「・・・・・」
 
自分でも分かるくらいの口臭。
気持ち悪いと思いながら、部屋を出て学校に行く用意を始める・・・・
 
 
 
そのころ、小代里(則助)も同じように起きていた。
目の前にはいつもと変わらぬ部屋。
しかし、何となくすがすがしい感じがして、ベッドから身体を起こしてみる。
小代里の胸の重みを肩で感じる。
 
小代里(則助):「う〜ん・・・・」
 
両手を上に挙げて背伸びをする。
喉から発せられる小代里の声。
やはり起きても小代里の身体のまま。
 
小代里(則助):「・・・・・」
 
小代里(則助)は、部屋を後にして学校に行く準備を始めた・・・
 
 
   
お互いの家族も、二人と同じように早起きして朝食をとる。
一夜明けると、少しテンションも下がっている。
相変わらずの違和感を持ちながら朝食を済ませたあと、いつもより早く家を出た。
そして二人は、みんなが来る1時間前に学校に着いたのだ。
 
小代里(則助):「おはよう。」
則助(小代里):「おはようございます。」
小代里(則助):「どうだった?ご両親は。」
則助(小代里):「はい。優しくしてくれました。」
小代里(則助):「そうか。それならよかった。もしかしたら・・・・いや、なんでもない。先生の方も大丈夫だったよ。」
則助(小代里):「そうですか・・・」
小代里(則助):「ああ。さて、さっそく始めようか。あまりゆっくりしているとみんなが来てしまうからな。」
則助(小代里):「先生、元に戻れるんですね。」
小代里(則助):「・・・・たぶん・・・」
則助(小代里):「たぶん・・・って?」
小代里(則助):「絶対に戻れるかは分からない。」
則助(小代里):「・・・・そう・・・なんですか・・・でも、その方法って?」
小代里(則助):「ああ、同じ事をするんだよ。入れ替わった時と同じ方法を。」
則助(小代里):「・・・それってもしかして、階段から一緒に落ちるってこと・・・ですか。」
小代里(則助):「・・・・ああ、そうだ。」
則助(小代里):「そ、それだけ?」
小代里(則助):「ああ、それだけだ。」
則助(小代里):「そ、そんな・・・絶対に無理ですよ。そんな事したって元には戻れない・・」
小代里(則助):「そんな事、やってみないと分からないだろ。」
則助(小代里):「だって・・・それに、また痛い思いをするんですか。」
小代里(則助):「仕方ないだろ。元に戻るためだ。」
則助(小代里):「そんな事言ったって・・・」
小代里(則助):「他に方法があるか?今は同じ事をするしか元に戻る方法は見つからないだろ。」
則助(小代里):「・・・・・でも・・・・」
小代里(則助):「いいからいいから。お前は階段の途中で立ち止まっているんだ。そしたら、俺が後ろから飛びついてやるから。そのまま勢いで転げ落ちれば大丈夫さ。」
 則助(小代里):「・・・きっと戻れませんよ。」
小代里(則助):「そう思っていると、本当に戻れないぞ。お前はこの身体に戻りたいんだろ。それなら俺を信じろよ。」
則助(小代里):「そ、それは元に戻りたいけど・・・でも・・・」
小代里(則助):「時間がないんだ。早く階段の途中まで行ってくれよ。」
則助(小代里):「・・・・はい・・・」
 
則助(小代里)は、仕方なく階段を数段降り、途中で立ち止まった。
階段の上では、小代里(則助)が後ろ歩きしながら落ちてくる準備をしている。
 
則助(小代里):「やだなぁ・・・・まだ足が痛いのに・・・」
 
則助(小代里)がため息をついたとき、小代里(則助)が話し掛けた。
 
小代里(則助):「いいか。行くぞ。」
則助(小代里):「は・・・はい・・・・」
 
則助(小代里)は、階段を降りるような体勢で小代里(則助)に背を向けた。
 
小代里(則助):「ど、どきどきするな・・・・」
 
そう思いながらも決心を固めた小代里(則助)。
助走をつけたあと、勢いよく階段を飛んで・・・
 
小代里(則助):「うわっ!」
則助(小代里):「きゃあっ!」
 
小代里(則助)が、則助(小代里)に激突。
そのまま数段下の踊り場まで転落する。
 
ゴロゴロゴロ・・・・
 
小代里:「イタタタタ・・・・」
則助:「いったぁ〜・・・」
 
二人は縺(もつ)れる様に踊り場に倒れこんだ。
 
小代里:「だ、大丈夫か?」
則助:「は、はい・・・」
小代里:「か、身体はっ!」
則助:「・・・・ダ、ダメです。やっぱり・・・」
小代里:「そ、そうか・・・」
 
お互いの顔を見合わせた二人。
目の前には自分の姿が映っている。
 
小代里(則助):「・・・・失敗か・・・」
則助(小代里):「・・・はい・・・・」
小代里(則助):「・・・・ダメなのか・・・」
則助(小代里):「・・・・・」
 
足を擦りながら俯く則助(小代里)。
余計に足を痛めてしまったようだ。
 
小代里(則助):「痛いのか。」
則助(小代里):「・・・はい・・・凄く痛い・・・」
 
前と同じところを擦っている。
 
小代里(則助):「すまん・・・余計に足を痛めてしまったようだな。」
則助(小代里):「・・・・仕方ないです・・・先生の方は・・」
小代里(則助):「ああ、俺のほうは全然大丈夫だったよ。」
 
 
そこに、下から階段を上ってくる足跡が・・・
 
 
小代里(則助):「だ、誰か来るぞ。」
則助(小代里):「ど、どうしよう・・・」
小代里(則助):「お前は足を動かせないから・・・ここでお互いのフリをするしかないだろ。分かったな。お前は俺のフリをしろ。いいな。」
則助(小代里):「は、はいっ。」
 
小代里(則助)が立ち上がったと同時に、階段から人影が見え始める。
そして・・・
 
教頭:「んっ?君は・・・」
 
階段を上がってきたのは、教頭先生だった。
 
小代里(則助):「き、教頭・・・」
則助(小代里):「教頭先生。」
教頭:「何やってるんだ?こんな朝早くから。」
 
階段を上りながら教頭が質問する。
 
小代里(則助):「あ、あのですね。これには訳が・・・」
則助(小代里):「・・・・」
教頭:「んん?田辺先生。どうしたんですか。」
 
教頭が階段の踊り場に座っている則助を見て驚いているようだ。
 
則助(小代里):「あ、あの・・・あ、足を滑らせちゃって・・・あ、滑らせてしまって・・・」
教頭:「怪我したんですか?」
則助(小代里):「は、はい・・・足を少し・・・」
教頭:「う〜む。それはいけませんな。まだ保健室に先生が来てないんだ。でも、とにかく保健室のベッドで横になった方がいい。そこの君、ちょっと肩を貸してくれないか。」
小代里(則助):「・・・は、はい。」
 
教頭が則助(小代里)に肩を貸す。
小代里(則助)も、逆の肩を貸して則助(小代里)を立ち上がらせる。
 
則助(小代里):「い、痛い・・・」
小代里(則助):「大丈夫・・・・ですか。先生。」
則助(小代里):「・・・あ、ああ・・・」
教頭:「それじゃ、一段ずつ階段を降りますよ。」
則助(小代里):「はい・・」
 
小代里(則助)と教頭先生に肩を貸してもらい、則助(小代里)が一段ずつ階段を降り始める。
 
教頭:「大丈夫ですか。」
則助(小代里):「だ、大丈夫・・・です・・・・ぐっ・・・」
 
小代里(則助)の背が低いので、バランスが取れずに痛めた足を階段につけてしまう。
体勢を立て直そうとすると、余計にバランスを崩す。
 
教頭:「あ、あぶないっ!」
則助(小代里):「きゃっ!」
小代里(則助):「わっ!」
 
小代里(則助)が足を踏み外してしまい、前のめりになる。
そのまま則助(小代里)を巻き込みながら階段を転げ落ちる。
教頭先生は・・・一人で手すりを持っていたのでそのまま階段に立ち尽くしている。
 
ゴロゴロゴロンッ!
 
声も出せないまま、二人は階段を一番下まで転げ落ちてしまった。
 
教頭:「だ、大丈夫かっ!」
 
階段の下でぐったりと倒れこんだ二人を見て、あわてて階段を降りる。
 
教頭:「おいっ!しっかりしろ。田辺先生っ!君もっ!」
 
必死に身体を揺する教頭先生。
 
則助:「ん、んん・・・・」
 
かすかに則助が声を上げた。
 
教頭:「田辺先生っ。田辺先生っ!」
則助:「う・・・ううん・・・・」
 
則助の瞼がゆっくりと開き始める。
ぼんやりと教頭先生の顔が見え始めた。
 
則助:「・・・・・・・教頭・・・・・・・・」
教頭:「しっかりしてくださいっ。しっかり目をあけて。」
則助:「・・・・・・」
 
ぼんやりした視界の中、頭を動かす。
目の前には階段が見えている。
そして、教頭先生の足を見たあと、身体の異変に気付いた。
 
則助:「い、痛い・・・」
教頭:「そりゃそうでしょう。あの上から転げ落ちたんですから。それより彼女が気絶したままだ。」
則助:「彼女・・・・」
 
ゆっくりと身体を起こして横を見てみると、そこにはぐったりと倒れている小代里の姿があった。
 
則助:「・・ん?・・・・・あ、あれ・・・・ってことは・・・・」
 
ハッとして自分の身体を見ている。
見慣れたシワのよった背広・・・
少し汚れた黒い靴・・・
 
則助:「・・・・や・・・やった・・・・・も・・・・戻ってる・・・・戻ってるぞっ!」
教頭:「な、何が戻ってるのですか。」
則助:「身体が、身体がですよ。自分の身体に戻っているっ!おいっ、南出っ、南出っ、起きろっ、起きるんだ。」
教頭:「???」
 
足が痛いのを我慢しながら、必死に小代里の身体を擦る。
 
則助:「南出っ、南出っ!」
小代里:「・・・・・う、うう・・・」
則助:「南出・・・・」
小代里:「ううん・・・・」
 
小代里の指がピクッ、ピクッと震えたかと思うと、ゆっくりを瞼を開き始めた。
 
則助:「戻ったんだ。身体が元に戻ったんだっ!」
小代里:「・・・・・」
 
頭の中が混乱しているようだ。
今一つはっきりとしない意識の中、目の前にいる則助をじっと見つめる。
 
小代里:「・・・・先生・・・・・えっ!」
 
小代里はガバッと起き上がると、一目散に自分の身体を触り始めた。
 
小代里:「わ・・・私の身体‥・・も、戻ったんだっ!」
則助:「やったぞ南出っ!元に戻れたんだっ!」
小代里:「せ、先生っ!」
 
二人はうれしさのあまり、抱き合って喜んだ。
しかし、隣には教頭先生が・・・
 
教頭:「・・・・・た、田辺先生・・・・」
則助:「・・・・・あ・・・き、教頭先生・・・・」
教頭:「・・・・何やってるんですか・・・生徒と抱き合ったりして・・・」
則助:「そ、それは・・・・その・・・・」
 
二人は急いで離れる・・・が、時既に遅し・・・
 
教頭:「後で校長室に来てもらいましょうか。」
則助:「・・・・は、はい・・・」
 
足を引きずりながら、則助は保健室に行く予定が教頭先生と校長室に行くことになり、こっぴどく叱られる羽目になってしまったのだ・・・
小代里は黙って二人の後姿を見送っていた・・・
 
 
 
 
さてさて、その日の放課後・・・
 
 
二人は何気なく校舎裏に集まって話をしていた。
 
則助:「何か不思議な感じだな・・・」
小代里:「ほんとですね。」
則助:「少しの間だけだったとはいえ、俺がお前の身体になっていたんだからな。」
小代里:「私も田辺先生の身体になってたんですよね・・・」
則助:「嫌だったか?」
小代里:「・・・・はい。」
則助:「だろうな・・・」
小代里:「先生は?」
則助:「・・・・そりゃ・・・嫌と言えば嫌かな・・・」
小代里:「ですよね・・・」
則助:「でもな、俺の嫌っていうのはな、家族を養っていけないからと言う意味で嫌だったんだ。別にお前の身体が嫌だったって言うわけじゃないぞ。」
小代里:「・・・そう言えば、お風呂とか入りました?私の身体で・・・」
則助:「ま、まあな・・・・」
小代里:「・・・そうですか・・・」
則助:「で、でも、やましい事は何もしていないぞ。だいたい俺にだってお前と同い年の娘がいるんだ。そんな娘のいる家で変な真似は出来ないだろ。」
小代里:「それじゃあ、したかったんですか?変な真似。」
則助:「そ、それはだな・・・・そ、その・・・」
小代里:「・・・・すいません。変な事聞いちゃって・・・」
則助:「・・・・いや・・・いいんだ・・・お前の言うとおりだから。でも、ほんとに何もしていないんだ。分かってくれよ。」
小代里:「はい。分かってます。信じてますから。」
則助:「そうか・・・・ありがとう・・・」
小代里:「私、先生の身体になって、うれしかった事があるんです。」
則助:「俺の身体になってうれしかった事?」
小代里:「はい。それは、私の両親のこと・・・私は田辺先生の身体になってしまったから、両親にどうやって接すればいいか分かりませんでした。でも、私の両親は田辺先生の身体になっても普段どおりに・・・いえ、普段よりも優しく接してくれたんです。それがとてもうれしかったし、やっぱり自分の親って素敵だなって思いました。」
則助:「・・・・そうか・・・・いい両親を持って幸せだな・・・」
小代里:「はい。私、お父さんもお母さんも大好きです。」
則助:「・・・それでいい・・うん、それでいいんだ・・・そうでなくちゃならないんだ・・・」
小代里:「はい。」
則助:「・・・・さて、これからはビシビシ授業で当てるからな。」
小代里:「えっ!」
則助:「ノートに落書きするような時間がある奴は、よほど勉強に自信があるんだろう。暇なら何度でも質問を浴びせるからな。」
小代里:「わ、私のノート、見たんですか。」
則助:「昨日お前の身体で授業を受けたときにな。ちゃんと勉強しろって。」
小代里:「やだぁ。勝手に見ないで下さいよぉ。」
則助:「人に見られたくないような事、するからだろ。」
小代里:「そんなぁ・・・・」
 
・・・二人はこのあと30分ほど話し、お互いの家に帰った。
それぞれの家族は、元の身体に戻れたことをひどく喜んだそうだ。
一番喜んでいたのは・・・・光子だった。
 
光子:「ふぅ・・・・一時はどうなるかと思ったけど、ほんとによかったわぁ。あのままじゃお父さん、穂奈美に取られちゃいそうだったから!」
 
また妙な勘違いをしている光子だった・・・・

おしまい