漫画を含めて、色々と作品を作りたいとは思っているのですが、自分の時間と気力が乏しくてなかなか前に進まないですね(^^
この作品も早く完結させて、個人誌として販売したいのですがいつになる事やら(悲

個人誌に掲載する予定の「続・義理の姉」の続編です。
かなり長くなると思うので、現時点で書けているところまでを掲載します。

「続・義理の姉」では、春休みに兄夫婦の家に遊び行く予定になっていますが、続編は冬休みに由香利たちが帰った後、大学の後輩で歌のレッスンをしてあげている一葉 玲子のライブを観に行くところから始まります。

神社で遭遇した女子高生が色々とかき回してくれそうですよ(^^


 相変わらず、どんよりとした灰色の雲が空を覆っている。小雪が舞い散る午後、春斗は肩をすぼめながら駅前まで歩くと、三駅ほど離れたライブハウスに向かった。十七時から行われる一葉 玲子のライブを見るためだ。玲子は春斗の一つ年下で、音楽サークルに入っている。ボーカルを務める彼女は、絶対音感を持つ春斗にしばしば、音程の確認をしてもらっており、彼にライブに来て欲しいとチケットを渡していたのだ。

 カラオケで教えた成果が出ているだろうか?

 少し興味を持ちながらライブハウスに到着した春斗は、受付の男性にチケットを渡すと、木製の洒落た壁が覆う廊下を歩き、ステージのあるスペースに入った。おそらく、百人ほど入れるだろうか。すでに三十人ほどの若い男女がステージ前を陣取っている。ステージでは、最初に演奏するグループが音合わせを行っており、大きな音量が耳に響いた。
 春斗は一番後ろで壁に凭れ掛かると、ポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。

「まだ三十分くらいあるか。コーヒーでも買って来よう」

 そう思い、一度廊下に出たところで玲子と鉢合わせになった。

「あっ。井野崎さんっ……来てくれたんだ」
「ああ。折角チケットをもらってたからな」

 目を見開いた彼女は笑顔を作ると、春斗と共に廊下の端に並んで立った。明るいブラウンのポニーテールに、黒いタンクトップ。その上にシルバーの半袖ジャケットを羽織り、深い赤のホットパンツを穿いている。タンクトップの胸元を覗き込むような位置関係になり、彼は視線を泳がせた。

「来てくれて嬉しいよ。私たちのバンドは二番目だから。三曲歌うの」
「へぇ〜、そうなんだ。この前練習した曲も入ってるのか?」
「もちろん。あれからまた練習したんだよ。でも、井野崎先生に聞かれるのはちょっと緊張するな」

 彼女は笑いながら、少し恥ずかしそうに頭を描いた。

「それならチケットをくれなかったら良かったのに」
「あ〜。それはやっぱり聞いて欲しいと思ったから。気持ちは半分半分なの」
「そっか。それよりもその格好で寒くないのか?」
チラリと胸元に視線を向けた春斗は、わざとらしく顔をしかめながら玲子に話しかけた。
「ちょっとね。でもステージで歌うとすぐに熱くなって汗が出るの。熱気もすごいからねっ。だからこのくらいでちょうどいいんだ」
「なるほど。じゃあ、一番後ろで聞いておくよ」
「うん、分かったわ。もう少し裏で音合わせするから。じゃあステージで!」
「ああ」

 ほんの二、三分話した後、彼女はステージ裏に消えて行った。明るいブラウンのポニーテール揺らしながら小走りする玲子の後姿。ホットパンツから伸びる肌色のパンストに包まれた足が何とも艶かしく感じた。
 コーヒーを飲んでステージに戻ると、すでにほぼ満員の状態になっていた。人を掻き分けながら、一番後ろの壁に凭れ掛かった春斗の周りにも若い男女が並び、隙間が無いほど埋め尽くされた。

「こんな状態じゃ酸欠になりそうだ」

 複数の女性達が付けている香水が混ざり合い、ある意味不快な気持ちになる。それでも一組目のグループが登場し、演奏が始まるとまったく気にならなくなった。いや、気にしている場合ではなくなったという言い方の方が正しいかもしれない。
 大音響と激しいリズムに合わせて全員が腕を伸ばし、タイミングよく飛び上がる。一人だけ突っ立っているのもおかしいので、周りの人達と一緒に飛び上がる。このまま飛び続ければ必ず酸欠になると思っていると、二曲目は落ち着いた曲を演奏し始めた。客達は挙げた手を左右に振り、音楽に合わせている。春斗も同じようにリズムを取って手を左右に振った。ステージ上のグループと客達が一体になっている。そんな感じを受けた。
 何とか三曲目を聞き終えた頃には、全身汗だくになっていた。よく見れば、周りの客達は薄着で動きやすい服装をしている。春斗だけがダウンジャケットを着ていて、改めて場違いな服装だと自覚した。

「ライブハウスなんて初めてだからなぁ」

 そう呟きながらふと隣の女性を見ると、彼女も春斗に視線を合わせてきた。いや、最初から見ていた感じだった。

「あっ……」

 彼女の顔を見てすぐに思い出した。長いストレートの髪に清楚な顔立ち。神社で幽体の春斗を見ていた女子高生だ。

「ど……どうして……」
「今日はあの女性、一緒じゃないんですね」
「あ……あの女性って……」
「お兄さんが取り憑いていた綺麗な女性ですよ。あの人って一緒にいた男性の奥さんなんでしょ?」
「いや……それは……」

 再び大音響が流れ、玲子のバンドが演奏を始めた。隣にいる女子高生は何かを話したが、何を言ったのかは聞き取れなかった。気になりながらも、とりあえず玲子の演奏を聞きながら周りの客に合わせて体を動かす。女子高生も同じように体を動かしていた。音程が少し外れている様にも感じたが、この場の勢いに音程の正しさなんて無意味だった。みんなで楽しく歌って踊れる雰囲気が最も大切な事だと実感した。二曲目は、カラオケで一緒に練習したバラードだった。練習したというだけあって、上手く歌いこなしている。絶対音感の春斗が聞いていても、まったく不快に思わなかった。
 三曲歌い終えた玲子は、額から汗を噴出しながら「ありがと〜みんなっ。そして井野崎さんもね!」と大きな声で笑顔を作ると、ステージから降りて行った。

「な、何だよ。あんなに大きな声で人の名前を呼ぶなんて。恥ずかしすぎるって」
思わず呟いた春斗に、「もしかして井野崎さんってあなたの事なんですか?」と女子高生が話し掛けてきた。
「い……いや。俺…もう帰るから」
「あっ!」

 何だかややこしい事になりそうなので、急いでライブハウスから出た春斗は、まだ小雪が舞う歩道で大きく呼吸をした。冷気が肺に入り、とても心地よい。

「ハウスの中とは全然温度が違いますね」

 ふと振り向くと、先ほどの女子高生が笑顔で立っていた。

「なっ! どうしてっ」
「あの、そこの喫茶店で少しお話したいんですけど」
「まだライブは終わってないだろ。聞くつもりじゃなかったのか?」
「私、一組目のバンドを聞きに来たんです。でもまさかあなたがいるなんて……。これも運命かも知れないですね。井野崎さんなんでしょ?」

 名前を問われ、何て答えようか黙っていると、「私、芦川千佳って言います。ここから歩いて十分くらいの学校に通っているんです」と軽く会釈をしてきた。

「君はどうして俺の事を……」
「この前、神社で会った時から気になっていたんです。きっと井野崎さん、あの女性に乗り移っているんだろうなって」
「…………」
「井野崎さん、あの女性の身体を自由に操れるんでしょ!」
「な……何を訳分からない事を……」
「少しだけ話しません? 私、井野崎さんの事……すごく興味があるんです。私がお金を出しますから」
「だから何を言っているのか分からないって!」
「私が伊野崎さんと同じ能力を持っているとしても?」
「……えっ?」
「とりあえず……寒いから喫茶店に入りたいんですけど」

 同じ能力――もしかして、彼女も他人の身体に憑依できるのだろうか。
 幽体の春斗が見えたり、乗り移って身体を操るという言葉を口にする辺りに信憑性が高いと思った――。



 喫茶店に入った二人は、テーブルを挟んで対面に座ると、ウェイトレスにホットコーヒーを頼んだ。
「なあ……芦川さんだっけ。同じ能力って、君は何が出来るんだ?」
「さっきのバンドのボーカルの女性、井野崎さんとどんな関係なんですか?」
「いや、だから俺は能力の事を聞いているんだ」
「慌てないでください。きちんと話しますから。あの女性って友達なんですか?」
「……ああ、大学の友達さ。歌のチェックをしてやってるんだ」
「井野崎さんって学生じゃなくて先生?」
「いや、学生さ。彼女よりも一つ上なんだ」
「それじゃあ歌のチェックって……井野崎さんもバンドしているって事?」
「そうじゃない。俺、絶対音感を持っているんだ。だから音程がずれているかを聞いて修正しているって事さ」
「ふ〜ん。絶対音感なんて珍しいですね。私は歌なんて全然歌えないです。友達とカラオケに行っても聞いているだけですよ」
「そうなんだ……」

 ウェイトレスがホットコーヒーをテーブルに置くと、千佳はレシートをポケットに仕舞おうとした。

「ああ、いいよ。年下の女の子にお金を払わせる訳にはいかないから」
「でも私が誘ったので」
「いいから」

 春斗が手を差し伸べると、彼女は軽く会釈しながら「すみません。ご馳走様です」とレシートを渡した。

「で? 君は一体何者なんだ」

 コーヒーを口に運びながら尋ねると、彼女は「私、他人に乗り移って身体を自由に操ることが出来るんです」と答えた。

「誰にでも?」
「はい。誰にでも」
「そ……そうなんだ。すごいな」
「だから、同じ能力を持っている人に出会えて、すごく嬉しいんです。井野崎さんってあの女性の事が好きなんですか?」
「す、好きって言うか……義理の姉だからな」
「じゃあ、横にいた男性って井野崎さんの兄で、あの女性の旦那さんだったんですね。小さい子供と三人家族なんですか」
「ああ」
「でも兄の奥さんじゃあどうしようもないですね。それじゃあやっぱりさっきのボーカルの女性が井野崎さんの本命なんですか?」
「彼女とはただの友達だよ。歌を練習する時だけしか会ってないし、メールのやり取りもないし」
「ふ〜ん……」

 千佳は温かいカップを両手で包み込むように持ちながら、何かを考えていた。

「井野崎さんって、義理のお姉さん以外にどんな人に乗り移った事があるんですか?」
「えっ……無いよ。彼女だけさ」
「どうして?」
「それは……彼女にしか乗り移れないからさ」
「そうなんですか?」
「他人の身体に入ろうとしても入れないんだ。魂の波長というか……俺と相性が良いのは彼女だけみたいなんだ。それにしても……君は誰にでも乗り移れるんだ。すごいな……」
「小さい頃に気づいていました。自分の身体から離れて他人の身体に憑依できる事を。どうして自分だけこんな事が出来るんだろうって思ってましたけどね」
「何人くらいの人に乗り移ったんだ?」
「数え切れないです。両親や近所のおばさん。片思いだった男子や先生。全然知らない人達にも」
「それで……何の目的のために?」
「一番は気分転換です。他人になるって、自分の殻から抜け出して色々なことが出来るじゃないですか。自分じゃ出来ない事も、他人の身体なら出来るでしょ」
「ま……まあな」
「それと……」

 言葉を止めた彼女は、身体を乗り出して春斗の耳元で囁いた。

「オナニーやセックスです」

 千佳の口から出た言葉に、春斗は咳払いをした後、コーヒーを一口飲んだ。

「井野崎さんもしたんでしょ? 義理のお姉さんの身体で。他人の身体って自分とは全然違うから楽しいです。同姓でも異性でも。井野崎さんは他の男性がどんな風に感じるのか興味ないですか?」
「俺は無いよ。他人に憑依出来たとしても、男になりたいとは思わないな」
「そうですか。私は同姓でも全然嫌じゃないですけど。何かすごいです。私……自分のままで男の人とこんなにたくさん話したのは初めてです。それに……同じ能力を持つ人と喋れてとても楽しいですっ」

 相変わらず両手でコップを持つ彼女は、嬉しそうに笑顔で話していた。きっとこの子はモテるんだろうな。春斗はそう思いながらコーヒーを飲み干した。

「俺、そろそろ帰るわ。お金は払っておくからゆっくりしてくれていいよ」
「あ……はい」

 少し残念そうな表情をした千佳は、「また会ってもらえますか?」と言った。

「……また機会があればね」
「あの、私の連絡先を渡します」
「いいよ別に。じゃあね」
「い、井野崎さんっ。待って下さい!」

 あまり関らない方が良いと思った春斗は、連絡先を聞かずに喫茶店を後にした。

「参ったな……。ちょっと喋りすぎたか」

 すでに空は暗くなっており、電灯が点いていた。
 兄夫婦や玲子について、思わず喋ってしまった事を後悔しながらもう一度ライブハウスに戻った春斗は、玲子の姿を探した。
 結構な時間が経っており、客達はすでに帰っているようだ。玲子が入って行った【関係者以外立ち入り禁止】と書かれたの扉の前に立った春斗が躊躇していると、ちょうど扉が開いて彼女が顔を出した。

「あっ、井野崎さん! 今日は来てくれてありがと。私の歌、どうだった?」
「ああ、良かったよ。バラードもすごく良かった。俺が聞いていても全然音ズレしてなかったよ」
「ほんとに? 伊野崎先生に褒められたらやっぱり嬉しいな」
「……って言うか、大勢の前で名前を呼ばれたら恥ずかしいって」
「ごめんね! だって来てくれて嬉しかったんだもんっ」
「別に嫌じゃなかったけどさ。じゃあそろそろ帰るよ。上手かった事を伝えたかっただけだから」
「うん、ありがと。ねえ伊野崎さん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「えっ、いいけど」

 玲子はクスっと笑うと扉を閉めた。そして三分程するとまた顔を出し、折り畳まれた小さなメモ用紙を差し出した。

「これ、家に帰ってから読んで。絶対に帰る途中で読んじゃだめだよ」
「何が書いてあるんだよ?」
「それを言ったら意味ないでしょ。約束だからねっ」
そう言うと、春斗の両肩に手を添え、軽く背伸びをしながら彼の頬にキスをした。
「なっ! お、おい……」
「今日のお礼だよ。じゃあまた!」
「あ、ああ……」

 彼女はウィンクすると、ゆっくりと扉を閉めた。

「な……なんだよ。お礼って……」

 頬に手を添えた春斗は、彼女の唇の柔らかな感触を思い出し、照れ笑いした。

「もしかして俺に気があるのか? いや、そんな筈ないよな。でも……このメモ用紙には何が書いてあるんだろう」

 好意的な内容が書かれているかもしれない。そう思いながら頬を緩ませた春斗は、メモ用紙をポケットに仕舞うと軽い足取りで家路に着いた。