「悪いな、先に入らせてもらって」
「だから別にいいんだって」
「何読んでいるんだ?」

 二階にある吉沢の部屋に入ると、勉強机に向かって薄っぺらい本を読んでいる姿が目に飛び込んできた。勉強しているとは思えないけど、漫画ではなくて文字ばかり書いているみたいだ。
「ちょっとな。それよりもさ、姉貴はどうだった?」
「はい? どうだったって、どういう事だよ」
「身内で言うのもなんだけど、結構綺麗系だと思わないか?」
「そういう事か。綺麗系っていうか俺にとってはすごく好みのタイプだよ。いや、勘違いするなよ。別に付き合いたいって言っているんじゃないぞ」
「誰もそんな事まで聞いていないって。それに姉貴には彼氏がいるんだ」
「やっぱりな。お前の姉ちゃんほど綺麗で頭が良い女性に彼氏がいないなんてあり得ないからなぁ」
「ま、弟の俺とは出来が違うからな。もうちょっと考えて生んでくれたらいいのにさ」

 その言葉を聞くと、母親が言っていた事を思い出した。でも、コイツに言った所で何が変わるわけでもないからな。

「それより、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「そりゃあ……お前が萎えたら困るからさ」
「はぁ?」

 吉沢は読んでいた本を机の引き出しに仕舞うと、「う〜ん」と背伸びをした。扉の向こうから足音が聞こえる。吉沢の姉ちゃんが廊下を歩いているんだろう。

「姉貴、風呂に入るみたいだな」
「そうなのか?」
「多分」
「何か恥ずかしいな。俺が入った後にお前の姉ちゃんが入るなんて。一応綺麗にしてきたけど」
「そんな事、気にしなくて構わねぇって。さて、じゃあ俺も準備するかな」
「準備って? まさかお前、いつも姉ちゃんと二人で風呂に入っているのか?」
「んな訳ないだろ。小学生じゃあるまいし」
「だよな、ははは。ゲーム、ゲームっと!」

 空笑いした俺は、ゲームの準備を始めた。でも吉沢は机上の片隅に置いていたタブレット状の薬の様なものを手にすると「先にゲームをやっておいてくれよ」と言い、部屋から出て行ってしまった。

「なんだアイツ。気を利かせてジュースでも持ってきてくれるとか」

 そんな風に思いながらベッドに腰掛け、十分ほどゲームをしていた。でも吉沢はなかなか戻って来なかった。腹が痛くてトイレに篭っているのか、まだ食べてなかった夕食を取っているのかは分からないけど、更に十分経ってしまった。

「……まさかアイツ。違うって言いながら姉ちゃんと風呂に入っていたりしてな!」

 あまり想像したくないけれど、姉弟で風呂に入っている姿が頭の中に浮かんできた。俺は一人っ子だから良く分からないが、血の繋がった異性が大人になっても一緒に入るのってどんな感覚なんだろう。慣れ親しんでいる仲だから、異性としては見ないのかな。
 色々と考えていても、両手は勝手に端末を操作して敵を倒している。無意識でも自転車に乗れるのと似たようなもんだ。こうしている内にも時間は過ぎてゆき、アイツが部屋を出てから三十分経った。さすがに遅すぎると思ってゲームを一時停止すると、階段を上がる足音が聞こえ始めた。もしかしたら吉沢の姉ちゃんが風呂から上がってきたのかもしれない。そう思っていると、扉の前で足音が止まった。ようやく戻ってきたのか。でも、開いた扉から入ってきたのは、何故か吉沢の姉ちゃんだった。しかも白いバスタオルを体に巻いた状態で。

「えっ……」

 自分の部屋と間違えたのか? 瞬間的にそう思った。だって、バスタオル一枚で弟の部屋に入ってくるなんてあり得ないし、ましてや俺がいる事が分かっているのに。目のやり場に困り、視線を落とすと吉沢の姉ちゃんは扉を閉め、俺の前でこういった。

「どうだ? 姉貴の体。バスタオル一枚ってのがセクシーだろ!」
ツレの姉1-2

 その言葉に頭を上げると、吉沢の姉ちゃんはウィンクしながら軽く舌を出し、可愛らしく笑った。

「……へ?」
「先にちょっとだけ楽しもうと思ってたんだけどさ。姉貴の体ってすごく気持ちよくて。初めて味わう女性のイクッて感覚、男じゃ味わえない最高の快感だった」

 妙に親しげに話してくる。しかも、会話の内容が不自然だった。自分の事を言っているのに、まるで他人の様な口ぶり。

「な、何言ってるんですか。それに、そんな格好で来られたら……」
「へへ、姉貴の姿に興奮してるのか。加藤も男だな」
「いや、だから……」
「俺だよ俺、吉沢だよ。吉沢仁伍だよ」

 吉沢の姉ちゃんは、自慢げに胸を突き出しながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。