退屈な金曜日の授業が終わった放課後。俺はクラスメイトの吉沢に声を掛けられた。

「なあ加藤。お前、俺んちに泊まりに来ないか?」
「はぁ? 何だよ急に」
「両親が旅行に行っててさ。徹夜でゲームが出来るんだ。俺んちでやろうぜ」
「う〜ん……そう言われてもなぁ」
「忙しいのか?」
「そう言う訳じゃないけど」
「じゃあ来いよ。夕食は用意していないから自分ちで食べて来てくれ」
「えらく強引だな。ゲームったって、ネットワーク対戦出来るからわざわざお前んちに行くこと無いだろ」
「いやいや。やっぱり隣同士で座ってやる方が面白いじゃないか。だからさ!」
「まあ……別に何の用事も無いからいいけどさ」
「じゃ、決まりだな。風呂は俺んちで入ってくれたらいいから。待ってるぜ」

 そんなに一緒にやりたいなら構わないけどさ−−まあ、俺だって親がいないところでやる方が気楽だし。吉沢の家に泊まらせてもらう事になった俺は、家路につくと母親に事の成り行きを伝え、リュックに着替えを詰めて夕食を取った。
 吉沢はクラスの中でも仲の良い友達の一人で、週に三日はポータブル端末でネットワークゲームの対戦をやっている。たまに夜中の三時ごろまでやっている事もあるけど、そんな時は大概二人して授業中に居眠りをして先生に怒られる。こんな生活をしているせいか、成績は中の下くらい。大学に行くつもりは無く、働こうと思っているからそんなに気にならない。いや、吉沢も似たようなものだから、焦る気がしないっていうか――。
 ただ、アイツは父親が不動産業をやっていて、やたらに金を持っているから将来を心配する必要が無い。そこが俺んちと決定的に違うところだ。多分、親の仕事を継ぐんだろうな。それに比べて俺の父親はごく普通のサラリーマンな訳で。

「吉沢君の家に泊まりに行くって、あんた達、夜通しゲームする気だね。ゲームばかりじゃ、良い会社に就職できないよ」
「分かってるって。三年になったら勉強するからさ」
「それじゃ遅いんだって。自分の将来なんだから、もうちょっと自覚しなさい」
「はいはい。じゃ、吉沢んちに行って来るよ」
「まったくあんた達は……。吉沢君のお姉さんの様にしっかりと勉強して、大学へ行ける位になりなさい」
「そんなの無理だって。吉沢も言ってたよ。最初に生まれた姉貴に良いところが全部詰まっていて、次に生まれた俺にはカスしか残ってなかったんだってさ」
「馬鹿な事を言うんじゃないよ。皆、平等に生まれてきているんだからね。生まれてからどれだけ努力するかって事だよ」
「その話はまた今度って事で。じゃ、行って来る」

 長くなりそうになったから途中で話を切り上げた俺は、キッチンで不満そうな表情をしている母親を背に家を出た。

「そりゃ、吉沢の姉ちゃんはすごいと思うけどさ……」

 アイツには、今年大学を卒業した姉ちゃんがいる。製薬会社に就職したらしく、給料もいいんだとか。俺には全く関係の無い話だけど、吉沢は結構気にしているみたいだ。良く出来た姉と、ゲーム三昧の弟。まあ、アイツはアイツなりに苦労しているって事だな。
 すでに日は落ちていて、揺れる電車の窓にはビルの灯りが規則正しく見えていた。二駅だけ電車に乗り、閑静な住宅街を歩いて十分。道端の草木から鈴虫か何かの泣き声が方々から聞こえる。湿気の無い風を頬に感じながら、一軒の大きな家の前に辿り着いた。
 カメラ付きのインターホンを押すと、「鍵は開いてるから入って来いよ」と言う吉沢の声が聞こえた。

「お邪魔します」

 高そうな木製の扉を開けると、相変わらずの広い玄関が出迎えてくれる。これで吉沢んちに来るのは三回目だったっけ。足元には、アイツがいつも履いている白いスニーカーと、黒いパンプスが並べてあった。きっと吉沢の姉ちゃんが履いている靴だろう。

「遅かったな」

 二階から吉沢が降りてきた。白いTシャツに短パンというラフな格好だ。

「ああ、母親が五月蝿くてさ」
「お前、俺んちに勉強しに行くって言わなかったのか?」
「当たり前だ。俺とお前が一緒にいるんだぞ。勉強するなんて言っても嘘だとしか思わないだろ」
「……まあな。加藤の母さんにはダメな友達だってレッテル貼られてるからなぁ」

 吉沢は苦笑いしながら頭を掻くと、「先に風呂に入れよ。沸いてるからさ」と廊下の向こうを指差した。

「吉沢。お前はもう入ったのか?」
「いや、入ってないけど」
「じゃあ俺は後でいいよ」
「いいから。客人には一番に入ってもらうって決めているんだ」
「客人ったって、ただのツレじゃないか」
「ツレだって客人は客人さ」
「そんなの悪いからさ。後で入るって」

 廊下を歩きながら話していると、リビングに人影が見えた。ふと視線を向けると、黒いスーツ姿の女性――吉沢の姉ちゃんが立っていた。
ツレの姉1-1

「こんばんは、加藤君」
「あっ。こ、こんばんは」
「仁伍から聞いたわ。今日は家に泊まるんですって?」
「は、はい。お邪魔します」
「うふふ。先にお風呂、済ませてくれる?」
「でも、俺なんかが先に入るなんて……」と、言ったところで言葉を止めた。そりゃそうか。自分が入った後に赤の他人−−しかも男が入るのって、色々と見られる感じがしてきっと嫌だよな。俺だって、女性が入った風呂に後から入るのって、何だかドキドキするっていうか−−。吉沢の姉ちゃんが座った椅子に座ったり、湯船に陰毛が浮かんでいたりとか、想像しただけで鼻血が出そうだ。

「ああ…。やっぱり先に入らせてもらいます」

 とりあえずそれだけ言うと、吉沢が用意してくれたバスタオル等を持って風呂に入った。広い湯船に浸かって目を閉じると、スーツを着た吉沢の姉ちゃんが瞼に浮かんだ。淡い茶色のストレートの髪が綺麗で、黒いパンツがすごく似合っていた。あの白いブラウスに包まれた胸って、どれくらい大きいんだろう。容姿端麗って、吉沢の姉ちゃんみたいな女性の事を言うんだろうな。一緒に風呂に入って、背中を流し合いたいなぁ。そんな事を考えていると、肉棒が元気になってしまった。

「ダメだダメだ、相手はツレの姉ちゃんだぞ。それに俺なんかとは不釣合いもいいところだ」

 何度も顔に湯を掛け、妄想を吹き飛ばした俺は綺麗に体を洗って風呂を出た。