この作品は、同人誌「入れかえ魂Vol.3」「入れかえ魂Vol.4」に掲載された「どうにもならない(前編)」と「どうにもならない(後編)」となります。
 先生が大好きな男子高校生が、彼女の体を乗っ取り、色々な悪戯を行います。そのシチュエーション上、ダークな展開になりますので読みたいと思われる方のみ、閲覧くださいませ。
また、ブログタイトル下にも書いていますが創作物はフィクションで、登場する人物や場所などは全て架空のものです。
「どうしたの村内先生? 顔色悪いんじゃない?」

 そう話し掛けてきたのは、智恵と同じ三年生を担当する池上由希恵。少し青白い顔色をして元気の無い智恵を心配している。

「そ、そうかな。別にそんなこと無いけどね」

 村内智恵は少し言葉を詰まらせながらも、それらしい愛想笑いをして答えた。
 もうすぐ授業の始まるチャイムが鳴る時間。智恵は数学の教科書と出欠簿等を小脇に抱えると、ゆっくりと席から立ち上がり職員室を出た。何か思いつめるような表情をし、重い足取りで階段を昇ってゆく。それでも、すれ違う生徒達に軽く笑顔を作りながら挨拶を交わした智恵は、丁度チャイムが鳴り終わった頃に三年D組の教室の前に着いた。
 智恵は緊張していた。自分でも動揺していることが分かる。意識しているつもりはなくても、鼓動は激しく高鳴っていた。教科書等を持つ手に汗を滲ませながら大きく深呼吸した智恵は、静かにゆっくりと扉を開け、教室の中へと入って行った。
 休み時間を終えた直後、ざわざわとした雰囲気が残る教室。まだ立ち話をしている生徒もいたが、智恵が教室に入って来たことに気づくと、ぞろぞろと自分の机に戻って行った。そんな生徒達を横目で見ながら、智恵は教卓の後ろに立ち、持っていた教科書などを置いた。

「起立」

 生徒の一人が声を上げると、生徒達が一斉に立ち上がる。

「礼」の言葉で生徒達と一緒に軽く会釈する。
「着席」

 そして、ガタガタと音を立てながら生徒達が席についた。
 智恵は二、三回咳払いをしたあと、ざっと教室内を見渡した。少しざわついているが、それはいつもの事だ。そんな事よりも、智恵には気になる……いや、気にしなければならない男子生徒がいた。
 一番窓側、後ろから三番目の席に座っている藤田吾郎。彼は隣にいる男子生徒と何やら話をしているようだった。

(起きてる……よかった……)

 吾郎が起きている事を確認してホッとした智恵は、休んでいる生徒がいない事を確かめたあと、今日の授業を始めた。
 いつもどおりの授業風景。でも、智恵は緊張していた。いつ吾郎が寝てしまうか分からないからだ。

「この関数を変形させて式を導き出すの」

 黒板に白いチョークで式を書きながら説明する智恵。カツカツとチョークの音が教室に響いている。多くの生徒は智恵が書いている式をノートに写しているのだが、はやり一部の生徒はマンガを読んだり小さな声で授業に関係の無い事を話しているようだった。

「それからこの式をこうして……」と言いながら、ふと生徒達のほうを見る。

 すると、先ほどまで起きていた吾郎が机に突っ伏しているのが目に入った。

「あっ……」

 思わず声が出てしまった智恵。一瞬にして思考回路が止まってしまった感じ。
別に寝ている生徒は他にもいるので問題ない……とは言えないが、それも普段と変わらない光景だ。
 しかし、吾郎が寝ている時は特別。智恵の身に悪夢のような信じられない事が起こるのだ。

(ど、どうしよう……)

 おろおろする智恵は、焦って授業を進めることが出来ない。

(早く起こさないと、また……)

 そう思って、ゴクンとツバを飲み込んだ。



 ――智恵が初めて体に異変を感じたのは、三日前だった――



 智恵は四日前の放課後、担当するクラスの男子生徒、藤田吾郎に少し話を聞いてほしいと言われた。
 就職や進学の話だと思っていた智恵は快く彼の話を聞く事にしたのだが、その内容は予想を反して全く違うものだった。

「村内先生。俺、先生の事が好きなんだ」
「えっ!? な、何を急に」
「ずっと先生の事、想っていたんだぜ。好きだって」
「ふ、藤田君……」
「でもさ、村内先生は俺の事、何とも想っていないだろ。それに先生と生徒の関係なんて誰も認めてくれないしさ」
「あ、あのね、藤田君」
「俺、先生の全てが好きなんだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。先生の話を聞いて」

 智恵は藤田吾郎を諭そうとしたが、彼はそれを無視するかのように一方的に話を進めた。

「だから、俺、先生になりたいんだ」
「え?せ、先生って……」
「色々と勉強してたんだぜ。そのおかげでさ、最近少しずつだけど出来るようになってきたんだ」
「な、何が?」
「へへっ! まあ明日から試してみるよ。最初は上手くいかないかもしれないけど、徐々に出来るようになるはずだから」
「ちょ、ちょっと。藤田君は何が言いたいの?」
「明日の授業で分かるよ。明日の授業で!だけど驚かなくてもいいよ。俺の仕業なんだから」
「ね、ねえ。藤田君。先生、藤田君の言ってくる事がよく分からないわ」
「いいんだよ。俺、先生の事が好きだ。だから俺が先生になるんだ。俺が先生の全てを手に入れる。先生の体は俺のものだからっ」
「ふ、藤田君っ!?」

 吾郎はそう言うと、走って帰ってしまった。
 智恵には、吾郎が何を言いたかったのか全く分からなかったのだが、次の日、授業をしている最中に身を以って知る事になる。
 まさかこんな事が出来るなんて――