超SS程度の内容になると思いますが、一応タイトルをつけて書き始めました。
中学二年生の女の子が、小学校の頃からずっと好意を抱いていたクラスメイトの男の子に乗っ取られる内容になります。
「城水さん。神谷さんから掃除が終わった後に、理科室に来て欲しいから伝えといてって言われたんだけど」
「えっ、美代から?うん、分かったよ。ありがと」
「うん」

 最後の授業が終わった放課後。城水 雫と同じ掃除当番になっていた丘橋 順平は、彼女にそう伝えた。真面目な印象しかない順平の言葉を信じた雫は、掃除が終わった後、彼の言葉どおり理科室へと向かった。その様子を見ていた順平が、急いで帰り支度をして教室を出てゆく。
 廊下を走り、階段を駆け下りて、今は使われていない旧校舎のトイレへ駆け込むと、鞄の中から一粒のカプセルを取り出し、水も使わずに飲み込んだ――。

「あれ?美代はまだ来てないのかな?」
女の子憑依1
 理科室の扉を開け、中に入った雫は周囲を見渡し、人影のない事を確認した。クラスで最も仲のいい美代だから、もうすぐ来るはず。そう思っているようで、順平が嘘を付いている事実には気付いていなかった。
 キャビネットに並んでいるフラスコを眺めたり、実験机に置いてある試験管を手にとって見たり。彼女は五分ほど部屋の中を見て回った。

「遅いなぁ。美代、何してるんだろ」

 今日は部活の無い日なので慌てる必要は無いが、こうして一人で待っていると時間の流れを遅く感じる。早く来て欲しいと思っていた矢先、ふと人の気配を感じ開いている扉に視線を移した。

「美代?」

 小さく声を掛けたが、人影はない。勘違いかと思い、視線を戻した彼女の体に異変が起きた。

「ひっ!?」

 背筋に悪寒が走り、金縛りにあった様に体が硬直した。鼓動が急激に高鳴り、視点が定まらなくなる。
女の子憑依2
「あっ、あうっ。ひっ……いぃ」

 彼女の意志とは無関係にビクビクと体が震え、痙攣した。まるで発作が起きたように思えた雫の体は、異変が起きて三十秒ほどすると自然に治まったようだ。虚ろな目も正常に戻り、乱れた息を整えている。

「はぁ、はぁ、はぁ……。あっ!」

 落ち着いたかと思うと、今度は驚いた表情で両手を胸に当てる。
女の子憑依3
「城水さんの体っ!これって城水さんの声っ」

 制服の生地を触り、その生地に包まれた小さな胸を軽く揉んでみる。そして視線を落とし、自分の姿を確認した。女子陸上部の練習で小麦色に焼けた腕。女子用の赤に紺のストライプが入ったタイ。そして何より、緑のチェック柄のプリーツスカートに、黒いニーソックスが彼女である事を知らしめていた。

「ぼ、僕。城水さんに乗り移れたんだっ!」

 雫はそう言って嬉しそうに笑った。彼女の体を動かしているのは、先程カプセルを飲んだ順平だ。彼は幽体離脱が出来る薬を使い幽体となった後、理科室にいた雫の体に入り込んだのだ。順平の幽体が彼女に体に入り込むことで、彼女の意識は奥底へと沈められると共に、体の主導権を奪われる。すなわち、雫の体は順平の思い通りとなっているのだ。

「ごめんね城水さん、騙したりして。僕、どうしても城水さんの全てを知りたかったんだ。小学校の時からずっと好きだったけど、告白する勇気が無かった。中学校に入って、同じクラスになれたときはとても嬉しかったんだ。でも、城水さんは僕の事を真面目な人間にしか思ってくれないし、単にクラスメイトというだけで友達にもなれなかった。城水さんは知らないだろうけど、僕はずっと見ていたんだ。授業中も、陸上部で一生懸命走っている姿も」
女の子憑依4
 順平は、自分の声が雫の声となって耳に聞こえる事に興奮しながら、彼女に語りかけるように話を続けた。

「ストーカーと思われたくなかったから、他の友達から変に思われないように気をつけたよ。もちろん城水さんからも。でも、中学二年生になった今、城水さんは僕の気持ちを知らないまま田岡君の事を好きになったんだよね。僕が告白していたら、僕と付き合ってくれたかな?ううん、今はそんな事、どうでもいいんだ。だって僕が城水さんになっているんだから」

 雫がその場で嬉しそうに体を一回転させ、プリーツスカートの広がりを楽しんでいる。そして、胸に手を当てたままいやらしい笑みを浮かべた。

「……分かるよ。分かるんだ。城水さんの事が。まるで僕が元々城水さんだったみたいだよ。……すごい。城水さんの記憶が手に取るように分かる。これってほんとにすごいよっ」

 どうやら彼女の体に乗り移ると、彼女自身が持つ記憶を盗み見る事が出来るようだ。彼は城水雫が生まれてから十四年の間で、彼女が覚えている記憶を瞬間的に手に入れた。

「これなら誰にも怪しまれずに、城水さんとして接する事が出来る。城水さんのお父さんやお母さん、それに……お姉さんにも。とりあえず城水さんの家に行って、この体をもっと知りたいっ」

 そう思った順平は雫の体を操り、彼女の家に帰ったのであった。