エイプリル的な〜1
「よっ、竹畑!」
「んん?相澤じゃないか。どうしたんだ?」
「へへ。ちょっといいか?人気のないところに行きたいんだ」
「あ、ああ。でもどうしたんだよ、そのしゃべり方。まるで男みたいじゃないか」
「それは後で教えてやるよ。向こうの隅なら誰もいないみたいだから。ほら、早く」
「…………」

 春休みの午後。生徒の解放されていた学校の図書室で勉強中の俺の前に現れたのは、クラスメイトの相澤だった。ショートカットの髪が似合う活発な女の子だけど、今聞いているような男勝りなしゃべり方はしない。その口調に違和感を覚えながらも彼女の後を歩き、辞書が並んでいる人気の無い棚の間に向き合って立った。

「何だよ、こんなところで」
「実はさ、驚くなよ。俺、秋田なんだ」
「秋田?」
「ああ。お前の友達の秋田譲地さ」
「え……。ど、どういうことだよ」
「体は相澤だけど、心は俺、秋田なんだ。ある薬を使って相澤の体に乗り移っているんだ」
「の、乗り移っている?」
「そうさ、だからこの体は俺が自由に操れるって訳」
「嘘だろ?ああ、わかった。今日は四月一日、エイプリルフールだもんな」
「そういうと思ったよ。じゃあさ、相澤がこんな事をするか?」

 少し周りを気にした相澤が、ゆっくりとスカートを捲って白いパンティをチラリと見せた。

「なっ……」
「どうだ?信じたか?」
「し、信じたっていうかなんていうか。あまりに衝撃的な行動だったから」
「じゃあ……。さ、触ってもいいぞ。服の上からなら……」
「えっ?」
「む、胸だよ。相澤の胸、触ってもいいぞ」
「マ、マジで!?」
「触らせたら信じるだろ?」
「信じる信じるっ!触っていいんだな。今、ここで触ってもいいんだな?」
「あ、ああ……」

 妙に顔を赤くした相澤が両手を後ろに回し、目を瞑った。その仕草は、普段の相澤よりも可愛らしく思える。相澤にちょっと気があった俺には願ってもないチャンスだ。

「じゃ、じゃあ……」

 俺も周りを気にしながら、右手をゆっくりと相澤の胸に近づける。そして、掌が白いセーラー服の盛り上がった生地に触れた。

「んっ」

 小さく声を漏らした相澤の肩がビクンと震えている。

「だ、大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だから……早く触れよ」
「…………」

 ギュッと目を瞑った相澤の体が硬直しているように感じる。歯を食いしばる表情を見ながら、左手も盛り上がったセーラー服に沿えた。十本の指に力を入れると、掌を弾くような弾力が伝わってくる。その弾力のある胸を優しく揉み、揺らしてみると相澤の顔が更に赤くなって、「んっ。ぁっ」と小さな吐息が漏れた。
 まるで秋田が乗り移っているのではなく、本人の自然な行動の様に思える。

「あ、秋田?」
「ど、どうだ?相澤の胸の感触は」
「ああ……。や、柔らかくて気持ちいいよ」
「これで俺が秋田だって信じたか?」
「そ、そうだな。妙に女っぽい感じがするけど」
「うっ……ふ。バ、バカだな。相澤っぽく演じるほうがお前が喜ぶと思っただけじゃないか」
「そうなんだ。じゃあ遠慮なく」
「えっ!?あっ、あんっ!」

 そういう事なら遠慮はしない。折角相澤の胸を触れるんだ。白いセーラー服に皺が寄るほど大きく円を描くように動かし、指をめり込ませると相澤の両手が俺の手首を掴んだ。

「バ、バカっ!そんなに強く揉んだら……あっ。い、痛い……」
「ご、ごめん。痛かったのか」
「うん……」

 目に涙を貯めた相澤が何とも愛しく思えてくる。胸からゆっくりと手を離すと、相澤は両手で胸を隠しながら問いかけてきた。

「や、柔らかかっただろ?」
「すごく柔らかかったよ。女の胸を触るのって初めてだからさ」
「そ、そうなんだ。竹畑って女の胸、触った事なかったんだ」
「知ってるだろ。今まで彼女がいた事なんて一度もないって」
「……あ、ああ。そうだったよな。でさ……」
「んん?」
「あ、あの……。どうだ?」
「何が?」
「あ、相澤の事だよ」
「どうだって聞かれても……どういうことだよ」
「そ、その……。お前にとって、相澤ってどうなんだよ」

 相澤に乗り移っている秋田は、両手で胸を隠したまま俺の顔を見ないように問いかけてくる。すごく恥ずかしがっているような感じで、口調は秋田でも相澤に問いかけられているような気がした。

「どうって……好きかってことか?」
「……そ、そう。そういうこと」
「う〜ん。……好きだ」
「えっ!?」
「相澤の事は、前からいいなぁって思ってたんだ。だから、胸を揉めるなんてラッキーだったよ」
「ほ、ほんとに?」
「ああ。でもどうしてさ」
「あっ……いや。な、何でもないんだ。じゃあさ、相澤が付き合ってくれって言って来たら付き合う気があるってことか?」
「もちろんさ。こんな可愛い女の子に告られたら嫌なんて絶対に言わないって」
「そ、そうなんだ……」

 妙に安堵した表情で俺を見る相澤に、秋田の雰囲気が全く感じられない。マジで秋田が乗り移っているんだろうか……なんて不信感を抱いた俺は、一つの願い事をしてみた。

「あのさ、秋田」
「え?」
「一度、相澤とキスさせてくれよ」
「なっ……」

 相澤の顔が今までに無いくらい真っ赤になった。秋田ならこんなに顔を赤くするだろうか?

「いいだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。こ、ここでキス……するの?」
「ダメか?だってさ、相澤と付き合えるかどうか分からないし、付き合ったとしてもキスなんてさせてくれないかもしれないだろ?お前が乗り移っている間に一度だけキスしてみたいんだ」
「そ、そんな……。でも……か、体は相澤でも心は俺なんだ。男同士でキスするなんて気持ち悪いじゃないか」
「俺はそう思わないけど。秋田は思うのか?」
「それは……。そ、そう思うよ。それにこんなところでキスなんて……あっ!んんっ」

 俺は必死に言い訳をしている彼女の頬に両手を沿え、小さな唇を奪った。目を泳がせながら両腕を伸ばし、俺の体を押しのけようとしていたけど、頬に添えていた手で彼女の体を抱きしめると、その抵抗も徐々に止んだ。そして彼女の腕も俺を優しく抱きしめた。
 泳いでいた目が潤み、ゆっくりと瞼を閉じる。唇を開いて舌を入れると、彼女も舌を絡めてきた。相澤の鼻息が頬に当たるのを感じなら少し力強く抱きしめると、彼女は幸せそうに俺の頭をに腕を絡めてきた。

「んんっ……んふっ」
「んっ、んん」

 皆が利用する図書室の隅でこんな事をするなんて。まるで時が止まっているかのように思えた。
 一体どのくらいキスをしていたんだろう。ゆっくりと彼女の唇を解放すると、粘り気のある唾液がアーチを作った。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 瞳を潤ませながら俺を見る相澤に、「本当は秋田が乗り移っているなんて嘘なんだろ?」と問いかけると、彼女はまた頬を赤らめながら「今日だけは秋田君が乗り移っていることにして」と呟いた。その一言がとても可愛らしい。

「分かったよ、今日はエイプリルフールだから素直に騙される事にするか。なあ秋田、お前って勉強は苦手だったよな。でも、相澤の体に乗り移っているなら、相澤の学力を好きなように使えるんじゃないのか」
「……ああ。相澤の記憶は全て読めるから」
「じゃあ折角だからさ。その相澤の学力を使って、教室に行って二人きりで教えてくれよ」
「よし、任せとけ!俺が竹畑の分からないところを教えてやるよ」
「ついでに相澤の色々なことについても教えてくれよな。スリーサイズや一人でエッチしているか……なんて事も」
「バ、バカっ!調子に乗らないでよ」
「調子に乗らないでよじゃなくて、調子に乗るなよ……だろ!」
「も、もうっ。からかうなら教えてやらないぞ」
「はは、冗談だよ。ア・キ・タ君!」

 こうして俺は自称、秋田が乗り移っているという相澤に勉強を教えてもらった。
 こんな騙され方なら、毎日でもいいな……そんな事を思いながら。




 遅くなりましたが、エイプリルフールネタとして作りました。
 まろやかな感じに仕上がりましたねぇw
 しかもTSFじゃないし〜(^^
 私も彼女みたいに騙されてみたいものです。