「えっ、今から?」
「うん」
「でも優梨子、すぐに戻ってこられるの?」
「遅れるかもしれないけど、芦田さんには適当に話しておいてくれない?」
「い、いいけど……。きっと芦田さんに怒られるよ」
「大丈夫。だって私、最近はずっと休んでいないから。少しくらいわがまま聞いてくれてもいいはずでしょ」
「それはそうだけど……」
「じゃ、お願いね」
「……まあ、優梨子がそういうなら……」
 奥治は優梨子のロッカーを開くと、普段の彼女と変わらぬ仕草でレオタードを脱ぎ、私服へと着替えていった。
 ブランド物のロゴが入った、空の紙袋がロッカーの中に入っている。
 優梨子の記憶から、不要なものを持ち帰るときに使用している事を知った奥治は、ハイヒールや着ていたレオタード一式を紙袋に詰めた。更に、まだ彼が見たことのないレオタードがロッカーのハンガーに吊ってあるのを見つけた。
「これは……。ふ〜ん」
 どうやら午後から衣装を変更する予定だったらしい。
 そのレオタードも紙袋に詰め込むと、財布や携帯電話などを持ち出し、芦田というスタッフや他の関係者に見つからないよう、裏口から外へと出た。
「へへへ、脱出成功だ!」
脱出成功
 ドームの前で大きく深呼吸をした優梨子を不審に思う人はいない。
 そのまま軽快な足取りで歩く彼女からは嬉しさが滲み出ているように見えた。
 今からむさ苦しい男の部屋に連れ込まれ、レオタード姿を写真に撮られるにも拘らず。
「こうして私服を着ていると誰も優梨子ちゃんだと気付かないのかな?……そんな事もないか。知っている人に声を掛けられる事もあると。ふ〜ん」
 優梨子の記憶と語り合うように呟く奥治は駅に着くと、彼女の財布からお金を取り出し切符を買った。
 そして彼女が普段使っている女性専用車両に乗り込み、彼の家へと向かったのであった。
「そういえば、わざわざ電車を使わなくても、タクシーを使っても良かったな。かなり稼いでいるから少しくらい使っても大丈夫だったのに」
 乗り継ぎが良かったため、思ったよりも早く最寄の駅に着いた奥治が見慣れた町並みを歩く。
町並みを歩こう
 普段、歩きなれている道なのに、優梨子の体で歩くと新鮮に感じた。
 顔を合わせる度に挨拶をするおばさんや、奥治の顔を見るたびに吠える犬とすれ違っても反応がない。
 いや、目線が合っても無言で通り過ぎ、犬に関しては吠えるどころか尻尾を振っている。
「外見が変わると、こうも対応が違うものなのかな。やっぱり優梨子ちゃんの体っていいなぁ」
 優越感に浸りながら歩くこと十分程。
 ようやく自分の家に着いた。
 玄関の扉を開けて入ろうとしたが、よく考えてみれば両親が帰ってきているかもしれない。
 優梨子の体で入れば、どう思われるだろうか?
「……この体のままじゃまずいよな。とりあえずそっと入るか……」
 鍵は掛かっていないようだ。
 ノブを回し、ゆっくりと音を立てないように扉を開いて忍び込む。
 足元には父親の汚れた革靴。
 母親の靴がないので、まだ勤め先の病院から帰ってきていないということだ。
 もしかしたら今日も引き続き病院に残るのかもしれない。
「親父だけいるのか。でも多分寝ているだろうから……」
 そっとパンプスを脱ぎ、そのまま手に持って二階への階段を上がる。
 時折軋む音がしたが、やはり父親は一階にある寝室で寝ているのだろうか。起きてくる様子もなく、家の中は静まり返っていた。
「よし……。このまま部屋まで……」
 まるで泥棒のような忍び足で廊下を歩いた奥治は、自分の部屋に入ると内側から鍵を閉めた。
部屋に戻って
「……ふぅ〜。たどり着いた。優梨子ちゃんを俺の部屋に連れ込んだぞ!」
 持っていた荷物を足元に置いた彼は、優梨子の体で背伸びをした。
 初めて部屋に連れ込んだ女性が、憧れであったレースクイーンの優梨子。
 どう表現すればよいのか分からないくらい興奮する。
「ただいま、奥治!」
 彼は、魂が抜けた状態でベッドに寝ている自分の姿に声を掛けた。
 本当に優梨子に言われたようで、妙に恥ずかしい。
「いや、そんな事よりも早速、優梨子ちゃんのレオタード姿を撮ろう!」
 部屋の隅に三脚を立て、自慢の一眼レフカメラを固定する。
 心に余裕が出来れば、彼女が自らカメラをセットする様子をビデオカメラに収めたかった。
 しかし、今は一刻も早く彼女をレオタードに着替えさせ、カメラで撮りたいのだ。
 自分だけのレースクイーン、優梨子を。
「よし、これで大体のアングルはOKだ。後はこの優梨子ちゃんの体をレースクイーンに!」
 また彼女の記憶を読み取り、普段と同じようにピンクのキャミソールと黒いスカートを、そして下着を脱いで白いレオタードに着替えてゆく。
 自分の部屋で優梨子が生着替えをしているという時点で激しく興奮するが、必死に理性を押さえながら彼女が午前中に穿いていたアンダーショーツで股間を隠し、パンストに足を通した。
 足全体が締め付けられる感覚。そして少し足を動かすと生地の縫い目に風が当たって少しの涼しさを感じる。
 パンストが股間から少し浮いていたので、蟹股になって引き上げ、生地が股間に密着するようにする。
 全てが奥治の行動であり、優梨子の行動であった。
 振り向きながら俯くと、滑らかなお尻がパンストに包まれている。
「このお尻も、今は俺のものなんだ」
 そう思いながら彼女の手で何度か揉んでみた。
 その手つきが妙にいやらしく思える。
「まるで優梨子ちゃんが自分で揉んでいるみたいですごく興奮する……って、早くレオタードも着なければっ」
 思わず本来の目的を見失いそうになった奥治は、白いレオタードを手に取ると足を通し、上半身まで引き上げ着込んでいった。
 次第に、会場で手を振る彼女に近づいてゆく。
 首の後ろでボタンを止めたあと、最後に青色のアームカバーを両手に装着。
 胸元やお尻にレオタードが食い込んでいない事を確認した彼は、大きく深呼吸した。
「ふぅ〜。そう言えば俺の部屋には鏡が無いから優梨子ちゃんの容姿を客観的に確認できないな」
 基本的には撮った一眼レフカメラの画像をパソコンで確認するしかないのだが、必要なら携帯のカメラモードで簡易に確認することもできる。
「兎に角、たくさん撮ろう。パソコンに保存してゆけば幾らでも撮れるんだから。最も高画質で優梨子ちゃんの全てを撮ってやる!」
 奥治はカメラのシャッターを押すための小さなリモコンを掌に握り締めると、レンズに向かって視線を投げかけた。
「じゃ、さっそく優梨子ちゃんに成り切って!……と思ったらハイヒールを履いていなかったか。やっぱりこれが無いと足の雰囲気が変わるからな。」
 紙袋からハイヒールを取り出して履いてみると、視界が五センチほど高くなる。
「これでよしと。じゃあまずは彼女が普段から良く取るポーズから!今日は奥治一人だけにポーズを決めるから、上手く撮ってね……って、たまんないなぁ」
 彼女の口調を真似つつ、奥治は自分の部屋でレースクイーンの写真を撮り始めた。